第14話 一つの終わりと一つの始まり-1


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その話を私に持ちかけてきたのは、鳴江漂水だった。
「なあ、先生よ。団長がこの島で最後に行った場所に興味はないかい?」
食事の手を止める。
平和な午後のはずであった。私は一人で遅めの昼食を取っていた。
そこへヒョウスイが声をかけてきたのだ。
どういう意味だ?
「言葉の通りさ。10年前のあの日、団長は数名の仲間と『その場所』へ探索に出かけたんだ。そして帰っては来なかった。一人もな」
今更何か手がかりがあるとも思えんが・・・・・。お前がそれを知っているという事は当然捜索は何度も行われたのだろう。
「勿論そうだ。エンリケ副団長らが血眼んなって何度もそこは捜したぜ。ま、別にオレも団長探してこいって言ってるわけじゃない。レディ・ダイヤモンドダストが最後に訪れた場所、てだけでなんか感慨深いもんがないか?一度見ておいて損は無いと思うがねぇ」
ふむ・・・・それは確かに一理ある。場所を聞いておく位なら差し支えもあるまい。
「ハッハ、そうこなくちゃぁよ。場所は島の中央部からやや東寄りの洞窟だ。ここの連中は『水晶洞窟』て呼んでるぜ」
ほう、初めて聞く場所だ。話題に出た事もないな。
「ふん、まあ団長がらみで特別な場所ってんでタブー視してる奴が多いからなここにゃ。中は輝水晶で覆われてて明るいんだ。明かりはいらねえよ。オレも行った事あるがね、なんつーのかね、幻想的でな。この世の物じゃねえ景色みたいだぜ」
そこでヒョウスイはニヤリと笑ってみせた。
「我ながらいい事言うね・・・・この『世の物じゃないような』か。クックック・・・」

「先生、どうしたんですか一体、上の空で」
鼻が話し掛けてきた。いや鼻ではないカルタスだった。
近すぎて鼻しか見えん。
そうか、私はぼーっとしていたか。
「おじさま変なのよ、何日か前からね。よく今みたいに考え込んでるの」
エリスにも言われてしまった。
その日私とエリスは食事を終えた後のレストランで地図を広げて次の探索場所について話し合っていた。
そこに通りがかったカルタスが会話に加わったのだが・・・・・。
どうも先日、ヒョウスイの話を聞いてから水晶洞窟の話が何度も思い出される。
虫の知らせ、というのであろうか。その場所に何かがある気がするのだ。
ふーむ・・・・よし、やはりここは一度現地に訪れて見てみるべきであろう。
この予感が気のせいなのであればそれはそれでいい。少なくともここで考え込んでいるよりかはマシなはずだ。
私は水晶洞窟へ行く事に決めた。

翌日、私はエリスとカルタスを伴い、準備をして島の中央部へ通じるマナトンネルをくぐった。
中央部付近へ近付くのは初めての事である。
瞬間、全身の肌が粟立ち、心臓が大きく脈を打った。
・・・・なんだこの感覚は・・・・・。
心がざわめく。「何かある」のだこの場所には、それを予感する。
洞窟は東寄りだったな・・・・行こう・・・・。
2時間ほど歩いて、洞窟は見つかった。青黒い鉱石に覆われた崖に、ぽっかりと洞窟は口を開けていた。
予感は大きくなるばかりだ。今はあそこから誰かが私を呼んでいるような気さえしてくる。
・・・・行かなくては・・・・・?・・・・・
足が止まる。エリスが私の袖を掴んでいた。
「・・・ダメ・・・おじさま・・・・」
掴まれた袖から彼女の震えが伝わってくる。
「帰りましょおじさま! 行ったらダメ! 嫌な予感がするの!・・・だから・・・」
エリスは目に涙を浮かべていた。彼女も何かを感じ取っていたのか・・・・。
1人状況を飲み込めないカルタスだけが「え?え?」と動揺していた。
私はエリスの頭をやさしくなでる。
洞窟に入って、もし少しでも危険を感じたのならその時点で引き返そう。だから大丈夫だよ。
そう言って何とかエリスを納得させる。
我々は洞窟の入り口をくぐった。
!!!!
強烈な違和感を感じた。天地がぐにゃりと歪むような、一瞬の事であったが。
しかしその一瞬で周囲の風景は一変していた。
周囲は自然石の洞窟ではなく、ガラスのように透き通った鉱石でできた遺跡になっていた。
そしてその透き通った通路の壁越しに、元の洞窟の内部が透けて見えており、必死に私を探すエリスとカルタスの姿が確認できた。
何かを叫んでいるようだが、声はまったく聞こえてこなかった。
壁を叩き、私も叫ぶ。しかし2人は気付かない。
見た通り実際に隣り合っている空間ではないのかもしれない。
そして私には確信があった。10年前、レディ・ダイヤモンドダストもここを訪れて『こちら側』に入ったのだ。
やむを得ず2人に気付いてもらう事を諦める。まずは出口らしきものがある所までこの中を進まなくてはなるまい。
行こうとして足がもつれた。転んだ私は手を地面に着く。
何かに躓いたのかと思ったがそうではなさそうだ。
手のひらにはじっとりと汗をかいていた。気温の為では無い。
心臓は早鐘のように鳴り続けている。
そうか・・・・。
私にはわかった。理屈ではなく、そう理解した。

この先へ進めば・・・・私はそこで命を落とすだろう。

本能が引き返せと警告していた。
しかし
魂が立ち向かえと、そう言っていた。
私は立ち上がり、深部へ向けて歩き始めた。
悲壮な決意があったわけではない。でも何故か、私は自分が『この為』にこの島に来たのだと、そんな気がしていた。
何度も下層への階段を下り、やがて私は最深部へと辿り着いた。
巨大な開けた空間だ。
空間の中央には巨大な魔法陣があり、その中央に水晶塊がある。
そしてその中に、誰かの姿がある。
眠ったように両目を閉じて、直立した姿勢のまま水晶の中に封じ込められているのは・・・・。
・・・・レディ・ダイヤモンドダスト・・・・・
「そこまでだ、人間。それ以上我が妻に近付くな」
しわがれた声に、水晶へ歩み寄ろうとした私は足を止めた。
声のした方を見る。
小柄な体躯をローブで包み、フードを目深に被った4本腕の異形がいた。
「『こちら側』へ人が来るのは十年ぶりの事だな。お前も『資格を持つ者』か。我が妻の姿を見た以上はここから生かして返すわけにはいかぬぞ・・・・」
ギシギシギシギシ、と笑い声であろうか、金属をこすり合わせるような不快な音を立てる異形。
「我が名はペルゼムス・・・『閉ざすもの』だ」
・・・・・魔人・・・・・!!!