第20話 Chaser of Ocean-3


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そして一夜が明け、2人はオルブライトの用意した船で出航した。
その船は最新式の大型蒸気式貨物船だった。
「コイツはうちの商会でも最高の船だ。最新鋭蒸気エンジンを搭載して今世界でもトップレベルの巡航速度が出せる」
オルブライトが胸を張って言う。
「確かに言うだけあって見事な船だと思うわ。・・・けど、この船でその巨大生物とやり合えるワケ?」
サムトーが問うと、オルブライトが肩をすくめて見せる。
「実際確認してみん事には何とも言えんが、聞いてる通り本当にこの先に待ち構えてるのが蟹竜だとしたらこの船じゃどうにもできんな。この船はそのまま軍用に使えるほどの装甲と火力を持ってるが、それでも蟹竜が相手じゃ甲羅の表面にちゃちな擦り傷付けるのが精一杯ってとこだろうさ。反対に向こうは特に攻撃してこなくたって動くだけで高波が起きてこっちは巻き込まれて船は沈み、俺たちは海の藻屑となって一巻の終わりって事になる」
さらりと絶望的な事を言うオルブライト。
「・・・え・・・。それじゃどうするんですか?」
不安げな表情を浮かべるセシルにオルブライトは白い歯を見せて笑った。
「決まってるだろう・・・避けていくんだよ」

結局、船は前方に待ち構えている巨大生物を探知機で見つけると同時に大きくそれを迂回する航路を取った。
「まあ時間のロスにゃなるがね。それでも勝ち目のない怪物の待つ死の交差点を通るよりはずっとマシだろう」
オルブライトの言葉にセシルは肯いた。
「前方に雨雲も無いようだ。ここからは快適な船旅を楽しんでくれ。2日ほどでセントコーラル諸島へ着く。そこで補給を行ったら後はアンカーの町までノンストップだ」
そう言うとオルブライトは急にぐらりとよろめいた。
「・・・!・・・オルブライトさん!!」
甲板に倒れそうになるオルブライトを慌ててセシルが支えた。
「どうしたんですか!?」
オルブライトはハァハァと荒い息を吐きつつ、真っ青な顔でセシルを見た。
「・・・船酔いだ・・・。自慢じゃないが俺は船に弱いんだ。・・・そして泳げない!!」
「ええええええええええだって船乗りだったんでしょ!!!!?」
思わずセシルが絶叫する。
「・・・難儀なオッサンねぇ・・・」
そんな2人をやや離れた場所で眺めていたサムトーがそう言って嘆息した。

オルブライトが口にした通り、それから2日後に船はセントコーラル諸島が一望できる海域へと到着した。
「補給は半日程だが・・・この辺は暗礁が多くて夜に船出するのは危険だ。翌朝を待って出航する。今日一日は観光を楽しんでく・・・・おえっ!! おええええええええ!!!!!!」
船の縁からゲーゲーと吐いているオルブライトの背を必死にクルーがさすっている。
しかしセシルはそっちを見ていなかった。
船の縁に手をかけて身を乗り出すようにしてセントコーラルの島々を見ている。
「・・・凄い・・・」
その口から呟きが漏れた。
「驚いた? セントコーラルはその名の通り、珊瑚礁の島なのよ」
その隣でサムトーが説明する。
目の前に広がる海には、転々とピンク色の島々が連なっている。
当然島には草木は無く、木造の建物が並んでいた。
「後は魚人たちの楽園としても有名ねぇ」
「魚人? 魚人ってあのサハギン種族の事?」
サムトーが肯く。
「そうよ。でも一口にサハギンと言っても海には実に多種の魚人がいるのよ? ま、それはこれから自分で目にして確かめてみるといいわ」
やがて船が静かにセントコーラルの一島の桟橋へ着く。
セシルは真っ先に船を下りた。
すると早速そのセシルに声をかけてきたものがいる。
「やあ人間のお嬢さん。ようこそセントコーラルへ」
それは魚人であった。随分身体に赤みを帯びた魚人だ。
「私はシオダと申します。仲間内では『ゴールデンアイズ』なんて呼ばれてもいますが」
(・・・金目鯛の魚人さんだわ・・・)
ほっほっほと笑い声を出しているシオダを見てセシルが思う。
「お嬢さんはこの地は初めてですね? それでは長老の所へご案内しましょう」
「長老さま・・・ですか?」
するとそこへややフラつく足取りでオルブライトが下りて来た。
「ここへ初めて来た奴は全員長老に面通しする仕来りなんだ」
そう言うとオルブライトはシオダに片手を上げて挨拶した。
2人は顔なじみらしい。
「俺もここはしばらくぶりだし、挨拶しとく事にしよう」
そう言うオルブライトとサムトーを伴ってセシルは長老に挨拶に行く事になった。

シオダが一行を案内したのは、浜辺に面した比較的大きな小屋の中だった。
(・・・ご不在?)
セシルが小屋の中を見回すが、人影は無い。
上座には大きなサザエの様な貝が置いてある。
「よう、爺さんしばらくぶりだ。ちょっと厄介になるぜ」
無人の部屋へオルブライトが挨拶する。
すると・・・。
「・・・なんじゃ、懐かしい声がするのう」
貝の中からしわがれた老人の声がしたかと思うと、何かがヌッと貝から顔を出した。
驚いたセシルがキャッと悲鳴を上げる。
「おおっと・・・こりゃ失礼したのう。お嬢ちゃんは『貝人』を見るのは初めてのようじゃな」
半人半貝の老人はそう言ってふぉっふぉと笑った。
「ワシゃマルーダと言う。この辺りの取り纏め役みたいなジジイじゃよ」
そう言ってマルーダ長老はキセルを取り出してスパーッと吹かした。
セシルも丁寧に長老に名乗って頭を下げる。
「そうかしこまらんでもええ。一応この地域の代表として訪れる者の顔と名前くらいは知っておこうとその程度の話じゃて」
「この辺りは相変わらず平和そのものだな」
窓から外を見てオルブライトが言う。
窓から見える浜辺には漁をする魚人や観光客らしい海水浴客が見える。
「ところがそうでもないんじゃよ」
長老がフーッとため息に紫煙を混ぜて吐き出した。
「・・・財団が来とるよ」
「!!!」
長老の言葉にセシルが弾かれた様に顔を上げた。
「・・・何だぁ? 何で財団が? 一大リゾート施設でも作ろうってのか」
訝しげな表情を浮かべるオルブライト。
「・・・さてのぅ。そんな生易しい話なのかどうか・・・。来ておるのはシュヴァイツァーじゃよ」
全員が絶句する。
3人ともその名前には聞き覚えがあった。
財団のリヒャルト・シュヴァイツァーと言えば知らない者は少ないだろう。
「財団の『軍事部門』の統括者ね」
サムトーが静かに言った。
世界中に広がる巨大組織ロードリアス財団。
その傘下の全企業は『総務部門』『軍事部門』『金融部門』『情報部門』『研究開発部門』の総責任者5人によって統括されている。
『ハイドラ』と特務部隊が財団の裏の顔とするなら彼ら5人は財団の表の顔である。
一行の上に思い沈黙が舞い降りたその時、いきなりその空気をブチ壊しにするのんびりした女性の声がした。
「おはようございます・・・あふ・・・今何時でしょうか。私ちょっと寝すぎてしまったみたいで・・・」
セシルが顔を上げると、そこにはエルフの女性が立っていた。
切れ長の瞳の美人だ。胸にはピンクのリボンを首に巻いた子豚を抱いている。
「あら、お客様でしたか。これは失礼しました。私はパルテリース・ローズマリーと言います。そしてこの子は愛馬のアントワネットちゃん」
そう言ってパルテリースは子豚を皆の前に差し出した。
子豚はつぶらな瞳で一行の顔を眺めると
「ぷぎー」
と一声鳴いたのだった。


その珊瑚の島々より遥か南西のシードラゴン島。
アンカーの町にも財団の5人の統括者の内の1人が今滞在している。
アンカーグランドホテル最上階、ロイヤルスイートルーム。
弱冠17歳にして財団系大銀行7つの頭取に名を連ねる財団金融部門の総責任者エトワール・D・ロードリアスである。
そのエトワールの机の上の電話がけたたましく鳴り響く。
「あー、ハイハイもしもし、こちら無慈悲な金利と容赦無い取立てで皆様の生活を奈落の底へと一直線、いつもニコニコエトワールローンです」
エトワールが電話に出る。
「は!? 何!? 拙者拙者って何だ拙者拙者サギかオイ!!! そーゆーのは間に合ってますよゴルァ!!!」
受話器に向かって叫ぶエトワール。
「・・・ああ、何だお前かよ。 何? もう殺ったん? ・・・っていつまでたっても連中が来ない? 知らねーよそんなの。 ・・・え? ぶっ!!!!! お前クラブドラゴンで街の近くで待ち構えてんのかよ!!? アホかそんなもんノコノコ近付いてくる奴なんかいるはずねーだろ!! は!? 武士は正々堂々!? ・・・やかましいわお前共和国産まれの共和国育ちの生粋のファーレンクーンツ人だろうが!!! この元銃士が!!!!」
ガチャン!!!と乱暴に受話器をフックに叩きつけるエトワール。
そして何事かと見ているアイザックと大龍峰の2人に
「・・・リチャードのバカが、やり過ごされやがった」
と顔をしかめて言ったのだった。