第22話 幽霊屋敷の令嬢-4


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

人には意外な弱点があるものだ。
まさかあの氷の刃の様なヴァレリアが幽霊が苦手とは・・・。
アンカー・ガスのおじさんを吹っ飛ばした後で、ヴァレリアは何か早口で言い捨てると足早に退出してしまった。
真っ赤な顔で半泣きだったような気がする・・・。
それを見送ったエトワールは
「フッ、うちの勝ちですなコレは」
と腕を組んで勝ち誇っていた。

その後我々はベイオウルフに部屋へ案内され、今日は一晩この屋敷に泊まることになった。
女性陣は女性陣で一部屋用意されている為、私は1人だ。
幽霊の調査というのだから夜間も行うべきなのだろうが、申し訳ないがそれは辞退する事にする。
陽のある内にあれほど幽霊の活動が活発なのだ。夜間相手にするのはぞっとしない話である。
勿論ここでただ無為に時間を過ごすというわけではない。
私の手元には、地下室から持ってきた件の伯爵の日記がある。
これをもう少し読み進めてみる事にしよう。
机に座ってページを開く。

日記を読み進めていてわかった事がある。
それはこの日記の著者、クラウス伯爵は随分と多趣味多芸にしてアクティブな人物であったらしいと言う事だ。
貴族にして実業家でもあり、馬術競技とクレー射撃の選手でもあり、画家でありトランペット奏者でもあり、大学の講師でもあり冒険家でもある・・・。
そもそもがアンカーの町へ移住してきたのも冒険心を刺激されての事らしい。
失踪したというのはDDの様に島の探索に出かけて姿を消したのだろうか・・・?
しかし聞いている話ではどうもそういうわけでもないらしい。
伯爵が姿を消した前後に彼が島の探索へ出るというような話や痕跡は無かったそうだ。
彼はこの屋敷か、あるいはその周辺で姿を消しているのである。
そして娘・・・。
伯爵の愛娘ミシェーラ・ハインリヒ嬢の話・・・。
序盤で馬車を跳ねたとか書いてあって何事かと思えば、その後も凶暴な大型モンスターを片手で絞め殺しただの産気付いた馬を背負って獣医の所まで走っただのとその活躍ぶり(?)は凄まじかったようだ。
そしてこのミシェーラ嬢も父親とほぼ同時期に(あるいはまったく同時に)姿を消しているのである。
不可思議な事は多いが、残念ながらこの1冊から現在屋敷に発生している大量のスポーツマンの霊に繋がる情報を得ることは出来なかった。
・・・しかし非常に興味深い一つの事実がわかった。
この日記を見つけた隠しフロアになっていた地下2階・・・あそこは地下1階と違って屋敷を建てた際に作られたものではなく「もともとあった」ものだというのだ・・・。

翌日、私は皆と共に再度地下2階の探索を行った。
なるほど、言われて見てみればこの階は上階とは異なり、遺跡に手を加えて居住可能に整えたものである事がわかる。
「地下遺跡と繋がってたんだねー」
周囲を見回したDDが言う。
アンカーの地下遺跡はシャークとの交戦の際に結構調べてみたのだが、その時のデータでは遺跡はこの屋敷の区画までは存在が確認出来なかった。
恐らくもっと地下の部分で繋がっている「離れ」のブロックなのだろう。
となると、かなりの長い探索行を覚悟して本格的な準備が必要かもしれんな・・・。
間も無く我々は下層への階段を見つけて地下3階へと下りた。
そのフロアへ下り立った途端に、私は強い「違和感」を感じた。
一瞬感覚がずれて、すぐに戻ったような・・・。
背後を振り返る。DDとエトワールの2人も微妙な表情をしていた。やはり何かを感じ取ったらしい。
ベルだけはいつもの通りの表情だ。
「感じた? ここは『狭間に近い場所』 『神の門』に関係した場所の様ね」
そうだ、思い出した。
これはDDを助けた時に水晶洞窟の「裏側」へ入ってしまった時に感じた感覚と同じだ。
という事は・・・この先にも・・・。
私の予想の通り、地下3階を進んで間も無く「それ」は我々の前に姿を現した。

それは転移ゲートだ。
地上部のマナトンネルの様に遺物じみた物ではなく、もっと機械的な構造の転移装置。
水晶洞窟の裏側深部にあったものと同じだ。
という事は、このゲートの先もあの時の様に『砕けた世界の欠片』へと繋がっているのだろうか・・・。
・・・・・・。
わかっている。危険なのだ。
この先に何が待つかわからない。
だが呼ばれている気がするのだ。魔人ペルゼムスからDDを助けたあの時の様に・・・。
私は仲間たちに、このゲートの先へ進んでみると告げた。
「・・・危険よ」
ベルが言う。肯いて応える。
まったく同意見だ。
「全員で行くのは下策よ。私がウィルと一緒に行くわ。24時間経って戻らなかったら皆と連絡を取ってそれなりの準備をした上で後を追ってきて」
同行を申し出たベルにDDが口を尖らせた。
「えー、私が一緒行くよ。その方が何か出た時安心じゃん」
「戦力で見ればそうだけど、この先に古代文明か神の門に纏わる何かがあった場合、私の方が役に立てるのよ」
言われて渋々DDが引き下がる。
「残りを2人にする意味ないっしょ~。うちも一緒行きますよ。うちだけ残っても先生のお仲間に上手く話通らないし」
む・・・。
エトワールを見て首を横に振る。
もう事態は幽霊どうこうの騒ぎではなくなってしまったのだ。当然危険度も比べ物にならない。
ここからは申し訳ないが連れて行くわけにはいかないのだ。
「幽霊どころじゃない危険ね・・・」
エトワールが声のトーンを落とす。
「そーそー。お嬢ちゃんのお遊びはここまでって事」
そんなエトワールをひらひらと手を振ってあしらうDD。
「・・・でもさ、うちも実は幽霊なんかよりずっとそっちの方が大好物なのだ」
その瞬間、DDが半歩ほど後ろに下がった。彼女の顔からは笑みが消えていた。
私も今の一瞬、強い戦慄を感じて背筋が冷えた。
「・・・ね? どうにかなりそうでしょ?」
そう言ってエトワールは無邪気に笑った。
結局、そのエトワールの見せた得体の知れない迫力に押し切られて彼女も付いてくることになった。
DDを残し、我々は3人で起動したゲートを潜る。
「・・・無茶したら駄目だよ・・・」
DDはそう言って私の手をぎゅっと握って見送った。

光が収まり、視界が戻ると我々は金属に覆われた部屋にいた。
超文明の痕跡を残す構造。
賢者ギゾルフィと出会ったあの施設を思い出す。
何が待ち受けているのかわからない。私はベルとエトワールにできる限り物音は立てないように注意して、ゲートのある部屋を出た。
金属の廊下が続いている。
長い廊下だ。結構な規模の施設なのかもしれん。
その時だ、私の眼前に何者かが忽然と現れた。
まったく唐突にだ。辛うじて人影らしい事だけを視認する。
・・・・!!!!!
そのあまりの速度に私の反応が一瞬遅れた。
「・・・ノーブル・キィーック!!!!!!」
忽然と現れた何者かは、間髪入れずにそう叫ぶと鋭い蹴りを放ってきた。
咄嗟に胸の前で両手を交差しその蹴りを受ける。
ドガッ!!!!と蹴りはガードの上に炸裂して私を吹き飛ばした。
そして受身を取り背後に一回転して立ち上がった時、その何者かはもう私の目の前にいた。
・・・速い!!!!!
「ノーブル・エルボゥ!!!!!!」
肘だ!!!
サイドステップでその一撃を回避する。
しかしそのエルボーは微かに触れた私の襟をスパッと切断していった。
何て鋭い肘打ちだ・・・!!!!
しかし、そこでその何者かはピタリと動きを止めた。
「・・・む?」
そこで初めて私もその何者かの姿をはっきりと見た。
体格のいい髭の紳士だった。
「・・・これは!」
紳士はパシンと自らの額を叩いた。
「これは失礼をした! てっきり『奴ら』かと思ってね。まさかこの場所で自分以外の人間に会うとは思っていなかったのだ。いや許してくれたまえ!!」
そう言ってハッハッハと笑う紳士。
大丈夫だった? とベルが駆け寄ってくる。
「・・・いや、おっさんスゲー攻撃だったな今の」
そう言うエトワールに紳士が自慢げに胸を反らした。
「いやいや、貴族の嗜みというものだよ」
そう言って取り出した櫛で髭を整えている。
そんなパワフルな貴族あんまりいないと思うけどな・・・。
その時、その場にズチャっという湿った足音のようなものが響いた。
皆一斉にそちらを見る。
・・・・・・・・・・。
・・・・何だ・・・あれは・・・。
思わず言葉を失う。
それは人型に近い形状はしていたものの、ピンク色の肉塊のような生物(?)だった。
全身がぶよぶよと醜く膨れ上がっており、顔面(?)らしきものには目鼻も確認できない。
数は3体だ。
両手を上げ、緩慢な動作でこちらへ向かって来ている。
「今度こそ本当に奴らか!! 離れていたまえ!!!」
紳士がそう言って我々を下がらせると肉塊に立ちふさがる。
「ノーブル・アイビーム!!!!!!!」
そして紳士が叫ぶと、その両目から白く輝く光線が放たれた。
光線を食らった肉塊は大爆発を起こして四散する。
「うわあああああああああああああああ!!!!!! 何で目からビーム出るんだよ!!!!!!!!」
とりあえず私の言いたかったことはエトワールが代弁してくれた。
「ハッハッハ、貴族の嗜みだよレディ」
ウソつけどういう貴族だ。
しかし、もしやこの破天荒な紳士は・・・。
「おっと、自己紹介が遅れてしまったようだ、許してくれたまえよ諸君」
問う前に向こうから名乗ってくれる様だ。
「クラウス・ハインリッヒ伯爵である。見知りおきたまえ」
そう言ってクラウス伯爵は左手を腰に当ててピッと直立の姿勢をとったのだった。