第19話 花は心のオアシス-4


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その夜、私は趣味の考古学の本を遅くまで読み耽っていた。
「・・・ウィル、まだ起きてるの?」
パジャマ姿のベルが眠たい目を擦りながらオフィスを覗いている。
ああ、もう少ししたら休むよ。
「夢中になるのもいいけど、度が過ぎると明日に響くわよ」
そう言って大きな欠伸をするとベルは自室へ戻って行った。
ふーむ、まあ確かにベルの言う通りだ。
いつも、もう少しもう少しと言っているうちに数時間が過ぎてしまう。
あまり皆の前で欠伸を噛み殺している姿もみっともないか。
本に栞を挟んだ所で、デスクの上の電話がリン、と鳴った。
・・・・・!
咄嗟に受話器を取る。
もう日付が変わろうとしている時刻だ。電話のベルで家人を起こすまいと焦った。
しかし誰だ・・・?
こんな時間に電話をしてくるような知り合いはいないのだが・・・。
「夜分遅くに申し訳ありません、先生。ご迷惑とは思いましたが、少々のっぴきならない事態になっていましてね・・・」
受話器の向こうから聞こえてきた声はアーサーのものだった。

電話を置いてすぐに私は外出の準備を整えるとそっとオフィスを出た。
そして急いでアサシン堂へと向かう。
「申し訳ありませんね、先生。少々自分の手に余る話でしたので、お知恵を拝借できないものかと」
出迎えたアーサーは普段の調子だったが、店の奥に座っていた銀城の様子は只事では無かった。
全身青痣に傷だらけで血と泥で薄汚れている。相当痛め付けられたのだろう。
彼は私を見るとヨロヨロと立ち上がった。
「・・・せ、先生・・・先生からもこっちの兄さんに言ってやってくれ・・・あの剣がいるんだ・・・」
フラつく銀城を支える。
大まかな話は先程電話で聞いたが、改めてそれを本人に確認する。
剣を狙う賊が進入して桜貴を連れ去ったって・・・?
「ああ、そうだ・・・。アイツら店中家探しして剣がねえもんだからよ・・・お嬢を連れて行きやがった・・・。剣と引き換えだってよ・・・」
アーサーが私を見る。お聞きの通りです、というわけだ。
なるほどこれはハイどうぞというわけにもいかんな・・・。
とはいえ桜貴の身も心配だし、剣は持って行くしかあるまい。
わかった、銀城。剣は渡そう。だが私も一緒に行くぞ。
「だ、ダメだ・・・! カタギの先生を巻き込むワケにゃいかねえ・・!!」
カタギ・・・確かその関係の人々が一般人を呼ぶ際によく用いられる呼称だな。これはどうやらジュウベイのあの話がヒットしたか・・・?
問い質す私に銀城が渋々語った所によれば、やはり桜貴はジュウベイの言っていた『紫桜会』の大ボスの愛娘であるらしい。
そして敵対する組織が何らかの理由からこの刀剣を求めてやってきたらしいのだが・・・。
渋る彼に無理やり同行を許可させる。
このまま送り出したのでは死にに行かせる様なものだ。

アーサーに後を任せ、刀剣を手にアサシン堂を出る。
すると店の壁に寄りかかって誰かが私達を待っていた。
「・・・こんな時間にお散歩ですか、先生。自分もご一緒させてもらいます」
・・・シイタケマン・・・。
「・・・な、なんスかこの赤いマフラー巻いたシイタケは・・・・!!」
シイタケマン初対面の銀城はびびって慄いていた。
彼は・・・何かシイタケの頭部を持つ男だ。
私もそれしか知らないからそうとしか説明のしようがない。
3人で夜の町を行く。
銀城が言うには、敵対組織『黒麒会』の連中は港のある倉庫を剣を持ってくる場所に指定してきたらしい。
穏やかに済ませたい所だが、恐らくそうも行くまい。
私は携えてきた魔剣ルドラの鞘をぎゅっと握った。


アンカー港にある倉庫街の中の一倉庫を貸切にして黒麒会の一行は根城としていた。
その倉庫で六角と部下達は間も無くやってくるであろう銀城を待ち構えている。
「ちょっと!! 降ろしなさいってこのタコナスビ!!」
天井から荷物を牽引する為のロープで後ろ手に縛られて吊るされた桜貴が暴れている。
「私はもう普通の人として生きてくんだから!! もうつまんない抗争だのなんだのに巻き込まないでよ!!!」
そんな桜貴の様子を、パイプ椅子に腰掛けてタバコを吹かしつつ六角は悠然と眺めていた。
「・・・お嬢さん、人にゃぁね・・・『星』ってもんがあるでさ。『宿命』ともいうのかね。どんな風に生きようが確かにソイツの勝手ではあるがね。でもソイツの為に用意されてるバカでかくてぶっとい道が必ずあるもんでね」
静かにそう言うと六角が桜貴を見て口の端を吊り上げて笑う。
「夢ぇ見んのもホドホドにした方がいいですぜ。お嬢さんの道はドスとチャカの道だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で六角を睨みつける桜貴。
ガチャ、とパイプ椅子を鳴らして六角が立ち上がった。
「おっと・・・おいでなすったかぃ」
ゴォン!と重たい金属音を立てて倉庫の扉が開け放たれた。
「・・・・六角う・・・・お嬢は無事なんだろうなぁ」
そこには月光を背負って剣を手にした銀城が立っていた。
「銀城!!」
叫ぶ桜貴を銀城が見る。
「よーしよし・・・ちゃんと持ってきたようだなぁ桜庭。いい子だそいつをこっちへ寄越しなぁ」
「ダメだ! お嬢が先だ!!」
叫ぶ銀城に六角がやれやれ・・・とため息をついた。
「状況がわかってねぇなぁ・・・。命令できる立場じゃねぇだろ?」
シャッ!と銀光が虚空を薙ぐ。
桜貴のつけていたイヤリングの飾りが切れて床へと落ちた。
くっ、と銀城が歯噛みする。
「・・・そうかい。そんなに欲しきゃくれてやるぜ!! 受け取りなぁっ!!!!」
そしてそう叫ぶと突然銀城は六角達へ向けて刀剣を大きく放った。
「!!?」
六角達が一瞬動揺して、そこに隙が生まれた。


銀城が剣を投げるのと同時に、倉庫から別行動を取っていた私とシイタケマンが動いた。
暗い天井からハラハラと粉末のようなものが舞い落ちてくる。
六角の部下の数人がその粉を浴びた。
「・・・な。なんだこりゃ・・・?」
粉末を浴びた男達が眉をひそめる。
するとその男達の身体からポコポコとシイタケが生えてきた。
「う、うおっ!!」
「シイタケ・・・!? うわああああ!!!!!!」
シイタケを生やした男達の身体が土気色に変じて老人のように萎びていく。
髪の毛は瞬く間に白髪と化し、その白髪もはらはらと抜け落ちていく。
「・・・かっ、カシラぁ・・・」
男達が六角に手を伸ばして助けを求めた。
しかしその手は虚しく虚空を泳ぐだけで、男達は全身をシイタケに覆われてミイラ化してバサバサと乾いた音を立てて床へ倒れた。
そこて天井からシュタッとシイタケマンが飛び降りてくる。
「成敗!!!!」
シイタケマンKOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!111
成敗っつか抹殺だな・・・・。
しかも猟奇殺人だ。
動揺して手元が狂いそうになるも、なんとか私は桜貴のすぐ脇へと飛び降りて着地する。
「・・・先生・・・!」
桜貴を戒めるロープを切断し、彼女を自由にする。
よし、これで・・・・。
瞬間、血が凍るような戦慄が私の全身を駆け巡った。
「・・・イカンねぇ・・・・。脚本に名前のねぇ役者がイタ(舞台)に上がるもんじゃあありませんや」
極端な猫背に、両手で納刀したままの刀を掲げる様に持つ独特の姿勢で六角が私の眼前にいた。
・・・・・速い!!!!!!
一瞬前の私と奴の立ち位置を考えればありえない踏み込みの速度だ。
桜貴を咄嗟に突き飛ばし、ルドラを構える。
奴の抜刀はまったく見えなかった。
ただ、暗い虚空を走る一瞬の銀光だけが私の視界に微かに映った。
その一刀を防げたのは幸運による所が大きい。
ルドラで六角の居合いを受ける。
ギィン!!!と甲高い金属音が倉庫に響き渡った。