第27話 理想郷計画-9


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ヨギが動く。
一瞬にして手品の様に彼の両手にリボルバーが現れる。
ホルスターに手を掛けてから弾丸を射出するまでの速度、凡そ0,02秒。
常人の反応できる速度ではない。
2つの銃口が同時に火を噴く。
ガンガンガンガンガン!!!と立て続けに周囲に銃声が響く。
しかし全ての弾丸はネイロスへ届く前に彼の周囲に展開したエネルギー障壁によって弾かれた。
「・・・無駄だと言っているだろう」
ネイロスが右手をヨギへと翳した。
その右手が赤く輝く。
直後、空中を走った衝撃波がヨギを吹き飛ばし、背後の壁に叩きつけた。
「戦車砲だろうが私の身体に届く事はないのだ。無駄を悟るがいい」
嘲笑を浮かべたネイロスがヨギへと言い放つ。
唇の端に血を滴らせてヨギが地面へと落ちた。
その背後で彼が叩き付けられた箇所を崩した壁の一部がボロッと剥がれ落ちる。
ネイロスは地を蹴って、背後のビルの屋上へと跳躍した。
「あまり時間を取らせないでもらおうか。動かなければそれだけ苦しむ時間が短く済むぞ」
眼下へと右手を翳すネイロス。
その右手に再び赤い光が集まり、周囲の風景がまるで蜃気楼の様に揺らいで歪んだ。

ツカサは渾身の力でセシルの首を締め上げた。
苦悶の表情を浮かべるセシルの両足が宙に浮く。
絞首台の様にツカサがセシルを持ち上げたのだ。
「・・・う・・・ぐ・・・あ、アニムス・・・!!」
苦しい息の中でセシルが叫んだ。
彼女のガントレットが光と共に分解し、ユニコーンの姿で再構成される。
嘶きを上げてアニムスはツカサに体当たりした。
「・・・ぐあ!」
ツカサが吹き飛ばされて横倒しになる。
同時にセシルも地面へと投げ出されたが、ツカサの両腕は彼女の首から外れていた。
喉元を押さえてげほげほと咳き込みながらも必死にセシルが立ち上がる。
「ガアァァァッッッ!!!!」
咆哮を上げたツカサが投げ出されていたバビロンを拾い上げる。
再び柄だけになっていたバビロンに赤い魔力の刃が生まれる。
そのバビロンを構え、ツカサがじりじりとセシルに迫る。
「・・・グ・・・ガガ・・・」
その目は既に正気を失っていた。
「・・・ツカサ・・・」
そんなツカサを見て、セシルが辛そうにその名を呼んだ。

ビルの屋上の更にフェンスの上に立つネイロスが魔力の衝撃波を真下へ向けて放った。
その標的はヨギだ。
彼は素早くその一撃を回避し、ネイロスの衝撃波は誰もいない地面を抉った。
そしてヨギは右手の愛銃「ピースメーカー」を頭上のネイロスへと向けた。
「・・・・・・・・・・・・・」
銃身が淡いエメラルドグリーンの輝きを放つ。
集中した魔力の輝きだった。
「・・・いかに魔力を込めようが無駄な事だ。その弾丸が私のシールドを突破する事はない」
「いや・・・」
鋭くネイロスを見据えたまま、ヨギが口を開いた。
「この弾丸(たま)は必ずお前に命中する」
言い放つヨギに、ネイロスがフンと鼻を鳴らして応じた。
そしてトリガーに掛かるヨギの指に力が入る。
「『WYOMING OUTLAW』」
銃声が鳴り響いた。
その瞬間、ネイロスの眉間に銃創が開いた。
「・・・!!!!!!」
驚愕したネイロスが目を見開く。
・・・目の前の自分のシールドは破られていない。いや、『弾丸が触れた痕跡すらない』
しかしヨギの放った1発の弾丸は、彼の宣言通りにネイロスの眉間に命中し、脳漿を破壊して後頭部へと抜けていた。
魔弾・・・「WYOMING OUTLAW」 ヨギの必殺必当の一撃。
通常、銃弾は射出され飛翔し命中するという三つのプロセスを経て標的を殺傷たらしめる。
しかしこの恐るべき魔弾はその「飛翔する」というプロセスをキャンセルして「射出」「命中」の2つの事実のみで成り立っている。
即ちこの一撃は『射出された時には既に標的に命中している』
それ故、間のいかなる障壁も効果を成さない。
後頭部の銃創からブッと鮮血を迸らせて、のけぞったネイロスがぐらりとフェンス上でよろめいた。
しかしゆっくり後ろへ倒れていくと思われたネイロスは踏み止まった。
虚ろに泳いでいた視線は再びギラリと輝きを放って眼下のヨギへと向けられた。
「!!!」
今度はヨギが驚愕する番となった。
「・・・フーム・・・久しぶりだぞ・・・この、脳を破壊される不快感・・・」
ニヤリと笑うネイロスの眉間の銃創からじゅうじゅうと音がしている。
再生が始まっているのだ。
「・・・再生細胞・・・アビス能収のものと同じなのか・・・」
険しい顔でヨギが呟く。その脳裏には灰色の髪の銃士の姿があった。
「ン? ・・・ああ、あの逃げ出した実験体はまだ生きているのか・・・?」
コキコキと首を左右に振りながらネイロスが言う。
「あれも私の手によるものだ。もっともあれに施してある再生細胞は試作品・・・当に耐用年数は過ぎている。今まだ命を繋いでいるとしても、じきに全身の細胞が崩壊して死を迎えるだろう」
感慨もなくそう告げて再びネイロスはヨギへと魔力を収束させた右手を向けた。
「さて、もう一度口にする必要があるか・・・? 全ては無駄だ、お前では私には勝てん・・・ヨギよ」
何本もの魔力の鎖がネイロスの手から発生する。
鎖はのたうちながら唸りを上げてヨギへと迫った。
「・・・うおおおおおおおおッッッ!!!!」
咆哮したヨギが波打つ無数の鎖をかわしながら両手の銃を必死にネイロスへ向けた。
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!! 薄暗い虚空に無数の銃声が鳴り響く。
「自棄になったか・・・無駄だと言っている」
ギン!ギギン!!とネイロスの展開する魔力の障壁が不快な炸裂音を響かせて銃弾を弾いた。

バビロンを振り上げて自分へと迫るツカサに、何かを決意した瞳のセシルが対峙する。
「ガァァァァァッッッ!!!」
振り下ろされる真紅の大鎌に、セシルは避ける素振を見せずにツカサへと歩み寄った。
ザン!とその肩を赤い刃が薙いでいく。
しかし長柄武器で懐に入られた事で、傷は深くとも致命傷とはなっていない。
セシルがぎゅっとツカサを抱きしめる。
「ごめんね・・・」
暴れるツカサの動きが、セシルの呟きで一瞬止まった。
「ごめんね・・・ツカサ。全然知らなかったわ・・・私に妹がいたなんて・・・」
「姉・・さ・・・」
セシルの目から涙が零れ落ちる。
「もうあなたを1人にはしないわ。これからはずっと私が一緒にいるから」
「・・・う・・・」
一瞬表情が和らいだツカサだったが、すぐにその瞳に狂気が戻る。
「うわああっっっっ!!!!!」
力を込めてツカサがセシルを突き飛ばした。
後ろへ飛ぶセシルが辛うじて倒れずに踏み止まる。
「・・・ツカサ・・・!!」
ツカサは苦しんでいた。
もがきながら激しく自らの胸を掻き毟る。
「姉さん・・・来ないで・・・!!」
胸元の爪あとから吹き出る血がツカサの胸元を赤く染め上げる。

その様子を見下ろすネイロスがチッと舌打ちをした。
「ここまでか・・・このままでは自己崩壊を起こす。やはり身体面の強化は完成しても内面はまだまだ調整が必要なようだな・・・」
その間にもヨギは銃を撃ち続けていた。
しかし弾丸は全て障壁に弾かれ続ける。ネイロスは既にヨギに注意すら払っていない。
「貴様も沈黙しろ・・・セシリア・フローライト」
セシルへ向けた掌からネイロスが大量の光弾を放った。
「・・・!!!!」
眼前に迫る禍々しい光を放つ無数の魔力の弾丸を前にセシルが硬直する。
「姉さん!!!!!!」
そのセシルをツカサが体当たりで弾き飛ばした。
そして光弾はツカサへ命中し、その身体にいくつもの穴を開けた。
ネイロスがその様子を見て忌々しそうに奥歯を鳴らす。
「ツカサめ・・・ラボに戻ったらその『余計な部分』を残らずお前の内側から削ぎ落としてやる。・・・ン?」
ふと、上空に違和感を感じたネイロスが頭上を見上げた。
「何だ・・・?」
微かに異音が聞こえる。
ドーム上の居住ブロックの天井部分にチカチカと瞬きが見える。
それは丸で星空の様であった。
ヨギは自棄になったわけではなかった。
カムフラージュの為にネイロスへと放たれた弾丸は全て、障壁に弾かれた後に落下せずヨギの魔力に操られるままに空へと駆け上っていた。
そして弾丸は天井に至り、そこを形成している巨大な鋼板の継ぎ目に炸裂し横に走る。
ギュィン!ギィィンン!!と炸裂音が断続的に響いている。
瞬きは火花の輝きだった。
ズズズズ!!!!と居住ブロック全体を震わせ、巨大な鋼鉄板が落下してくる。
「!!!!!!!! うおぉぉぉぉぉぉぁぁぁあああああああああアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
そして天井板は驚愕の表情のまま固まったネイロスを周辺の建物諸共に押し潰した。

ヨギが眼前の巨大な鉄塊へと歩み寄る。
その鉄塊の下に瓦礫に混じってネイロスの左手が覗いていた。
左手は何かを掴もうとするかのようにもがき、痙攣を続けている。
恐らく、瓦礫の中ではネイロスの再生が始まっているだろう。
しかしこの巨大な鋼鉄の塊を持ち上げる事は叶うまい。
潰れた状態のままで彼は幾度となく再生を繰り返す事になるだろう。
「この鉄の塊がお前の墓標だ、ネイロス。・・・終わる事の無い時間を死に続けるがいい・・・」
瞳を閉じて静かにそう呟くと、ヨギは踵を返してセシルの元へと歩いていく。
セシルは血塗れのツカサを抱きしめていた。
横たわるツカサは自らの血で真っ赤に染まっている。
その吐息は死へ向かって徐々に細くなりつつあった。
「姉さん・・・無事で、よかった・・・」
涙を流すセシルの顔に、そっとツカサが手を伸ばした。
「ツカサ・・・」
「泣かないで、姉さん。僕は大丈夫・・・僕は凄く強いから・・・」
微笑んだツカサがゴフッと血を吐き出す。
「今だって・・・こんな怪我なのに・・・全然痛くないんだよ・・・。でも、少し・・・寒いかな・・・」
セシルが泣きながら無理に笑顔を作る。
「じゃあ、早く元気になってね」
「うん。そうしたら一杯お喋りしたいな・・・姉さんとお話したい事が沢山あるんだ・・・」
ツカサの目蓋がゆっくりと閉じる。
「今は・・・少し眠るね・・・。おやすみなさい、姉さん・・・」
「おやすみ、ツカサ・・・」
そしてツカサの手がかくんと地に落ち、それきり動かなくなった。
服の中からひらりと何かが落ちた。
それは血で汚れたボロボロの古い写真だった。
微笑む幼いセシルの写真だ。
声を殺して泣くセシルがツカサを抱きしめる。
ヨギはただそんな2人の傍らに声も無く佇んでいた。


ダン!!!と地を蹴った悠陽が渾身の力を込めてギャラガーを殴りつけた。
インパクトの瞬間、白い魔力の爆発が起こる。
ギャラガーは吹き飛ばされ、2本のビルを突き破って崩し、3本目のビルを倒壊させて止まった。
スタッと着地した悠陽が右手をぶんぶんと振って不機嫌に叫ぶ。
「むっかーっ!!! あったま来ちゃうわね!! 避ける素振くらい見せなさいよ!!!」
ぶんぶんと振っている右の拳は血が滲んでいる。
殴りつけた悠陽の拳の方が砕けたのだ。
「・・・避ける?」
瓦礫の中からギャラガーの低い声がする。
崩れ残ったビルの上部がゆらりと浮かんだ。
その下でギャラガーが片手でビルの上半分を持ち上げているのだ。
「その必要性を感じれば、必然的に私もそういった動作を行うだろう」
無造作にギャラガーがビルの半分を横へ投げ捨てた。
ズズン!!!!と周囲の地面がぐらぐらと揺れる。
「風に舞う落ち葉をわざわざかわそうとするほど、潔癖症でも神経質でもないのでな」
その姿を見て魂樹が息を飲む。
(無傷・・・衣服に汚れ1つ付いてないなんて・・・)
「ムカつくでしょ、あいつ・・・。あいつの全身の衣装って全部高エンチャントの塊なのよ」
魔力付与(エンチャント)・・・言われて魂樹が目を凝らしてギャラガーのスーツやマントや眼鏡等を見る。
しかし見た目にはそんな特別性は何も感じない。
「ギャラガー・C・ロードリアス・・・『永劫存在』(エターナル)にして魔術の神才。そしてその真髄はエンチャント」
ふん、と両手を腰に当てた悠陽がギャラガーを睨む。
「6年前に見た時ってあんたのエンチャ数100くらいだったけど、あれから随分また増やしたみたいじゃない。今どんくらい貼り付けてあるのよ」
「今か・・・」
ギャラガーが呟いて目を閉じる。
「今は500に少々足りない程度と言ったところだ」
そして目を開けたギャラガーは無表情のままそう言ってネクタイの僅かな歪みを直した。