第18話 うつりゆくもの-5


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天を焦がす火柱が上がる。
リューは避けられなかった。今はその灼熱の炎の中だ。
しかし魂樹達が安堵のため息をつくよりも早く、燃え盛る炎の向こう側からリューの声がした。
「・・・大華(ツェンレン)料理とは」
炎の中の人影が揺らめく。
「炎の料理だ。大華の料理人は火炎を自在に扱えるようになって初めて一人前」
バサッ!!!と大きく上げた右手の一振りでリューが周囲の火炎を払った。
まるで外套を脱ぎ払うかの様に。
リューの衣服には焦げ目一つ付いていない。
「その大華料理の求道者であるこの俺に炎をもって挑みかかってくるとは笑止」
ゆっくりと魂樹の所へ歩いてくるリュー。
そのリューの前にゼフィールヴァルトが立ち塞がる。
威嚇の唸り声を上げる魔犬を見上げるリュー。
「・・・狗ならば狗らしく、飼い主の前では頭を垂れていたらどうだ」
そう言ってリューが高く跳んだ。
そして頭上よりゼフィールヴァルトの中央の頭を蹴り下ろす。
ギャイン!!!!と絶叫を上げたケルベロスの巨体が地面に叩き付けられて跳ねた。
そして後方の魂樹を巻き込んで壁に激突する。
「・・・ぐっ!!! ・・・・う・・・・」
壁とゼフィールヴァルトに挟まれた魂樹が苦悶の声を上げた。
「魂樹ちゃ・・・・うっ・・・・」
前に進もうとしたマチルダが前のめりに倒れた。
彼女にはもう指先一つ動かすだけの体力も残されていない。
ジュデッカも立ち上がり再び銃を構えたが震える腕では狙いが定まらない。
3者、満身創痍の状態のエルフ達を前に、リューは両手を腰の後ろで組んだ。
「こんな所だろうな。概ね想定していた通りの実力だった。取り立てて見るべきものも無い」
冷たく言い放つ。
「今日俺が来たのは警告の為だ。関わる仲間がいるならそいつらにも伝えるがいい。今後、我々の進む前に立つな」
そして3人に背を向けると、リューは歩き出した。
その背へジュデッカが数発の弾丸を放つ。しかしその全てはかわすまでも無くリューを逸れてあらぬ方向へと飛んでいく。
「その物分りの悪さ、次に会う時までにはマシになっていると期待する。お前達が命を無駄にしたいのは勝手だが、こちらも足元の小石を蹴り飛ばす手間すら惜しい時もあるのだ」
振り返らずにそういうと、足早にリューはその場を去っていった。
残された3人は無言のまま、ただその背を見送ることしかできなかった。


「あーあ、借りモンの倉庫にこんな大穴開けちまってよ」
大龍峰の消えた壁の穴を見てルノーが言った。
「バカヤロ、それどころじゃなかったろうが」
悪態をついてカミュがくわえたタバコに火を着ける。
「・・・しかし、いきなりハイドラをぶつけてきましたね。柳生霧呼はもう少しスマートなやり方を好む人物だと思って・・・」
エリックの言葉が止まる。
カミュの手からタバコが落ちた。
「・・・・・ふーぃ・・・効くのォ」
壁の穴より再び大龍峰が倉庫の中へ侵入してくる。
先程2人の必殺技を被弾した胸部やや下を左手でさすりながら。
「マジか・・・・・」
ルノーの頬を汗が一筋伝った。
バシン!と胸の前で右拳を左手で受ける大龍峰。
「さぁてえ・・・そんじゃあ今度はこっちの番じゃいのお」
「・・・!!!!!!!!」
その瞬間、エリックの眼前に『壁』があった。
一瞬で間合いを侵略した大龍峰が目の前にいたのだ。
その右手を引き絞るように後方へ下げながら。
「『鬼鉄砲』!!!」
エリックがガードの両手を上げるより早く、大龍峰の強烈な右の張り手が炸裂した。
防御が間に合わなかったエリックはそれを胸部にまともに受けてしまった。
肋骨が折れ、全身のあちこちの骨にヒビが入り、内臓のいくつかが損傷する。
後方に吹き飛ばされて受身も取れずに床へと叩きつけられるエリック。
しかし地面に落ちるより早く、彼の意識はもう失われていた。
そのエリックのやや手前に、一瞬遅れて彼のメガネが落ちてきて砕けた。
「てんめえええええッッッ!!!!!」
カミュの怒りの拳が大龍峰へと炸裂する。
胸部に拳を受けながらも、まったく回避も防御もせずにそのまま大龍峰はカミュに覆いかぶさるように真正面から抱きついた。
そしてカミュのベルトに上手をかける大龍峰。
(・・・・・やべえ!!!!)
瞬間、カミュの全身の血が凍った。
マズい・・・・『この男にこの体勢はマズい』!!!
「そぉれ『阿修羅寄り』じゃあ!!!!!」
カミュを上手に抱えたまま、壁へと突進する大龍峰。
轟音を立てて壁の先程とは違う箇所にまた大穴が開く。
「・・・・ふいーっ」
瓦礫の中から大龍峰が立ち上がる。
その足元にはカミュが倒れている。
ボロボロで血塗れだ。右手と右足は間接でない部分から折れ曲がってしまっている。
「!!!」
背後からの強い殺気に大龍峰が弾かれた様に振り向く。
ダンテの装甲を纏ったルノーが刀を振りかぶって彼の頭上高く跳んでいた。
「・・・・許さねえ!!!!!!」
「うおっ!! 真剣白刃取りじゃあ!!!!!!」
ぶおっ!と左右の手でルノーの刀を挟み止めようとする大龍峰。
しかしルノーの方が一瞬早かった。
その為、刀を挟もうとした両手は左右からルノーの身体を思い切り空中で打った。
「ぐはッッッッ!!!!!!!」
グシャッ!!!!と嫌な音を響かせてダンテの一部が砕け散り、ひしゃげて鎧の中のルノーが血を吐いた。
「ぬああっ、イカン!!!」
ドシャッと地面に落ちたルノーの様子を慌てて窺う大龍峰。
装甲していたのが幸いしたらしい、息はあるようだ。
「・・・・はー慌てたわい。やっぱ慣れん事はするもんじゃないのォ」
立ち上がった大龍峰が冷や汗を拭う。
「にしても殺すなちぅ仕事は神経使うてイカンわい・・・」


待ち合わせの場所には、リューが先に到着していた。
「浮かぬ顔だな。苦戦でもしたか」
後から来た大龍峰へそう声をかけるリュー。
「・・・苦戦じゃあ・・・?」
大龍峰の渋面がより酷くなる。
「苦戦でもしとったらこんなツラにゃあならんわい」
そして不機嫌そうに鼻を鳴らして腕を組む。
「共和国最強ち言うんでちぃと期待し過ぎたかのお・・・」
「お前の腕で互角の戦い等そうそう望めまい。現実を少しは知れ」
リューの言葉はにべも無い。
しかしこの男の物言いにはもう大龍峰も慣れている。
「約束の時間じゃが、ギランがまだ来とらんのお」
周囲を見回して大龍峰がハイドラのメンバーの1人の名を出した。
ギランは大龍峰とリューと同様にツェンレン七星の3人の所へ差し向けられた刺客だった。
「奴が時間に姿を見せない事など珍しい事ではあるまい。・・・む」
その時、リューの携帯していた小型の通信端末の呼び出しがかかった。
『ハロー。どんな状況さそっち。上手くいってんの?』
ノイズに混じって聞こえてきた声はエトワールのものだ。
「当然だ。確認を取るほどの仕事ではあるまい。ギランがまだだが、それはいつもの・・・」
『あー、それだけどさ・・・』
リューの言葉をエトワールが遮る。
『アイツもうそこへは来ねーよ。殺られやがった、バカが』
「!」
「!」
リューと大龍峰の動きが同時に止まった。
『アイザックを確認に行かせた。殺ったのは七星オルヴィエらしい。・・・あーあ、どうすんのキリコいない間にハイドラ欠けちゃったとか言っちゃったらコレうちお説教コースじゃね?』
ふーっと端末の向こうから重たいため息が聞こえる。
『ま、七星の方はそのままあの糸目に当たらせるからよ。お前らはそのまま戻ってきな、ごっくろーさーん』
言いたいことだけいって、プツリと通信は切れた。
リューと大龍峰が思わず顔を見合わせる。
「・・・ちぃぃい。『当たり』は七星の方じゃったかあ! ワシが行くんじゃたわい」
舌打ちをした大龍峰が悔しそうに歯噛みする。
その時、灰色の空からぽつぽつと雨粒が落ちてきた。
「降ってきたか。頃合だ。引き上げるぞ」
そして2人は雨の中をホテルへと向けて歩き出した。