第11話 炎の山-1


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「ラーメンはね、湯きりで味が決まるの!見ていなさい音速の湯きり技!『飛燕』!!」
その瞬間、振りザルは音を超えた。
衝撃波でラーメンいぶき店内の窓ガラスが全部割れる。
あーあーとか言いながらジンパチがホウキとちりとりを持ってくる。
「さあどうぞめしあがれ」
そんな掃除するジンパチに目もくれずに私にできたてのラーメンを差し出してきたのは、このラーメンいぶきの店長、勇吹その人である。
しかし私はといえば、湯気立つ美味そうなラーメンを前に状況が未だに掴めず、眉をひそめるばかりであった。

話は30分ほど前に遡る。
調べ物を終えて宿に戻る途中の私にジンパチが声をかけてきた。
「ラーメン屋の大将がセンセーに話があるらしいぜ」
特に断る理由も無いので同行する。
そうして店にやってきた私にイブキはラーメンを出してきたのだが・・・・。
「大将俺にはラーメンねーのかよ。使いっぱにしといてよー」
窓ガラスの破片を片付け終えたジンパチが不満を口にすると
「黙りなさい!」
ドン!とイブキは拳をカウンターに叩き付けた。
「ラーメンはただのメニューじゃないわ!戦いなのよ!『食べるか死ぬか』!!その覚悟の無い者にラーメンは出せない!!!」
ぶ!口に含んだ麺を吹き出しそうになる。私もそんな覚悟ないよ!!
「私は究極のラーメンを作りたいの。先生、これを見て」
そう言ってイブキが出してきたのはかなりの経年を感じさせる巻物だった。
「これは今から500年ほど前にラーメンの聖地、華仙神国の伝説の料理人、ロン・バイフェンが記した伝説のレシピよ!」
言われて見てみればなるほど、食材のイラストのようなものも添えられておりレシピらしいという事がわかる。
「ロンは天才だったの。彼の料理を食べた時の帝は『殺す気か!!』と言ったと伝えられているわ。つまりそんな美味しいものを食べさせて感動のあまり昇天してしまったらどうするんだ、という事ね。そしてその後ロンは宮廷料理人たちによって料理界から危険人物として永久追放されてしまうの。才能が有りすぎて妬みを買ったのね」
おいおいおいおいおい何か違うんじゃないかそれ。好意的に解釈しすぎなんじゃないかそれ。
「ヘル・レッド・ラーメンも彼の残したレシピから復元したメニューなのよ」
先日の一件を思い出したのかジンパチがうげ、というしかめっ面をする。
ますます危険なレシピだ。
「さらにあの上位のデス・ブラック・ラーメンというのがあるのだけど、それは調理してる最中に私が死にかけたから店のメニューにはできなかったわ。私もまだまだ修行が足りないわね」
恐ろしい。あれにさらに上のラーメンがあったのか。
「だから今回はこれにチャレンジする事にしたの。『宝華麺』、ここね。ところが材料に1つだけ揃わないものがあってねー」
イブキが上目遣いで私を見る。流石にもう私にも話が読めた。
それで、私はどこへ行って何を取ってくればいいのかな。
「さっすが先生!話せるなぁ! 南西の火山地帯にオンドゥルっていう雄鶏がいるの。その鶏がいるのよね。うちのバイト君達取りに行ったんだけど全滅しちゃってねー。やっぱしシロート行かせてもダメね」
何か・・・・カツゼツ悪そうな名前の鶏だなぁ・・・・。まあ南西火山地帯は私も色々と調べてみたいと思っていた。丁度いい。
「危険な魔物も出るかもしれないから葛城も付けるわ。コキ使ってやって!」
ぶふーっと隣でお冷を飲んでいたジンパチが吹いた。
「オイ大将!馬鹿言ってくれちゃっちゃっちゃっちゃー困るぜ!俺ぁ隊の仕事だってあんだぞ!」
ガタンと椅子を鳴らしてジンパチが立ち上がる。
「葛城あんたうちの店にどんだけツケあると思ってんの」
「・・・・・この命を盾にさせて頂きます」
こうして、話がまとまった。

「くそーまさかここでまとめて有給使う羽目になるたぁよぉ」
翌日、我々は荷物をまとめて我々は町を出発した。エリスは留守番になった。
何と言っても知人から預かっている娘だし、初めての場所は何があるかわからない。探検の経験の浅いエリスをいきなり連れて行くのは躊躇われた。
彼女にはもっと町から近い安全な場所から徐々に経験を積んでいってもらう事にしよう。
エリスは最初は不満そうだったが、我々が戻るまでの間はヒビキが面倒を見てくれるという話になり機嫌が直った。
最近エリスはヒビキに懐いており、ヒビキもそれなりにエリスを気にかけて可愛がってくれているように見える。
南西火山地帯へはまともに徒歩で向かえば何日も到着までかかってしまう。マナトンネルを使うことにする。
ゲートを潜り、火山地帯へと到着した。
むっとした熱気と硫黄の匂いが我々を出迎える。
否、我々を出迎えたのはそれだけではなかった。
真上から来る殺気と風切り音。我々は同時にその場から飛び退いた。
一瞬後に我々が立っていた場所にゼフの鼻が打ち下ろされる。
ズズンと低い打撃音が響き、地面が揺れる。
「ハッ! こいつぁ熱烈な歓迎だな」
ジンパチが長槍を構える。ゼフが2体、明確に我々を狙ってこちらを伺っている。
この場所にゼフが出る等と言う話は聞いていないが・・・・。私は早口でゼフの特徴と弱点をジンパチに伝えた。
「聞きゃ聞くほど俺の引き立て役だとしか思えん奴だな。肩慣らしにゃちょうどいい」
ジンパチが不敵に笑って構えをとった。
「『韋駄天』の葛城陣八、参るぜよ!」
地を蹴る音と同時に、ジンパチの姿が消えた。岩壁を駆け上る音が微かに聞こえたと思った次の瞬間、咆哮を上げてゼフが一体地に倒れた。
眉間に穿たれた跡がある。既に絶命している。
どうやら岩壁を駆け上って背に上がり、弱点の模様を突いてそのまま眉間に飛び移ってそこを突いたらしい。
そう思った時には既に2体目が同様に地に倒れ伏していた。
「ま、こんなとこっスかね」
ジンパチが槍を肩に担いで一息つく。
・・・・強い。普段の町でのくだけた調子からは想像し辛いが、うぐいす隊の面子は皆、過去に死線を幾度も越えてきた一騎当千の猛者達であった。
エリスも若くて優秀な騎士ではあるが、それでも真剣にジンパチと立ち会えば恐らく数合もつまい・・・・それほどジンパチの強さは図抜けている。
『本気になった俺の動きを目で追えるのは隊じゃ副長くらいのもんスよ』
以前、ジンパチがそう言っていたのを思い出した。

それにしても何故この場所にゼフが・・・・。まさか近くに奴が・・・魔女ナイアールがいるのか。
嫌な予感がする。
そういえば微かに誰かに見られているような感覚もある。
「気にされてるようですぜ。俺らも人気モンだ」
ジンパチも気がついているようだった。
どうやらただ周囲を探索し、鶏を捕まえて帰るだけとはいかないようだ。
いつもの事ながら私は嘆息してやれやれと肩をすくめたのだった。