第13話 四王国時代の終焉-2


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帝國首都陥落の報は衝撃となって全世界を駆け巡った。
翌早朝に第一帝位継承者フレデリック・クルス・ラ・ルーナが降伏宣言を出し、帝國全土の兵にこれ以上の交戦を控えるように呼びかけた。
しかし帝國軍の一部はこれに応じず、現在も帝都周辺では散発的な戦闘が続いている。

「まー想像は出来た事だけどな。受け入れられないだろ。歴史と伝統を誇る世界有数の軍事大国の軍が得体の知れない○○○○軍団に負けました、じゃさー」
退屈そうに欠伸をしながらブロンドの少女が言う。
彼女の名前はエトワール・D・ロードリアス。
財団総帥ギャラガーの姪である。
「ですが、我々は皇族を全員抑えています。彼らも思い切った手は打てませんよ」
その斜め後ろを歩くアイザックが言う。
帝城の冷たい廊下には彼ら2人の足音だけが響いていた。
そのままエレベーターに乗り込む2人。
扉が閉まると、アイザックはカードを取り出して操作盤に読み込ませるとパスワードを打ち込んだ。
静かにエレベーターが降下を始める。
「本来存在しないはず」の階層へと降りていく。

最下層へと到着し、2人はエレベーターを降りた。
「・・・・寒っ」
エトワールがぶるっと震える。
この層のみ気温が極端に低いのだ。瞬く間に吐く息は白くなる。
「何だこれ! 元々寒い国さらに冷やして何したいのさ!?」
「・・・低温で保存する必要があるみたいなんですよ」
途中、防寒着を着込んだ数名の職員とすれ違う。
彼らは軽く会釈だけしてそのまま通り過ぎて行った。
「異分子に対して無関心過ぎじゃね?」
エトワールが自分をちょいちょいと指さして言う。
「僕と一緒だったからでしょう。それに、確かに彼らは自分たちの研究結果以外の事には驚くほど無関心ですよ」
「・・・・上で自分らの国が滅んでんのにかよ」
両手を後頭部で重ね合わせてそこに頭を乗せるようにして、上を見上げたエトワールが、ほう、と一つ白い息の塊を吐き出した。

最下層最深部へと到着する。
そこは巨大な円形のフロアだった。
中央に透き通った円形の柱のような物が立っている。
内部は液体で満たされており、時折ぼこっと泡が上がっているのがわかる。
その水槽の中央にエトワールの求めるものがあった。
「・・・どーも、神サマ」
水槽に手を添えてエトワールがニヤリと笑った。
「さーこれさえこっちの手に入りゃこんなとこに用はねーですよ。回収してさっさと撤収だ。後は兵団が好きにやりゃいいさ。・・・うちらのバックアップ抜けてどんだけやれんのか知らんけどな」
「先程部下から報告がありました。早速ファーレンクーンツ共和国よりヨーゼフ少将の一軍が帝國国境目指して北上中だそうです。名目は治安維持活動だそうで」
それを聞いたエトワールが半眼でべぇ、と舌を出す。
「ハイ出ましたお得意の呼んでない正義の味方」
「南部国境線の守備隊の指揮官、六剣皇エルザ将軍は筋金入りの共和国嫌いです。すんなりは通しませんよ。向こうもメンツかけて来ているし、追い返されましたで済むはずないんで、小競り合いになるでしょうねぇ」
六剣皇エルザは帝國南部、共和国領との国境線を守護する将軍だ。
その任務の重要性から、今回の争乱の中唯一まったく部隊を動かしていない。
「まーせいぜい泥沼になってちょーだいよ。四王国は疲弊してくれりゃくれるほど、うちらがアレコレやり易く・・・」
エトワールの言葉が止まった。
誰かが息を切らして最深部に駆け込んで来たからだった。

エトワールとアイザックが振り返る。
息を切らして駆け込んできた少女。
ジーンズにパーカー姿。メガネにつばを後ろにして帽子を被った少女。
ほんの半月前まで世界中で話題になっていた少女だった。
「おやま、こりゃキグーだ」
エトワールが口の端を上げた。
「・・・歌姫サマはここ顔パスなのか?」
そして隣にいるアイザックに尋ねる。肯いて肯定の意を示すアイザック。
「彼女は例のプロジェクトの『被験者』ですからね。半年に一回は検診を受けていましたし、通行証を持っているはずですよ」
そう言って胸のポケットから先程エレベーターで使ったカードを取り出して見せる。
「・・・アンタたちの狙いは・・・やっぱり・・・・」
荒い息を吐きつつ、セシルが2人を睨んだ。
「神声(ゴッドヴォイス)を持つ只1人の被験体か・・・・。いっそ歌姫じゃなくて歌神様って名乗ったら?」
コンコン、とノックするように水槽を叩いてエトワールが獰猛な笑みを浮かべた。
「・・・・・・『こんなもんが混じって』んだからさぁ!!」
「・・・・・!!!!!」
バン!!!! と跳躍音を響かせてセシルが大きくエトワールへ向けて跳んだ。
「・・・夜の森を駆けろ!! 深雪の狩人!!! 『アニムス』!!!!」
叫ぶセシルの両手が輝いて、そこに銀のガントレットが装着される。
手甲には左右どちらも表の手首から肉厚の短い刃が付いている。
その刃をかざしてセシルがエトワールに襲い掛かる。
しかしエトワールは数歩下がると、その前にはアイザックが立ち塞がった。
アイザックが上空のセシルに向けて両手を突き出す。
「・・・啄ばめ、抉れ、貪り喰らえ地獄の猛禽・・・『フレスベルグ』」
その手に巨大な円形の刃が浮かび上がる。
その刃を放つアイザック。
「・・・くっ!!!!!」
上空で両手を交差してその一撃を受け止めるセシル。
極寒の地下空間に激しい金属音が響き渡った。