第1話 空の王国-3


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魔人「解き放つもの」ベルナデット・アトカーシア。
灰色の猫はそう名乗った。
ぬう、まさか魔人から助けて欲しい等と頼み事をされる事になるとはな・・・・。
『魔人を助けるなんてまっぴらゴメン?』
猫は澄ました顔をしている。まあ猫の表情って後は怒った顔くらいしか私はわからないが・・・・。
頭ごなしに拒否する気はない。まずは話を聞こう。
『ありがとう。この子の身体を通して会話ができる時間は非常に限られているの。だから手短に言うわね』
そう言うと猫は居住まいを正した。
『ここは浮遊大陸「プラネリューテ」 古代魔法王国期から大空にある大陸よ』
・・・ちょっと待ってくれ。そんな大陸が空に浮かんでいれば下に気付かれないはずは無いと思うのだが。
『それはこの大陸を覆っている永世魔法結界の効果よ。結界は下界から姿を隠し、陽光も透過させる効果があるの。だから下からは見えないし影も落ちないから気づかれる事は無いというわけ』
「途方もない話ですね・・・・」
ルクが言う。
何故8人の魔人の1人である君がこの浮遊大陸にいるのだ。魔人は島から出られないのではなかったのか?
『この大陸が貴方達がシードラゴン島と読んでいる土地の一部だからよ、ウィリアム。と、言うよりもこの大陸の一部がシードラゴン島だというべきね』
! ・・・・シードラゴン島がこの大陸の一部・・・・?
『本来、古代魔法王国期にシードラゴン島も空へと浮遊するはずだったわ。でもあの島は「船」の影響が強すぎて浮遊の魔術が上手く作用してくれなかったの。だからやむを得ずあの一角は諦めて残りを空へ飛ばしたのよ』
始まりの船か・・・。神の門がその中にあるという。
猫がこくんとうなずいた。
『初めに封印が施された時に、この大陸もその影響下に含まれたわ。だからここは島外にはカウントされないのよ』
なるほどな・・・・。
『この地をずっと治めているのは「パーラドゥア皇国」 私は代々の王の相談役としてずっとこの国で暮らしてきた。今代の神皇ユーミルもカリスマと慈愛の心を持つ素晴らしい統治者だったわ。・・・・だけど、今から5年前に全ては変わってしまった・・・・』
ベルナデットの声のトーンが落ちる。いよいよ核心か。
『5年前にある事件があって、その時から神皇はこの世の全ての事柄に一切の興味を持たなくなったの。生ける屍状態というわけね・・・。そしてそれ以後王宮の内外で不穏な考えを持つ者達が暗躍を始めたわ』
王は抜け殻となり、その後の権力を狙う者達が出た・・・か。いくらでもある話だ。権力者は衰え、後釜を狙う者が出る。
政治の事情は空の上も下も変わらないな。
『それから1年ほどして、国王派だった私はその不穏な考えを持つ者の1人、ラーの都の太守ナバールに罠にかけられて幽閉されたの』
魔人を罠にかけて閉じ込めるとは・・・・そんな恐ろしい術者がいるのか・・・。
『あ、私自慢じゃないけど戦闘力だけ見れば魔人の中では最弱だから。テリトリー内に他の魔人を迎え撃っても7人誰にも勝てないわ』
ぶ! 確かに自慢にはならないなそりゃ!!

そしてベルナデットは「時間が来た」と言って黙り、猫はただの猫になった。
今はルクの膝の上で寝息を立てている。
「いやはや何とも・・・どでかい話になってきたのう」
ジュウベイは難しい顔で唸っている。
私はと言えば、脳内で先程のベルナデットの話を反芻していた。
話の概要はわかったがまだ腑に落ちない点が多々ある。
この大陸も封印の影響下にあると彼女は言った。しかしここには皇国があり人が生活している。
聖地はそんな土地を恐ろしい力を持つ魔人達の流刑地に選んだのか?
まあ以前も記述したように聖地の者達は自身の価値観に従った裁きを下す。この地を「諸共」として良いと聖地が判断するだけの何かがあったのかもしれないが・・・・。
「それで、どうするのですか、ウィリアム。ベルナデットを助けに行くのですか?」
ルクが聞いてくる。私は、今はまだなんとも言えない、と答えた。
まずは自分の目で色々と確かめてみない事には・・・・。
そういえば話のスケールが大きすぎて自分達が下界に戻る方法について尋ねるのを忘れていた。
次に話をする時にはその事も問い質さなくてはな。
「では、ラーの都とやらに行ってみるのか」
ジュウベイの問いに、私は肯いて応えたのだった。

それから村人に聞いたラーの都への道を歩き続けること2日程。
我々の目の前に城砦に囲まれた巨大な都市が姿を現した。
「かなりの規模の都市ですね・・・」
見上げてルクが言う。
確かに・・・想像していたよりずっと大きな都市だ。そもそもこの話受けたとして我々3人でこんな大都市の太守に幽閉されているベルナデットを救出できるものなのか?
前途は明るいとは言い難い。
そして我々城門で衛兵に止められた。
「止まれ。お前達は何者だ。何をしに来た」
私は予め考えていた方便を・・・旅人であり宿を求めて来た、と答えた。
「フン。身分のハッキリせん者を簡単に中へ入れるわけにはいかんなぁ」
衛兵がニヤニヤと嫌らしい笑みを見せる。なるほど・・・袖の下を寄越せと言いたいらしい。
とはいえこの大陸で通用する通貨等持ち合わせが無い。何か値打ちのある品物を持っていただろうか・・・。
等と考えていると、
「どれ仕方がないのう。これで通してくれい」
ジュウベイが何かを衛兵に握らせた。
「へへっ・・・わかってるじゃねえか。・・・・って、オイ何だこれ」
「輪ゴムだ」
いらねえよ!!!!と、衛兵は怒って輪ゴムを地面に叩き付けた。叩き付けても輪ゴムなので迫力が無い。
結局衛兵を怒らせて我々は都へは入れなかった。

さてどうしたものか、と城壁を見上げて思案する。
流石にこの高さではよじ登るわけにもいかない。
するとジュウベイの懐から猫がひょこっと顔を出した。
『こっちよ』
ジュウベイの襟から飛び降りて猫がスタスタと歩いていく。我々は慌ててその後を追った。
猫の指し示した茂みには、草木で巧みにカモフラージュされた木の板があった。
板をどかせばその先は穴が続いている。
『少数だけど同志がいるの。彼らのアジトへはそこから行く事ができるわ。街の中へもね』
ほう、レジスタンスがいるのか・・・・。
猫に続いて穴を降りていく。その先は整備された地下道になっていた。
やがてある扉の前で猫は足を止めた。
・・・いきなり開けてしまってよいのかな?
ノブに手を伸ばし、ふと気付く。
・・・・中から何か聞こえてくるぞ
「・・・・カバディカバディカバディ・・・・」
カバディやってるじゃねえか!!!!!
ガチャっと乱暴にドアを開け放った。
その瞬間その場にいた数人の男達がババッと物凄いスピードで会議テーブルに着いた。
「・・・・ハァハァ・・・やあこれはベルナデット様・・・・ハァハァ・・・・今作戦会議中でありました・・・ハァハァ・・・・」
男の1人が言う。
ウソだね絶対カバディしてたね。
『紹介するわ。解放軍のリーダー、ロイドよ』
ベルナデットの紹介に応じて線の細い青年兵士が立ち上がった。
「よろしくお願いします・・・ハァハァ・・・・ロイドです・・・・ハァハァ・・・・」
なんかハァハァ言いながら人の手握るのやめて欲しいなぁ・・・・。
私もとりあえず自己紹介する。
「そして彼が副リーダーのハンセンです・・・ハァハァ・・・」
丸顔で大柄な兵士が今度は握手を求めてくる。
「よろしくお願いします!! ハンセンです!!! ハァハァハァハァ!!!!」
ハァハァまで力強くて怖いよ!!!
というか、我々はまだ君達に力を貸すと決めたわけではない。ここでいきなりよろしくされてしまっても困るのだが・・・・。
「いえウィリアムさん。あなたもこれを見れば彼らの悪行と我々の正しさがわかっていただけると思います」
そう言ってロイドは私に小冊子を渡してきた。
・・・・何々・・・? 「よくわかる初めてのカバディ」?
バッと凄い勢いで取り上げられた。
「間違いました。こちらです」
何だ何だ・・・どれどれ・・・名簿?
その小冊子には沢山の名前が羅列してあった。
「・・・それは、年々重くなる税が払えずに奴隷として売られていった者達の名です・・・!!」
ハンセンが唇をかみ締めて言う。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「こんなに・・・・。酷いですね」
「ええい!許せんな!!!」
ルクとジュウベイもそれを見て憤っている。
・・・わかった。この名簿の事が事実なら君達に力を貸そう。
そう私が言うと彼らは顔を輝かせて歓声を上げた。
街の様子を見て聞き込めばそのへんの裏は取れるだろう。
「ありがとうございます! 我々は太守の目を欺く為に表向きはカバディ愛好会として集合しています」
表向きっつかそのものじゃねえか!!!
「メンバーはここにいる私を含めた8名です」
すくな!!! 太守の兵数は?
「4千人程度ですね」
多!!!! もう兵力差がどうこうとかいうレベルじゃねー!!!!
「皆!!我々の新しいカバディ仲m・・・・解放軍の同志が加わってくれたぞ!」
ひたすらに不安だ。
ていうかもうツッコミ疲れた。
ぐったりする私を尻目に、いつの間にかベルナデットはまた、ただの猫に戻っており棚の上でのん気に寝息を立てていたのだった。