第8話 船上の死闘-1


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暖かい日差しに心地よい潮風に・・・。
やー満たされますね。
やはり旅はこうでなくては。
甲板の手すりに両手を置いて大海原を眺めつつ、私はそんな事を考えていた。
国から出るのは数年ぶりだ。
年中森の緑を眺めて暮らしている身としては、海の青さが物珍しく心も弾む。
お忍びでの同行が「彼女ら」に気付かれはしないかと心配もあったが、その為にしっかりと私は変装してきている。
問題はないはずだ。うむ。
「・・・・・・・・・・・・こんな所で何していらっしゃるんですか・・・・・・・」
地獄の底から響いてくるような低く抑えた声がして、私は思わず伸び上がった。
スローモーションでゆっくりと振り向く。
思った通り、そこには私をじーっと睨み付けている魂樹の姿があった。
バレたか!いやそんなはずはない。
今日の私はアロハにサングラスだ。どう見てもナウなヤングの旅行者に見えるはず!!
は、ハロー。
陽気に挨拶などしてみる。
「ハローじゃありません!!!!」
ゴスッッ!!!!!
と鈍い音を立てて私の頭頂部に魂樹の鉄拳が炸裂した。

いたたた・・・頭の形変わっちゃってませんかね・・・・。
私は大きなコブが出来た頭をさすりつつ呻き声を上げた。
結局あっさりバレて私は魂樹に船室へ連れ込まれていた。
「まったく・・・ご自身の立場を何だと思っていらっしゃるんですか!!!」
怒られる。
まあまあ、落ち着いて下さい魂樹。実はこれには深いわけがあるんですよ。
「・・・どのような?」
暇だったのです。
再び私の頭部を彼女の鉄拳が捉えた。
「もう! ただでさえさっき飛んでっちゃったっきり帰って来ない団長の事で頭が痛いのに!!!」
だから私の頭も痛くしてくれたんですか君は。
自慢ではありませんが、私はさっきマチルダがペガサスで出た時に、あーこれはもう戻って来ないなとわかっていましたよ!
「だったら止めて下さればよかったのに!!!」
ドスッ!!と私の腹を拳が直撃する。
悶絶して船室の床をゴロゴロと転がる私。
「・・・遊んでる所悪いんだけどさ」
戸口から声がして、私と魂樹はそちらを見た。
いつの間にか扉が開いて、そこには壁に当てた右肘に寄り掛かるようにしてジュデッカが立っていた。
「遊んでいません! 大体貴方も船に乗ってから一度もミーティングに顔も出さないで・・・・」
言いかけた魂樹の台詞が止まる。
つい、と魂樹に歩み寄ったジュデッカがその細い綺麗な人差し指で魂樹の顎をくいっと軽く上げた。
そして吐息がかかるくらい顔を寄せて囁く。
「いいから落ち着いて、ちょっと外に注意してみな」
・・・・・!!・・・・・・。
そして気が付く。
違和感・・・。何かがおかしい。
先程まで大勢の旅行客の喧騒に包まれていた船が、いつの間にか異様な静けさに覆われていた。
「攻撃を受けてるよ。応戦するけど、いいよな?魂樹」
そう言ってジュデッカがニヤリと笑った。

私たちは3人で甲板に出た。
そして周囲の異様な光景に言葉を失う。
赤紫色の空が広がっている。そこには黒い太陽が浮かんでいた。
海もその赤紫色を映して不気味な色になっている。
甲板上には先程までと同じく大勢の旅行客がいた。
しかし、誰もが時間が静止してしまったかの様に同じ姿勢のまま動かない。
「ちょっと・・・これ。どういう事なんですか・・・」
魂樹が恐る恐る旅行客の1人に触れた。
するとその旅行客がガシャン、と音を立てて倒れる。
魂樹がキャッと悲鳴を上げた。
しゃがみ込んで倒れた旅行客を調べる。
・・・・蝋人形だ。
「こっちも全部お人形さんだ」
他の旅行客を調べていたジュデッカが言う。
「何よ、この悪趣味なの・・・」
魂樹が呻くように言う。
『おやおや、お気に召しませんでしたか? お嬢様がた』
唐突にその場に声が響いて、私たちは一斉にそちらを見た。

マストの上に2つの人影がある。
二人とも黒いスーツ姿だ。
1人は丸でオバケを模ったような白い覆面をかぶっており、もう1人は不健康そうな灰色の頭の痩せた男だった。
白覆面が芝居がかった仕草で大きく頭を下げる。
「お初にお目にかかります。エストニアの貴き方々」
機械音声のような独特の声音は、覆面の主が男なのか女なのかもわからなくしている。
「私めはファーレンクーンツ共和国銃士隊に名を連ねますJOKERと申す者でございます。そして彼は相棒のアビス能収」
アビスと紹介された男はこちらをチラリと一瞥しただけでつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ここは私めの作り出した『怪奇空間』の中で御座います。皆様には残念ですがこのまま島より引き返して頂きますよ」
「・・・・ハイハイ、自己紹介どうもな」
今度は銃士達が弾かれたように声のした方を見た。
自分達のいるマストよりも更に一段上のマスト上にジュデッカがいた。
「・・・・いつの間に!」
魂樹が叫ぶ。
ジュデッカはライフルを構えていた。魔術と弓を扱う事を身上とするエルフが忌み嫌う銃器。
「私の名刺は地獄へ届けておく」
ガーン!!と銃声が響き渡り、頭部に銃弾を受けたアビスがマスト上から落下した。
ドシャっと音を立てて甲板に落ちたアビスが血溜まりを作った。
ザッとそのすぐ脇にジュデッカが飛び降りてくる。
そして腰からリボルバーを抜くと倒れたアビスの頭部へ立て続けに3発撃ち込んだ。
周囲に火薬の匂いが満ちる。
アビスは2,3度ビクビクと大きく痙攣して、そして動かなくなった。
「おお、おお・・・何と言う事でしょう。我が同胞アビス能収よ」
大げさな仕草でJOKERが嘆く。
「・・・・殺し・・・ちゃったの・・・?」
やや青ざめた魂樹が尋ねる。
「そのつもりだったが。・・・なんか変だ、コイツ。魂樹、離れてろ。死んでない」
言いながらジュデッカも大きくバックステップでアビスから距離を取った。
やがてアビスの体がぶるっと一度大きく震えた。
「・・・・あ、あ”~・・・・・・」
呻き声を上げつつアビスがゆっくりと立ち上がる。
「・・・・あ”~・・・あた・・・頭は・・・やめろよな・・・。たまに『再生』の過程で記憶の混濁が起きちまうんだから・・・よぉ・・・・」
うぶっ、と頬を膨らませたアビスがベッと血反吐にまみれた何かを吐き出した。
それは弾丸だった。
ジュデッカの放った4発の弾丸が赤黒い血の塊と共に甲板に転がった。