第1話 空の王国-2

空に・・・大地が空に浮かんでいる・・・!?
ジュウベイと並んで絶句してしまう私。
古代魔法王国期にはそのような魔道の技も存在していたとは聞いている。
しかし現代もまだ空に陸地が浮かんでいる等とは聞いた事は無い。
後ろを振り返る。
陸地はどこまでも続いている。反対側の果てはちょっとここからではうかがい知る事はできない。
これだけの規模の陸地がシードラゴン島の上空にあれば、見上げれば見えるだろうし、島に影も落ちる。
誰も知らない気付かないという事はあり得ないはずだ・・・・。

「いやーぶったまげたわい・・・・。とりあえず何とかして戻る方法を探さなくてはのう」
ようやく落ち着きを取り戻したジュウベイが言う。
「なあに!来れたんだから戻れるだろう! 幸い全員ケガもないしな! がっはっはっは!!」
気を取り直せばジュウベイは楽天的だ。
まあ取り乱されるよりありがたい。
とりあえずはゲートだな。あれを調べてみる事にしよう。
我々があのゲートからここへ来たのは間違いないはずだ。
しかし、それから念入りにゲートを調べてみて得られた結論とは、どうやらこのゲートは朽ちてはいないが稼動もしていないらしい、という事であった。
少なくとも今はここから戻る事は無理そうだ。
丁度私がゲートを調べ終わるのと同時に、空からルクが戻ってきた。
上空から周囲を調べてくれていたのだ。
「草原はこの先で途切れています。柵の様な物がありました」
ふむ・・・・。このまま動かぬゲートの場所に留まってもしょうがない。
そこまで行ってみる事にしようか。
私たち三人は草原をしばらく歩いて柵の場所までやってきた。
なるほど、草原を長い柵が横断している。高さは私の胸のあたりまでの柵だ。
立て札もあるな。何々・・・・。

『ここより先「果て」 危険なので立ち入り禁止』

「果て」とは恐らく大地の境の事だろうな。
柵からしばらく歩くと草原は途切れ、土がむき出しの大地が続いていた。
「・・・お、道があるぞ!!」
前方を伺っていたジュウベイが言う。なるほど、どこからどこへと続いているのかはわからないが道があるな。
私たちが歩いてきた方角を背にしてちょうど左右へと伸びている。
どちらへ向かえばいいものかわからない我々は右へ進んで見る事にした。
それにしても、あの声は一体何だったのだろう・・・・。あの声の主が私たちをこの場所へ呼んだのだろうか・・・・。
「声?」
ルクが怪訝な顔をする。あの朽ちたゲートが発光した時に私を呼んだ女性の声。
どうやらあの声を耳にしたのは私だけだったらしい。まあ、私の名を呼んでいたしな・・・・。
「また女性ですか・・・・ウィリアム」
て、何でおっかない顔で私を睨んでいるのかな・・・・。
「がっはっはっは!! まぁルクよ、そうむくれるでない!! よいか、男にはなぁ、一たび外へ出れば七人の嫁がいると言われておってな・・・・」
間違ってる上にフォローになってねーよ!!!!!! むしろ逆効果だろうが!!!!!!!!
「七人!? ・・・・七人も!!!  ・・・・・・不誠実です!!!!!」
ワナワナと震えたルクシオンさん、ジュウベイの顔面に思い切り拳を入れた。
「ヱビス!!!!」
顔面中央にクレーターを作ったジュウベイがぶっ倒れた。・・・・いらん事言うからだ。
ジュウベイを殴り倒したルクが今度はキッと私を見た。
いかんなこれは私も昏倒コースか・・・・と、思ったらルクは私の手をとった。
「・・・今は、これで許してあげます」
私の手を引いてずんずん歩いて行くルク。後ろから見てもわかるくらい耳まで真っ赤だ。
私はと言えば女性と手を繋いで歩いた経験など無いので気恥ずかしい事この上無い。
「微笑ましいのう。がっはっはっは」
起き上がったジュウベイがそんな私たちの後姿を見て小声で言った。

しばらく歩くと、麦畑が広がり風車が見えてくる。
どうやら村があるようだ。
余計な騒ぎにならないように、状況がはっきりするまでは下界から来た事は伏せるようにと二人に言う。
「旅の人がこの村を通るなんて珍しいね! あんたたちも神都へ向かってるのかい?」
話しかけたおばさんは愛想良く相手をしてくれた。
「神都」・・・・・? よくわからないが適当に話を合わせておく事にする。
その通りだ、と肯く私におばさんはやっぱりねえ、と笑う。
と、ふいにおばさんは真顔になった。
「けどね、あんたたち神都へ向かうならこのまま進むより、ちょっと遠回りになっちまうけど迂回してメイヘンストの都を通った方がいいよ。この先のラーの都は今は色々物騒らしいからねぇ・・・・」
ふむ・・・・。

この村には宿屋の様な施設は無かったが、我々はある農家の好意で一晩納屋を借りる事になった。
そこで各自断片的に得た情報を統合してみる。
どうやら神都と呼ばれる街がこの周辺を統治する国家の首都であるらしい。
この村からその神都へ向かうためには途中にラーの都と呼ばれる大都市を通らなくてはならないのだが、そのラーの都はここ数年太守が圧政を布いており、色々と大変な状況にあるらしい。
我々が下界へと戻る方法を探る為にも大都市で情報を収集したい所ではあるが・・・。
「そのラーの都とやらは避けたほうが得策のようですね」
ルクの言葉にジュウベイと二人でうなずく。
右も左もわからない場所で厄介ごとに巻き込まれるわけにはいかない。
『・・・・それじゃ困るのよ。ウィリアム・バーンハルト』
ふいに女性の声がした。
「!! 何者!!!」
ルクが叫ぶ。その手に瞬時に魔槍グングニールが現れる。ジュウベイも脇に置いてあった自分の槍を掴む。
『そう警戒しなくても貴方たちに危害を加える気はないわ。落ち着きなさい、ルクシオン・ヴェルデライヒ。後、顔のデカい中年』
「何故拙者だけ名前で呼ばれん!!??」
・・・・この声は・・・・。
間違いない。ゲートで私を呼んだ声だ。
『私はここよ』
声のする場所・・・納屋の窓を見る。
窓から差し込む月光を背に、そこには首に赤いリボンを巻いた灰色の毛並みの一匹の猫がいた。
「・・・・ね、猫??」
ルクが目を丸くする。
猫はシュタッっと私たちの目の前に飛び降りた。
『こんな姿で失礼するわね、ウィリアム。直に顔を合わせてお話したいところだけど、私は今幽閉されているの。今貴方達の話題に出たラーの都でね』
むう、猫に乗り移るか何かしているのか・・・。
私をこの地に招いたのはあなたなのか?
『そうよ。強引な手段をとったことをまず謝罪しておくわ。・・・でも私にはもう手段を選んでいる余裕はなかったの』
幽閉されていると言ったな。では目的は・・・・。
『そうよ。私を解放して欲しいの。その為にあなたたちをこの浮遊大陸「プラネリューテ」へ招いたのよ』
浮遊大陸プラネリューテ・・・・。
あなたは・・・・一体何者だ?
『私の名前はベルナデット・・・ベルナデット・アトカーシア。後で騙したと思われたくないから最初に正直に言っておくけど、魔人よ。封印の八人の魔人の1人』
!!!??
八人の魔人の1人だと!?
『ええ、二つ名は幽閉の身で皮肉だけど「解き放つもの」』
そう言って猫は私を見て、ニャーオと一つ鳴き声を上げたのだった。


最終更新:2010年07月10日 17:12