第12話 邂逅と再開と-1


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魔人ゼロの眷属、破壊する巨影ガ・シアとの先頭の最中に本来の姿を取り戻した私だったが、その喜びも束の間一夜明け再び私の身体は少年となってしまっていた。
ようやく元に戻れたと言う喜びの後なだけに少なからず凹む。
連絡を受けてバルカンの家まで診察に来てくれたフェルテナージュは、一通り私の身体を診てくれた後で、心配はいらないと言った。
「しばらくは元に戻ったと思っても、こうしてまたふいに小さくなってしまう事があるでしょう。でもそれも徐々に回数は減り本来の姿でいる時間が長くなっていって、いずれは小さくなる事は無くなりますよ」
なるほど・・・そういうものなのか。
しばらくは伸びたり縮んだりを覚悟しなくてはな・・・。
ふーむ、とジュウベイが腕を組む。
「鼻摘んで水飲んでみたらどうだ?」
シャックリじゃねーぞ私の少年化。

そうとわかればもうあれこれと思い悩むのは止めよう。
私はそう考えて強引に自身の身体の事を頭から追い払った。
そしてふと庭に目をやるとマチルダが歩いていた。
先程までルクとトレーニングをしていたはずだ。終わった所なのだろう。彼女はタオルで汗を拭っている。
そして私に気付くと表情を輝かせて小走りに駆け寄って来た。
「ウィリアムく・・・さん」
苦笑する。先日まで少年だったのでその時の呼び方がまだ抜けきっていないのだ。
ルクはどうかな?と尋ねてみる事にする。
ふと、それまで笑顔だったマチルダから表情が消えた。
数瞬黙り込む。何と言おうか言葉を探している風だ。
「彼女は・・・・天才ですね」
マチルダの表情は真剣だった。
「延びしろがどれだけあるのか、私では見当もつきません。教えた事はすぐに120%こなしてみせるし。そこからさらに新しい物を編み出していく・・・そう遠くない未来、私より強くなってしまうと思います」
ちょっと、怖くもありますね、とマチルダは苦笑した。
「・・・・大事にしてあげてくださいね、彼女を」
ああ、と肯く。言われるまでもなく、ルクシオンは私の大事な家族の1人だ。
「あ!でも大事にしてあげて欲しいっていうのはあくまでも仲間としての事であって・・・決してそれ以上踏み込んだ話じゃないんです! それだとほら私も困りますし色々とえーと・・・」
? 急に会話が理解不能な域に達した。
何故だか突然真っ赤になって俯いた彼女は胸の前で両手の人差し指をつき合わせてモジモジしている。
「・・・とにかく今はまだ軽率な事はできません・・・祖国に連絡をとって、魂樹ちゃんに必要な事を全部引き継いで新しい四葉の人も決めてもらって・・・それで正式に引退した上でお側に改めて参りたいと思ってまして・・・その・・・」
もはや彼女が何を言っているのかはまったく私にはわからなかった。
しかし引継ぎや引退などと、やや不穏な単語が断片的に聞き取れた。
君がここにいるのは妖精王の命を受けての事なのだからそこまで気にする事も無いのでは? もし抵抗があるなら私からも良く道理を説いて王にご理解頂けるように口添えさせてもらうよ。
ぱあっとマチルダが目を輝かせる。
「本当ですか? 在職のままお側にいられるようにお力添え頂けるんですか?」
というか私の方がいてもらって戦力になってもらっているのに頭を下げる事に抵抗があるはずもない。

そんな我々のやり取りをやや離れた場所からアレイオンとバルカンが眺めていた。
「あれは天然なんですか?」
アレイオンがバルカンに尋ねる。
うむ、とバルカンが首を縦に振る。
「両人ともに真剣・・・・両人ともに天然よ」
「・・・うーむ・・・天然恐るべし・・・・」
アレイオンは何やら感じ入った様子で深く息を吐いた。
「しかし・・・」
口の中だけでバルカンが呟く。
「・・・ワシは思い違いをしているのではないか? ウィリアム・・・お主は・・・」
バルカンが私を見た。
「・・・『自分が幸せになってはいけないのだ』と無意識に思ってしまっているのではないか・・・?」

翌日の事である。
皇宮より私に使いの者が来た。
聞けば、まだ私が会っていない最後の神護天将、紅の将クバードが皇姫の婚約者であるアシュナーダを伴ってダナンの都より帰都したというのだ。
クバード将軍はダナンの太守との会談の為にダナン入りしていたらしい。
帰都した将軍は先日の私とガ・シアとの戦いの報告を受け、神護天将の筆頭・・・皇国の軍事の最高責任者として改めて感謝の意を表したいと使者を通じて私に連絡してきたのであった。
その様な大仰な話にされても些か困ってしまうが、無下にするわけにもいかない話だ。
なので私は使者の乗ってきた輿竜に同乗し、皇宮へとやってきた。
付き添いのアレイオンと一緒に。
皇宮の中を先日同様アレイオンの先導で歩く。
彼は先日同様、親切に丁寧に中を解説しながら案内してくれる。ほんと胸の事がなきゃ好青年である。
その彼がふと、赤い絨毯の敷かれた大階段の途中、踊り場に差し掛かった所で足を止めた。
「・・・これは、神皇様と皇后様を描いたものです」
見上げてアレイオンが言う。
踊り場には大きな肖像画がかかっていた。
精悍な感じの口髭の男性と、その隣に腰掛けた黒髪の美しい女性の肖像画だった。
これが・・・神皇ユーミルと、彼が5年前に亡くしたという最愛の奥方か・・・。

執務室と思われる部屋へと案内される。
「ようこそおいで下さいましたウィリアム先生。本来なら私が出向いてご挨拶するべき所、斯様な場所へお呼び立てしてしまうご無礼をまずお詫び申し上げます」
将軍クバードがそう言って深々と頭を下げた。予め説明は受けているのか、少年である私の姿にも特に何か感じた様子は窺えない。
とんでもない、と私は首を横に振る。
彼は人目で軍属である事が窺える精悍にして無骨、そして鋭敏な感じのする男だった。
右目には眼帯をしている。
ここへ来るまでにアレイオンから受けた彼に対する説明を頭の中で反芻する。
厳格な総司令官で皆に畏れられている男・・・が、自分に対しては他者に対して以上に厳しい男。だから、畏れられる以上に尊敬もされているのだという。
ガ・シアとの戦いとベルナデットの救出について、一頻り感謝の言葉を述べた後でクバードは傍らにいた青年を紹介した。
「アシュナーダ・ラータ・ルファードです。お目にかかれて光栄です。先生」
握手を交わした青年をそれとなく観察する。
彼が将来この巨大国家の長となる人物か・・・。
「実は外の世界よりいらした方と言葉を交わすのは初めてなのです。色々とご教授願えれば幸いに思います」
笑顔で言う。
驕った所は微塵も感じられず、礼儀正しいアシュナーダに私はここまで彼を評した人物が皆一様に褒めていたのもわかるなと思った。
和やかな雰囲気でアシュナーダと談笑していたら、突然乱暴に兵士が執務室へと飛び込んできた。
何事だとクバードが一喝する。
「・・・・そ、それが・・・・皇宮上部の幻視結界が何者かに破られようとしています・・・!!」
!!! ・・・・敵襲か!?
しかも浮遊大陸外部から・・・・?
椅子を鳴らしてクバードが立ち上がった。
「皇宮魔導師たちに召集をかけろ。アレイオンとカーラもだ」
敬礼して兵士が飛び出していく。

クバードたちと屋上へ出る。
既に何人もの皇宮魔導師たちが天へと両手をかざして必死に結界を補強していた。
空を見る。
飛空船が見えない結界に接して激しくプラズマを発生させている。
「・・・・なんという圧力!!」
「・・・ぞ、増援をッ!!!」
まずいぞ押し切られそうだ・・・!!
・・・しかし、見れば小型の飛空船が一機・・・大軍団が攻めてきたというわけでもなさそうだ。
だが明らかにあの船は「結界を破って内部へ進入する」という意思を持っている。
埒があかないと思ったのか・・・飛空船の上部のハッチが開いた。
そして誰かが顔を出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
瞬間、頭の中が真っ白になってしまった。
それはあまりにも見慣れた顔だった。
一ヵ月半前まで毎日一緒にいた顔だった。
「・・・・のォ、邪魔しないでよ!!! 私はウィルに会いに・・・・行くんだからあッッッ!!!!!!!」
ぎゃあああああああああああああちょっと!!!!
内心で絶叫しつつ、何か言いかけたが言葉は出てこなかった。
DDは両手を大きく振り上げ、そこに極大の魔力の渦を作り上げて結界へと叩き付けた。
ガシャアアアアアアアアアン!!!!!!
大空に金属質の破壊音が響き渡る。
軋みを上げていた結界はそれで破られ穿たれたのだった。