第7話 紅い記憶-1


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その日、私は昔の夢を見た。
まだ軍属だった頃の夢だ。
「自分と勝負してもらおうか、剣帝バーンハルト」
そう言って出てきたのは、自分と同じ剣士なのだろう軽装鎧に長剣を構えた壮年の男だった。構えに隙が無い。かなりの使い手である事がわかる。
「自分の名はシグルドだ。帝国の力の象徴であるお前を倒しこの国境紛争を終わらせる」
名前に聞き覚えがあった。稀代の剣士として14歳での王国御前試合での優勝等数々の伝説を持つ男だ。
「いざ参る!!」
神速の斬撃が来る。これは確かにうちの隊では私以外では相手は務まらないだろう。
私は愛刀の柄に手をかけた。
うらやましいな、これでお前はこの下らない世界から足を洗えるぞ。
私の一太刀はシグルドの右腕の肘から先を斬り飛ばした。
・・・・これからは家族の為に時間を使うといい。

・・・・・・・・・・・・・・・・。
目覚めが最悪だ。
やっと下らんしがらみから開放されて大好きな冒険の旅に出たというのに、よりによってあの頃の夢を見てしまうとは・・・・・・。
これもメガネとキュウリの乱闘を見たせいか。
どうせならあっちも夢であって欲しかった。
ちなみにサイカワはあの激しい戦いの地獄の後遺症(筋肉痛)で現在病院のベッドの上でうめいている。
朝の身だしなみを整えて宿を出る。まずは朝食をとって熱いコーヒーを飲んで落ち着くとしよう。
「アァーォ!!」
叫び声が聞こえる。誰だ朝っぱらから町の中で奇声をあげてる奴は。
見れば薬局の屋根の上でゲンジが騒いでいる。
「奴らがぁーっ!! 奴らがくるぞおおお!!! 手巻き寿司の大群がーっ!!!」
何だあいつ、前から壊れ気味だったが本格的にイッてしまったのか。
「ふぅ、まったく困ったものだよ」
見れば薬局の女主人シンクレアも屋根を見上げてため息をついていた。この町唯一の薬局を一人で切り盛りする眼鏡に白衣のクールビューティーだ。愛想は0。
私は何事なのかと彼女に尋ねてみた。
「今朝方ゲンジ翁がギックリ腰だと訪ねて来てね。辛そうだったのでその場で薬を調合したのさ」
ゲンジは屋根の上で飛び跳ねている。
「見ての通り、ギックリ腰は治した」
ギックリ腰だった方がマシじゃないんかあれ。
「女囚ものーっ!!女囚ものを持ってこいー!!」
オイ好みのアダルトのジャンルを叫んでるぞ!しかもマニアックだ!!
「女医ものでなくて一安心だな」
お前も素で受け答えしなくていい。どうするんだあれ。
「まあ考えているよ。これを見てもらおうか」
シンクレアが出してきたのは何だか苦悩してるように見える植物だった。
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「これはマンドラコリャドウシタコッタという植物でね。これを材料に薬を調合する。それで落ち着かせることができるはずだよ」
ふむ、だったら早くやってやればいいんじゃないのか、このままじゃ近所迷惑だし、ゲンジが社会復帰できなくなりそうだ。
「ところが話はそう簡単じゃない。調合するにはもう2,3株必要でね。今は在庫がもうないのさ。今回は私の責任だし、しょうがないので自腹を切って取ってきてもらう事にしたよ」
スフィーダの店に人を手配したらしい。
「そこで2つ目の問題さ。冒険者は手配したものの、彼らはこの草の生えている夢幻の峡谷は初めてらしくてね。あそこは初めての人間はまず迷う。それに・・・」
それにあそこには強力な幻獣「ゼフ」が出る。私も一度酷い目に遭っている。
そこでシンクレアは私を見てニヤリと笑った。嫌な予感しかしない笑いだ。
「先生はあそこは初めてじゃなかったね。一つ頼まれてくれないかな。そうすればこの先半年私の店の薬は3割引さ。悪い話じゃないだろう?」
私はため息をついた。またヘンな話に巻き込まれたぞ・・・・。
知り合いの危機ではあるし、断れる雰囲気ではなさそうだ。
まあ、道案内くらいならどうにかなるか・・・・。

「先生よろしくお願いします!下からの攻撃以外は任せて下さい!!」
出たなデカッ鼻!!! どうすんだこの依頼もう達成できる気がせんぞ!!!
待っていたのはカルタスだった。いきなりミッション難易度が跳ね上がった。
シンクレアの話ではもう一人いるはずだが・・・・。
その時一人の女性騎士が私の前に進み出てきた。
プラチナの鎧に美しいブロンドの髪、その凛とした雰囲気に一瞬私は言葉を失った。どう見ても冒険者の出で立ちでは無い。
「エリスリーデル・シャルンホルストです。詳しい経歴はここに。よろしくお願いします。サー・ウィリアム・バーンハルト」
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言って書類を手渡してくる。その名にどこか聞き覚えがあった。
確か・・・・・。
!! 今朝方あんな夢を見ていなければ思い出すのに時間がかかったかもしれない。しかし今はその記憶は余りにも生々しく鮮明だった。
書類に目を通す。ウィンザルフ共和国出身。聖騎士団を現在は休職中。
・・・間違いない。
彼女は何の感情も感じさせない目で私を見ている。
しかし紛れも無く彼女はシグルド・フォン・シャルンホルストの・・・・かつて私が利き腕を奪い歴史の表舞台から消し去った男の娘であった。