第26話 Friendship-2


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2,3日後か・・・。
激しい戦いになるだろうな。
その日、眠れない私は遅くまで書斎に明かりを灯して起きていた。
・・・確かに、1人を拉致して終わりに出来るなら全滅させて来いと言われるよりはマシなのだが。
今までは偶発的な戦闘かもしくは受身に回るしかなかった我々が初めて積極的に財団に攻撃を仕掛ける訳か。
そして相手は『ハイドラ』を始めとする財団の恐るべき超人達だ。
どうしても不安と恐怖はある。
自分の事であるのなら構わないが、自分の大事な家族や仲間達が傷付く事を考えると恐ろしくなる。
・・・眠れぬ夜はまだまだ長そうだ。
ふと、その時窓に何かがコツンと当たった。
窓から通りを見下ろすと誰かが私を見上げて手を振っている。
あれは・・・ヨギか。

「夜分遅くに申し訳ありません」
そう言われてヨギに連れてこられたのはオフィスのあるビルの屋上だった。
・・・む。
先客がいる。
ござを敷いてその上に酒瓶やら食べ物やらを並べて陣取っている面々の顔ぶれを見る。
ELHにラゴールにジュピターに伯爵にジュウベイにシイタケマンだ。
「おお、来たわい。さあウィリアム座れ座れ」
ジュウベイに手招きされて腰を下ろす。
こんな夜中に酒盛りか。
「大きな戦の前故、我ら共に杯を酌み交わし結束を固めようという話になりましてな」
ELHにグラスを渡され、ジュピターに酌してもらう。
・・・っとっとこぼれる。
「さあ先生、トンカツもありますから」
ヨギが皿を差し出してきた。
ってか何でこの夜中にトンカツ。
「沢山ありますからね」
・・・多!! 本当にトンカツ多!!!!
大皿にトンカツが山になっとる。
「はっはっは、そう言われると思いましてこっちにはちゃんと・・・」
よかった。こんな油っこい物を夜中にドカ食いできん。
「チキンカツとビーフカツもあるんです」
何でだよ!!!!!!!
何がお前をそこまでカツに駆り立てるんだよ!!!!!!!!
伯爵がグラスを持ち上げる。
「よし、諸君乾杯しようではないか」
「うむ、我らの友情と勝利に」
ジュウベイが言うと、伯爵が、ふーむとうつむいた。
「それだけだと当たり前過ぎてつまらんな。各自好きなものを付け足そう。・・・では我らの友情と勝利と・・・」
「褌に」
「桜と満月に」
「部屋とワイシャツと私に」
「トンカツと荒野に吹く風に」
「誇りと信念に」
「麦の穂と誓いに」
「いいえケフィアです」
なんか滅茶苦茶言ってる奴がいるなぁ・・・。
最後は私か・・・。
私は・・・そうだな。
・・・最愛の6人の家族に。
重ね合わせたグラスが夜空に澄んだ音色を響かせた。

翌日、見事に二日酔いと胃もたれのダブルパンチで私は朝から酷い状態だった。
やっぱりトンカツは深夜に食べるものじゃないな・・・。
遅めの朝食を軽いもので済ませて、私はふと窓から通りを見下ろした。
・・・む。
ノワールに客が入っている?
バカなスレイダーはまだしばらく病院から出てこれまい。
シトリンが1人で店を開けたのか?
気になった私はノワールへ行ってみた。
カランカランとドアベルを鳴らして店内に入る私を出迎えたのは「らっしゃい!!」という威勢のいい太い声だ。
「・・・ん? 何だお前か」
カウンターにいる黒衣の大男が私を見てつまらなそうに鼻を鳴らした。
・・・お前何でここに・・・。
カウンターにいたのはレイガルドだ。
しかしエプロン姿は似合わんなぁこいつ・・・。
「何でもなにもあるか。この店は帝国で金出してんだぞ。ヒゲがくたばったからって閉めっぱなしにされててたまるかよ」
そんな事で国家元首が来るなよ。
働いてる他の店員は帝国軍の人か・・・。
その時、お客から声がかかった。
「すいませーん、ブルマンを」
「あー、すまん!! よくわからん!! 玉露で我慢してくれ!!」
レイガルドが大声で返事する。
他の女性客からも注文が入る。
「チョコレートパフェをくださーい」
「悪い在庫切れだ! 栗ぜんざいで頼む!!」
・・・もう違う店と化してるな。



銃士隊のアンカーでの本部。
そのミーティングルームに銃士達が集合している。
彼らは全員エリックから手渡された資料を見ていた。
「・・・以上の理由で、数日中に財団とウィリアム氏側とで本格的な交戦があると推測されます」
エリックが一堂を見回して言う。
「黙って見過ごす手はねぇな」
「へっへー、漁夫の利漁夫の利」
カミュとルノーが不敵に笑う。
そうですね、とエリックが眼鏡の位置を直す。
「財団とウィリアム氏が激突する隙をついて、我らも博士の身柄の奪取を狙います。財団の動きを封じる事のみならず、博士のもたらす情報は我々にとっては非常に有益なものとなるでしょうから」
ルノーがカミュをじろりと睨んだ。
「ってことだお前わかってんだろうな。今回はやる事間違うんじゃねーぞ」
「誰に言ってんだ当たり前だろうが」
フン、とカミュが煙草を燻らす。
「お前そう言っといてこの前も結局ノコノコ出てってボコられて来たろうが!」
「・・・そんな昔の事は忘れたぜ」
フッと笑うカミュの頭にルノーの投げたペットボトルがボコンとぶつかった。
「ルノーの言う通りですよ、リーダー。我々は今回は可能な限り交戦は避けていきます。恐らく現地に集うのは双方精鋭揃いでしょうから戦えばこちらも相応の被害を覚悟しなければならず作戦全体の進行にも大きく支障を出しかねません」
その時、それまで無言だったシグナルがぽつりと呟いた。
「・・・天河悠陽が来ているのか・・・」
その呟きをエリックの耳は拾っていた。
「協会の天河会長がどうしました?」
「いや・・・彼女には少し聞きたいことがある。それだけだ・・・」
それきりシグナルは黙って、エリックもそれ以上を特に聞こうとはしなかった。



エリスがジャスミンにエサをやりに行くのだというので、散歩がてら一緒に行く事にした。
リヤカーに積んだ餌用の食草がジャスミンの食事だ。
・・・草食なんだな。
竜と言っても見た目通りに羊に近いのかもしれん。
やがて町外れの草原に横たわるジャスミンの巨体が見えてくる。
・・・誰かいるな。
珍しがって見物に来たか?
老人だ。
白い東洋風の衣装の獣人の老人がジャスミンのすぐ側に立っていた。
「おお、ジャスミン、食事が来たようじゃぞ」
ほっほっほ、と老人が笑う。
ジャスミンの名を知っているという事は・・・。
協会の方か。
「如何にも」
と老人が肯く。
「仁舟と呼ばれとるよ。つまらん老いぼれの医者じゃて。御主らの事は聞いておる。ウィリアム先生にエリスリーデルお嬢さんじゃな」
ジンシュウと名乗った老人はそう言ってまたほっほ、と笑い声を上げた。
エリスが抱えた食草をドサッと下ろすとジャスミンがもしゃもしゃと食べ始める。
餌をやるエリスは楽しそうだ。
でろーん3匹飼ってるし、基本動物の世話は好きなのかもしれん。
なんとなく2人になった私は隣の老人に話しかける。
仁舟翁は会長と一緒にこちらに?
うむ、と仁舟老人が肯く。
「左様。じゃが姫御が町に着くなり厄介な拾い物をしてのぉ。お陰でワシぁそっちにかかり切りじゃて」
・・・厄介な拾い物?
悠陽が何か?
まあそれを聞いて良いものやらと思案していた所に、当の悠陽がやってきた。
「チャオ。先生もこっちだったんだ。・・・で、老師どう?アイツ。こんなトコで油売ってんだから大丈夫だったって事よね」
「軽く言ってくれるわい。ワシがどんだけ苦労したと思っとるんじゃ。・・・まぁ確かに峠は越えたがの。とりあえず命の心配はもうなかろうて」
やれやれと仁舟老人が肩をすくめる。
「あっはっは、わかってるわかってる。・・・ちゃーんと考えてるからねー、ホラ」
悠陽はそう言うと酒瓶を取り出して見せた。
途端に老人は顔を輝かせると目にも止まらぬ早業でその酒瓶を悠陽の手からひったくった。
「何じゃ何じゃ人が悪いぞい姫御! 敬老精神は素直に表に出すもんじゃよ」
酒瓶を開けると一気に呷る老人。
「・・・かーっ、たまらんぞい」
「いいお酒なんだからもうちょっと味わって飲みなさいよねー」
両手を腰に当てた悠陽が口を尖らせる。
「味わっとる味わっとる!! ・・・しかし姫御も物好きじゃのう。ありゃあ財団じゃろ? 拾って治療してしもうたが良かったのかの」
そうね・・・と悠陽がちょっと遠い目をする。
「でも人の縁てそういうものだし、私があの場に居合わせたって事はきっとそういう意味だったんじゃないのかにゃー」
にゃーなのか。
「ま、どっちにしろありゃ当分動けやせんよ。今回の作戦には支障はなかろうて」
「そうねー、老師にもいつまでもドクターさせとく訳にはいかないしね。今回はそっちの用で来て貰ったんじゃないから」
そう言うと悠陽は仁舟老人を見て不敵に微笑んだ。
「・・・期待してるわよ三聖『天蓬元帥』」