第3話 少年の冒険-1


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「流石にこの事態は想定していなかったわ」
アジトへと逃げ帰ってきた私を、しげしげと眺めてベルナデットは嘆息した。
なんか猫にため息つかれるのってシュールだ。
うう、面目ない・・・・。
頼もしい助っ人になるはずが、一転してお荷物にジョブチェンジしてしまった。
力になるとか大見得切ったばかりなのにみっともない事この上ない。
すると、それまで黙って状況を見守っていたロイドが、そこでおもむろに口を開いた。
「気にする事はありませんよ、ウィリアム先生。カバディだってその位の歳から始めた方が上達も早いと思います」
お前ほんとカバディの事ばっかしな! 他の事どうでもいいのな!!
そこへハンセンが服を持ってきてくれた。
「倅の服ですが我慢してください! サイズはちょうどいいと思います!」
お手数かけますね・・・。てゆかハンセンお子さんいたのな。
ぶかぶかの服のままでは落ち着かない。ちょっと席を外して奥で着替えてくる事にする。
話し合いの声を聞きながら服に袖を通す。
「しっかし困ったのう。ベルナデットよ、神都とやらにお主の味方になる者はおらんのか? 何代も皇家を支えて来たのだろう?」
ジュウベイの声が聞こえる。
「勿論いるわ。だけど彼らに連絡を取るのは最後の手段よ」
何故ですか?とルクが聞く。
「敵対者が誰なのか不鮮明だからよ、ルクシオン。私を幽閉している太守ナバールは、はっきり言って小物よ。私を閉じ込めるとか自分で考えて実行できるような器の人物じゃない。神都で糸を引いてる奴がいるはずなのよ。彼らに連絡を取って彼らが私の救出に動けば、それは取りも直さず『私が何らかの方法で外部と連絡を取っている』という事実を、未だに正体のわからない敵対者に晒してしまう事になるわ」
む、とルクが言葉に詰まる。
「そうなればどうなると思う? 結界を強化されるか、最悪幽閉している私の命を奪おうとするか・・・・。いずれにせよ状況はかなり悪い方へと傾く事になるわ。神都にある魔術的システムの多くは私の手によるもので、私しか設定をいじる事ができない。今の所はそれがあるから私は生かされているけど、追い詰められた彼らがどんな手に出るかはわからない」
なるほど、そういう事情で幽閉されていたのか・・・。
そこへ着替え終わった私が戻る。
「あら、似合うじゃない」
ベルナデットが褒めてくれる。喜んでいいものか微妙なのだが一応礼を言う。
「~~~~~っ!」
何故かルクは真っ赤になっていた。
どうした?
「・・・・あ、有りです!有りだと思います!  !!!・・・いえ!! そうではなくて!! 私はそういう趣向な訳ではありません!ウィリアム!!」
なんか随分動揺してるな・・・・。
同行した私がこんな有様になって責任を感じているのだろうか。
ジュウベイがうーむ、と唸って腕を組んだ。
「ベルナデットを救出して、先生にも元に戻ってもらわなくてはのう。どちらも鍵を握るのは・・・・」
妖術師ヨアキム・・・・。
一同がうなずく。
そこへ・・・・。
『お呼びになられましたかな?』
しわがれた不気味な声が響き渡った。

!!!!
ガタッっと椅子を鳴らして一同が立ち上がる。
そして各人武器を手に取った。
・・・・どこだ・・・・!?
今の声は確かにヨアキムの声だった。しかし姿は見えない。
『ンフフフフフ、どこを見ているのです。わたくしはここですよ』
そして私の影が盛り上がり、ずるりと何かが這い出るようにその場に立ち上がる。
黒いローブに身を包んだ青白い顔の痩せた男・・・・。
ヨアキム!!
ヨアキムは素早く私の腕を取り、後ろ手に捻じり上げた。
「おっと、皆さん大人しくして頂きましょうか?」
う、と皆の動きが止まる。
くそ・・・・それほど強い力ではないのだが、子供の身では振り解けない!!
上手くまいたと思っていたが・・・みすみすここまで奴を連れてきてしまったか・・・!
「ネズミどもの巣がこんな所にあるとはねぇ」
ギリッと腕を掴んでいる奴の手に力が入る。
痛みに私は僅かに呻き声を上げた。
「さあ、全員武器を捨てて大人しくして頂きましょうか。城へ連行して差し上げますよ。ンフフフフフ」
「・・・・・・その人を放せ・・・・・・・・」
ぬ、とヨアキムがルクを見る。
ルクの両目が赤く輝いている。
「その人を放せッッ!!!! ヨアキム!!!!!!」
ゴウ、と凄まじいエネルギーがルクから放たれた。
テーブルや椅子が吹き飛んでロイドとハンセンが尻餅をつく。
「・・・・ぬうあ!! そっ、その瞳は!? 皇家の連中と同じドラゴンアイだと!?」
私を掴んだまま、ヨアキムが怯んで後ずさった。
「竜眼相手ではわたくしの術も分が悪い・・・・この場は失礼させて頂きますよ!!」
!? 何だ!!!
ヨアキムに掴まれたまま、私の身体がずぶずぶと影に沈んでいく。
「・・・ウィリアム!!」
ルクの叫び声を聞きながら、私は真っ暗な闇の中へと飲み込まれた。

・・・・・・・・・・。
「起きなさい。ウィリアム・バーンハルト」
ガッ、と脇腹に衝撃を感じて私は目を覚ました。
う、どこだ・・・ここは・・・・。
私は縛られて絨毯の上に転がされていた。
今の衝撃はどうやらヨアキムにつま先で小突かれたものらしい。
周りを見回す。
どうやらそこは謁見の間のような場所らしい。
衛兵達が規則正しく並んで立っている。
玉座には不健康そうに淀んだ目をした小太りの男がいた。
・・・・この男が太守ナバールか・・・・。
その脇にはつまらなそうに欠伸をしているゴルゴダの姿もある。
「さあバーンハルト、色々と喋って頂きましょうか。お前達がどこから来たのか、誰の命令で動いているのか、あの竜眼の小娘は何者なのか・・・・全てをね」
私を見下ろして薄笑いを浮かべるヨアキムの瞳が冷たく光った。
・・・・何も話すことはない。
その私の一言にナバールが気色ばむ。
「な、生意気なガキが!! ヨアキム!傷めつけてしまえいッ!!」
ガキにしたのはお前らだろう・・・と言い掛けた私の台詞が激痛で途絶えた。
ヨアキムが手にした鞭で私の背を激しく打ったのだ。
痛みと衝撃に目が眩む。
「これ以上痛い思いをしたくないのでしたら、大人しく喋った方がいいですよ」
ヨアキムの脅しに、私は笑って見せた。
私は軍の暗部にいた頃にあらゆる拷問や薬に耐える訓練を受けてきている。この身体ではそれがどこまでもつかわからないが、その時は口を割るより先に命を落とすような気がするので問題は無い(死にたいわけではないが)
くあ、とまた欠伸をしながらゴルゴダがフラっと謁見の間から出て行く。
「ゴルゴダ、どこへ行くのだ」
ナバールがそれを留める。
「興味ねぇんで・・・・戻って呑んでから寝ますよ。・・・・惜しかったぜバーンハルト、お前とはもっとガチで殺り合ってみたかったもんだ」
最後に私を一瞥してそう言うと、ゴルゴダは去っていった。

それから小一時間程私は痛められ続け、何度も意識を失っては水をかけられて覚醒する事を繰り返した。
しかし私は皮肉以外の台詞は何も喋らなかった。
「・・・・強情ですね!命が惜しくないんですか?」
流石にヨアキムの息も上がっている。
「・・・・もうよい」
そこにナバールの静止が入った。
「喋りたくないのなら、黙ったまま死ぬがいい。鰐の顎から捨てよ」
ワニノアギト・・・・・?
痛みで朦朧としている私には言葉の意味がよく理解できなかった。
私は2人の衛兵に抱えられ、地下へと連れていかれた。
鉄の扉を開くと、そこは広い部屋になっていた。
部屋の中央には柵で囲まれた巨大な丸い穴が開いており、ゴウゴウと風が巻いていた。
「悪く思うなよぉ。この穴はな、大陸をくり貫いて底へ続いてるんだ。ここに捨てられたらお空の上からまっ逆さまって事だ」
「まー痛めつけられて殺されるよりマシだ。死んだって気付かないうちにあの世に行けるさ」
私を運んできた兵士達が言う。
そして私は抱え上げられると、為す術も無く暗い穴へと投じられたのだった。