第16話 戦士達の厨房-2


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翌日朝早くから勇吹達は食材の調達に出発した。
メンバーは勇吹の他、キリエッタにコトハにシンラに、シンラが連れて来た「荷物持ち」が2名である。
「・・・何で、ムーミンがついてきてるんだい」
大きなカゴを背負って付いてくる2匹のムーミンを見てキリエッタが言う。
「魂樹が、力持ちだから連れて行きなさいって」
シンラがそう返事をする。
「あー、最近なんか先生んトコに居候してるっていう、ムーミン使いのエルフのお嬢ちゃんね・・・」
正しくはペガサスナイトであってムーミン使いでは無いのだが、シンラはあえて訂正はしなかった。
スナフキンを倒した魂樹はムーミンに崇拝されており、そのお陰でウィリアムのオフィスには絶えずムーミンの出入りがある。
最近はオフィス表の清掃までムーミンがやっている。
町の者達も最初は何事かと覗きに来ていたものの、数日もすればすっかり慣れてしまった。
アンカーの住民は大概の事は動じずに受け入れてしまう。

歩きながらガサガサと勇吹のメモを広げるキリエッタ。
(ワカメにコーンに、か。鼻息荒く出発した割には平和な食材だね・・・)
メモを見てキリエッタがそう思った。
「大怪我しないでよ」
勇吹の台詞がやや気にはなったが・・・。

「いかんて!あの入り江には近づいちゃなんねぇだ!!」
道を尋ねた漁師が必死に引き止めるのも聞かず、一行は最初の目的地へと到着した。
「さっきのおじさん、スッゴイ止めてたね」
コトハが首をかしげて言う。
「怯えてた」
シンラがうなずく。
「・・・それにこの看板さ」
入り江の周囲を見渡したキリエッタが眉を顰めた。
DENGERの文字が躍っている髑髏のマークの看板が沢山ある。
そもそもここに来る途中、有刺鉄線の巻いてある柵を乗り越えて来ているのだ。
でも勇吹にそんな事を気にした様子は無い。
「よーし! この『怨みの入り江』でワカメを採集するわよ!」
「嫌な名前だねぇ・・・」
うへ、という表情を浮かべてキリエッタが海面を覗き込んだ。
「・・・で、どうすんだい? 潜って採ってくんのかい?」
「あ、ちょっと、不用意に海面に顔出さないほうが・・・」
勇吹がそうキリエッタに注意したその時、海面からいくつもの鋭い水切り音がした。
バシュッ!! と海面を裂いて何かがキリエッタの首に、腕に、腰に無数に巻き付く。
「なぁっ!!!! ちょっと!!!! 何さこれ!!!!!」
キリエッタが絶叫して必死に巻き付いた「何か」を振り解こうと足掻いた。
巻き付いてきた何かは、よく見れば無数のワカメだった。
「ワカメ!! ワカメが!!!! ヌルヌルしてるよこれ!!!!」
ズズッ、とキリエッタが海へと数cm引き摺られる。
(・・・引きずり込むつもりかい!!!!!!)
ゾッとしたキリエッタが青ざめた。
ワカメは恐ろしく強靭で、引き千切る事も振り解く事もできない。
ズルズルと海面へ向かって少しずつキリエッタは引き摺られる。
物凄い力である。
・・・オマエモ、ウミノソコヘ、コイ・・・
「ちょっとワカメ何か言ってるよ!!!! 助けておくれアンタたち・・・って、何退避してんのさ!!!!!」
見れば皆はかなり離れた場所へ逃れていた。
ムーミンまで一緒に避難している。
「キリエッタ! それが目的の食材、『道連れワカメ』よ!! がんばって採取して!!!」
勇吹が叫ぶ。
「できるかぁ!!! ちょっといいから手を貸しなって!!! いや貸して下さいお願いしますから!!!!!」
入り江にキリエッタの絶叫が響き渡った。

小一時間の後。
入り江にはグッタリしたキリエッタがゼイゼイと荒い息を吐きながら座り込んでいた。
結局、ワカメは全員で壮絶な綱引きを演じた結果、数本採取する事に成功した。
力は拮抗しており、非常に白熱した戦いだった。
中でも負ければ海の底行き決定のキリエッタは必死だった。
「・・・ワカメ、コワイネ」
「コワイネー」
ムーミン達が顔を見合わせてそんな事を言っていた。
「手強いのは当然よ。道連れワカメはAランク生物だもの」
両手を腰に当てた勇吹が言う。
Aランクとは冒険者協会の定めた生物の危険度ランクの事であり、Aランク生物とは通常LV60~80の戦士がPTで相対するのが妥当とされるランクだ。
「さー、のんびりしてる暇は無いわ! 次はコーンの採集に向かうわよ!!」
ヘロヘロと座り込んだキリエッタが右手を上げた。
「・・・何よ?」
「・・・まず初めに、詳細の説明を・・・願います・・・」
ええと、と勇吹が手にした資料を読み上げる。
「弾丸モロコシ・・・マシンガンコーンとも呼ばれているわね。近付くものに敏感に反応して、その名の通りにマシンガンみたいに粒を打ち出してくるの。その威力は1発でプレートメイルをひしゃげさせる威力で・・・」
パタリ、と上がっていたキリエッタの右手が落ちた。

そして夕暮れ。
弾丸モロコシの群生地から勇吹たちは帰還した。
全員傷だらけである。
「・・・トウモロコシ、コワイネ」
「コワイネー」
ムーミン達がそんな事を言い合っていた。
「トウモロコシ相手に『黄金瞳』を開放する事になるなんて思わなかった」
シンラがポツリと呟いた。
「魔術耐性も高かったねー。ボクの仙術もあんまり効かなかった」
そう言うコトハも体のあちこちに包帯や絆創膏が見える。
うーん、と勇吹は難しい顔をしている。
「何だい勇吹、量が不服なのかい?」
ムーミン達の背負っている籠を見てキリエッタが言う。
1つはワカメで、もう1つはコーンで満載だ。
「量は大体想定してたくらいだから文句は無いわ。でも予定してた半分しか回れなかったから、残りは明日ね!!」
「ま、まだあんのかい・・・」
キリエッタの肩がズルリと下がった。
そんな夕暮れの町を歩く一行に、
「もし、そこな方々」
と、女性の声がかかった。

「・・・アタシらかい?」
キリエッタが、一同が声の主を見る。
(・・・エルフか)
女性の尖った長い耳を見て、キリエッタがそう思う。
長身長髪の涼しげな美貌のエルフだった。軽装鎧にマント姿で腰からレイピアを下げており、胸には首にピンクのリボンを巻いた子豚を抱いている。
「突然御呼び立てして申し訳ありません。少々道をお尋ねしたい・・・」
言葉の途中でエルフの女性はふいに黙り込んでうつむく。
「・・・?」
コトハがその顔を覗き込んだ。
「・・・ぐう」
「・・・寝てるよ・・・」
振り向いたコトハが苦笑する。
そこでハッと女性は目を覚ました。
「む、失礼しました。少々道をお尋ねしたいと思いまして。皆さんは『ウィリアム何でも相談所』のある建物の場所をご存知でしょうか?」
言われて一同顔を見合わせる。
そしてシンラが前へ出ると
「私がそこの職員だけど・・・」
と言った。
するとそれを聞いた女性が顔を輝かせる。
「おお! それは願っても無い。同僚が今お宅にお世話になっているというのでこれからお伺いするところ・・・」
またうつむいて黙り込む女性。
「・・・ぐう」
また立ったままで寝ていた。
ぷう、と鼻チョウチンまで出している。
「・・・ほっといて帰ろうか・・・」
そうキリエッタが言った時、鼻チョウチンがぱちんと割れた。
「・・・ハッ、これは失礼しました。私はエストニアから参りました、天馬騎士団のパルテリースと申します。そしてこの子は愛馬(?)のアントワネットです」
パルテリースと名乗った女性は、そう言って胸に抱えた子豚(?)をちょこんと皆の前に持ち上げた。
子豚は一同の顔をつぶらな瞳で眺めると
「ぷぎー」
と一声鳴いたのだった。