第19話 大家さんの憂鬱-3


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予想もしなかった事態になってしまった。
シンクレア、君は知らないだろうがその男はかつて世界を震撼させた魔人なのだが・・・・。
「どういう意味だ?そもそもおめぇは何者なんだよ」
グライマーは眉をひそめている。当然だが話の展開についていけないのだろう。
「私はシンクレア、この町で薬局を経営しているものだよ。ミスター、えーと・・・」
「グライマーだ」
互いに自己紹介を済ませる2人。
「そうか、ではグライマー。改めて君にお願いしよう。1日私に雇われて欲しい」
「あん?いきなりなんだっつんだ冗談じゃねえぞ。人間ごときが俺をアゴで使うつもりか?他を当たりやがれ!」
ギロリとシンクレアを睨みつけて凄む。
しかしシンクレアは涼しい顔をしている。しかしこの人も大概度胸あるよな・・・・。
「まあ話も聞かずにそう言うものではないよ。報酬も充分なものを用意するつもりだが?」
「ケッ! バカが俺が金で動くとでも思ってやがんのか!」
鼻で笑うグライマー。
「別に札束積むとは言っていないさ。見たところ君の腰のキーチェーンに付いているのはぱんだ庵の限定ストラップだね?それを入手しているとは中々のマニアと見たよ。ではそんな君でもこれは持っているかな?」
そう言ってシンクレアは胸のポケットからパンダのストラップを取り出してグライマーの目の前にぶら下げて見せた。
「・・・!!!!!!・・・・そっ、それはッッッッ!!!!!!」
グライマーの目が見開かれた。そしてワナワナと震えている。
「本店限定のストラップ!!!! しかもスペシャルプレミアムバージョンだとう!!!!??」
あー・・・・大陸の本店の限定品か・・・・それじゃ島から出れないグライマーは入手できないな・・・・。
「その通りさ。私の仕事を請け負ってくれたら、このストラップを君に進呈しようじゃないか。今ではオークションでも滅多に入手できない超レア品だよ? さあどうする?」
ぬ・・・ぐ・・・とグライマーが黙り込んだ。
恐らくプライドとか色々な物があって葛藤しているのだろう。
しかし、結局は・・・・。
「・・・・・話してみやがれ」
パンダが勝ったのだった。

そして見合いの日がやってきた。
幸いにも隔離された空間でやるわけではないそうなので、私もこっそりと現場である、さる高級レストランに客として陣取っていた。
既に事態は私の手を離れているのだが、それでも心配でただ待っていることはできん・・・・。
組み合わせが混沌としすぎていて既に流れを予測する事がまったくできない。私はせめて人死にが出るような事態にはなりませんように、と祈るしかなかった。
折角の高級料理も心配すぎて全然味がわからん・・・・。
するとそこへシンクレアとグライマーが連れ立って入店してきた。
流石に場所が場所だけあって二人とも正装をしている。
それがまた、妙に両方似合っていて絵になっていた。
そしてやや遅れて、彼女の両親と見合い相手がやってきた。
まず店内に入って来たのは銀色の体毛に覆われた狼の獣人・・・・・って、デカい!!!! 熊の獣人よりデカいぞ!!!!
あれが噂の狼牙将ダイロスか・・・・何という威圧感だ・・・・。
こりゃ下手な人選しなくてよかったなぁ・・・・カルタスあたりにやらせてたら気絶して終了していたかもしれん。
続いて入って来た女性は恐らく母君なのだろう。優しそうな面持ちの人間の女性だった。
そして最後に店内に入って来た男が見合い相手のエリック・シュタイナーか・・・。写真の通りのブロンドの美男子。やはり実物を見ても一部の隙も無い大人の男である。
全員が着席する。互いに自己紹介しているようだ。
意識を集中して聞き耳を立てる。
「・・・・それでシンクレアよ。その男が今お前が交際している相手だとそう言うのだな?」
ダイロスが低くて良く通る声で言った。
「そうです父上様。断る口実と思われたくありませんでしたので、こうして実際顔を合わせてご挨拶する事が誠意を示す事になるかと」
ふうむ、とダイロスがエリックと視線を交差させた。
「グライマーさんはどのようなお仕事をしている方なのでしょう」
落ち着いた声でエリックが問う。
「んえ!?」
急に話を振られたグライマーが間抜けな声を出した。そしてチラチラとシンクレアを見る。
その視線は『おいこれどうすんだ!俺は何て言やいいんだ!!』と語っていた。
・・・・・まさか、この2人事前の口裏あわせを何もしていないのか!? なんという無謀な・・・・。
シンクレアはしれっと紅茶を飲んでいた。
助け舟は来ない、とグライマーも観念したらしい。え、えーとですな、と視線を泳がせながら口を開いた。
「普段はー・・・・仕事はーえーっとだな・・・・その、そう! 脱穀を少々!!」
農夫かよ!!!!
しかも脱穀限定かよ!!!!!
思わず内心で突っ込んでしまった。しかも奴の「ちょっと俺の答え上手くねえ?」みたいな妙に自慢げな顔が腹立つ!!!
続いて彼女の母君が「ご趣味は?」と尋ねる。再び言葉に詰まるグライマー。
「し、趣味はー・・・・・・そ、そう!脱稿だ!!」
作家かよ!!!
趣味が脱稿って何だよ!!!!
韻を踏むなよ「だっこ」で始まる言葉に何こだわってんだよ!!!!!!
思わず力を込めて握ってしまった。私の手の中でフォークはくの字になっていた。
せめて逆にならんのか・・・・いや趣味が脱穀ってのもダメか・・・・。
何で関係ない私がここまでハラハラしないといけないんだ。やっぱ来るんじゃなかった。
むむぅ・・・とダイロスが腕を組んで唸った。
「どうしても、この男がいいのだな?」
ええ、とシンクレアがうなずく。
「私は強い男が好きなんです父上様。彼はとても強い。父上様よりね。彼以外の男は考えられません」
あらあら、と母君が微笑んだ。
「・・・・・このワシよりも強いだと?」
「ああ、俺は強いぜ!とびっきりな!!!」
ようやく得意なジャンルの話になった、とばかりにグライマーが拳をぐっと握って見せる。
「おもしろい!!!ならばワシと勝負だ!!!ワシに勝てればこの話認めてやろう!!!!」
ガタッと椅子を鳴らしてグワッとダイロスが立ち上がった。
「・・・・お待ち下さい。そういう話であれば私も黙って見ているわけにはいきませんね」
エリックの瞳が鋭い光を放った。
「私は大統領閣下よりのお話でこの場に参上しています。恋敵がいたというのでおめおめと逃げ帰ったというのでは国へ戻って閣下に合わせる顔がない。自身が納得できない限りは敗北を認めるわけにはいきません」
ぬう、流石に厳しい政治の世界で生きるエリート。穏やかな風貌の下には熱く激しい魂を秘めているようだ。
まさかこの勝負に参戦してくるとは・・・・。
「砂浜がいいな!あそこならいくらやっても邪魔は入らねえ!!」
「よかろう!!最後まで立っていた者が勝者よ!!」
「フッ、いいでしょう」
3人は連れ立って店から出て行ってしまった。
でも内心ツッコミ通しで疲れていた私は流石にそれを追う元気はもうなかった・・・。

そして一夜が明けて、結果が気になった私は1階へと降りてきた。
カウンターには普段の通りの白衣の彼女がいた。
やあ、と私に気付いた彼女が手を上げて挨拶してくる。
結果は?と尋ねる私にシンクレアはカウンターの奥の部屋を親指でくいくいと指指した。
ん? 覗き込んでみる。
っと、うあ酒臭い!!!
居間には男三人が青痣だらけになって大の字でぐーぐー寝ていた。酔い潰れているようだ。
結局勝者は?
さてね、と彼女は肩をすくめる。
「3人ともその事は何も言わない。『誰でもない』というやつらしいよ。でも父上様はもう私の自由にしていいと言っていたしエリック殿も国へ帰る事にしたそうだ。円満解決というやつだね」
拳を交えて、一緒に飲んで意気投合したのか・・・。
「父上様はこの様なご気性なのでね、暴れさせてそれを受け止められる相手であれば満足するだろうと思っていた。まさかエリック殿まで一緒に暴れる事は流石に計算には入っていなかったが・・・・」
カウンターに寄りかかった彼女が大きく伸びをする。
「・・・まったく、男なんて皆いくつになってもバカで単純で・・・」
そして私を見て、
「・・・可愛いものだね」
そう言って微笑んだのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~