第17話 人間模様、空の上-2


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突然の事過ぎて一瞬理解が追いつかなくなる。
・・・それはいつかは戻るつもりではいたが・・・。
って、帰るってベルはアンカーに行ったことはないだろう。
「細かい事言わないの。これからはあなたの事務所が私の家、アンカーがホームタウンになるんだから帰るという表現はおかしくないわ!」
ビシッと指さされてしまった。
「帰れるのですか?」
ルクもちょっとポカンとしている。
「そうよ。元々神都へはフェルテにウィルの術を解いて貰う為に立ち寄っただけだもの。色々あって出立が長引いちゃっているけど」
しかし、教団やクバード将軍の件が・・・。
「皇国の関係者として気持ちは嬉しいけど、潜伏した彼らが再び活動を開始するのがいつなのかまったくわからないのよ? 明日かもしれないし、一ヵ月後かもしれないし。その間ずっとここで待機しているわけにはいかないわ。私たちには私たちでやらなければならない事があるんだから」
確かにそれはそうだな。
皇国の事も気掛かりではあるが、私には自分の仕事があって職場をシンラ1人に預けたままなのだから。
わかった。名残惜しいが帰る事にしよう。
「いきなり今日言って今日出発というのも慌しいし、出発は明日にしましょう。挨拶とかしたい人もいるでしょ?」
・・・そうだな。世話になった人々にお礼を言ってから帰りたい。
話はそういう形でまとまり、私たちは今日一日を使って出発の準備と別れの挨拶を済ませる事になった。

皇宮へと出向いた私は馴染みの文官達に挨拶して回った。
その最中、メリルリアーナ皇姫と会う。
「ごきげんよう先生! 今日はどうされたの?」
明るく元気に挨拶をしてくる皇姫に、 私は自分の出立を告げて世話になったと頭を下げた。
「・・・そうですか・・・ベルも行ってしまうのね」
皇姫が寂しそうに微笑む。
心配はいらないよ。ベルは何かあればすぐ戻れるようにしてくれると言っていた。
・・・それでも普段は離れて暮らすことになるのには変わりはないのだが・・・。
何かあれば駆けつける。私も一緒だ。
「そうですね。今度はどこにいるのかわかっているのだから、心配はしなくて済みそうです」
そう言って姫はようやくいつもの笑顔を見せた。
「・・・あ」
姫が何かに気付いて足を止めた。
私もその視線を追って前方を見る。
アシュナーダの後姿が目に入る。
「・・・お兄様・・・」
目を輝かせて、小走りにアシュへと走っていこうとして、その姫の足が再度止まった。
・・・アシュは1人ではなかった。
隣をフェルテナージュが歩いている。
2人で談笑しながらだ。傍目に見ても随分といい雰囲気だった。
姫を見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
固まってしまっている・・・。
ベルに言われた事を思い出す。姫はアシュナーダとフェルテナージュが密かに想い合っている事を知らないのだと。
何かフォローしようとして私は言葉に詰まった。
何て言えばいいやら皆目見当もつかん・・・。
「・・・私・・・ちょっと用事を思い出しました。先生、失礼しますね・・・」
呆然とそう呟くと、姫は踵を返して私たちがやってきた方へと走り去ってしまった。
ああああああどうしよう。
その後姿を呆然と見送る。
「・・・先生?」
するとその私に今度は後ろから声がかかった。
アシュナーダたちが私に気が付いたのだ。
「どうされました? 先生」
私に問うアシュの隣でフェルテナージュが会釈する。
私は多少言葉に詰まりながらも、下の島へ戻ることになったので挨拶回りをしているのだと2人に説明した。
「そうでしたか・・・。残念です、もう少し滞在されるものかと思っていました」
アシュが表情を曇らせて言う。
「そうだ。先生見て下さい」
何かを思い出したようにアシュナーダがポケットから宝石箱を取り出した。
中には白い宝石の指輪が入っている。
「月並みですがプレゼントをする事にしたんです。さっき購入してきたんですよ。フェルテが姫の指輪のサイズを記憶していてくれたので」
言われてフェルテナージュが微笑む。
しかしその瞳に一瞬寂しそうな光が揺らめいたのを私は見逃さなかった。
・・・・困ったなぁどっちもこっちも。

バルカンやキャムデンにも挨拶を済ませた。
プロレス技が返ってきたり意味のわからん哄笑されたりしたが、まあ意図は伝わったと思いたい。
気が付けば随分時間が経っている。時刻はもう夕方だった。
皇宮をぐるりと一回りしたからな。
・・・後、声をかけていないのはカーラか。
最も、彼女とは一度肩を並べてガ・シアと戦っただけの間柄だ。
挨拶等した所で逆に戸惑わせるだけかもしれないが・・・。
しかし、気になる女性だった。もしかしたら無意識に一番彼女の事を考えているかもしれない。
不思議な仮面の女将軍・・・私と良く似た剣技を使う人。
しかしあのガ・シアと戦った夜以来、一度も彼女を目にしていない。
他の3人の将軍とは皇宮内で良く顔を合わせたが、カーラとは一度もそれがない。
彼女は普段は何をして過ごしているのだろう?
そんな事を考えながら皇宮の廊下を歩く。
だから私は目の前にふいにカーラが現れた時も、即座に現実としてそれが受け入れられなかった。
「ウィリアム」
声をかけられてハッとする。
現実のカーラだ。
「お前がこの国を発つと聞いて別れの挨拶に来た」
淡々と用件を告げるカーラ。
私の方はと言えば、相槌を打つだけで咄嗟に言葉が出てこなかった。
会えたら聞いてみたい事があったのだが、その時があまりに唐突に訪れたので上手く言葉が纏まらない。
・・・出発の時までもう会えないかと思っていた。普段姿を見なかったのでな。
「私は他の3人と違い、主な任務は皇家の方々を陰ながらお守りする事だ。それ故に普段は滅多に人前に姿を現さぬ」
なるほど、彼女を普段見ないのはそういう理由からか・・・。
「・・・お前には世話になったな」
やや口調を和らげてカーラが言う。
そんな事はない。私は大したことはしていない。むしろこっちがすっかり世話になった。
そう答える。そして、沈黙が訪れる。
間が持たずに、何か言うべき言葉を探す。
その時だ、カーラが自らの仮面に両手をかけた。
・・・・・!・・・・・・
そしてそのまま仮面を外す。
同時にカーラの背後、廊下に並ぶ柱の影より西日が射した。
夕焼けの紅い光を背負うカーラ。その西日の眩しさに私は眼を細めた。
一瞬、陽光に眩んだ私の視界にカーラの素顔が見えた。
ほんの一瞬だったが、整った美しい顔立ちが記憶に残った。
「お前とはまた会う事がある。そんな気がする」
目を閉じた私にカーラの声だけが届く。
「その時には私の話をする事もあるかもしれないな。・・・それまで息災でいろ、ウィリアム」
そしてようやく視界が戻った時、そこにはもう誰もいなかった。

皇宮を私が出た時、辺りは既に薄暗かった。
今日は皇国で過ごす最後の夜だ。急いでバルカンの屋敷に戻らなければ・・・。
歩調を早めた私の前に、建物からフラリと1人の男が出てきた。
体格のいい若い男だ。
顔に見覚えはない。・・・・しかし、持っている武器には見覚えがあった。
禍々しいデザインの黒い鞭剣。
・・・・ゴルゴダ。
私は全身を緊張させる。
対したゴルゴダは薄笑いを浮かべてこちらを見ている。
「よぉ、いい夜だなバーンハルト」
何の用だ、ゴルゴダ。
警戒を解かずに奴に問う。
「聞いたぜ? 帰っちまうんだと? 寂しいねぇ」
ゴルゴダの目が鋭い輝きを放つ。
「その前にどうしてもお前とサシで話がしたくてよ。悪いが来てもらうぜ。俺は二層西部の貯水池の畔で待ってる」
そう言われて私が一人でノコノコ出向いていくと思うか。
返事をした私にニヤリと笑って見せるゴルゴダ。
「だろうな。そう思ってよ、お前の仲間のあの金髪の巻き毛の小娘を預かってる」
・・・!!!!!!
脳裏をエリスの顔が過ぎる。
貴様・・・エリスを!!!!
神剣を抜き放つ。
ゴルゴダは数歩下がって何も持たない両手を広げて見せる。
「おおっと、ここで『この俺』を斬ったって無意味だぜ、わかるよな? これはただのメッセンジャーだ。俺は本体で貯水池で小娘とお前を待ってる。1人で来い・・・いいな」
あまり待たせるなよ、と最後にそう言ってゴルゴダは細い路地の暗がりへと姿を消した。
二層西部・・・貯水池の畔!!
行ってエリスを救わなければ・・・!!!
私は神剣を鞘に戻すと、夜の神都へと走り出したのだった。