第13話 四王国時代の終焉-3


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空中で交差した両手の装甲でアイザックの放った円刃を受け止めたセシル。
しかし円刃は装甲に弾かれることなく、装甲上で高速回転を始める。
「・・・・なッ!!?」
セシルが驚愕に目を見開いた。
「僕のフレスベルグは放てば相手を追尾し、炸裂すればそこから回転数を上げるんですよ。便利でしょう?」
アイザックが冷笑を浮かべて言った。
ギイイイイイイイン!!!!と甲高い金属音を響かせて火花を散らす円刃を、力一杯セシルが両手を振るって弾いた。
弾かれた瞬間、円刃が無数の鳥の羽に「分解」した。
そしてその無数の羽は、かざしたアイザックの手へと集まっていく。
こうしてフレスベルグは手元へ回収できるのだ。
しかし、そこでアイザックの予想を超えた事態が発生した。
空中を舞う無数のフレスベルグの羽を「蹴って」セシルが飛来する。
「・・・・!!!!!」
手元に再び円刃を形成させていたアイザックの反応が遅れる。
上空からのセシルの鋭い蹴りは、射抜くようにアイザックの胸部に炸裂した。
「ぐはッ!!!!!」
仰け反ったアイザックが大きくよろめく。
「ほー。軽功舞身法使うのか」
エトワールがパチパチと気のない拍手をした。
「・・・・く! おのれ!!」
下半身に力を集中して、アイザックが吹き飛んで倒れる事だけは回避する。
手元にはもう円刃が形成されている。
一瞬後にこれを再び放つ。次は受けさせない。必ず当てる・・「フレスベルグのもう一つの特性」を使って。
澱んだ光を湛えたアイザックの瞳が再び標的を捉えたその時、そのセシルは既にアイザックの目前にいた。
(・・・・・・速い!!!!!)
投擲する隙はもう無い。
そのまま斬り付ける。
円刃がセシルの帽子をかすめて弾き飛ばした。
そしてセシルの組んだ両手の拳は、その帽子と数本の髪の毛と引き換えにアイザックの懐へと到達していた。
「・・・・うおおおっっ!!!!」
「・・・『クイックシルバー』!!」
セシルの拳が白い輝きを放つ。そして打撃の炸裂と同時に射出された光弾はアイザックの鎧を粉々に打ち砕いた。
鎧の破片が空中へ舞う。
そしてアイザックは身体をくの字に折った姿勢のまま吹き飛ばされ、床に激しく叩きつけられた。

「・・・うわ、だっせー。この糸目やられてくださいましたよ?」
足元に飛んできたアイザックの頭をつま先で小突くエトワール。
「・・・いやぁ、これはまた・・・お見苦しい所を・・・・」
ごほっと吐血しながらアイザックが苦笑した。
しかし薄笑いで軽口を叩いても立ち上がってはこれない。
「お見苦し過ぎて泣けてくるっつーの。どこの世界にアイドルにブッ飛ばされる将軍がいんだよ」
はーぁ、と大げさにため息をついてエトワールがセシルを見た。
「・・・まーこの空間じゃお前も本気出せねーよな。そこんとこはうちも一緒なわけだが・・・」
エトワールの瞳がつい、と細められる。
セシルが構えを深くする。
「まさかこんな場所で出っくわす事になるとはなァ。・・・・なんかお前さ、島から戻ってちょっとしたらいきなり大口の仕事キャンセルしまくったらしいじゃん?」
エトワールが笑う。セシルは答えない。
「キャンセルした仕事は諸々だけど、ある点のみ共通してるとこがあったとさ。・・・そうです、全部が財団系企業がスポンサーについてる仕事ばっかしなのでした」
「・・・・・・・・・・」
セシルが瞳の警戒の色を強めた。
「財団系企業がスポンサーに入ってる仕事蹴るって事は、大口の仕事ほとんど蹴るって事だもんなぁ。そりゃ仕事続けられねーよな。・・・そんで今回のコレだ。随分うちらの動向にアンテナ高くしてたみたいじゃん?」
「・・・アンタたちに、それは渡せない・・・!!」
セシルが走った。
常人の目には映らない速度でエトワールとの間合いを詰める。
そしてその速度のままに放たれた拳がエトワールに炸裂する。
・・・しかし、拳に返ってくる肉を打つ感触は無く。その拳はエトワールだと思った残像を虚しく透過するのみであった。
「・・・・はい、ハズレー」
そして逆に、身体半分ずらして拳を回避したエトワールの拳が深々とセシルの鳩尾に突き刺さっていた。
「・・・・かハッ!」
セシルが血を吐いて前のめりになる。
その体勢のまま左の拳を突き出す。エトワールの姿がフッと消えて、またその拳が空を切る。
一瞬で数m後方に移動したエトワールが冷笑を浮かべる。
「うちと格闘戦互角以上にやれる奴なんかハイドラにだってそうそういないっつーの。そんでもまだやんの? めんどくせーから今逃げるなら追わないけど?」
シッシッ、とまるで野良犬を追い払うような仕草で手を振るエトワール。
「ここで逃げたら・・・」
セシルが口元の血を手の甲で乱暴に拭った。
「胸を張って、あの人に会いに行けなくなるのよ」
「あの人?」
一瞬ポカンとした表情を浮かべてから、エトワールは何かを思いついた顔をした。
「・・・あー、ウィリアム・バーンハルトね。バッカだねーお前。だったら尚の事黙って財団の広告塔やってりゃよかったのにさ」
「どういう意味よ」
セシルの瞳が険しさを増してエトワールを射抜く。
「あのセンセーはもうちょいで『こっち側』の人間になるって事だよん」
いひひひ、と白い歯を見せて笑うエトワール。セシルの奥歯がギリッと鳴った。
「馬鹿言わないで!! ・・・あの人は・・・」
「あの人は?」
セシルの言葉が止まった。
エトワールと視線が交錯する。
口元には冷笑があった。しかしエトワールの目は笑ってはいなかった。
「何知ってんの? あのセンセーの事さ。・・・うちは色々知ってるよ。多分、お前以上にね。けどまあ、それももうどうでもいい事か? だってさ・・・」
エトワールの瞳がすっと細められる。
「お前ここで、死ぬんだし」
「・・・・ッ!!」
セシルが走る。エトワールに向かって。
その向けられた恐ろしい殺気を、脳が理解して身が竦んでしまう前に。
向かってくるセシルへ向けて、エトワールが掌を向けた。
「『ショック』」
言葉と共に、目に見えない衝撃波が掌から放射状に周囲に放たれた。
セシルが吹き飛ばされる。
明滅する意識の中で、セシルは自身の身体の方々から骨の砕ける嫌な音を聞いた。

「・・・ぅ・・・」
微かに呻き声を上げる。
霧散しそうな意識を辛うじて繋ぎとめると、必死に自身の状態を確認する。
うつ伏せに倒れているようだ。・・・四肢はもう、まったく言う事を聞かない。
流れる赤い血と共に命そのものも流れ出ていくようだ。
ゆっくりと靴音が近付いてくる。・・・とどめを刺しに来る!!
立ち上がろうと必死に足掻く。
しかし今のセシルには痙攣のように身体を震わせるのが精一杯だった。
「うちのあれ食らってまだ人の形してるだけで大したモンだ。まー最後は苦しまないようにプチッて終わらせてあげるよ」
エトワールが手を上げた。
その指先の周囲の風景が蜃気楼のように歪む。
「最後だから言うけど、うちお前の歌結構好きだったよ・・・じゃあな」

「・・・・そこまでだ」

声は頭上から聞こえた。
「・・・えー? 今度は誰さ一体」
露骨に嫌そうにエトワールがそちらを見上げる。
吹き抜けのこのフロアの2層程上の壁面、テラスの様に張り出した空間の手すりに手を添えて一人の男が立っていた。
編み笠を被って、着物に袴姿の男だ。
「・・・・サムライ?」
エトワールが眉を顰める。
男が手すりを乗り越えて跳躍する。
そして最下層に着地した。
「それ以上やるつもりなら、私が相手になろう。エトワール・D・ロードリアス」
「ふーん・・・うちが誰なのか知った上で喧嘩売るつもりなんだ? 何者よお前・・・まず人と話す時は笠取りなよ」
エトワールが口を尖らせて抗議する。
編み笠を深く被った男の表情は窺い知る事はできない。
「この笠は故あって取るわけにはいかん」
言いつつ男が着物の襟をぐっと掴んだ。
「代わりに脱ごう」
「・・・何でやねん」
半眼で突っ込みが入る。
「脱ごう!」
「いや、やめときなって。寒いんだから」
周囲は冷凍庫並に冷えている。本来防寒具が必要な空間である。
「・・・だがあえて脱ごう!!!!」
バサッ!!!と男がどういう理屈でか一息に脱ぎ捨てた着物と袴を脇へと放った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア本当に脱ぎやがった!!!!! どうすんのサルマタだよ褌だよジャパニーズパンツだよ!!!!!」
真っ赤になったエトワールが慌てる。
褌姿になった男はガチガチと奥歯を激しく鳴らしながら
「・・・・・寒い!!!」
と、叫んだ。