最終話 ぼくらの故郷-6


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殲滅部隊が浜辺を進む。
その先には既に大勢の人々がひしめいて熱気を放つセシルのステージがある。
リゼルグが私を見て勝ち誇った笑みを浮かべる。
彼らはステージを阿鼻叫喚の地獄へと変えるだろう。
「・・・ふふ、今から駆けつけても間に合いませんよ、先生」
私は浜辺の方角をじっと見ていた。
・・・・奥の手は最後まで、か。まったく同感だ、リゼルグ・アーウィン。
私の言葉にリゼルグの口の端に浮かんでいた嘲笑が消えた。
「どういう事です?・・・まさか・・・」
私はその言葉には応じず、指輪を口元へ寄せた。
私だ、ウィリアムだ。浜辺、応答願う。
『よーう、こちら浜辺、コードネーム「ブラックドラゴン」だ。浜辺異常なーし!世は全て事もナシってことだな』
異常ナシじゃねーよ!!! 今特大の異常がてめーの前に迫ってるだろうが!!!
指輪から聞こえてきた低い男の声を怒鳴り飛ばす。・・・・まったく相変わらずアホだ、こいつ!
『あ”!? 何!? コイツら俺がやんの?』
そうだお前がやんだよ!! 蹴散らせ、アホ!!!
『この声って・・・・』
指輪から聞こえてきたシトリンの声は微かに震えていた。
ノワールの本陣・・・・スレイダーの口からぽろっとタバコが落ちた。
「・・・・おいおいおいおい、マジですか・・・・」
迫り来る兵達を前に、男が1人浜辺の岩にどっかと腰を降ろして待ち構えていた。
銀色の長髪が月光を弾いて白く輝く。野生的な顔立ちの若い(見た目だけは)男だ。
男が立ち上がった。手にした長槍をひょいと肩に担ぐ。
「悪ぃ悪ぃ、雑魚の皆さんすまなかったな。あんま雑魚過ぎて俺様の目にゃ入ってなかったわ」
言って不敵に笑う。黒ずくめの兵達が動きを止めた。
兵達が武器を皆構えた。・・・・わかったのだ、目の前の男の力量が。
自分たちが草食動物の立場であり、獅子を目の前にしているという事が。
『陛下!!!!!!』
カイリが叫んだ。
『・・・・お父・・・さん・・・・』
ルクの声も震えて霞んでいた。
「よう久しぶりだ。可愛い息子に娘に後どうでもいいヒゲオヤジ。本気で遊んで本気で学んで・・・・そんで本気で恋してるか?」
『ひでぇいいザマだ、本物だぞこれ・・・・』
スレイダーが苦笑する。
その男・・・レイガルドに黒い兵達が一斉に襲い掛かった。
彼らは自分たちの野生の直感に従って退くよりも、任務の重さを取ったのだった。
「ったくよー・・・・こっちゃ祭り見物に来ただけの観光客だってのによ・・・・」
言葉と裏腹にレイガルドの目がギラリと危険な輝きを放った。
「人使いの荒いダチを持ったもんだぜ!!!!!!」

本部とリンクして見なくてもここからでも充分わかった。
黒い旋風と化したレイガルドはまるで木の葉を散らす様に黒い兵を蹴散らしていく。
・・・よし、アホだが強い。これで浜辺は大丈夫だな。
「ガルディアスの竜皇帝・・・まさか・・・」
リゼルグも浜辺を見つめたまま動かない。
万策尽きたな。観念するがいい、リゼルグ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私の言葉が耳に入っていないのか、リゼルグの反応は無かった。
茫然自失しているか・・・・?
「・・・! ああ、これは失礼」
気が付いたリゼルグが私の方を向いた。
「ぼーっとしていました。少し考え事をしていたもので」
考え事?
「・・・まずは素直に賞賛させてもらいますよ、先生。これで自分の用意した祭りの仕掛けは全て潰されてしまいました。いやはや、完敗です。恐れ入りましたよ・・・まったくね」
しかしそう言うリゼルグからはまだ余裕が感じられる。
ふっと苦笑してリゼルグが眼鏡の位置を直した。
「つまり、『私が自分でやるしかなくなってしまった』というわけですよ、先生」
眼鏡の奥の瞳が危険な光を放つ。
リゼルグが1歩前に出た。
同時に周囲の木々から一斉に鳥が飛び立っていった。
リゼルグが放った殺気の為だ。
・・・お前1人でか?
「ええ。まずは先生とお仲間の方々を皆殺しにした後で町へ行って200人ばかりやればいいでしょう。その後の揉み消しその他で当初よりずっと手間はかかりますが、まあ仕方の無い事です」
リゼルグは笑った。
彼は自棄になっているわけではない。本気なのだろう。
・・・そして、相応の実力があるのだろう。
「気を付けな、先生・・・・そいつ『金属使い』だ」
うぐいす隊長が言う。
『金属使い』・・・・メタルミューザー・・・。周囲の金属に魔力で干渉して自在に形を変化させて操る異端の魔術師だ。
どの様な恐ろしい攻撃を仕掛けてくるのか想像もつかない。
しかし、退くわけにはいかない。
私は神剣を抜き放った。
「ウィリアム・バーンハルト・・・小さな世界の英雄よ。あなた程度の力では『この世の真の支配者』にお仕えする私を倒す事はできません。今からその事を思い知ってもらいましょうか」
リゼルグは左手に細身の長剣を生み出した。
その時、浜辺の方からいくつもの花火が上がる眩い輝きが見えた。
セシルのステージが始まったのだ。

『みんなーっ! 聖誕祭の日を楽しんでいますかーっ!!』
セシルの声に割れんばかりの歓声が答える。

周囲の空間に大小様々な大きさの金属球が浮かび上がった。
「さあどんな武器で串刺しにされたいですか!? 先生!!」
金属球が形を変える・・・・剣に・・・斧に・・・槍に・・・・。
それらが一斉に私へと襲い掛かった。
弾き、捌き、かわす。だがそのうちのいくつかは私をかすめて血を飛び散らせる。
・・・・くっ!!・・・・まるで武器の嵐だ・・・・!!!

『今日は皆に報告があります! 私!今日!本物のヒーローに会いました!!』
どよめきが起きる。

がくん、と身体が揺れた。
・・・・!?・・・・何だ!!!
足元を見る。地面から伸びた数本の鎖が私の足に絡みついていた。
脇腹を斧が掠めた。
左肩に槍が突き刺さった。
激痛に目が眩む。

『その人は今も、名前も顔も知らない皆さんの笑顔の為に、どこかで戦い続けています』

右の腕にも鎖が絡みついた。
「終わりですね!!!」
飛来する武器と共にリゼルグが左手の剣で鋭く突きを放った。
狙いは私の心臓だ。

『今日、最初の一曲は・・・そのヒーローに捧げたいと思います!!』
再び割れんばかりの歓声。

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!
力任せに右腕の鎖を引き千切る。
「何ッ!!?」
上体だけで数本の武器を掻い潜り、リゼルグの一撃を私は受け止めた。