第4話 Northern Tiger-2


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私はゲン爺に完成する船の定員は何人なの?と尋ねた。
「荷物なんかの重量にもよるがな、4,5人てとこだぜ。それ以上となりゃ建造にかかる時間も跳ね上がっちまう」
・・・荷物なんかギリギリまで切り詰めていこう。辿り着けさえすれば後はサバイバルでどうにかする。
5人と計算して・・・・。
私とえりりんは絶対に行く。
この人を乗せるとしたら、残りは2人か・・・・。
そもそも誰か志願者がいるのかどうかすらわかんないしね。
確かに悪い話ではない。だけど無条件に首を縦に振るにはわからない事が多すぎた。
誰に聞いたの?この話。
一番の疑問を口にしてみる。
「貴方と同じ、鳴江君からよ」
漂水・・・・あんにゃろー何、方々でベラベラ喋り捲ってるワケ!?
「ふふ、誤解しないで。彼は私の会社の社員・・・調査員なの。彼からの報告書を読んで私はこの島へ来たという訳ね」
!!!!
キリコの言葉に一瞬呆気に取られてしまう。
社員・・・アイツが?
でも、考えてみれば当然の話だ。
私もアイツが船を降りてから何をしてるんだろうって考えた事がないわけじゃなかった。
当然アイツも生きてく為になんかお金になる事してるわけで・・・。
でもなんか普通の勤め人やってるとこなんか想像できなくて、胡散臭い事やってるんだろうなーとか漠然と想像するだけだった。
社員・・・この人の部下なのか・・・アイツ。
キリコが名刺を渡してくる。
『Fenrir Security Service 代表取締役社長 柳生霧呼』
フェンリルセキュリティサービス・・・・?
「民間の警備会社よ。情報関連の仕事もしているから顧客の求めに応じて色々な調査をする事もあるの」
空の国へ行きたいのは、その仕事の関係で?
キリコが頷く。
「ええ。あまり詳しくは業務上の守秘義務があってお話できないのだけどね。乗せてもらうの行きだけで結構よ。帰りは自分でどうにかするつもりだから。どう?」
・・・・・・・・・・。
考え込む。この人からはハッキリ言って危険の匂いがする。
しかも漂水の関係者ってことで危険度は5割増し。
だけど、劇薬の危険性があったとしてもその効能は今の私にとって何より欲しいものだ。
・・・ウィルに、一刻も早く会いたい。
考えて、結局私は彼女の申し出を飲む事にした。

工房からの帰り道、私の足取りは軽かった。
予定よりも半月も早くウィルの所へ行ける。
えりりんも喜ぶだろうなー。
そしてオフィスのある建物の前まで戻った私は、ちょうど建物から出てきた男と鉢合わせになった。
ブロンドの髪に眼鏡、そして黒スーツ・・・。
三銃士、エリック・シュタイナー・・・!!!
「こんにちは」
そうエリックは私を見ると微笑んで挨拶をした。
銃士が何の用?
自然と声に棘が含まれる。
「そう、警戒しないで下さい。ここのオーナーとは面識がありまして、ご挨拶に伺っただけですよ」
シンクレアと?
彼女が銃士とどういう関係があるのか・・・・そもそも彼女はツェンレン重鎮の娘だ。
「以前お見合いの話を頂戴した事がありまして」
結局フラれてしまいましたが、とエリックが苦笑した。
・・・そういや、いつだったかオーナーお見合いしたとかウィルが言ってたっけ・・・。
なんだかやったらウィルがぐったりしてたのが印象に残ってる。
絵に描いたような政略結婚だね。
「形の上ではそうなってしまいますね。私としては持ちうる限りの愛情と誠意を持ってお迎えするつもりだったのですが・・・」
残念です、と静かに首を横に振るエリック。
あんたたちが今何しに来てるか知れたら益々嫌われちゃうね。
つい皮肉が口から出る。
「それは覚悟していますよ。私たちは大体汚れ役ですからね」
・・・私たち、戦う事になるかもね。
「私はそうならないように祈っていますけどね。もしそうなったらお手柔らかにお願いします」
・・・むー、万事ソツの無い男だ。
べえ、と私は舌を出してやった。
彼は苦笑して一礼すると立ち去っていった。

キリコの手配したエンジンが届くまでの3日間、私は落ち着かない日々を過ごした。
えりりんも落ち着かなかったみたいで、ポテト達の首を蝶結びにしたりしてた。
3匹は大人しく縛られていたけど、しばらくして「オ"ェ」と悲鳴を上げて動かなくなった。
や、元々ほとんど動かないんだけど。
そしてエンジン到着の報は届き、私はスキップしそうになりながら慌てて工房を目指した。
まあ、エンジン私が見たってどうしようもないんだけどね。
工房の前で意外な人たちと行き会った。
イブキとアヤメさんだ。
や、とイブキが片手を上げて挨拶する。
どしたの?と聞いてみる。
「いやー、ゲンさんとこで何かDD達面白い事してるって評判じゃない? ちょっと見物しに来たってわけ! 音無さんとはそこで一緒になったの」
アヤメさんが会釈する。
まあ、ゲン爺のお弟子さん連中も久々の大仕事だって皆興奮してたもんね・・・・。
噂になるのもしょうがないか。でもその噂がヘンなのまで呼ばなきゃいんだど・・・。
私たちは3人で工房へ入った。
うわ・・・・・・。
そして3人とも声を失う。
目の前で巨大な魔導式エンジンが2台のクレーンを使って吊り下げられていた。
私はその手の知識まったくないんだけど、それでもそのエンジンの威容に、輝きに圧倒されてしまった。
「・・・・よォ、来たな」
同じくエンジンを見ていたゲン爺がキセルを持った片手を上げてこっちを見る。
その隣にはキリコもいた。
「コイツぁすげえぞ。俺っちでも思わず震えがきちまう程だぜ」
「リンドブルムW-57型・・・・最新の軍用飛行戦艦にだってまだ使われてない代物よ」
キリコが私を見て微笑む。
凄い・・・でもこんな物を用意できるなんて・・・彼女は・・・・。
「さてと早速取り掛かるとすっか。腕がなるぜ・・・・っと?」
表が騒がしい。
・・・・・何だ。
外へ出てみて私はその騒動の正体を知った。
・・・・ゲン爺のお弟子さんたちとカミュたちが押し問答してた。

こまります!と彼らを押し止めているお弟子さんたち。
「バカヤロ、困るって事はないだろう。ただの視察だ。迷惑はかけん」
カミュがずいずい前に出る。
「俺達はな、代表からこの町の施設はいつでも自由に視察して構わんとお墨付きをもらっているんだぞ」
・・・エンリケ・・・あのバカ!! 
後で鼻っちけしかけてやる!!!!
「それとも何か? 俺達に見せられん物でもこん中にあるってのか?」
んー?とカミュが私を見て不敵な笑みを見せた。
・・・・どうする・・・・。
もしここで、コイツらにあのエンジンを見られたら・・・・。
握り締めた拳にじっとりと汗をかいているのがわかる。
「おう、どうしたバカヤロ。何とか言いやがれ」
カミュがタバコの紫煙をふーっと吐き出した。
「・・・流石はリーダー。見事な柄の悪さです」
「つまんないイチャモン付けさせたら右に出る奴いないよな」
エリックとルノーが言う。シグナルは無言だった。
「褒められてるように聞こえねえよバカヤロ!つか褒めてねーよなそれ!!」
軍用機に使うようなエンジンだ。
難癖つける材料としては十分過ぎる・・・。
破壊兵器作ってたとか・・・・。
揉め事は避けたい。
だけど、どうしても今ここでコイツらに邪魔させるわけには・・・・いかない!
1歩、前に出る。
カミュ・・・。
「ん?」
今すぐどっちか選べ。ここで大人しく帰るか、それとも私にボコボコにされて病院へ行くか。
「・・・何、まさかあのリーダーのやっすぃ挑発に乗る奴がいるとはビックリだ」
ルノーが相変わらずの気の無い調子で言う。
「・・・面白ぇ」
カミュが腰の刀をズラリと引き抜いた。
月光を弾いて刀身が剣呑な光を放つ。
「力ずくで通るとするぜ」
構えを取る。カミュと向き合う。
「ちょっと、何よこれ! DD加勢する!!」
イブキとアヤメが出てくる。
「先程から聞いていましたが、そちらの横暴な態度は我慢ができかねます」
アヤメも抜刀して正眼に構えをとった。
「エリック!ルノー! そっちの2人は任すぞ!!!」
カミュが私から目を離さずに叫んだ。
「エリック2対1か。がんばれ」
ルノーが欠伸する。
「それは流石に厳しいですね。手を貸して下さい、ルノー」
えー、と不満そうな声を出すルノー。
「終わったらぱんだ庵でご馳走しますよ」
「仕方ないな。ぱっぱと済ませてそっち行こう」
ルノーも腰の刀を抜き放った。エリックは打撃部分をプレートで補強したオープンフィンガーのグローブを身に着ける。
「バラで当たっても可哀想なのに、よりによって私と参謀のコンビと当たるとは・・・・心底気の毒だ、お前ら」
本当に気の毒そうにルノーがため息をついた。
「私とルノーは『ダブルス用ユニット』ですからね」
ボクシングの様な構えを取るエリックの瞳が鋭い輝きを放った。
「僕はどうする」
と、それまで無言だったシグナルが口を開いた。
・・・・まずい・・・・向こうの方が戦闘要員が一人多い。
そこへ・・・。
「主の相手はこのババがしようかの」
しわがれた声がしてそちらを向く。
杖をついた小柄な着物のオーガの老婆がいた。
あのおっかない顔は間違いない・・・。
シンラのところのオババさんだ!!