第22話 幽霊屋敷の令嬢-1


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ウィリアム何でも相談所の朝。
その電話を受けた時、エルンスト・ラゴールは彼にしては珍しく対応を即答できなかった。
「・・・・幽霊、ですか?」
再度電話の向こうの相手に確認を取り、しばし考え込む。
「わかりました。後ほど所員がお伺いします」
その後、細かい相手の情報を聞いてメモを取るとラゴールは受話器をフックに戻した。
「さて、どうしたものか・・・」
椅子の背もたれに身を預けるようにしてラゴールが腕を組んだその時、その彼にマチルダがコーヒーを容れてきた。
「はい、どうぞ~」
カチャリと目の前に湯気の立つコーヒーカップが差し出される。
「ちょうどいい。マチルダ、行ってもらえるか」
「はい? お仕事ですか?」
小首をかしげるマチルダにラゴールが頷く。
「ああ、何でも屋敷に幽霊が出るから調べて欲しいとの事だ」
「絶ッッッッッ対いやです!!!!!!!!!!!」
ハァハァと荒い息をついたマチルダがふと気付く。目の前に座っていたラゴールがいない。
「・・・あら? ラゴールさん・・・?」
「あなたが『絶対いやです』の『ぜ』の部分で繰り出したパンチでフッ飛んでったわよ」
メロンソーダのストローから口を離して、ベルナデットが表の通りに面した大きな窓ガラスを指差す。
ガラスの中央には大穴が開いており、窓枠は無残に歪んでしまっていた。


今日はケンたちの授業が午前中にあるだけで、午後に仕事の予定は入っていなかった。
そういうわけで、私はラゴールの受けた「幽霊屋敷の怪」を調べに行くことになった。
同行者はDDとベルの2人だ。
「オバケ屋敷なんて気が利いてるじゃん。面白そう」
DDは上機嫌だ。反対にベルはまったく普段通りだった。
「まあ霊とかそういうの私エキスパートだから」
との事らしい。
・・・そういえばベルの能力について私はほとんど知らないな。
彼女にも「魔人」として当時の聖者達をして世界の脅威と言わしめた何らかの能力があるのだと思うが・・・。
通りを歩きながらラゴールから受け取った地図を再度確認する。
そういえば何であいつあんな全身負傷してたんだ・・・?
地図で言う屋敷の位置は随分と町の外れだった。
外れと言うか正確に言えば徒歩圏内ではあるものの、やや町から出てしまっている場所だ。
その屋敷から町へと至る広大な敷地は全てその屋敷の主の所有地であるらしい。
・・・何とも景気の良い話である。
等と考えながら歩いていると、突然頭上から爆発音が響き渡った。
!!?? 何だ!!!??
真上から降り注ぐガラス片その他から、抱き寄せたDDとベルを庇う。
見上げると、あるビルの3階部分が吹き飛んだらしい。
窓から火の手が上がっていた。
・・・看板は「アンカー・ライフスクール」とある。
さらに1階の入り口の立て看板には「アンカー・ライフスクール 本日お料理教室『鶏肉を使ったピリ辛サラダ』」とあった。
「・・・ききききききききキュウリイィィィィィィィィ!!!!!!!!!」
3階から聞き覚えのある声で絶叫している者がいる。
「何なのこの男は!」
「きっと私たちが料理のスキルアップするのが気に入らないのよ! やっちまいましょ!!」
「押さえつけて!! ・・・オラッ!! オラァッ!!!」
ドスッ! ドスッ!! と何かをマダム達が殴打する音が聞こえてきたので、私は関わり合いにならないように2人を促して足早にその場を離れた。

アンカーは今や大都市だ。
その総面積は100km²にもなる。
私の事務所は町の中央から見て東の港に近い場所にある。
件の屋敷はその反対、内陸寄りの西の外れにあり、当然そこまでたどり着くのは徒歩では容易な話では無い。
馬車を手配して途中まで進むと、我々は食事のために小休止を取った。
まさか空き腹を抱えて訪問し、向こうで食事を要求するわけにもいかない。
オープンテラスのレストランでやや遅めの昼食を取る。
私はドライカレーを、DDはチキンのランチセットを、ベルはシーフードのパスタをそれぞれ頼んで談笑しながら食事を取った。
話題は自然と仕事に絡んで幽霊のものになる。
「あー、見たよ? 現役だった頃は何回かね。幽霊船っていうのかな。嵐の夜とかに遭遇する事があるんだ」
DDが言う。
なるほど、海の幽霊か・・・。
「その場所自体に怨念やら持ってて出る場合もあるし、そうでなくてもまったくの偶然で冥界との『裂け目』ができちゃってそこから漏れ出してくるケースとかもあるのよ。ゴーストって」
デザートのクリームソーダを食べながらそうベルが解説してくれた。
なるほど「専門家」っぽいな。
私は私で遺跡などで何度かゴーストには遭遇した事はあるが、いずれもやり過ごしてきたので本格的に対峙した経験は無い。
そもそも物理攻撃が通用しないのならその時点で私はお手上げである。
「まあ、本当はエリスが適任なのよね」
そうベルが言う。
普段忘れられがちではあるが(私もよく忘れるが)エリスは聖騎士だ。
騎士でありながら女神アリエルを信奉する神職でもある。
だからエリスは簡単な治癒や除霊の神聖魔法が使えるのだ。
「・・・やー、お兄さん達面白いお話をしていますね?」
その時、ふいに隣接するテーブルから誰かが私たちに声をかけてきた。
3人でそちらを見る。
ブロンドの女性・・・少女か?まだ二十歳にはなっていないように見える・・・がこちらを笑って見ていた。
こちらが何か尋ねるより早く、再び少女が口を開く。
「お兄さん達が話してるのは、町外れのあのお屋敷の話だよね~? 実はうちもかねてよりあの屋敷に研究対象として興味を持っていてですね・・・」
研究対象・・・?
あなたも幽霊関係の?
「・・・へ? あ、あーそう! 幽霊ね! そうそう幽霊ですよユーレイ。ええ、そりゃもう幽霊のスペシャリストですようちは」
何か最初動揺したように見えたんだが、そう言って少女は胸を張る。
するとあなたも除霊の技を持っていたりするのかな?
「除霊! ええもー大好きです除霊! もう物心付いた頃から3度のご飯より除霊が好きでしたよ。昨日も700匹くらい除霊しました」
「多いよ」
私が言うより早くDDが口に出していた。
何だろう。とりあえず胡散臭い。
「・・・そんなワケでぇ・・・お邪魔しませんから是非うちもお屋敷に連れて行ってもらえませんかね~」
上目遣いでもじもじとこちらを見ている少女。
むう・・・どうしたものかなこれは・・・・。
「・・・別にいいけど、こっちはちゃんとした仕事で行くんですからね。妙な真似したらすぐに叩き出すわよ」
と、何故かベルが同行を許可してしまった。
少女がコクコクと何度も肯く。
「しませんしません! 大人しくしてますよぅ! 例え目の前で血塗れのナタ持った大男が暴れててもお行儀良く座ってます!」
・・・それはそれで困るがな。
まあ、そういう事なら仕方がないか・・・。
よろしく、私はウィリアム・バーンハルトと言う。そして連れのDDとベルナデットだ。
名乗って2人を紹介する。
「よろしくよろしく! うちはエトワールです。清楚で可憐な花も恥らう17歳。今がお買い得」
そう言ってエトワールと名乗った少女はにっこりと微笑んだのだった。

そして我々は連れ立って件の屋敷までやってきた。
門を潜り、広大な庭園を屋敷まで歩く。
「・・・なんというか、まあ・・・」
半ば呆れたようにDDが周囲を見回して言う。
「お金ってあるトコにはあるんだね」
実際、私の感想も似たようなものだ。
庭園は広大で、しかも植え込み等の手入れもよく行き届いている。
維持費だけで相当なものだろう。
あっちには小川も流れているな・・・。
小一時間ほど歩いてようやく屋敷へとたどり着く。
エトワールが元気良くガンガンと扉を叩いた。
「まいどどーもー!! 角ブタオメガの宅急便でーす!!!」
わーウソつくんじゃねー!!!!
「間違えました! 何でも除霊事務所です!! 性質の悪い悪霊からあなたの大事な守護霊まで全部まとめて綺麗にデリート!!!」
後半のは除去しちゃダメだろうに。
すると木製の大扉がゆっくりと開いていく。
そして出てきたのは執事姿の男だった。
「・・・来たか。お嬢様がお待ちだ。入れ・・・・む」
う!!!!
私と執事は目を合わせるなり互いに硬直してしまった。
それは「圧し流すもの」の名を持つ魔人の1人、ヴァレリアの執事ベイオウルフだったのだ。