第3話 円卓に集いし魔人たち-2


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南部大陸にある砂漠の小国ガヤン。
ここはわずかな鉱物資源と公益によって成り立つ貧しい国だ。
中でもガヤン第二の都市アルヘルメイルは総督が圧政をしいて住民に重税を課し、民の生活はこの貧しい国の中でも特に過酷だった。
その圧政の元凶、総督は今アルヘルメイル砦の自室にいる。
贅を尽くしたその部屋には様々な高価な調度品が並んでいた。
総督は今、黄金虎の毛皮のかかった長椅子に座り、鉱夫から徴収した宝石の原石を眺めている。
浅黒い肌の色をした右目を眼帯で覆った精悍な男だ。
そこへ、慌しく頭にターバンを巻いた軍服姿の部下が駆け込んでくる。
「総督! 川島しげお総督! ゲリラです・・・反政府ゲリラが我が軍を強襲しております!!」
「ほーぉ、やっとか・・・」
ニヤリと笑う総督は椅子から立ち上がった。
川島しげお・J・ラームズ・・・総督の名である。
「流石に3度目ともなると連中も腰が引けておるわ。決起まで随分待たせてくれたなぁ」
川島しげおの言葉の通り、この街で反政府組織が決起するのはこれで3度目だ。
3度とも、重税でそこまで川島しげお自身が追い込んだのだ。
わざと・・・住民達が武装して決起するように。
彼の『狩り』の得物となるように・・・。
川島しげおが壁に掛けてあった愛用のライフルを手に取った。
「さぁ狩りの時間だ。兵どもに伝えろ。なるべくジワジワいけとな。すんなり楽にしてやるんじゃないぞ」
川島しげおが言うと、部下は敬礼して足早に出ていった。
そして川島しげお自身も部屋から出かかった所で、彼の背に声がかかった。
『・・・待て』
声に川島しげおが振り返る。しかしそこに人影は無い。
「お前か・・・」
しかし川島しげおはその誰もいない空間に向かって返事をする。
「久し振りじゃないか。一体どういう風の吹き回しだ。お前が俺の所へ顔を出すなんてなぁ」
「ゲリラと遊ぶのはまたにするがよい」
再び先程の声がしたかと思うと、床にぐつぐつと煮え立つ煮汁が広がる。
そしてザバッとそこからおでんが這い出てきた。
「召集だ。円卓は全員『時の部屋』へ集合するようにと」
おでんの言葉に川島しげおが露骨に顔をしかめる。
「何ぃ? ・・・冗談ではないわ。俺は今忙しいのだ、欠席させてもらうぞ」
「よいのか?」
おでんの問い返しに川島しげおが眉を顰める。
「此度の召集・・・メギド様の御名前で出ておるが」
「!!!!!」
川島しげおが息を飲む。
「・・・わかった、行こう」
肯いてそう言うと、川島しげおは手にしたライフルを壁に掛けた。
「やむをえん・・・ゲリラ共は行く前に片付けてしまうわい。お前も居合わせたのが運の尽きと思って手伝ってもらおう」
川島しげおに言われ、おでんは無言で肯いた。

ゲリラ達の集合場所に続々と兵士が集結している。
皆重税で生活をギリギリまで圧迫された民兵達だ。
背中のコブから砲身を伸ばしたラクダ『キャノンキャメル』も数多く見られる。
ゲリラのリーダーは他のメンバー達と打ち合わせをしていた。
そこで集団の一角がにわかに騒ぎになった。
「・・・どうした?」
リーダーがそちらを窺う。
「大変です! リーダー! 総督が・・・!!」
叫ぶ男を押しのけるようにして、人ごみから川島しげおが出てきた。
敵地の只中で1人、目立った武装もなしに葉巻を吹かしている。
「川島しげお・・・!!」
リーダーが手にしたライフルを川島しげおに向けた。
「やぁ、諸君」
銃口を向けられても川島しげおは余裕を崩さない。
フーっと紫煙を吐く。
「諸君らとこれから遊んでやるつもりだったんだがね。用事が出来てしまったのだ」
残念そうにそう言って首を横に振ると、川島しげおが葉巻を地面に落として足で揉み消した。
「だからあっさり死んでもらう事になってしまうが、どうか許してくれたまえよ?」
「・・・!!!」
パン!!!と銃声が鳴り響いた。
リーダーのライフルから放たれた銃弾が真っ直ぐに川島しげおを狙う。
「『グラヴィティ・プリズン』」
川島しげおの左目がギラリと光を放った。
瞬間、弾丸が速度を一気に減じて川島しげおに届く前に地面に落ちる。
「何だ・・・!!? ぐああっっ!!!!」
リーダーが悲鳴を上げる。
リーダーだけではない。周辺の兵士達も異変を感じて皆声を上げている。
目に見えない力で頭の上から押さえつけられているような感触。
その強さはどんどん増していく。
骨が軋む。地面に押し付けられる。
周囲の建物が倒壊を始めている。
骨の砕ける音と絶叫が始まった。阿鼻叫喚の地獄絵図。
押し潰されて皆次々に死んでいく。
そんな中で、川島しげおは悠然と腕を組んで薄笑いを浮かべてその有様を眺めていた。
「相も変らぬ、恐ろしい『重力使い』よな」
圧死した無残な骸たちの中におでんが煮汁の中から這い出てきた。
そこに無数の蹄の音と怒号が響き渡る。
先行していた部隊が本陣の異変を感じて引き返してきたのだ。
「・・・どれ、ではこちらの出番か」
おでんがそう呟くと、向かってくる兵達の眼前に大きな煮汁溜まりができた。
まるで地獄の釜の様にぐらぐらと煮立っている。
そしてその煮汁の中から、無数の太い白滝が飛び出してきて兵や馬に絡みついた。
「な、何だ!!!」
「くそっ!! 切れん!!!」
兵達が口々に叫ぶ。
弾力のある白滝は驚くほどの強度で刃を通さず、強い力で兵や馬を引き倒すとずるずると引きずり始めた。
その先は煮え立つ煮汁だ。
悲鳴を上げ、兵達は次々に煮汁の中に消えていった。
やがて辺りに静寂が戻る頃には、200名近くいた兵は全員いなくなっていた。
「これでよかろう。行くぞ」
おでんが言うと川島しげおが肯く。
そして次の瞬間、フッとかき消すように2人の姿はその場から消え失せていた。


2日間ほど列車に揺られ、シズマは中央大陸東端の港町ラフテースに到着した。
中央大陸における重要な港湾都市として大陸の中でもその盛況ぶりは指折りだ。
ここには様々な人や物が世界中から流入する。
道を行く人々も人種や種族が様々だ。
獣人、エルフ、ドワーフ、ホビット・・・様々な人々とすれ違いながらシズマが道を行く。
祖母ノルンは、この街に信頼できる人間を待たせていると言っていた。
落ち合う場所のメモは彼女から受け取ってきている。
(しおさい亭か・・・)
レストラン兼酒場の様な店らしい。
この街では有名らしく、地図は添えられていなかったが道行く人に尋ねると簡単にその店の場所は教えてもらう事ができた。
港に面した大きな食堂・・・それがしおさい亭だった。
店内に入ると趣味の良い音楽が耳に届く。
フロアには小さなステージがあり、そこで吟遊詩人らしい女性がリュートを奏でているのだ。
シズマがテーブルに着くと、すぐにウェイトレスがお冷とメニューを持ってくる。
「いらっしゃいませ! 何に致しますか?」
シズマはメニューを受け取ったが開かずにテーブルに置いた。
「・・・葛湯を頼む」
「マジでか」
思わず素で返事をしてしまってから、ウェイトレスは注文をひかえて下がっていった。
(・・・そういえば・・・)
ふと、シズマが思う。
(相手の名も何も聞いていないな)
ノルンはただ、ここへ来れば会えるとそれだけをシズマに伝えた。
しかし、それだけでは相手もいつ到着するか等がわからないだろう。
(まあ、なるようになる・・・か)
出された葛湯をすすりながらシズマはそう思考を締め括った。
すると目の前の椅子に唐突に座った者がいる。
「こんにちわ!」
見れば先程ステージで演奏していた女性である。
「こんにちは。仕事はもういいのか?」
ステージの方を見てシズマが言う。
今は無人だ。店内にもBGMはなくなっている。
「あー、あれ別に仕事じゃないの。ちょっと手持ち無沙汰だったから何曲か演らしてもらっただけ」
そう言って女性がにっこりと微笑む。机の脇には彼女の置いたリュートのケースがある。
・・・旅の吟遊詩人なのか。
改めてシズマは目の前の女性を見てみた。
まだ若い。恐らく自分とそう年齢は変わらないだろう。
見知らぬ相手とは言え、自分だけ飲み物を口にするのも気が引ける。
シズマが手を上げてウェイトレスを呼んだ。
「こちらの女性に玉露と芋ようかんを」
「マジでか」
また素になってしまってから、ウェイトレスが下がる。
「あっはっは、ありがとー。気使ってもらっちゃった?」
礼を言われていいや、とシズマが首を横に振る。
・・・しかし、この女性は何故自分と合席になったのだろう。
「・・・ふーん」
ふと見れば女性がテーブルに両肘をついてその手に顎を乗せ、まじまじと自分を見ている。
「どうかしたのか?」
「お祖母様とは、あんまり似てないんだねぇ」
そう言われて、シズマは湯飲みをテーブルに置いた。
「そうか・・・あなたが」
もう少し年長の人間が来ると思っていた。
だから目の前に座られてもそうは思わなかった。
「マリス・K・アンジェーニュよ。ヨロシクね」
そう言ってマリスと名乗った女性は右手で髪の毛をかき上げるとウィンクをして見せた。
「まり姉さんって呼んでね!!」