第21話 ジェーン・ザ・テンペスト-4


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ベンチに座ったルノーの煩悶は続く。
(そ、そうだ・・・それだけじゃなかった。あの後確か・・・)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・ぐ・・・・ぇ・・・・・」
ドサッ、と最後のテロリストが地に倒れ伏した。
そのテロリストを見下ろしているのは、鋼の様な肉体を黒いボンデージスーツで覆った男だった。
(・・・へ、ヘンタイだー!!!!)
子供心にもルノーはそう思った。
カルロスが倒れた後、忽然とその場に現れたボンデージ男は瞬く間にテロリスト達を鎮圧してしまった。
重火器で武装した男達を相手に、たった一人で素手でだ。
「命までは取らん。これから裁きを受け、自分たちが犯した罪を償うがいい」
腕を組んだボンデージ男がテロリスト達を見下ろして言う。
そこへ新手のテロリスト達が現れた。
「・・・奴です!!」
「くそっ!! やっちまえ!!」
テロリスト達が重火器をボンデージ男へ向ける。
「・・・・・・・・愚かな」
バッと片手を上げたボンデージ男が掌をテロリスト達に向けた。
「ならば受けるがいい!!! ボンデージファイナルスーパーレーザー!!!!!」
ボンデージ男の気迫のこもった叫びに、テロリスト達が一斉に身構えた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ルノーもダンテを抱きしめたまま、固唾を呑んで状況を見守った。
しかし、何も起こらない。
「・・・ハッタリか!? ナメやがって!!」
そうテロリストの1人が叫び、再度銃を構えたその時、テロリスト達の1人が持っていた通信機にビービーと呼び出し音が鳴った。
通信を受けたそのテロリストが顔面蒼白になる。
そしてフラフラとリーダーらしき男に歩み寄った。
「・・・た、隊長・・・本部が・・・本部が・・・謎のレーザー攻撃で跡形も無く消滅したそうです・・・」
それだけ辛うじて告げると、そのテロリストはがっくりと両膝を地に突いて項垂れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

(・・・・うわああああああああああボンデージのレスラーの記憶だよこれ!!!! 銃士になろうとかそういう動機の欠片も感じられねーよ!!!)
両手で頭を抱えてあうあうと身体を揺するルノー。
そんな悶えるルノーを、やや離れた場所からジェーンが見ていた。
「おーおー悩んでますなぁセンパイ。でもまだまだこんなモンで終わりじゃないもんねー」
瞳を輝かせると、ニヤリと笑うジェーン。
「テッテー的にいじめちゃいますよ。覚悟しちゃってよねん」


ポン!!パン!!とクラッカーの音が鳴り響いて紙吹雪が舞った。
お帰り、と皆が拍手する。
上座の2人、魂樹とマチルダは照れ臭そうだ。
テーブルにはケーキと豪華な料理が並んでいる。
今日は2人の退院祝いなのだった。正確にはマチルダは魂樹よりも2日早く戻って来ていたのだが・・・。
彼女達のもう1人の仲間・・・ジュデッカさんと言ったか・・・はこの場にはいない。
誘ったのだが遠慮されたそうだ。
彼女の事だけは未だによくわからない。話題に名前が挙がると魂樹の表情が曇るのが気になるところだ。
「さあ皆ミートローフは行き渡ったかな」
ミートローフを切り分けて皿を配っていた武蔵山氏が言う。
「今日は奮発して、マツタケの土瓶蒸しもあるのよ」
笑顔でエリスが言った台詞に、シイタケマンがガァン!とショックを受けていた。
「・・・華やかだな」
居並ぶ女性陣を前にグラスを手にしたラゴールがふと呟いた。
そうだな、と同意する。
「誰かを伴侶に選んで身を固める気はないのか?」
何気ない一言だった。
しかしフロアの空気は一瞬でピシッと凍りついた。
なんでこんな硬直が発生するんだ・・・?
動揺しつつも、そういうつもりはないよと返事をする。
談笑している皆の中で、小声で交わされているやり取りだった。
しかし何故だろう、私は周囲に自分たちの会話を全神経を集中して聞き取ろうとしている人がいるような気がする。しかも複数・・・。
「まだ、ユカリの事を引きずっているのか。あれは不幸な出来事だったが、もう何十年も前の話だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それでも。
それでもあの出来事を過去の事として片付けてしまうわけにはいかない。
言い訳がましいが、それでも私は彼女を愛していたよ。
・・・そしてその彼女の未来を奪ったのは、他ならない私自身なのだからな。
そう言って私は自嘲する様に笑った。
笑った・・・つもりだったが、自分がきちんと笑顔を作れているのか自信がが無かった。


銃士隊事務所が朝を迎える。
寝ぼけ眼で歯ブラシをくわえて自室から出てきたカミュが見たものは、ミーティングルームをウロウロしているジェーンだった。
「・・・っかしーなぁ・・・落とすとしたらここだと思うんだけどなぁ」
ブツブツと言いながらテーブルの下やスチールの棚の下の隙間を覗き込んでいる。
「何やってんだお前?朝っぱらからよ」
声をかけるとジェーンは「うわっち!!」と驚いて飛び上がった。
「あー、リーダーちょうどよかった。見ませんでした? 私ここで落としたんじゃないかって・・・」
言いながら自分の首の周囲でちょいちょいと手で輪の形を作るジェーン。
「手首に巻いてたんですよねぇ~。落とすとしたら昨日リーダーぶん殴った時だと思うんだけど」
「・・・何だ? まあ悪いが俺は何も見てねえよ」
何かを無くして探しているらしい。
「ここじゃないのかなぁ・・・? ハー困った困ったコリャコリャ」
「ま、何を探してるのかは知らんがそれはそれとして仕事はきちんとやってもらうぞ」
言いながらカミュがスチール棚から1冊のファイルを取り出してポンと長テーブルの上に放った。
「共和国勢力外の、門に関係してると思われる重要人物をリストアップしてある。お前とルノーは今日はその人物の所在を確認してリストに間違いがないかチェックしてきてもらうぞ」
「あっれ・・・随分ヌルい仕事回してくるんですね? それってアレですか、やっぱしルノーセンパイがまだ本調子じゃないからなんですかね。『クロガネのカミュ』とか呼ばれて恐れられててもやっぱ人の子ですかリーダー。それともあれですか、ロリですかロリなのか!」
「うるせええええええええええ!!!!!!!! 黙って行ってきやがれ!!!!!!!!!!!!」
爆発したカミュの怒号に背中を押されてジェーンがミーティングルームを飛び出した。
「しょうがないなぁ。今はセンパイ探して仕事を片付けちゃって・・・」
ふいに足を止めて自分の左手を見るジェーン。
その手はパリパリと青白くスパークしていた。
「・・・やばいやばい。今はまだ帰れないのよねぇ。やる事残ってるしさ」
ぎゅっと手を握り締めてスパークを打ち消すと、ジェーンは再び歩き始めた。

その日、ルノーは仕事をサボるつもりであるビルの屋上で時間を潰していた。
ところがそこをあっさりとジェーンに見つかり、仕事へ連れ出されてしまった。
「ハイハイハイ、しゃきしゃき働いてくださいねー。センパイ逃げたら私の仕事倍になるんスから」
ジェーンの言葉がルノーをより一層憂鬱にする。
「ってーより・・・・」
と薄笑いを浮かべてルノーを見るジェーン。
「本気でもうやる気ないんだったら、帰国した方がいんじゃないっスか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ルノーは反応も反論もしない。
「『一生懸命やったのに、だけど勝てなかった。しょうがないだろ』って言いたいんスよね? センパイは」
「!!」
今度はルノーが反応した。
瞳を見開いてジェーンを見る。
「その通りだと思いますよ? センパイほんと一生懸命戦いましたし、それでもアイツのがずっと強かったワケっスからしょうがないですよ。ここで帰ったって誰にも何も文句言われませんって」
ヒラヒラと扇ぐように手を振るジェーン。
「・・・私は・・・」
ジェーンに何か言いかけてルノーが口を開いたその時、
「何やってんだお前ら・・・通りの真ん中でよ」
そう2人にカミュが声をかけてきた。
「リーダーお散歩ですか? 今日はいーお天気ですしねぇ」
ジェーンが笑って言う。
「・・・ンなわけあっかバカヤロ。俺はこれから港の部下どもに本国に送るこいつを届けにいくとこだ」
カミュが手にした書類の入った茶封筒を見せる。
「お前らも早く続き・・・」
カミュが通りに面したレストランの中を目にして言葉を止めた。
そこには大龍峰がいた。
ジェーンとルノーもその事に気が付く。
「あー・・・ダメっスよダメよリーダー。大人になろうね自重自重。次は殺されますよ。先日アイツ私がちょっかいかけてキレさせてあるんで」
ジェーンがカミュにそう諭す。
「わかってるってえの・・・」
カミュがタバコを1本取り出してくわえるとライターで火を着ける。
そのまま3人とも言葉が無くなる。
カミュが紫煙を吐き出すフーッという音がやけに大きく響いた。
そしてカミュはフッと苦笑すると、まだろくに吸っていないタバコを地面に落として踏み消した。
「やっぱ・・・大人になるってのは難しいなぁ」
そういうとジェーンの胸にポンと書類を押し付けるカミュ。
「悪ぃ、ちっと持っててくれや」
そう言うとカミュはネクタイを緩めつつ、レストランの方へ歩いていく。
「だから殺されますってリーダー」
その後姿に呆れたように声をかけるジェーン。
「心配無用・・・今度は勝つ!!!」
振り向かずに力強く言うカミュ。
「根拠は?」
「・・・無い!!!」
否定も力強かった。
「ダメだこりゃ・・・なんとかに付ける薬はありませんねぇ。そう思いません? センパイも」
「・・・あ・・ああ・・・」
殺される、そう思ってカミュを捕まえようと前に出たルノーの肩をガシッとジェーンが掴んで止めた。
「ダメダメ・・・行かせられませんよ。私の目の前で2人とも殺らせるわけにはいきませんからね」
ジェーンの台詞にぎょっとしてルノーがその顔を見た。
ジェーンは笑っていない。その表情は真剣だった。
「・・・犠牲になるのはリーダー1人で十分ですんで、センパイは行かせられません」
耳の奥にジェーンの言葉が冷たく響いて、その場にルノーが立ち竦んだ。