第7話 砂海を越えて-1


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帆を上げて、風を切って小船が進む。
しかしここは水の上に非ず。
眼下に広がるのは黄金色の砂である。
「この砂はまるで水の様にきめ細かいの。落ちれば足を付く事はできずに沈んで溺れる事になるから気を付けてね」
ベルナデットが言う。
我々は神都へと向かう最中だった。
不思議な魔術で砂海の上を自走する小船に乗っているのは私とベルナデットとルクとジュウベイの4人だ。
そう、この小船は魔術の力で自走している。帆も上げているがそれはあくまでも補助的なものであるらしい。
「サンドオーシャン・・・地上にもこの様な場所があると聞いた事がありますが、不思議な光景ですね」
彼方まで続く砂の海を見やってルクが言う。
「先程より珍妙な生き物も結構目にするのう。おお、今また何か跳ねたぞ!」
ザッと砂を巻き上げて魚のようなシルエットの生き物が跳ねた。
ジュウベイがそれを指差す。
「砂イルカね。害のある生き物ではないから大丈夫よ」
ベルナデットがカバンからメロンパンを取り出して空中に放った。
砂イルカがそれを器用に空中でキャッチする。
つかメロンパン食べるのね・・・・。

船上で我々はベルナデットから神都についての説明を受ける。
「神都パシュティリカはこの浮遊大陸を支配してい『パーラドゥア皇国』の首都ね。神都はその周囲を六芒星の形に配置された6つの大都に囲まれているの。ラーの都もその六大都市の一つよ」
ラーの都ですら四王国の首都クラスの規模だった。
そうなると一体神都とはどれほどの巨大都市なのか・・・・。
「パーラドゥアは神竜パーラムを奉じる宗教国家なのよ。だから執政者は神官でもあるの」
竜を奉る国家なのか。
私は先日ヨアキムがルクの目を見たときに皇家の者と同じだと言った事を思い出した。
もしかしたら皇家の人々もルクと同じように竜の血が入っているのかもしれないな。
「確か今は王が腑抜けてしまっておるんだったな」
腕を組んでジュウベイが言う。
ベルナデットの顔がわずかに曇った。
「・・・そうね。今の彼は生ける屍も同然。人の呼びかけには応えるけど、意味のある発言はほとんどする事がなくなったわ」
そう言って静かに目を閉じる。
「誰よりも勇猛で聡明だった神皇ユーミル・・・・その彼がまさかあんな風になってしまうなんてね」
「・・・一体何があったのですか?」
ルクの問いにベルナデットが目を開け顔を上げた。
そして私たちを見る。
「5年前に彼はかけがえの無い半身を、最愛の妻を亡くしたのよ」
・・・・・・・・・・・・・・・。
船上に沈黙が舞い降りる。
ただ船が砂を切るザザッっという音だけが響く。
そして私はジュウベイと顔を見合わせて、うーむと考え込んでしまった。
妻無き身の男2人が頭を悩ませた所で辿り着く事はできない心境なのかもしれないが・・・。
自分を喪失してしまう程の悲しみか・・・・。

その時、ザバッと砂を跳ね上げて何かが小船の縁を掴んだ。
!!!!
船上に緊張が走る。
何かが・・・・船に這い上がってくる・・・。
着流しの着物姿の・・・・イカ? しかしその頭部はイカに似てイカではなく、エビの様な殻に覆われていた。
「自分・・・サンド高クラーケンと言います・・・不器用ですいません・・・」
亜種が出たあああああああ!!!!!!!
砂の海にも高クラーケンが!!!!!
「サンド高クラーケンは危険な生物じゃないわ。警戒しなくても大丈夫よ」
そして認知度高いな!!!
そしてベルナデットはカバンから「ごはんですよ」の小瓶を取り出して空中へ放った。
「不器用ですいません!!!!!」
空中でそれをサンド高クラーケンがキャッチする。
「・・・・・・・・・・・えぼし!!!!」
しかし移動中の船上でヘンな角度で飛び上がったのでそのまま空中でマストに直撃した。
「・・・・・・・・・・・・・・おポッッ!!!!」
ドム!!!とうつ伏せに落下してミゾオチを船の縁で強打する。
そしてそのまま船から転げ落ちてサンド高クラーケンは砂の海に消えた。
何がしたかったんだ一体。
「ね?別に危険はないでしょ?」
別の意味ですげー危険だったがな。

その時、またもザバッと砂を跳ね上げて何かが船の縁を掴んだ。
!!!!!
何!? サンド高クラーケンリターンズ!!!???
・・・・・・・・・・・・・・・・。
しかし今度の何者かは船の縁を掴んだまま這い上がってこない。
「・・・・ム!! 人の手だぞ!!!!」
ジュウベイが叫んだ。
なるほど今回は船の縁を掴んでいるのは人の手だ。
ジュウベイがその手を掴んで引き上げようと試みる。
「・・・・・・ふんヌぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!! なんじゃあえらい重さじゃあ!!!!!!」
真っ赤な顔をしてジュウベイが踏ん張る。
ジュウベイの筋力はかなりのものだ。その彼がこうまで引き上げるのに難儀するとは!?
私やルクも加わって必死に腕を引っ張る。
「・・・・・ぷはっ!!!!!」
やがて砂海より女性が顔を出した。
眼鏡をかけた若い女性だ。
耳が尖ってる・・・・エルフだな。
そして我々は続いて砂上に姿を現したものを目にして、その異様な重量の理由を知った。
馬だ・・・・。
女性は船の縁に右手をかけ、左手を馬の首に回して抱えていたのだ。
ドバッ!!!と盛大に砂を撒き散らして女性と彼女が抱えていた馬が船上へ引き上げられた。
重量で船がグラグラと揺れる。
引き上げてみて再度我々は驚愕した。
女性が抱えていた馬はただの馬ではなかった。
その背には翼がある・・・ペガサスだ。
「・・・うぇぇ・・・・口の中ジャリジャリですぅ」
泣き声を上げるエルフの女性。
ほら、とベルナデットが女性に水筒を渡した。
「あ、ご親切にありがとうございます~」
早速女性が口を濯いでいる。
それでやっと人心地ついたらしい。
ふぅ、と一息つくとやっと女性は笑顔を見せた。
「助けて頂いてありがとうございます~。私マチルダって言います」
そしてきょろきょろと周囲を見渡すと
「ところで、アンカーの町ってどっちへ行けば着くんでしょう?」
小首をかしげてそう尋ねてきたのだった。