第9話 陣八捕物帖-3


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アッシュの事務所は、奴のファミリーが経営する安酒場の2階にある。
シグナルを連れて俺はその事務所へやって来た。
よう、邪魔するぜ。
乱暴にドアを開け放つと、その場にいた数名の構成員が色めき立つ。
「なんだテメェ!!!」
「お巡りの来るとこじゃねぇぞ!!!」
流石に光りモン抜いて見せる奴まではいねえが、それでも一触即発の雰囲気ではある。
「・・・・待ちな、お前ら」
その時、奥の豪華な机の革張りの椅子に深く腰掛けていた男が言った。
チンピラどもがその一言で黙る。
・・・・アッシュだ。
「久しぶりだな。葛城の」
通称『傷目のアッシュ』 その二つ名の通りその右目には大きな傷跡がある。
「誰か寄越してくるとは思ってたがお前さんが来るたぁな・・・・。昨日の殺しの話だろ」
そう言うとアッシュは机の上のシガレットケースから葉巻を取り出すと火を付ける。
「・・・悪いが、何も話せるような事はねえぞ。ウチは最近大人しくやってたんだ」
フーッと紫煙を吐くアッシュ。
それから俺はいくつかアッシュに質問してみたが、奴の言った通り今回の事件に結び付く様な話は出てこなかった。
まあこのヤロウが正直に話してるのかどうかはわからんが、少なくとも今ここでこれ以上得るものは無さそうだ。
邪魔したな、と挨拶しつつ退散する事にする。

表へ出ればもうすっかり夜だった。
この界隈は日が落ちてから動き始める。
雑踏をきらびやかで悪趣味なネオンが照らす。
今日んとこはここまでだ。続きは明日だな。お前明日も来る気なのか?
そのつもりだ、とシグナルが答える。
仕方がねーんで落ち合う場所を決める。
「・・・では、また明日」
それだけ言うとさっさとシグナルはいなくなっちまった。
成り行きとはいえ、妙な事になったもんだ・・・。
一応この話、隊長らの耳に入れておかなきゃならんか。

「別にいいんじゃないの?」
翌日、シグナルと落ち合うより早い時間に屯所へ顔を出した俺は、捜査の経過を報告しがてらシグナルの話をした。
その隊長の反応がこれだった。
「コキ使っちめーよ。向こうから使ってくれつってきたんだしよ」
ひっひっひっひ、と笑う隊長。
副長は・・・と伺うと
「隊長がそう言うのだ。私からはそれ以上何も言う事はない」
との事だった。
てなやり取りをしてたら、にわかに屯所の表が騒がしくなった。
・・・・・なんだなんだ。
屯所の入り口んとこで黒スーツの集団とまりか姐がやりあってる。
「とにかく! 捜査に関することはお答えできません! お引取り下さい!」
「バカヤロ関係ないじゃ済まされん! 何か知らんが当分こっちに身柄を拘束されるっつってんだぞウチのが!」
顎鬚の男がそうがなり立てる。その後ろには金髪メガネの伊達男とちっちゃいショートヘアの女がいた。
また黒スーツかよ・・・・最近縁があるな妙に。
「とにかく責任者を出してもらおう! 俺は銃士隊のカミュだ!!」
ぎゃいぎゃいおっぱじまったぞ。
・・・・まいいや、コイツらがシグナルの同僚だってんなら俺は黙っとくとするぜ。
自慢じゃねえがすぐ俺も拳で語り合っちまうからな。
そう思って俺は屯所を後にしてシグナルとの待ち合わせ場所へと向かったのだった。

出先でゴタゴタしたせいでちっと遅れちまった。
待ち合わせ場所にはシグナルがもう来ていた。
・・・悪ぃね。遅れたぜ。
「・・・いや、構わない」
相変わらずの鉄面皮だな、コイツ。
一応言っておく事にすっか・・・。
おめーのお友達が屯所に怒鳴り込んで来ててよ。
「リーダー達が!?」
初めてシグナルの表情にわずかな動揺が浮かんだ。
「・・・気にしなくていいと言って来たんだが・・・」
ま、ドタバタしそうだったんで放ってきたぜ。
「いいのか? 彼らは・・・強いぞ。もしもの事があったら・・・」
いいっていいって、ホラ行くぜ。
モタモタしてたら置いてくぞ。
歩き出した俺に慌ててシグナルが付いてくる。
歩きながら思う。
強い、か・・・そうだろうな。
3人ともオーラがバリバリ出てたもんな。
けど副長程『怖い』と思った奴はいなかった。・・・それが全てだ。
だから俺は何の心配もない。

午前中の内に、昨夜の内に連絡しておいた複数の情報屋と会った。
連中にゃ殺された4人が個人的に抱えてたトラブルを洗わせた。
・・・ま、結果は真っ白だ。
特に4人とも何か個人的なトラブルを抱えてたって話は出てこなかった。
となるとやっぱ「組」絡みか・・・。
しかしアッシュのあの様子じゃ突いても中々尻尾は出してくれなそうだぜ・・・。
等と手近なレストランで昼食を取りつつ考えていると・・・。
「アッシュのファミリーはどのくらいの人数がいるんだ?」
そうシグナルが尋ねてきた。
・・・正確な人数は22人だ。アッシュと構成員21人だな。
「それならまず、殺された4人以外に最近連絡が取れなくなっている奴がいないか調べればいい。ファミリー内のトラブルなら、な」
・・・・・・・・・・・・・・。
なるほど道理だ。
食事を終えると部下一人を呼んで伝言した。
第三小隊全員でアッシュのファミリーの所在を確かめて来るようにってな。
数時間後に、部下が一人の名前を調べ上げてきた。
事件の一週間程前から所在がわからなくなっている男がいる、と。
名前はビリー・エマーソン。
はぁ・・誰かと思えばビリーかよ・・・ま、コイツが犯人って事ぁねえな・・・。
「知っているのか?」
シグナルの問いに俺はうなずいて見せた。
まぁな・・・面識はある。
コイツはアッシュのファミリーん中じゃ一番の下っ端だ。やたらと威勢が良くて調子だきゃいい奴だが。中身はほんの小物だ。ケンカは滅茶苦茶よえーし、何より本気で脅せばそんだけで真っ青になってガクガク震えだすような奴だ。
こんにゃろうにあの殺しはできねえよ。あの現場見せただけで卒倒すんぞ、きっとな。
「・・・だが事件に関係している可能性はある。調べよう」
そうだな。コイツもどっかでブッ殺されてる可能性だってあるしな。
ビリーのヤロウは身寄りがあんのか?
答えて部下が資料を読み上げる。
それによると、ビリーは現在24歳。今から10年前、アンカーの町が出来てすぐに父親と2人でこの島に来たらしい。母親は離縁してんのか死別してんのか・・・それは資料にゃなかった。
父親は雑貨店を営むも6年前に病死。ビリーはその当時からもうアッシュの組に出入りしてて、自分が継いだ店も土地もすぐに博打でスッた時の借金の肩に取り上げられちまってる。
・・・ホントしょーもねぇヤロウだなこいつは。
じゃコイツ今は天涯孤独なのか。
「幼馴染だか、恋人だかって女がいるみたいです」
部下がもう一枚の資料を出してきた。
何々・・・アンナ・マシューズ・・・23歳か。
さてこの女がビリーについて何か知ってるのか・・・・。
「行くか」
シグナルが言う。
・・・よォし、まずはこの女当たってみるとするか。
こうして俺達は連れ立って夕暮れ時の通りへ踏み出したのだった。