第4話 Northern Tiger-4


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あいたたた・・・。
私は工房でゲン爺の手当てを受けていた。
傷口に薬を塗ってもらい、ガーゼを当てて絆創膏で止めてもらう。
「こうしてお嬢の手当てしてやんのもよォ、随分久方ぶりの事だあな」
そういえばそうだねー。
一緒に船に乗ってた時は頻繁に獰猛な海洋生物や海賊や軍船とのバトルがあったんで、私はよくゲン爺に手当てを受けてた。
「10年も寝かされててよォ、ちったぁ大人しくなったかと思いやぁこれだもんよう」
へっへっとゲン爺が苦笑する。
あはは、私はずっと私。変わんないよ。
その時、誰かが後ろから座って手当てを受けている私の頭をペチンと軽く叩いた。
イタ。
振り向くとキリコがいた。
「・・・見てたわよ、さっきの。なぁに?あのお粗末な戦い方」
キリコに言われて私はウッ、と言葉に詰まった。
「色々考えてたのはわかるけど、まずは負ければ終わりっていう事を自覚なさいな」
・・・・そうなのだ。
私はさっき、右目の包帯を外さなかった。外せなかったのだ。
全力を出して暴れて工房がどうかなってしまったら・・・そんな事を考えていた。
でもキリコの言う通り、負けたらそれどころじゃなかったんだ。
・・・ごめん。とキリコに謝る。
「私に頭を下げる必要はないわ。・・・それからそっちの2人も」
お弟子さん達に手当てを受けているイブキとアヤメの方を向く。
「戦う事に迷いがあるならでしゃばらず後ろにいなさい」
キリコに言われてアヤメが息を飲んだ。
そして俯いてしまう。
「貴方も手を抜いていたわね」
「・・・やー、ゴメン・・・どうもラーメン好きな奴に本気って出せなくって・・・」
たはは、と苦笑したイブキが鼻の頭を指で掻いた。
三銃士エリックってラーメン好きなんだ?
うん、とイブキが頷く。
「アイツは味噌も醤油もどっちもイケるんだけど、醤油の方がより好きみたい。それも透き通っているのにまろやかなコクのある魚介系スープが特に好みね。カタクチイワシでダシを取ったスープがベスト。麺の好みは細麺固め。トッピングは木耳と味玉」
・・・・って、知り合いなの?
ううん、と今度は首を横に振る。
「初対面よ。私、そいつのラーメンの好みって目見ただけで大体わかるから」
凄い特技だな!!!!!!
「ちなみにあなたはコッテリの豚骨スープが好みね。太麺にチャーシュー増し、ネギ増し、メンマ抜き」
「・・・う、当たってる・・・」
これには流石のキリコも怯んだ。

一夜明けてオフィス。朝食の席。
「・・・・・で、何でエンジン見に行って怪我一杯して帰ってくるのよ」
じーっとえりりんが私を睨む。
私は乾いた笑い声を出しつつ視線を逸らした。
まいったなー、いらない事言って心配させたくないんだよなー。
・・・や、ちょっと・・・暴れゴリラが出て・・・。
我ながら苦しい。
「・・・暴れゴリラ!? 物騒ねぇ・・・どこから迷い込んだのかしらね。気をつけなさいよホントに」
しかし通じた!!
私はそんなやり取りを眺めながら無言で食事を取っていたシンラの方を向いた。
オババってどうなったか知ってる?
昨夜は気がついたらいなかったんだよね。
「電話があった。誰かにとり憑いたからしばらく帰らないって」
とり憑いた・・・・。
「それで、今日も工房に行くの?」
えりりんに問われて私はうん、と頷いた。
昨日の今日でとは思うけど、念の為にね。
一応三銃士にはキリコが見張りを付けてくれてて、動けばすぐに連絡が来るようにはなってる。

「聞いたよ聞いちゃったよオジさん。なんか早速派手にやったらしいじゃないのよ銃士隊の連中とさ」
表に出た所でスレイダーのおっさんに声をかけられた。
だってさー、絡んでくるんだもん。
「まあしょうがないよね、連中その為に来てるんだからね。やらかす気なら声かけなよ。しとりんちゃんとか海里とか加勢すっからさ。オジさんは後ろで応援してるよ」
どうせうちは小国で他に頼ってる部分ないし、共和国に睨まれても構やしないんだ、とおっさんは笑った。
さんきゅー、と親指をビッと立てる。

そして何事も無く2日が過ぎ、3日目も夜になった。
私は工房でえりりんの作ってくれたお弁当を広げていた。
今日もイブキとアヤメは来てくれてる。
何となく関わってしまって放っておけないらしい。
ひょいと脇から手が伸びてきておかずを1品さらっていった。
「あら、美味しいササミフライ」
キリコだった。
むー・・・とんなよぅ。
文句を言ってやろうとしたその時、突然表から大音量でオーケストラの勇壮なマーチが流れてきた。
!!??  ・・・・ちょっと何事!!!!??
皆で表へ飛び出す。
そして私たちは揃って絶句した。

町の上空に巨大な飛空船が浮かんでいる。
ライトアップされたその威容はまるで空に浮かんだ城砦だった。
「・・・・・エイブラハム。共和国最大の蒸気式機動戦艦ね」
1人普段通りの調子でキリコが言う。
『ハーッ!! ハーッハッハッハ!!! ごきげんよう!!親愛なるアンカーの町の諸君!!!』
演奏に負けないくらいの大声が響く。
飛空船の縁に大柄でゴツいタキシードのオッサンがいた。
あれは・・・確か・・・・。
『これは、ささやかではあるが、私の来島記念品だ。受け取ってくれたまえ!!!!』
船がゆっくりと町の上空を旋回しながら何かをバラバラとばら撒き始めた。
私達の頭上にもそれがいくつかゆっくりと落ちてくる。
それは小さな落下傘の付いた白い布袋だった。赤いリボンで口が閉じてある。
開けてみると中には可愛い熊のヌイグルミが入っていた。
「こっちはワインね。いい銘柄よ、これ」
キリコも一つ袋を開けていた。
「デザイナーズブランドのシルクの婦人用手袋」
「ローラースケートです」
イブキとアヤメも袋を開けてみて言う。
カードが添えてある。
『愛を込めて ジェイムズ・アレス』
・・・・・やっぱり・・・・・・。
大統領だ・・・・。
町はすぐに大騒ぎになり、人々は喧騒の中空から降ってくる袋に手を伸ばし続けた。
「フゥハハーッ!! どけぇい!! 木っ端町人どもがぁーッッ!!!」
あー民子さんの声が聞こえるよどっかから・・・・。
その時、ガシャンガシャンと重たい金属音や蒸気の噴出音が聞こえて私たちはそっちを見た。
「・・・・よぉ、また来たぜ」
背後に残りの銃士達と、背部に蒸気エンジンを搭載した2m以上ある無数の鎧を従えたカミュがそこにいた。

ちょっと、上のやかましいオッサン、お宅のボスじゃないの?
そう言うとカミュがげっそりした顔をする。
「言うんじゃねぇ・・・・バトってる間くれーは忘れてたいんだ。あの祭好きオヤジが・・・・」
ふーっと重たいため息をつくカミュ。
すっとアヤメがシグナルの前に出た。
「今日は私がお相手仕ります」
「・・・・いいだろう」
シグナルが魔剣ローレライを抜く。
エリックとルノーの前にはイブキが立ちはだかった。
「お嬢さんとDDが今日の我々の相手ですか」
イブキがニヤリと笑って首を横に振る。
「私のパートナーは別にいるわ。言っておくけど今日は先日とは一味違うわよ!」
それは楽しみですね、とエリックが余裕の笑みを浮かべる。
「・・・で、もう1人はどこかいな」
ルノーが言ったその時、背後から風切り音がした。
「・・・・・・!!!」
飛来する何かをルノーが納刀したままの鞘で受ける。
何かが鞘に巻きついて背後の何者かとルノーの間でビン、と張った。
「・・・・・誰だお前」
ルノーが眉をひそめる。
・・・鞭だ。
背後の人物がゆっくり街灯の下へ出てくる。
「・・・・アタシかい? アタシはね・・・・」
街灯の光に照らされて褐色の肌とブロンドが浮かび上がる。
「ラーメン食べに舞い戻って来た、ただのサソリさ」
そう言ってキリエッタは不敵に笑って見せたのだった。