第11話 柳生霧呼の世界-3


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そこからはルノーの独壇場だった。
最初はぶらぶらさせてるだけだった右手もその内普通に動かしてる。
着てると治癒能力も高まるのかな?
「・・・ホラホラもう勝負ついたろ。さっさと尻尾巻いて逃げ帰ってくれー・・・面倒だし」
バシッ!と1人を峰打ちで昏倒させつつルノーが言う。
「・・・フン、ふざけるなよ」
苛立たしげにカート大差が葉巻を投げ捨てて足で乱暴に揉み消した。
「我々が帰還する事があるのならそれはキサマらを全員抹殺した後だ! 任務に失敗しておいて戻れる祖国などないわ!」
バッと手を上げるカート。
それに応じ、彼の背後の路地から大勢の増援が現れた。
「・・・げ、どんだけ連れて来てんだよ・・・ったく・・・」
ルノーが舌打ちする。
そして増援部隊に対するべく刀を構え直す。
・・・その時だった・・・。

『盛り上がっている所悪いのだけど』

別の路地からゆっくりキリコが出てきた。
「その子は貰っていくわね。色々と忙しいの、私たち」
そう言ってキリコは私の所へ歩いてくる。
この戦場の只中にあって、そのあまりに自然な振る舞いに、誰もが毒気を抜かれて一瞬黙って彼女の行動を見守った。
しかしすぐに我に返る者が出る。
・・・それが自身の不運の始まりとなる事にも気付かずに。
「・・・貴様何者だ! 動くな、大人しくし・・・」
兵士の1人が突き付けてきた斧槍の先端をキリコがそっと持つ。
「どの口が言うの。塵芥」
そしてその穂先をぐりっと無造作に捻った。
ぐるり、と斧槍が回転する。
ただそれだけ・・・・鉛筆が転がるにも等しい何ら驚くには値しない変化。
しかしその回転は斧槍を持つ兵士の手元に恐ろしい変化をもたらしていた。
否、手先より伝わり全身にだ。
ごきごき、と嫌な音がして兵士の手首が捻じれてあらぬ方向を向く。
「・・・・・あぇ?」
と当の兵士は間抜けな声を出していた。
その次の瞬間、ねじれは兵士の全身に伝播した。
一瞬にして凄まじい数の骨が折れ砕けた嫌な音が響き渡った。
私も、ルノーも、兵たちも・・・・誰も何が起こったのか正確に理解できてない。
ただ目の前で、雑巾のようにあっさりと・・・1人の人間が見えない力に捻じり上げられて・・・絶命するのを見守るだけだった。
全身を捻じられて絞られたその死体は、どこかクロワッサンにも似て、悪趣味な冗談のような・・・・そんな無残な滑稽さを感じさせる。
「殺せぇーッッッ!!!!」
カート大佐が叫ぶ。
目前のルノーの始末よりも優先する。
彼らにとっては闖入者であり、逃す事はできない目撃者が、得体の知れない恐ろしい何かである事に気付いたのだ。
一斉に、数十人の兵士がキリコに踊りかかった。
キリコは微笑んだままそれを迎えると、先頭で斬りかかってきた兵士の一撃をふわりとかわすと、その手首を手にとって捻り上げた。
彼女がした事は『ただのそれだけ』だった。
バキバキバキバキ!!と手首を捻られた兵士の全身が捻じれる。そしてその捻じれは彼に触れていた隣接する別の兵士へもそのまま伝播した。
・・・ギイッ!! ・・・あがぁああ!!!!
獣じみた悲鳴を何人もが上げる。
密集形態が災いして、捻れは一気に大勢に伝播した。
捻れていく兵達は驚き、おののいて暴れ、後ずさり、他の兵に接触してしまいさらに伝播は広がった。
地獄の様な光景だった。
「・・・たっ、大佐ぁ! 助けてくださいぃ!!!」
捻れに全身を覆われながら兵士の1人がカートへと手を伸ばした。
「・・・やっ、やめろ!! 私に触るな!!!」
カートがその兵から逃れようと後退する。
そのカートの眼前で兵は全身を捻じり上げられて倒れた。
倒れながら、その伸ばした手の指先が、かすかにカートの鎧をかすめた。
「・・・おい、なんだよこれ・・・」
その掠められた部分からカートの全身に捻れが広がる。
「・・・なんだよォこれえええ!!!!!!」
絶望の涙をこぼして、恐怖の絶叫を上げながらカート大佐がその身で螺旋を表現しながら倒れた。

恐慌状態になった兵たちが皆キリコに背を向け逃走する。
何十人もが細い路地に一気に殺到した為に詰まって身動きが取れなくなっている。
どけ!!というような怒号が飛び交う。
「・・・・どこへ行くつもり?」
キリコが足元から斧槍を1本拾い上げた。
「そう、逃げるのね。・・・でもどこにあるの? この地上に。私から逃げられる場所なんて」
フッと軽く斧槍を投擲するキリコ。
最後尾の兵の背にその斧槍が炸裂する。
そしてその兵から捻れの伝播が始まった。
「教えて・・・知りたいのよ。誰か逃げおおせて、この世に『絶対』なんてないのだと、私もこの手から取りこぼすものがあるのだという事を教えて頂戴」
路地の中にひしめく兵士達は皆捻れて絶命する。
そんな中、ほんの数名だけ先頭を走っていた者達が伝播した兵に触れずに路地から脱出する事ができていた。
助かった、とその兵は思っただろうか。
自分が見慣れぬ城の庭園をいつの間にか走っている事に気付くまでの僅かな時間で。
「・・・・・『千年城』」
自身がその庭園で大理石の像に成り果てるまでの僅かな時間で。

く・・・あ・・・と、ルノーが何か言いかけて黙った。
自身の言いたいことが、歯の根が合わずに言葉にならない事を悟ったのだろう。
私も歯鳴りこそなかったものの、全身に震えはあった。
誰かを怖い、と初めて思った。
彼女は絶対者だ。敵対するものを確実に葬り去る死の法だ。
・・・『触れてはならない存在』だ。
そう、感じた。
いや、自分の事よりも、ずっとずっと強く・・・・。
ウィルを彼女と戦わせてはいけない、と。
私はそう思った。
「・・・無意味な時間だったわね。さあ行くわよ。準備を急いで頂戴」
キリコが私を見て言う。
瞬間的に彼女に言いたい事は色々思い浮かんだが、その言葉を飲み込んだ。
・・・殺さなくても、どうにかできたはず・・・。
その事を一番強く思ったが、でも彼らも殺すつもりでかかってきていた。
・・・むぅ、しょうがない事とは思うけど納得はできないよ。
「・・・いやー・・・騒がしかったけど何事ですか?」
そこへカルタスが、私が隠れていろと指示した路地からひょっこり顔を出した。
「・・・・ちょっと・・・・」
キリコがそのカルタスへつかつかと歩み寄る。
そしてカルタスをまじまじと見つめる。
状況が掴めないカルタスは目を白黒させるばかりだ。
「ど、どちら様でしょうか? 私はカルタス・ボーマンと申しまして・・・」
「・・・・鼻・・・・大きすぎるでしょう!!!!」
何故かバシーッ!!!と思い切りカルタスをひっぱたくキリコ。
「コイサンマン!!!!!!」
カルタスは吹っ飛んで壁を突き破って消えていった。