第27話 理想郷計画-2


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エメラダ・ロードリアスの魔力によって我々の頭上に浮かび上がったスクリーンに、『神の門』と思しき装置の映像が浮かび上がった。
その外観は円形の金属の台座の様な物の周囲に6本の金属柱が並び、台座上空に球形の力場を形成している。
・・・これが、神の門・・・。
「『神の門』が転移装置である事は貴方達もご存知でしょう。でもこの装置は現存する他のあらゆる転移装置とも一線を画する物ですのよ。・・・その最たる特徴は『転送させる物はその場に無くてもいい』という点ですわ」
・・・!!!
エメラダの言葉に私は驚愕する。
転送させるものがその場に無くてもいい? 遠く離れた所にある物を別の場所へ転送できるのか。
「ええ。装置で座標と転送したい物を指定すればこの地上にあるいかなる物も転送が可能ですわ。そしてその質量も、見合ったマナの消費さえあれば上限は無し。これがどれ程素晴らしい事なのか想像ができまして?」
どんなに離れた場所にあるどれ程の大きさの物でも・・・自由に選んで飛ばしてしまえるのか・・・。
自分の頬に汗が伝うのがわかる。
・・・各国が血眼になるのも肯ける。これは想像以上にとてつもない装置だ・・・。
A国の火山の内部の溶岩だけを指定してB国の上空に転送して火の雨を降らせることも、C国の首都をそっくりくり抜いて海底に沈めてしまう事も可能なのか・・・。
ではギャラガー・・・お前は神の門を手に入れて世界を我が物とするつもりなのか。
「誤りを訂正しよう、ウィリアム・バーンハルトよ」
ギャラガーが傲然と私を見下ろす。
「この世界はとうの昔に『指導者』たる我が物である。故に私が世界を手に入れんと何かをする事などありえん。『理想郷計画』とはその我が世界を美しく整える為のものだ」
確かに・・・この男は既に世界を半ば裏から牛耳っている。
今更征服戦争等仕掛けるメリットは大して無いだろうが・・・。

その時、背後に足音が響いて私は後ろを振り返った。
「・・・おおっとォ。こりゃ失礼、お話中でしたかいのお」
スーツ姿の大男がそこに立っていた。
事前に渡されて目を通していた資料の中にあった顔だ。
・・・確か、『ハイドラ』の1人大龍峰・・・。
その大龍峰が抱えたり引きずっていたりした物をその場に下ろした。
・・・・っ・・・・。
奥歯を噛む。辛うじて喉から漏れかけた叫び声を抑える。
大龍峰が地面に転がしたものはDDとクラウス伯爵とベルの3人だった。
3人とも傷を負っており、意識は無いものかピクリとも動かない。
「そうおっかない顔をするな。殺しちゃおらんわい」
恐らく険しい表情をしていただろう私を見て大龍峰が言う。



そんなウィリアム達の様子を物陰から銃士達が伺っていた。
(・・・総帥ギャラガー・・・まさか島へ来ていたとは・・・。難しい状態になった)
エリックが表情には出さずに内心歯噛みする。
「これって・・・ヤバいんじゃないのか?」
ルノーも真剣な表情をしていた。
「バカヤロ、俺たちの仕事がヤバくなかった事なんかあるか」
カミュがフーッと煙草の紫煙を吐き出しつつ言う。
「身隠してんだから煙草は消せよな」
そんなカミュにルノーが呆れたようにツッコむ。
「とにかく・・・」
とエリックが残る3人を見る。
「我々はより一層の慎重な行動が求められるという事ですよ。・・・ここから先は小さな一つのミスが即、死に繋がるという事を覚悟しましょう」
全員緊張した面持ちで肯く。
・・・しかし、恐れや怯えが表情にある者は誰もいなかった。

水晶遺跡の最下層大広間で、2組の死闘は続いていた。
ドラゴンブレイドを構えたELHがじりじりとエトワールとの距離を詰める。
「ハラに穴開いちゃってんだからよ・・・無理しねー方がいいんじゃねーの、オマエ。・・・色々こぼれ落ちていくぜ? モツとか明るい未来とかな」
対するエトワールが手にした刀をELHに向けてニヤリと笑う。
「元より・・・この命はあの日の大和で失われるはずの命であった。それがここまで永らえている事こそおかしな話といえばおかしな話よ」
竜剣の柄を握り締め、ELHが過ぎ去った遠い日々を想う。
「明るい未来か・・・共にヤマトの未来を語り合った仲間達は既におらぬ。拙者だけがこうして1人生き恥を晒しておる。・・・ヤマトの未来は今彼の地に生きる者たちに任せた。ならば拙者はこの世界の未来の為に拾ったこの命を賭けるのも悪くはない」
「そーいやおめー、前にもそんな事のたまってたなぁ・・・」
フン、とエトワールがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「最後だし、ちょっとだけ真面目にQ&Aしてやるよ。・・・やめときなそんなの。『あいつらにそんな価値はない』」
エトワールの言葉にELHの眉がピクリと上がった。
「確かにうちらは目に見えないでっけー力で世の一般ぴーぷるの人生を押さえ込んだり時には捻じ曲げたりしてますよ? だがねーそれを一方的に『悪いコト』と決め付けちまうのは早計ってもんだぜ。・・・ELH、おめーはわかってねー。もしくは忘れちまってる。この世の中にゃ望んでそういう立場に甘んじてる連中だってゴマンといるんだぞ」
ELHに突き付けていた刀をエトワールが引いてカチャリと肩に担ぐ。
「自由と責任は一枚のコインの表と裏だ。知ってるよな? だからリスク背負うの避けて大きな流れに迎合する奴はいくらだっている。『自分』なんてモン持たねーで、好きで右へ倣えやってるヤツらだ。そんなくだらねー連中の為にこんな誰も知らねー場所でおめー1人が必死に血流してどーすんの? 無駄だって・・・ムダムダ」
何かを払うように眼前で右手をパッパッと振るエトワール。
「・・・エトワール・D・ロードリアス」
ELHがエトワールの名を呼ぶ。
「若干17歳にして剣術、魔術、学問その他諸々において天賦の才を如何なく発揮する娘・・・生まれながらに支配者の御主にとっては、世の民人はさぞかしつまらなく小さな存在であるのかもしれん・・・」
その構えは揺ぎ無い。瞳の光も翳らない。
ELHが静かに、しかし力強く言葉を続ける。
「そんな御主と同等の『強さ』を皆にいきなり求めるのは酷というものだ。・・・少しずつでいい。少しずつ前へ進めばよいのだ。人は変われると拙者は信じている。その僅かな1歩の積み重ねが、いつしか今よりも少しでも悲しみと痛みの減った世界を作るのだと信じる。・・・ならば拙者はその僅かな1歩の為に、この命を賭けよう」
その言葉は、その想いは果たして金色の髪の少女にはどう届いたのだろうか。
僅かな沈黙の後でエトワールは口を開く。
「フン・・・てめーのバカさ加減はうちの想像を大きく超えてたぜ・・。そんなに死にたきゃうちがこの手で送ってやるよ」
言葉に殺意を滲ませ、エトワールが再度刀を構えた。
「如何な御主とてこの拙者の命易々と刈り取れるとは思うな・・・!! 見るがいい!! これが真の・・・」
全身にググッと力を込めたELHがバサッ!!と豪快に着物を脱ぎ去った。
「・・・脱衣!!!!!」
「半殺しにする前とした後で結局やる事が変わってねえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」
広間にエトワールの悲鳴交じりの絶叫が響き渡る。
「何を言う!!!! これは今より死兵となりて戦に挑まんという決意の脱衣!!! これまでの脱衣とは訳が違うぞ!!!!」
「わかるかこのオタンコナス!!! うちにはその違いがわかんねー!!!!!」
手にした刀をブンブンと振ってエトワールが叫ぶ。
「脱衣一つにも様々な意匠があるのだ!! 『ありがとう』の脱衣とか『また会おう』の脱衣とか!!!!」
「てめーそれ適当に理由つけて脱ぎたいだけじゃねーかドあほう!!!! おめーは何だかんだと親類の小さな祝い事を理由にして毎回宴会しようとする田舎のおじーちゃんかよ!!!!!!」
ジャキン!と竜剣を構えてELHが体勢を低くする。
「・・・最早問答は無用!!! 受けよエトワール!! 我が飛翔竜吼斬!!!!」
「!!!!」
咄嗟に構えを取るエトワールに、地を這うようなELHのスライディングキックが炸裂する。
直撃を受けたエトワールが床に倒れ伏す。
「・・・飛翔しねーし斬撃じゃねーし・・・」
倒されたエトワールが恨みがましく呟いた。

片目を奪われたエルンスト・ラゴールと柳生霧呼の形勢は完全に逆転した。
レイピアを取り出し攻勢に転じた霧呼はラゴールを追い詰めて確実にダメージを与えていく。
左側が死角になり、また隻眼となった事で距離感が掴めなくなったラゴールは霧呼の攻撃に対応する事ができずにいた。
しかも、彼の愛刀は今半ばより折られてしまっているのだ。
その事がより間合いの把握を困難にしていた。
「・・・何もさせないわ」
激しい攻撃の中、霧呼が呟くように言う。
「手を緩めたら、貴方は何をするかわからないものね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
半ば王手(チェック)をかけたこの状況で、尚も攻め手を加速する霧呼。
(もう・・・一生涯あの姿になる事は無いと思っていたが・・・)
刺突の嵐の中、無数の負傷を刻まれつつラゴールはどこか遠くを見ていた。
幼い頃から自分の真の力と真の姿を誰よりも忌み嫌ってきたのは他ならぬラゴール自身であった。
例えこれから倒す敵であろうと、自分のあの姿を見られるくらいならば死んだ方がマシだと何度思ってきた事だろう。
(だが、今ここでやられるわけにはいかん・・・!)
ラゴールの右目がギラリと鋭い輝きを放つ。
退く一方であった両足を踏みしめてその場に留まる。
そしてラゴールは霧呼の突きを右手で受け止めた。
「・・・・・んっ」
霧呼が声を微かに声を出す。
レイピアの刃はラゴールの掌を刺し貫いて甲へと抜けている。
(右手を捨てた・・・? この状況で・・・)
瞬間、霧呼の背筋を悪寒が走った。
ざわりとラゴールの髪が波打った。
レイピアの突き刺さったラゴールの手はいつの間にか銀色の獣毛に覆われていた。指先には鋭く長い爪が並んでいる。
「貴方・・・まさか・・・」
メキメキと音を立てラゴールの姿が変容する。
口は裂け、鋭い牙が覗く。その顔も銀の毛に覆われていく。
「飢狼変(ウルヴズフォーム)・・・勝負はここからだ、柳生霧呼」
白銀の長い毛に覆われた人狼と化したラゴールが両手の爪を縦横無尽に振るった。
「・・・・!!!!!」
咄嗟に霧呼がガードに両腕を上げる。
その腕をズバズバと赤いラインを残して爪が切り裂いていく。
思わず霧呼が後方へ飛んだ。その両手からボタボタと床に血が滴り落ちる。
「・・あはっ・・・あはははは!!!」
霧呼は笑った。
楽しくて堪らないと言う様に笑った。
そして霧呼の真紅の瞳が無限の殺意を秘めてラゴールを捉える。
「・・・生意気よ、エルンスト・ラゴール!!!!!」
霧呼がラゴールへ向かって跳んだ。同時にラゴールも霧呼に向かって跳んでいた。
・・・そして空中で2人の一撃が十字に交差した。

エトワールの放った「ジャックインザボックス」により強制的に転移させられた者たちは『始まりの船』の居住区にバラバラに飛ばされていた。
勇吹もその1人だ。
今彼女は薄暗い廃墟の町を駆けている。
「リュー・・・どこよ・・・。後マキャベリーってやつ・・・」
周囲を見回しながら勇吹は走り続ける。
ここがどこかもよくわかっていない彼女は出鱈目に走り続けるしかない。
「・・・!・・・」
ふいに何かを感じて勇吹が足を止めた。
(・・・今、何かが追い抜いていった・・・)
目で見えたわけではない、感覚でそう感じた。
そして勇吹を追い抜いた「何か」は彼女のすぐ前方で停止していた。
眼前の地面がぼうっと黒く蟠る。
そしてその黒い染みのようなものからズズズと何かがゆっくりと這い出てきた。
その何かはフードを深くかぶって灰色のマントで全身を覆っている。
地面に伸ばした両手は隙間なく包帯で覆われていた。
そしてフードの奥には不気味な仮面が覗き・・・さらにその仮面の奥に赤く輝く目が見える。
「・・・くっ!!!!!」
戦慄した勇吹が大きくバックステップで距離を取った。
それは普段の彼女からは考えられない程の大きな退避だった。
冷たい汗が全身に浮かびあがる。
かつてない濃密な死の気配を肌で感じる。
・・・その「何か」は『テラー』と呼ばれている。
財団総務部、ピョートル配下最強の怪人だった。