第10話 多層都市パシュティリカ-2


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ベルナデットの言葉に衝撃を受ける。
かつてグライマーに聞かされた最強の魔人ゼロ・・・・そのゼロがこのパーラドゥア皇国のかつての神皇だったというのか。
「元々この皇国は神竜パーラムと共に封印を監視する役目を持った国だったんだけど、まさかその国のトップが封印を受ける側に回るとは皮肉よね」
ベルナデットが肩をすくめて言う。
「詳しい話はまたいずれ説明するけど、今狂皇ラシュオーン・・・・ゼロは眠りについてる状態なのよ。彼の復活を待ち望んで彼の好んだ死と破壊を撒き散らそうっていうのが黒の教団なの」
シャークを思い出すな・・・どこにでも迷惑な集団というものはいるものだ。
「さて、私はちょっと皇宮に入ってあれこれと報告してくるわ。アレイオン、ウィルたちをフェルテの所へ案内してあげてくれる?」
「わかった。任せてくれ」
トン、と自らの胸を拳で軽く叩いてアレイオンが微笑む。

市街の分かれ道をベルナデットが皇宮へと向かっていった。
それを見送るとアレイオンが我々を先導し、別の道を歩き始めた。
「それでは皆さんを『白の将』フェルテナージュ・オウレスの館へご案内しますよ」
ソツが無く爽やかな好青年なんだがなぁ・・・・。
性癖がなんとも・・・・。
やがて我々は大きな通りに出る。
「長旅で皆さんお疲れでしょう。『輿竜』を手配してあります」
コシリュウ? 皆で顔を見合わせる。
やがてその「輿竜」が足音を響かせてやってきた。
四足で歩く大きなトカゲの様な爬虫類だ。その名の通り輿を背負っている。
大きな輿だ・・・・椅子が2列4脚の8人乗りか・・・・。
手綱を持つ兵士が、将軍お待たせしました!と鞍上で敬礼した。
「さあ乗って下さい。大丈夫、大人しい生き物ですよ」
私とルクとジュウベイが乗り込む。マチルダは輿と同じ位の高さにペガサスを浮かべて跨り付いて来ている。
「この国には珍しい亜竜種が存在しているのですね」
ルクがキョロキョロと周囲を見回して感嘆する。
帝国にはいないのか?
ルクが静かに首を横に振る。
「ガルディアスではワイバーンを戦闘用に飼育しているのみですね。見て下さい、ほら」
ルクが指す方を見る。
数名の兵士がそれぞれダチョウに似たシルエットの爬虫類に跨って街を歩いていた。
「馬の代わりなのでしょうね」
「あれは『走竜』といいます」
我々のやり取りを見ていたアレイオンが説明してくれる。
「察するところ皆さんはあまり『恐竜』を見ない土地からいらしたようですね。我が皇国は神竜を崇め、恐竜と共に在る国家。他にも様々な種類の恐竜達と共に暮らしているんですよ」
やはり竜国家か・・・・ひょっとして彼は・・・・。
アレイオンを見る。
ルクが頷いて
「ええ、私と同じドラグーンですね」
と言った。

やがて輿竜は大きな白い館の前に着いた。
どうやらここが目的地、白の将の館のようだ。
侍女と思しき女性に案内され、ある部屋へと通される。
そこは診療室の様な部屋だった。
白いアーマーローブを身につけた髪の長い女性が跪いて、杖を持った老人の膝に手を当てていた。
その手から柔らかい光が溢れる。
「はい、もういいですよ。次は一週間後にまた来て下さいね」
そう言って微笑む女性に、老婆は何度も頭を下げて出て行った。
それを見計らってアレイオンが声をかける。
「やあ、フェルテ。ベルのお客人をご案内してきたよ」
そう言ってやっぱり胸を見たアレイオンは満足そうに頷いていた。
慣れているのか諦めているのかそれに反応を示す事無く、微笑んだ女性がこちらへ頭を下げてくる。
「フェルテナージュ・オウレスです。お見知り置きください。皆様の事はベルナデットからの手紙で伺っています」
私たちもそれぞれ頭を下げて自己紹介を済ませる。
「それではウィリアム先生。早速先生にかけられた術を調べてみます」
そう言うと彼女は私を椅子に座らせ、いくつかの術をかけた。
どれも特別身体に変化は無い。スキャン系の術なのだろうか?
ちなみに私の現状を詳しく知らないマチルダだけは我々が何をやっているのかまったく理解していない。
彼女は骨格模型の頭を撫でたり顎をカチカチやったりしている。
「・・・・解析が終了しました。自己流で複雑な術ですが、解呪は可能です」
!!! なんとあっさり!!!
て、今一瞬ちょっとルクが残念そうな顔した!! 見逃さなかったぞ!!!
「長く影響下にあれば現在の症状以外にも身体に悪影響が出てくる類の術です。すぐ解いてしまいましょう」
フェルテナージュが言う。
まあそりゃ妖術とかいうくらいだもんなぁ・・・身体には良く無さそうだ。
ともかく願っても無い話だ。
お願いします、と頭を下げる。
座ったままの私を前にフェルテナージュが呪文の詠唱に入った。
彼女の身体が輝き出し、その長い髪がふわりと浮く。
・・・・結構凄そうな術だな・・・・。
「・・・・退きなさい、悪しき力よ」
彼女が私に掌を向けた。輝きが私を包み、私の身体から黒いモヤのようなものが立ち上るとやがて霧散して消えていく。
そして術が終了した。フェルテナージュがふぅっと大きく肩で息をする。
「術を解除しました」
って・・・・・え? 治ってないよ?
!!!! まさかまたここから普通に成長していけって!!!???
愕然とする私に、静かにフェルテナージュが首を横に振った。
「いいえ、そういう事ではありません。今、先生の身体は長い時間術の影響で本来の姿を歪められて、いわゆる『クセがついてしまっている』状態になっているんですよ。もう術は解いてありますから、いつ元に戻ってもおかしくありません。何か・・・ショックのようなものを与えればそれで元の姿に戻れるはずなのですが・・・」
む、むう・・・・ショックか・・・・とにかく早く戻りたいものだ。
ふむ・・・・と真剣な顔をするアレイオン。
「・・・・こういうのはどうでしょう。マチルダさんが前をベロンと開放したりすればショックで元に戻るかもしれませんよ。勿論その場には私が立ち合わせて頂きたいのですが」
真顔で何を言ってるんだお前は。
「拙者も立ち合わせて頂きたいのですが」
くそうヘンタイだらけだ。誰か助けてくれ。

その後、我々は応接間に通されて食事をご馳走になった。
どれも初めて見る料理ばかりだ。
少々スパイスがきついものの、美味しい料理ばかりだった。
「アレイオン、ベルはここへ来るの?」
食事を終えてお茶を出されて歓談していると、フェルテナージュがアレイオンにそう聞いた。
「うむ。その予定なのだけどね・・・・。まあ姫様が離すまいよ。こちらから出向いた方がいいだろうね」
「手紙が届いた時は号泣していたものね」
フェルテナージュが微笑む。
「皆の手前、表には出さなかったが・・・誰よりもベルの身を案じていたのは姫様だ。生きている事がわかって気持ちが緩んだんだろうな」
そう言ってアレイオンはカップを置いた。
「そういうわけなので皆さん。一休みしたら皇宮へ行きましょう。この館からは歩いて10分程ですから」
まあ彼が言うのなら我々に異存があろうはずもない。
そもそもここにいつまでも居座るのも迷惑だろう。
アレイオンの言葉通りに我々は食後に一息ついて、何度もフェルテナージュにお礼を言って彼女の館を後にした。

彼の先導で通りを歩く。
流石に皇宮区と言うだけあって日中だが人通りはほとんど無く、たまに行き会う者たちも貴族や武官や文官ばかりだ。
「後日、2層や3層をご案内しますよ。皆さんが寛げる施設も数多く・・・・・!!!・・・・・」
アレイオンの笑顔が凍りつく。
ふっと周囲が陰ったかと思うと、周囲の光景が一転した。
青空は瞬く間に灰色に染まり、周囲から音が消える。
「・・・・やられました。これは教団が得意とする闇夢結界陣です。大掛かりな準備がいるはずの結界なのですが、待ち伏せを受けていたようですね」
アレイオンは厳しい表情で言う。
『クックック・・・待ってたぜ』
声がして我々は一斉にそちらを見た。
体格のいい見たことのない男が立っている。
男に見覚えは無かったが、ただその男の手にしている剣には見覚えがあった。
「・・・・ゴルゴダ、ですね」
ルクが言う。男がニヤリと笑った。
「ヨアキムの術を解く為にお前らがこの館へ来ると思ってたぜ。ラーの都での借りを返させてもらわなきゃなぁ」
ルクが構えたグングニールをビッとゴルゴタに突きつけた。
「笑止な。弱点がわかった以上、今度は私はその剣を集中して狙います。貴方に勝ち目はない」
確かに、剣が本体ならそこを攻撃するのが得策だろう。どの位頑強な造りをしているのかはわからないが・・・。
「・・・・どうかな? オレも考え無しにノコノコ顔出したわけじゃねえぜ」
・・・!!!!!・・・
周囲から数名の男が現れた。どの男も皆鍛えた身体をしている。
そして・・・・全員がゴルゴダと同じ鞭剣を手にしていた。
「盛大に歓迎してやりたくてよ。大慌てで『増産』したぜ」
ジャキン、とゴルゴダが鞭剣を構え、その目を不気味に輝かせた。