第27話 理想郷計画-3


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目の前の仮面の怪人から途方もない不吉の気配がする。
・・・怪人・・・そもそも『人』であるのかどうかすらわからない。
まるで機械のような、昆虫のような無感情で無機質な雰囲気をテラーは放っている。
構えを取りながらも勇吹はそれ以上前に踏み出せずにいた。
・・・自身の動悸が、心臓の音が耳に痛い。
ただ対峙しているだけでもじりじりと体力を奪われていくようだ。
そしてテラーはやや猫背気味に勇吹へ向かいつつも、こちらもやはり動かず仕掛けてはこない。
「ンフフフ、そう身構えずとも結構ですぞお嬢さん」
勇吹にとっては聞き覚えのある声がしたかと思うと、テラーの隣に白い影がスッと持ち上がり人の形を取った。
「・・・財団の・・・ピョートル」
その男の名を呼ぶ勇吹。
「御機嫌ようお嬢さん・・・半日ぶりですなぁ」
バッと扇子を開くとピョートルが自身の口元をそれで隠す。
「何の用なの・・・?」
構えなくていいと言われても、目の前に現れた怪人物に勇吹は警戒の色を隠さない。
ピョートルが扇子に隠した口元を笑みの形に歪めた。
それでもこの娘は自分の話に耳を傾けるだろう。
・・・そうせざるを得ないのだ。
それがわかっているからピョートルは嗤った。
「クリストファー氏のお話を持ってきましてなぁ。是非にお嬢さんのお耳には入れておこうかと」
「・・・・・・・・・・・・」
勇吹は黙ったままだ。しかしその動悸は僅かに先ほどまでよりも早まっていた。
「彼は今こちらへ向かっている所でございます。じきにここで再会できるでしょう」
ピョートルの言葉に勇吹の瞳が見開かれて揺れた。
「ですが・・・」
そこでわざとらしくピョートルは眉を落としため息をついた。
「このピョートルが思っていたよりもずっと彼の身体は限界に近付いていたようでございましてな。恐らくもう彼の命の火が消えるまでの時間は幾ばくもございますまい・・・」
ギリッと勇吹の奥歯が鳴る。血が出るほど強く拳を握り締める。
「・・・だから何だって言いたいの!! 私は絶対にあきらめ・・・」
「まぁまぁまずは私の話をお聞き頂きたい」
叫ぶ勇吹を片手を上げたピョートルが制した。
「私とて彼がそのような最期を迎えるのは本意ではないのですよ、お嬢さん。そこで出来うる限りの事はさせて頂こうと思いましてな・・・今日はこれを持って参った次第でございますよ」
そう言ってピョートルは扇子を閉じるとスーツの内ポケットより何かを取り出した。
・・・それは2枚の紙片だ。大きめの栞の様な長方形の赤い紙と黒い紙。
「これは『輸魂の符』と呼ばれる物です。他人に生命力を分け与えるときに使うアイテムでしてな。黒い符を受け渡す側へ、赤い符を受け取る側へ貼る事で生命力を分け与える事ができるのですよ。勿論・・・黒い符を貼ったほうは生命力を失う事になりますが・・・」
ピョートルがザッザッと足音を立ててゆっくりと勇吹に歩み寄る。
その事に僅かに身を硬くしつつ勇吹が口を開いた。
「・・・あんたの言う事が信じられるとでも思ってるの・・・?」
その言葉にピョートルは目を閉じ首を横に振って苦笑する。
「でしょうなぁ・・・。ですからお嬢さん、私はただこれをあなたへお渡しするだけでございますよ。その後はお好きにするがよろしかろう。使うのも、丸めて捨てるのもお嬢さん自身でお決めになられませい」
強引に勇吹の手を取ったピョートルが2枚の符を持たせる。
勇吹は僅かに顔をしかめながらも、その手を払いのけはしなかった。
「生命力が限界を迎えつつあるクリストファー氏はもう医療技術での復活は望めますまい。現状その符のみが彼を救いうる手段であると思いますぞ」
符を手渡したピョートルは勇吹に背を向け戻っていく。
「もっとも・・・あえてアドバイスらしきものをさせて頂くのでしたら、お嬢さんあなたはその符を『使わない方がよいでしょう』」
今度こそはっきりと勇吹は眉をひそめる。
・・・渡しておいて『使わない方がいい』とはどういう事なのだ。
「その符は受け渡す生命力の量を自由には出来ないのですよ、お嬢さん。必ず両者の生命力を『均等』にしてしまうのです。今、生命力が限りなく0に近いクリストファー氏とその符で繋がれば、あなたは自身の生命力のほぼ半分を失う事になるでしょう」
バッと再び扇子を開いたピョートルがその扇子で口元を覆いながら肩越しに振り返った。
「通常、一度に2割程度の生命力を失うだけでもかなりの危険があると言われております。・・・それを5割も一度に生命力を失えばお嬢さんもどうなるかわかりません。最悪、命を落とす危険もあるでしょうなぁ・・・」
「!!!」
そしてピョートルは静かに控えるテラーの隣まで戻る。
「御使用の際にはその事、努々お忘れなき様に・・・」
2人の姿が地面に染み込む様に消えていく。
その場に1人残された勇吹は、無言で手の中に残った2枚の紙片を見つめた。

水晶遺跡最下層広間。
財団研究開発部総責任者ネイロスはラゴールと霧呼、ELHとエトワールの死闘を大して興味も無いといった風に見つめていた。
・・・実際、彼にとっては目の前の戦いもその勝敗も興味の無い事柄だった。
その彼の意識の中に直接呼びかけてくる声がある。
『・・・教授(プロフェッサー)・・・姉さんを、見つけました・・・』
「・・・・・!」
ネイロスの口元が笑みの形に吊り上る。
彼にだけ聞こえたその声は『ハイドラ』ツカサのものだった。
『ですが・・・1人ではありません。「三聖」・・・ヨギ・ヴァン・クリーフが一緒です』
「そうか」
短くそう返答するとネイロスが目の前に右手を翳した。
その手の先に半透明の球形の魔力の結晶が浮かび上がる。
球の表面にはいくつもの土星の輪のように光る魔法文字が回っている。
「三聖は私が処理しよう。・・・お前はそれを確認して速やかにセシリアとの戦闘に入れ」
『わかりました・・・教授』
球体の中に赤く点滅する点が現れた。
「・・・そこか。『忌まわしき狩人』よ。現れ出でてヨギを食らうがいい」
何者かにそう指示を出すと、ネイロスが魔力球を消した。
「必ず倒せ。そしてその身柄を回収しろ。死体でも構わん」
そう言うとネイロスは戦い続けるラゴール達の中を無造作に通り過ぎてゲートの間へと向かった。

歩み去るネイロスの姿を横目でチラリとエトワールが確認した。
「チッ、あのヤロー持ち場を離れるなっつーの」
そのエトワールにドラゴンブレイドを構えたELHが特攻する。
「ぬおぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
渾身の一撃をエトワールが構えた刀で受けた。
ガギィィィィン!!!!!と広間に金属音が響き渡る。
「ぐっ・・・てんめええ! 死に損ないのクセに元気一杯じゃねーですか!!!」
エトワールの怒りの混じった叫び。
ELHのわき腹の傷口からは今も血が滴り続けている。
それはカウントダウンでもある。
彼が近い未来に限界を迎え、その身体を動かす事ができなくなるまでの。
鍔迫り合いを続けるELHが力を込めてエトワールを突き飛ばした。
後方へ飛ばされ、必死にエトワールが踏み止まる。しかしその体勢はグラグラと揺らいでいる。
そこを追撃する。ELHがドラゴンブレイドを横薙ぎの形に構える。
「連歌・・・『時雨』」
ブン!!!と横薙ぎの一撃が走る。
「・・・なっ!? クソッ!!!」
その一撃を辛うじてエトワールが回避する。
「『氷雨』!!」
上段からの斬り下ろし。
バックステップが間に合わなかったエトワールの胸甲を叩き割る。
「・・・『五月雨』!!!!」
下段からの渾身の斬り上げ。
その一撃を刀で受けたエトワールごと、両者の身体が飛ぶ。
「大した執念だなぁ・・・ELH」
上空でエトワールがELHを見て呟く。
「けどなぁ! 思いでも祈りでも現実は何一つ変わりやしねーんだよ!!! 何かを変える事ができるのはたった1つだけ・・・」
「・・・!!!」
ガシッ!!と上空で上からエトワールがELHの顔を鷲掴みにした。
「力(これ)だけだ!!!!!!」
バチッ!とELHを掴むエトワールの手にプラズマが走った。
・・・そして次の瞬間、広間を赤く照らして大爆発が巻き起こった。


スクリーンの中の映像が世界地図に切り替わった。
「今のこの世界は歪だ」
その地図を見上げてギャラガーが言う。
「美しく調整する必要がある。・・・私は長年その方法を模索してきた」
パチン、と指を鳴らすギャラガー。
するとスクリーンの中の世界地図が変化を始めた。
・・・・・?
何だ・・・? 地図の形が変わっていく。
海岸線の起伏が徐々になくなり、陸地の位置が変わっていく。
シードラゴン島は正八角形に変形し、そこを中心にまるで波紋が広がるように陸地が配置されていく。
その図はもう、世界地図ではなく紋章の様だ。
・・・これは、何なのだ・・・。
「これが『完成図』だ、ウィリアム・バーンハルトよ。世界をこの形にした上で、さらにあらゆる生命を配置し直す」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
今この男は何と言った・・・? 『世界をこの形にする』・・・?
エメラダはギャラガーの言葉に聞き入り恍惚としている。
「そして私はこの世界の全てを管理する。あらゆる生き物の成長と進化を促進できるように私が手を加えるのに理想的な形がこの世界なのだ」
澱みなくギャラガーは言葉を続ける。
「この完成された世界で、我が指導の下でこの世の全ては『完全』へと導かれるだろう」
・・・狂っている・・・。
気付かないうちに私は拳を握り締めていた。口の中はカラカラに渇いている。
・・・神にでもなるつもりか!! ギャラガー!!!
「誤りを訂正しよう、ウィリアムよ。・・・神とは『創造するもの』である。私は何も生み出すつもりはない。ただ、『並べ直す』だけだ。美しく整頓し直すだけだ」
世界の再配置・・・その為にお前は『神の門』が必要なのか・・・。
「フフフフ・・・ハッハッハッハッハッハッハ!!!!!」
私の言葉にギャラガーが初めて哄笑する。
「それだけの事であれば私に別に『神の門』は必要がない。・・・想像力を働かせるがよい、ウィリアムよ」
それだけの事・・・。
世界地図をまるで違うものに変える事をそれだけ、とギャラガーは言い切る。
確かに・・・この男であればそれは可能なのかもしれない。恐ろしい労力と金と時間がかかるだろうが、ギャラガーは世界を裏から支配する存在であり、また永遠の時間を持っているのだから・・・。
では、この男は『神の門』はどう使うつもりなのだ・・・?
「この計画を進める上で、最大の障害は『不要物の処理』だった」
ギャラガーが空を見上げて言う。
・・・不要物の処理・・・?
「世界を調整する上でどうしても不要な物が出る。具体的に言えば、おおよそ陸地の14% 海の6% 亜人種を含む人類の9% その他の生命の11%が『不要』となるのだ。その処理に私は長年頭を悩ませてきた。どの様に処理しようと、そこには必ず『残骸』が発生するのでな」
まさか・・・。
私にはその先ギャラガーが何と言うのか想像ができた。
・・・いや・・・そんなはずはない・・・。
・・・『そんな事を思いつくものが、人間であるはずはない』
「わかったか、ウィリアムよ。・・・私は神の門を使い、その不要物を『異界へと投棄』する」
お前は悪魔だ・・・ギャラガー・C・ロードリアス・・・。
私は掠れた声で言った。
ギャラガーは静かに目を閉じて首を横に振る。
「そう思うのはお前が『個』という小さな視点でしか物事を見ていないからだ。『世界全体』という視点で見るがいい、ウィリアム。千年先を見据えて考えるがいい。・・・そうすれば我が行いこそが正義、我が計画こそが正道である事がわかる」
傲然とギャラガーは言い放ち、私を斜めに見下ろした。



カミュが足元にタバコを落とし、それを靴底でもみ消した。
そして身を隠していたビル影から無造作に出て行ってしまう。
「・・・!!! おい!」
制止しようとそのカミュにルノーが片手を上げた。
「・・・あ」
そしてその手をそのまま引く。
カミュの横顔を見て。
・・・憤怒は無く、ただ彼はかつてない程真剣な表情をしていた。
「マジギレしたな・・・あいつ」
その背を見送って、ルノーが呟く。エリックがそれに肯く。
「マジギレすんの2年ぶり?」
「・・・と、2ヶ月と17日ぶりですね」
エリックが答える。ルノーがきゅっと下唇を噛んだ。
「2年2ヶ月ぶりの本気か・・・」
ポケットに手を突っ込んだまま、ザッザッとまっすぐ歩いてくるカミュに最初に気付いたのは大龍峰だった。
「!! ・・・おどれは・・・!」
ズン、と足音を鳴らしてその巨体でカミュの行く手を塞ぐ大龍峰。
「何しに来た! 今更おどれの出番なぞないわい!!!」
その大龍峰をカミュが見上げる。
「・・・どけや」
その一言に大龍峰のこめかみに血管が浮かび上がった。
「どの口が言うんじゃ!! このどあほうが!!!」
バァン!!!!と空気を震わせて大龍峰の必殺の張り手、『鬼鉄砲』がカミュに炸裂した。
「!」
そしてその鬼鉄砲を放った体勢のまま、大龍峰が眉間に皺を寄せた。
・・・倒れない。
僅かに靴底で地面を擦って後退したものの、カミュは吹き飛びも倒れもしなかった。
ただ傷は浅くなく、彼の足元にぽつぽつと赤い染みができる。
「いたくねぇ」
「何ぃ!?」
ギリッ!!と奥歯を鳴らすとカミュが拳を握り締めた。
「いたくねぇっつったんだ!!!!!! この大馬鹿野郎が!!!!!!!」
ゴッ!!!!と重たい炸裂音を響かせてカミュの『鉄拳』が大龍峰の頬を捉える。
「・・・ガッ・・・ハ・・・!!!」
ぶっと口腔から血を噴き出して大龍峰の上体がグラグラと揺らいだ。
ここまで2度の戦いで何度も受けてきたはずの拳だった。
一度もダメージを意識した事のないはずの拳だった。
・・・それが今、大龍峰はその拳を受けて崩れそうになる両の膝を必死に精神力で支えている。
「・・・こォのおお・・・やってくれるじゃまあか!!!!!」
再び鬼鉄砲。打たれたカミュが空中に赤い飛沫を上げる。
「・・・ぐおっっっ!!!!」
そして再度の鉄拳。受ける大龍峰が苦悶の表情を浮かべる。
互いに必倒の距離。両者ともにまったく間合いを取ろうとしない。
・・・そして壮絶な打ち合いが始まった。