第10話 多層都市パシュティリカ-5


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夜の闇を裂いて飛竜が空を舞う。
件の魔物が現れたのは・・・2層「工業区」だと言っていたな・・・・。
カーラの操る飛竜は神都の外側へと飛び出すと一気に急降下した。
気圧差で耳鳴りがする。
振り落とされない様に私は必死にカーラにしがみ付いていた。
そして我々は外側から2層の空へと滑り込む。
「工業区」・・・その名の通り白い工場棟がどこまでも並ぶエリアだ。
その天を突く煙突の群の更に向こう側に、
その天を突く煙突の群よりも更に高く、
あらゆる邪悪と不吉の象徴の様な不気味な影がゆらめいていた。

黒影が更に血の様に赤い陽炎を纏って夜空に浮かび上がる。
その頭部には骸骨の様な仮面があった。
・・・・これが、『ガ・シア』・・・・。
そのガ・シアへと衛兵達が弓を射掛けている。
「・・・無駄な事を。3度目だというのに、何故学ばない」
空中で飛竜を停めたカーラが静かに苦言を口にする。
確かにカーラの言葉の通り、衛兵たちの放った矢はまったくガ・シアに通じている様子は無い。
・・・・と、いうより・・・・透過している・・・!!?
衛兵たちはもうそんな事はお構い無しにひたすらに無駄な射撃を続けている。
恐怖で半ば狂乱状態になっているのだ。
オオオオ・・・・と唸り声の様な、嘆きの叫びの様な声を上げてガ・シアがその巨腕を振り上げた。
ゴァッ!!!と振り下ろされた腕が一つの工場の屋根を砕いた。
降り注ぐ瓦礫の雨の中を兵たちが逃げ惑う。
ヤツはこちらに触れることができるのか!!!
「そうだ。我々の攻撃はヤツの身体を通り過ぎるだけだが、ヤツはこちらに自由に触れて攻撃してくる」
カーラの言葉に私はある魔物を思い出していた。
・・・まるでゼフのような魔物だな。
「ゼフを知っているのか。似ているのも道理だ。ゼフもガ・シアもどちらも魔人ゼロ・・・狂皇ラシュオーンが古代の秘術を用いて創造した魔物だからな」
!!!・・・なら奴にも弱点の全身が実体化する目の紋様が!!!?
「ああ、あるとも」
ガ・シアを見る。しかしその身体にはゼフと違って一切紋様のようなものは確認できない。
「ヤツの目の紋様は・・・・あの頭部を覆う仮面の下にある」
カーラの言葉が冷たい氷柱のように私の背筋へと滑り込んだ。
仮面の下・・・。
という事はあの仮面も実体化しているのか。
私の言葉にカーラがうなずく。
「あの仮面も実体化していて我々が触れることができる。ただし、材質は知らないが鋼鉄以上の硬度を持つ素材で分厚い造りをしているがな・・・」
あの仮面を砕いてからでなければ目に触れることができないのか・・・。
・・・・!!!
その時、私は夜空を白く切り裂いてガ・シアへと襲い掛かった人影を見た。
それは、ペガサスに跨ったマチルダだった。

上空から槍を構えたマチルダがペガサスを特攻させる。
しかしそのチャージは虚しくガ・シアの胸部を通り抜けるだけだ。
「!!? ・・・・え? ・・・・えええ??」
マチルダが目を白黒させている。
マチルダ!! 仮面だ!! 仮面を狙え!!! その仮面の下の目がヤツの弱点だ!!!!
叫ぶ私に一瞬マチルダが視線を寄越した。
ブオッ!!!と大きく振るわれたガ・シアの腕を辛うじてペガサスで掻い潜るとマチルダが上昇する。
「ダメ・・・『ユグドラシル』が・・・『勝利への可能性分岐』が見えない・・・。未知の存在すぎるんだわ・・・」
マチルダが表情を歪めた。
しかしすぐその苦悶を凛々しい瞳の輝きの下に消すと槍を上空へと突き出した。
「雷精展開!!!」
ガガッッ!!!!と轟音が響き槍が眩い電撃を纏った。
・・・・む、日中見せたあれをやるつもりか・・・・!!
「ライトニングディザスターッ!!!!」
躊躇い無く槍を振るい光の矢を放つマチルダ。
一直線に夜空を走った電撃の閃光は狙いを過たずにガ・シアの仮面へと炸裂した。
ギギッッ!!!!と耳障りな音を立てて光線が仮面の表面・・・・頬の辺りを抉り、削った。
しかし砕くにも穿つにも至らない。
・・・なんて硬度だ!
そして、仮面に攻撃を受けたことが原因でか、ガ・シアに変化が訪れた。
それまで振り上げて暴れていた両腕を急にだらりと下へ下げた。
・・・・・?
「下がれ!!! 『呪叫』が来るぞ!!!」
カーラが叫んだ。
次の瞬間、ガ・シアがオオオオオオオオン!!!!!!と大気を震わせて叫び声を上げた。

叫びは物質的破壊を伴って周囲を蹂躙した。
ヤツの周囲の工場がまるで砂の城の様にズアッと分解して砕け散る。
そして大技を放った直後で硬直していたマチルダは叫びの直撃を受けた。
「・・・・・うっ!!!! ・・・・・く・・・・・」
障壁を展開して必死に耐えるマチルダ。
その姿は絶叫の衝撃に細かく揺さぶられブレて見えた。
そして叫び声を上げたまま、そのマチルダの頭上へガ・シアが腕を振り上げる。
・・・・・・いかん!!!!!!!
ドガッッ!!!!!
「・・・・きゃあああっっ!!!!」
打ち下ろされた豪腕の直撃を受けたマチルダがペガサスから投げ出され宙を舞った。
咄嗟にカーラが飛竜を進めようとした。
しかし叫び声に怯んだ飛竜は動かない。
「・・・ウィリアム!!!」
カーラの叫び声を背中に受けて、私は無意識の内に飛竜の背を蹴って空中へ飛び出していた自分に気がついた。
落下するマチルダへ手を伸ばす。
・・・だが、間に合わない・・・そんな事はわかっていた。
翼無きこの身に先へ落ちている者に腕を届かせる術は無い。
しかし、次の瞬間私の身体は淡い青い光に包まれていた。
全身に力が漲るのがわかる。
私は空中で瓦礫を蹴ると、辛うじてまだ形を保っている工場の壁へ取り付いた。
そしてそのまま地面と垂直にその壁を駆け下り、途中で壁を蹴り再び宙へと手を伸ばしマチルダを掴んだ。
彼女を抱き留めて地面へと着地する。
衝撃で足元の地面が削れ両足に凄まじい振動が伝わった。

「・・・あ、貴方は・・・・」
腕の中のマチルダが震える声を出して、そっと私の顔に手を伸ばしてきた。
その手が顎の無精ひげに触れる感触がした。
・・・私は元の姿を取り戻していた。
彼女を静かに地面に降ろす。
立てるか? 安全な所まで離れていてくれ。
私がそう言うと彼女は素直にこくこくと頷いた。
自分の身体を見る。
この事態を予測してかなり大きめの服に着替えていたのが功を奏して着ているものは裂けていなかった。
神剣を鞘から抜く。
・・・・軽い・・・・いつもの愛剣の感触だ。
こんな時ではあるが、思わず頬が緩みそうになる。
だが今は感慨に浸っている暇は無い。
私は周囲を見回して一番背の高い建物を見つけるとそこへ駆け込んだ。
「・・・・やっぱり、王子様でしたね・・・・」
かすかにそんな声が聞こえた気がした。

屋上へ出る。
御誂え向きにヤツはこの建物の方角へ向かってきていた。
神剣を構えヤツへ向く。
気を高めて神牙の構えを取る。
・・・ドクン・・・と。
私は自身の内から溢れ出るかつてない力の奔流を感じる。
・・・なんだ・・・この力は・・・・。
高まる力を剣に込めて、私はヤツの仮面を狙い神牙を放った。
かつてない程巨大な白い光の槍がガ・シア目指して放たれる。
「・・・『冥牙』」
声がして私のいた隣の建物から黒い光の槍が放たれた。
!!!!? あれは・・・黒い神牙!!!??
驚愕してそちらを見る。
そこには私と同様の姿勢で技を放ったカーラの姿があった。
白と黒・・・二筋の光は空中で絡み合って螺旋を描き、ガ・シアの仮面へと真正面から激突する。
ゴアッ!!!!と爆発音が轟いてガ・シアの巨体がズズズと背後へと押し戻された。
オオオオオオオン!!!
ヤツが吼える。
そして次の瞬間、螺旋の光は仮面を粉々に打ち砕くとその下の目の紋様を貫き、後頭部へと抜けてそのまま夜空に吸い込まれていった。
・・・・オオオオン・・・・・
嘆きの叫びが長く夜空へ尾を引いて響く。
ガ・シアは全身を震わせて灰色に変色していくと、やがて穿たれ風穴を開けられた頭部から崩れ、虚空へ溶けて消えていった。