第4話 古の島-3


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魂樹の矢の汚れは、乾いて固まったジュデッカの血によるものだった。
ブラッドエレメンタルはみる茶のシルフを食い破り、その右肩へと矢を突き立てる。
「…む…う」
みる茶が呻いて1歩下がる。その足元に右肩から滴った血が落ちる。
ブラッドエレメンタルは矢が命中すると同時に消失していた。
どうやら宿主と遠く離れている今の状態では長く現界できないようだ。
「ジュデッカ…いつの間に…」
魂樹が弓を下ろして、今は遠く離れた場所にいる黒髪のエルフの顔を思い出す。
「本当に、油断も隙もないんだから」
小さく苦笑して、再びみる茶へ向き直る魂樹。
みる茶は右肩の矢を掴むと無造作に引き抜いた。
「油断したね。まさかここで自分以外に『古精霊』を使役する者に出会おうとはね…」
引き抜いた矢を手の中でベキッとへし折るみる茶。
「いいかい、こうして1本の矢は容易く折れてしまうが…」
キョロキョロと周囲を見回すみる茶。
そして改めて魂樹を見る。
「ごめん…新しいの3本欲しいんだけど」
「あげません!!!」
何かを言おうとしたらしいみる茶に魂樹が叫ぶ。
「折角いい話しようとしたのに…」
やれやれ、と肩を竦めて首を横に振るとみる茶はスッと瞳を細めて2人を見た。
「では、今度は私の古精霊をお目にかけるとしようかな」
そしてみる茶は自身の精霊力を全力で解放した。

おでんがピクリと顔を上げて周囲を見る。
「…ヌヌ、これは…」
そしてドサッと足元に無造作に掴んでいたウィリアムを投げ捨てた。
ズズズズズ、と低く島が鳴動している。
「みる茶め、あれをやるつもりか…。ここにいたのでは我らにも当たるかもしれんな」
おでんが足元に作ったつゆ溜まりの中へ沈んで消えていく。
ブリュンヒルデも立ち去ろうと飛翔するために両足に魔力を集中し、そしてその動きが止まった。
「…ウィリ…アム…」
傷だらけのルクシオンが立ち上がろうとしていた。
彼女の目には目の前に転がされたウィリアムの、両目の無残な傷口が映っていた。
「うぁ…ああああ…・!!!!」
血を吐く様な慟哭がその喉から迸る。
「ゆ、ゆる…許さ…ない…!!!!!!!!」
全身の傷口から激しく出血しながらも、震えながらルクが立ち上がる。
次の瞬間、彼女を中心に爆発的な魔力が突風の様に周囲を走った。
「…そんな…」
ブリュンヒルデが目を見開く。

ユニオン本部、時の部屋。
円卓に着いて居眠りをしていたエウロペアがふいに目を覚ます。
その場の他のラウンドテーブルメンバーは何も気付かない、彼女だけに感じたある感覚が意識を覚醒させたのだ。
「これは…」
「どうしました?」
隣のピョートルが不思議そうにエウロペアの顔を見ている。
「懐かしい気配だ…」
そう言うとエウロペアは斜め上を向いて瞳を閉じて口元に笑みを浮かべた。

赤く輝く双眸で自分を睨みつけているルクに、ブリュンヒルデが初めて微かに笑みを見せた。
「…少し訂正。丸っきり無駄でもなかった」
飛び立つための魔力を前方への跳躍へ使って、ブリュンヒルデがルクへ襲い掛かる。
鋼鉄を紙の様に引き裂くブリュンヒルデの唯一にして究極の武装…両手のオリハルコンの爪を振りかざして。
一瞬にして両者の距離は0になった。
そして、ギィィィン!!!!と甲高い音が周囲に響き渡る。
ブリュンヒルデの爪をルクが手にしたグングニールで受けたのだ。
互いの武器で押し合う両者。
「ここから…どうするの…」
ギリギリと両手の爪に力を込めながらブリュンヒルデが呟く様に言う。
「…くっ…うう…」
ルクの口から苦悶の呻き声が漏れる。
「只こうしているだけでも、あなたは確実に死に近付いていってる…」
ブリュンヒルデが更に腕に力を込めた。
ルクが微かに押され始める。彼女の全身の傷口から新しい血が噴き出す。
ビシッとルクの構えるグングニールにヒビが入った。
…折られる。
直感的にルクはそう感じた。
そして、ルクは武器を捨てた。ブリュンヒルデが槍を折る瞬間を巧みに誘導し、その身を引き寄せて脇へと流した。
もう両腕は上がらない。
だから、彼女は渾身の力を込めて迫るブリュンヒルデの額に自らの額をぶつけ合わせた。
重なり合う両者の影。
その影を七色の閃光が包んだ。

上空から七色の光の帯が真っ直ぐに島を貫く。
轟音を立てて岩肌が切断され、地面が開く。
魂樹とELHは必死にその場から飛び退いた。
引き裂かれた足元の岩場に海水が流れ込み、飛沫を上げる。
(上から…!!!)
魂樹が上空を見上げ、そして絶句した。
空に美しい七色の光のカーテンがかかっている。
「極光精霊(オーロラエレメンタル)!!!!!」
「そうだよ。私の使役する古精霊だ。オーロラと言えば極点、極点と言えばパンダ、だからパンダっぽい私がオーロラの精霊を使役するのはある意味天の摂理と言える」
みる茶が悠然と胸を反らせた。
その説明にELHがゴクリと喉を鳴らした。
「…な、なるほど…!!!」
「納得しないで!! 言ってる事色々おかしいですから!!!」
感心しているELHに魂樹が必死に叫んだ。
「…おかしくないもん」
みる茶がぷーっと頬を膨らませた。
「ど、どうする…!? また拗ねてしまったぞ!!!」
オロオロとELHが魂樹の方を見て言った。
「何でさっきからあの人にはそんな弱腰なんですか!!!」
魂樹が困り果てた様子で叫ぶ。
「いや、彼に対してどうこうというのではなくてだな。やっぱり脱げないとこう上がってくるものも上がってこないのだ」
うーむ…と難しい顔をしてELHが唸った。
「おかしくないもん…極光斬神剣(バルムンク)!!!」
叫ぶみる茶が右手を頭上へ上げた。
空の上のオーロラがキラキラと輝く。
「ELHさん!! またあれが来…」
ズアッ!!!!と、周囲を巨大な七色の光の帯が薙いだ。
極光精霊(オーロラエレメンタル)とは、単体では長剣の形状をした七色の光の精霊である。
それが上空に何千と集合して光のカーテンを形成しているのだ。
みる茶の合図でその一部が集合して地上に降り注ぎ、全てを焼き切るのが必殺の極光斬神剣(バルムンク)である。
再び島の一部が切断され、その余波は荒れ狂う波となって周辺の海域にまで及んだ。
カマナの街からは住民や旅客が不安そうに鳴動する島と荒れる海を見ていた。
辛うじて今度の一撃も2人は回避している。
ハァハァと荒い息をつきながらELHがガクッと片膝を地に突いた。
「おのれ…やはり脱げぬとなると…」
「だから、脱げばいいじゃないですかって…」
焦燥感を漂わせて魂樹が言う。
触れただけで消失してしまうような恐ろしい精霊魔術を紙一重でやり過ごしている事で、大分心身ともに消耗してしまっている。
「いやそうもいくまい。御主とて貴奴に禁止されて精霊を使っておらぬのに、拙者だけが脱ぐわけにはいかぬ」
「え…」
ELHの言葉に魂樹がポカーンと口を開けた。
「わ、私は別に彼に言われてそれに従ってるわけじゃありません!!! 呼んでも彼が消しちゃうだけで!!!! 呼べるなら呼んでます!!!!!!」
「え、そうなの!!!???」
さっきの話は全然わかってなかったらしい。
んがー、と今度はELHが口を大きく開けた。
「ならば…!!!」
ザン!!!と両足を開いて立ち、ELHが再び着物の襟に手をかけた。
「天陽よ…御照覧あれ!!!!」
バサッ!!!と着物と袴を一息に脱ぎ捨てたELHが褌姿になった。
「うわぁ…」
「うわぁ…」
魂樹とみる茶がシリアスに渋い顔をした。
「見苦しいなぁ…優先的に始末しよう…」
スッとみる茶が横に右手を払うと、彼の周囲にくるくると回転する数本の七色の光の剣が現れた。
対するELHは無手のまま構えている。
「そう上手くはいかぬぞ。この場での御主の優位は既に失われておる!!!」
叫ぶとELHが自らの着用しているものとは別の褌を取り出して両手でバサッと広げた。
「褌転移ワープ召還!!!!!!」
ぶわっと広げた褌を横に払うELH。
するとそこに何者かの姿が現れた。
豪華な木製の椅子に座り、首元にナプキンを着けてナイフとフォークを手にしたブロンドの少女。
…それはエトワール・D・ロードリアスだった。
「いっただっきまー…」
笑顔の彼女の眼前には褌姿のELHの股間があった。
笑顔のままエトワールの表情が凍りつく。
「…いただかねえよ!!!!!!!!!」
ドスッ!!!!と渾身のエトワールの拳がELHの股間に突き刺さる。
「男坂!!!!!!!!!」
叫んで悶絶したELHが後ろに倒れた。