第22話 鬼人の谷-6


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「『落涙の痛み』」
高速で飛来する水塊達をかわしつつヴァレリアへと迫る。
避けた水塊がボッ!と音を立てて地面に炸裂して抉る。
当たれば骨折くらいは覚悟せねばなるまい。
「そうそう、上手に避けなさい」
ぱちぱちと彼女が拍手する。
「では次よ。『螺旋を描く蛇』」
ジャアアアアッ!!と上空から飛来音がする。
まるで鎌首を擡げた蛇のような、先端をドリルの様に回転させた水の鞭が何本も襲い掛かってくる。
数本を避け、1本を剣で打ち払った。
やはり物凄い水圧だ。剣で触れた瞬間、弾かれるかと思った。
ふーっと大きく息を吐く。
攻撃は凌ぎきった。
しかし私と彼女の距離は再び大きく開いてしまっていた。

オルヴィエが神速でベイオウルフの懐へと飛び込む。
そして繰り出される連撃。全てが必殺の威力と速さを兼ね備えた刃の弾幕。
しかしベイオウルフはその全てを巧みな体捌きと手の先に生み出した高速回転する水の円盤で防いで見せた。
「・・・・良い動きだ」
「ありがと!!」
言いながらオルヴィエがさらに追撃を仕掛ける。
迎え撃つベイオウルフの右のヒザがすっと上がった。
「!!!」
まだ蹴りの届く間合いではない。しかし何かを感じたオルヴィエが大きく左へ跳ぶ。
バシッッッ!!!!と激しい炸裂音を響かせてベイオウルフが足の先に生み出した人間の頭部程の大きさの水塊を蹴り出した。
オルヴィエが避けた事で水塊は背後の大岩に炸裂し、それを粉微塵に打ち砕く。
「ひえー・・・・おっかな! 変わったバトルスタイルね。水の魔術と格闘術を組み合わせて戦うんだ」
それは氷の魔力と格闘術が組み合わさっているDDの戦闘スタイルと酷似している。まあDDの場合は意識にしてそうしているわけではなく生まれつきなのだが・・・。
「自分はお嬢様程の水使いの技量は無いのでな」
表情を変えずに静かにベイオウルフが言う。
「流石は水使いの系譜バスカビル家の末裔というわけね」
ぴくりと微かにベイオウルフが眉を上げた。
「驚いた?こっち書物のプロフェッショナルでね。名家の系譜なんかにも詳しいのよ。バスカビル家が表の歴史から消えたのって500年くらい前だったかしら?」
「・・・・466年前だ」
言われてオルヴィエがマントの内側から1冊の本を取り出しパラパラとめくった。
「466年前。バスカビル家のあったカーレオン王国に北方騎馬民族の襲撃があった年ね」
そうだ、とベイオウルフが肯く。
「その年、北よりバルト族の侵略があった。当家のあった国境の街は瞬く間に奴らに蹂躙され、多くの住民が殺された。惨状を見かねたお嬢様は秘めていたご自身の力を解放してバルト族を撃退した。人々は歓喜し、お嬢様は救国の英雄として祭り上げられた。・・・・だが!!!!」
初めてベイオウルフの言葉に憤怒の炎が宿った。
拳をぎゅっと握り締めて言葉を続ける。
「当時あの国を治めていた俗物どもは高まっていくお嬢様の名声が自分達の治世を脅かすものだと危惧したのだ。お嬢様は大きすぎる力を持つ『危険因子』であると聖地の連中へ情報は密告された」
いつの間にかヴァレリアも私もベイオウルフの言葉に気に入っていた。
ありえる話だ。私は聖地の連中が決して世に広く認識されているような正義の体現者達ではない事を知っている。
私自身、神剣を手にした当時は身の回りに何度も聖地の調査員が派遣されてきていた。
私が大国の要職に就く身でなければ果たしてどうなっていただろうか・・・。
彼らは「危険な存在」のみを裁いているわけではない「危険になりうる存在」も先行して見つけ出しその芽を刈り取る。
善も悪も、罪も罰も結局は人間が定めて人間が行う事なのだ。
「封印部隊が派遣されたと知った時、私はお嬢様に国を捨てて逃げるようにと進言した。しかしお嬢様は最後までお逃げにはならず、聖地の連中へ堂々と自身の正しさを訴えられた」
ヴァレリアの横顔を見る。
凛としたその表情からはいかなる感情も読み取る事はできなかった。
「そして封印がなされた時、私は魔方陣へと飛び込みお嬢様と同じ封印をこの身に受けたのだ。私達は2人で1人分の封印とこの島への呪縛を受けている。そして皮肉な事に同じ封印を受けている事でのリンクにより、私はお嬢様と同じ超魔力での延命効果と水使いの能力を持つに至った」
なるほど・・・それが「二人で一人の魔人」の理由なのか。
しかし、戦いにくくなった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴァレリアがこちらを向き直る。
そして手の先にまた水塊を生み出した。
「目から戦意が消えているわ。半端な同情はこの上無い侮辱であると知りなさい」
水塊を放つ。
剣でそれを打ち払う。
しかし水塊はその私の剣にまとわりつくと、そのまま高速で腕を這い上がり頭部を包み込んだ。
!!!??
ゴボッと大きく泡を吐く。
「『逃れ得ぬ嘆きの淵』 そのまま溺れ死ぬがいいわ。ウィリアム・バーンハルト」

もがく。水塊は頭部から離れない。
腕で水を散らしてもまたすぐ元通りに飛んでくる。
まずい!! このままでは・・・・。
その時、ヴァレリアに何者かが襲い掛かった。
シンラだ。大剣を振りかざして斬りかかる。
「・・・・雑兵に用はないわ。身の程を知りなさい」
高水圧の弾丸がシンラに襲い掛かる。彼女はそれを何発か避けて凌いだが数発を食らって吹き飛ばされた。
しかし、無駄では無かった。
集中が乱れたのか、私を苦しめていた水塊の呪縛が緩んだのだ。
大きく水を掻き散らし、再び集まってくる前に一気にヴァレリアへと走り込む。
「小癪な。接近を許した覚えはなくてよ」
水の鞭が襲ってくる。それをかわし斬撃を叩き込む。
私の一撃は彼女の肩口を浅く切り裂いていた。
「お嬢様!!!」
オルヴィエとの交戦を放棄してベイオウルフが間に割り込んできた。
「許さん!よくもお嬢様を・・・・」
「ベイオウルフ。控えなさい」
しかし・・・と言い淀むベイオウルフをヴァレリアがキッと睨みつけた。
「私に同じ事を二度言わせるつもり?」
「・・・申し訳ありません。出過ぎた真似を」
ベイオウルフがヴァレリアの背後に控える。
彼女が自身の傷口を撫でて、指先についた血を見た。
「・・・・よくてよ、バーンハルト。些か物足りない結果ではあるけれど、及第点はあげてもいいわ」
そして薄く笑う。
「ここまでの事もまぐれではなさそうね。これからもその調子で私達以外の魔人を狩り続けなさい」
ぶあっと周囲を霧が覆う。
「・・・・期待していてよ」
そして霧が晴れた時、2人の姿はどこにもなかった。

一先ずやり過ごしたか・・・・。
恐ろしい相手だった。「圧し流すもの」ヴァレリアとベイオウルフ。
自身の領域の外であそこまでの戦闘力を誇るとは。
気を抜いたその時、周囲の空気を震わせて恐ろしい咆哮が響き渡った。
なんだ!!! まだ何かいるのか!!!
見ればラハンが天を仰いで咆哮している。その身体は先程までと違って筋肉で肥大化し二周り程巨大化していた。
だがラハンは白目を剥いて口から泡を飛ばしており、到底正気であるとは思えない。
オババの声が聞こえてくる。
『さあラハンよ!!お前を寿命3年と引き換えに呪いで狂戦士化させたわい!!!!姫様の敵を討ち果たすのじゃ!!!!』
ええええええええええええええええええええ酷いよ!!
てか遅いよ!!!!
夕闇の迫る山間に、ラハンの悲しげな咆哮は何時までも響いていたのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~