最終話 Fairy tale of courage-1


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ギャラガー・C・ロードリアスの魔術「天使砲」によって周囲の様相は一変していた。
地表が巨大な黒い擂鉢状に抉れてしまっている。
辛うじて一部建物の痕跡を残している突起物もあったが、それも風に吹かれると同時にサラサラと黒い砂となって流れていった。
そんな中で、天河悠陽は魂樹を押し倒すような形で覆い被さっていた。
「・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
自分の上で悠陽は荒い息を吐いている。
魂樹は咄嗟に自分の身体を確認した。
・・・どこにも、負傷らしきものはない。
せいぜいが倒れた時の取るに足らない擦傷程度だ。
だがその事が逆に魂樹をゾッとさせた。
あれ程の攻撃を受けているのだ。
自分が無傷という事は・・・果たして自分を庇った悠陽がどれ程の代償を払っているのだろう。
「・・・へーき?」
悠陽に声をかけられて、魂樹が肯く。
「私は・・・。でも悠陽様が・・・」
震える声で言う魂樹。
「あー、私は平気平気。これでもちょっち無敵ですから~」
勢い良く立ち上がった悠陽だが、ぐらりと大きくよろめいた。
「悠陽様!!」
叫んで駆け寄ろうとした魂樹に向かって悠陽がビシッ!と掌を向けて止める。
「のーぷろぶれむ!」
「だってそんなに呼吸が・・・!!」
うあーっと悠陽が変な声を出して視線を泳がせた。
「これはあれ・・・ホラ、私は可愛い女の子が好きだし・・・!」
滅茶苦茶なごまかし方をしながら悠陽が内心の焦燥を必死に押し殺す。
(やっば・・・今の障壁でマナごっそり持って行かれちゃったなぁ・・・。フルパワーでいけるのって、後1、2発・・・?)
むう、と口をへの字に結んで悠陽が自分たちへ向かってくるギャラガーを見た。
ギャラガーは魔杖を手に普段の足取りで悠陽達へと向かって来る。
(おっかしいのよね~。多分エンチャ効果であんな怪獣になっちゃってるんでしょうけど、500近く・・・? どこにエンチャしてんのそれ。身に着けてる物の内どれかなら引っぺがしてやるつもりだったけど・・・。どれもそこそこにエンチャしてあるけど、そんな桁外れな数じゃなさそうだし・・・)
瞳を細めて悠陽がギャラガーを凝視する。
・・・しかしやはりわからない。
(・・・あんにゃろーの大半のエンチャは・・・はて、どこだろ・・・?)
疑問に思いつつも、向かって来るギャラガーに悠陽が立ちはだかった。
「今の『天使砲』ってヤツ・・・あれはLV6の魔術でしょ、違う?」
悠陽の問いに、ギャラガーが「その通りだ」と肯いた。
「れ、LV6・・・・」
魂樹が絶句する。
通常この世界の全ての魔術はLV1からLV5までに区分されている。
難易度が高く上級の魔術であればあるほど数字の大きいLVに分類されているのだ。
LV4の魔術を行使できれば、「大魔術師」や「賢者」と称される。
LV5の魔術が扱える者は、一部の魔人の様な永劫存在などこの世界でもごく一部しかいない。
それでこの世の魔術は終わりのはずだった。
その上があるという話など、魂樹は聞いた事もない。
あるとしたらそれは、きっと・・・。
「LV6は神族の扱う魔術よ」
悠陽が魂樹の方を向いてそう言う。
「そうだ。私はこの世界の指導者・・・我が力は既にこの世の理を超えて神の域にある」
轟然とそう言い放つギャラガー。
そこへ、ウィリアムが仲間と共に到着した。

「・・・ギャラガー」
周囲の荒涼とした様子に絶句しながらウィリアムがギャラガーを見る。
その後ろにはDDとクラウス伯爵がいる。
「追ってきたか。ウィリアム・バーンハルト」
擂鉢状の大地の中央から、その縁に立つウィリアムを見上げるギャラガー。
そこへサムトーも、シンラも、その他の仲間達も続々と集結する。
しかしレイガルドやジュピター等一部の仲間達の姿は無い。
その事がややウィリアムを不安にさせたが、今はそれを確認している余裕は無かった。
「惜しいな」
自分を取り囲む一同を見回してギャラガーが嘆息する。
「これだけ価値のある力を持つ者たちがいて、誰一人として我が理想が理解できんとは・・・」
ウィリアムにギャラガーが「理想郷計画」の全容を告げた時、その声は魔力により居住ブロック全域に伝わっていた。
ギャラガーは全員に告げるつもりであの場を設定したのだ。
その為、今この場に集った者たちは全員が理想郷計画の全貌を知っている。
「理解できるはずないって・・・大地と生き物を豪快に間引こうとかさ」
キリエッタが嘆息して肩を竦めた。
「歪みや腐敗は放置すれば周囲を汚染していく。取り返しのつかん事になる前に大胆な手を打つ必要がある」
「御主の言い分は極論が過ぎるワイ。ならば呼び掛けて皆に変われと促すのが人道であろうて」
仁舟老人がそう言うと、ギャラガーは首を横に振り
「・・・甘い」
と一蹴した。
「なるほど情けをかけて変われる者も中にはいるだろう。だがそれ以上に甘えて腐敗の度を進める者が多い事は疑い様が無い。私は『人間』をよく理解している。大半の者達はお前が望む程の強さを持ち得ない。惰弱で軟弱な生き物なのだ」
「・・・話し合いはもう無意味の様ね」
ザッとサムトーが1歩前へ出る。
構えは無いが全身を漲る闘気で覆っている。
それが、合図となった。
誰しもがわかっていたのだ。
最後は戦うしかないのだと。

ブン!と頭上で魔杖エグゾダスを一回転させたギャラガーがごう!と周囲に魔力を放出した。
「我が魔術の真髄・・・見せてやろう!」
ギャラガーの言葉に一同が咄嗟に身構えた。
しかし、次の彼の魔術は攻撃の為のものではなかった。
上空からギャラガーの周囲に太い光の柱が下りる。
その数は4本。
「『天還』(リザレクション)」
ギャラガーの言葉で彼の魔術は完成し、周囲の光の柱はそれぞれ細くなり消えていった。
そしてその柱の中より4つの人影が現れる。
「・・・おお・・・これは・・・」
その人影の1つ、スーツ姿の隻腕の男が感嘆の声を漏らす。
「!! ・・・リゼルグ・アーウィン!!」
ウィリアムが叫ぶ。
名を呼ばれてリゼルグがウィリアムを見上げた。
「ハハッ! どうです先生!! ギャラガー様の御力で私は蘇りましたよ!!」
リゼルグが狂笑する。
その背後では、全身を剛毛で覆った巨漢の猛虎の獣人がゆっくりと立ち上がっていた。
「グハハハ・・・まだ戦えるのか!! こりゃありがたいわ!!!!」
低い声で笑う虎人。
彼の名はギラン。
あの雨の日に七星オルヴィエに倒された『ハイドラ』の1人。
「おやおや・・・」
呟いてアイザックは自分の両手を見た。
「こういう事もあるんですねぇ・・・。まあこうなった以上は戦うしかなさそうですね。いやはやゆっくり死んでいる暇も無いとは使われる身の悲しさよ、ですな」
1つ肩をひょいと竦めると、アイザックは自分の手の中に契約武器であるフレスベルグを呼び出した。
ギャラガーが魔術で蘇らせた最後の1人は女性だった。
黒い衣装のハーフエルフは光が消えても動き出そうとせずにその場に静かに佇んでいる。
「・・・どこまでいっても、殺し合いなのね」
そう呟いて、アルテナ・ムーンライトは目を閉じて自嘲気味に笑った。

「完全蘇生・・・それももう死体がないヤツまで・・・。ほんとにこりゃカミサマの力ね」
苦々しげに悠陽が呟く。
この世の常識を完全に逸脱したギャラガーの力にウィリアム達は青ざめて言葉を失ってしまっている。
「蘇りし『ハイドラ』たちよ・・・我が敵を討ち果たすのだ」
ギャラガーの言葉にリゼルグ達が動いた。
「がってんでさぁ!! 総帥!!」
初めに動いたのはギランだった。
手にした青龍刀を大きく振り上げてウィリアムへと襲い掛かる。
身構えたそのウィリアムの前に、誰かが瞬時に滑り込んできた。
「・・・ぬぅ!!」
ギランが呻く。
振り上げた剣を持つ腕には高く上げられた足がピタリと当てられている。
ハイキックの姿勢のままで足を止め、ギランを制したのはサムトーだった。
「あのインチキ侍いないって事は、どうやらまだどっかで生きてるみたいね」
そう言ってサムトーが足を下ろす。
「グハハハ・・・三聖のサムトーか。こりゃ楽しめそうな相手だなぁ」
牙を見せてギランがニヤリと笑った。
「仕方ないんでアンタにあいつの分仕返ししてやる事にするわ。毛の色おんなじだし」
サムトーは不敵に笑うと、翳した右手でちょいちょいとギランを手招きした。

「今度はあなたたちに死んでもらいますよ」
リゼルグの周囲に無数の金属球が浮かび上がる。
金属球がぐにゃりと変形して無数の槍となり、ミサイルの様に飛翔しウィリアム達に襲い掛かった。
その猛攻を一同が必死に回避する。
「さあ・・・あの夜の借りを返させて頂きますよ、先生!!」
自身の周囲に再度金属球が浮かび上がらせたその時、風を切る鋭い音がリゼルグの耳に届いた。
「!!」
咄嗟に上げたリゼルグの左手の手首に鞭が巻きつく。
「・・・先生の前にさ、挨拶がいる相手がいるんじゃないのかい? ヴァーミリオン」
「ほう・・・まだ生きていましたかキリエッタ。当の昔に始末されたものかと思っていましたよ」
鞭を握り、自分を睨んでいるキリエッタを見てリゼルグが薄笑いを浮かべた。
「確かにあの時の鮫の隊長格で生き残っているはアタシだけ。・・・だから、これはアタシのケジメさ」
キリエッタが鞭を持つ手に力を込める。
「いいでしょう。私も飼い主のケジメとしてしっかり始末してあげますよ」
瞳に酷薄な光を浮かべて、リゼルグはキリエッタへと向き直った。


その頃、ガルディアス帝国の皇帝レイガルドはコアブロックへ向けて急いでいる最中だった。
「・・・オイどうなってんだ。あの空が光ってるあたりに行きゃいいんだろ? 走っても走っても全然近付いてこねーぞ」
急いではいたが近付いてはいなかった。
「よーし、まずは落ち着くとするか」
足を止めて周囲を見回すレイガルド。
「ここはどこだーッッ!!」
迷子ならぬ迷オヤジと化したレイガルドの叫びが虚しく周囲に木霊した。