第13話 四王国時代の終焉-5


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-始まりに、一つの契約があった-
その女神は契約によって、1人の男の剣に宿った。男はその剣に宿った女神の力を借りて戦乱に明け暮れていた祖国を一つに纏め国を築いた。
そして男は初代皇帝を名乗り、自らの帝國に剣に宿った女神の名を冠した。
ルーナ帝國の始まりである。

「しかし彼の子孫達は女神様が剣の中にいらっしゃるだけじゃ満足できなくなったのさ」
回収されたシリンダー・・・その中にいる眠ったように目を閉じて動かない女神ルーナを前にアレス大統領が言った。
「もっと女神の力を効率的に利用したいと考えた。聖剣は装置に組み込まれて女神は逃げられなくなった。そして何世代もかけてその力を再現する方法が研究されてきた」
「・・・まさしく神をも恐れぬ所業だ」
褌の男が静かに、重く言い放つ。
そして背後を見る。そこには医療班の賢明な治療を受けているセシルがいる。
「彼女がその『成果』というわけか」
「レディ・セシルは神の『声』を受継いだと言われているよ。聞くものに自らの望む効果をもたらす『言霊』(コトダマ)の宿った声の持ち主だ。強く念じて喋れば言葉一つで人を操る事すら可能だというね」
褌の男が黙り込んだ。
彼女はその声の力で歌い手として大成功を収めたのだろう。
世界中の人々に愛されて受け入れられた彼女の歌・・・果たして彼女はその声にどのような想いを乗せて歌ってきたのだろうか・・・。

一方、地上ではエトワールが部下に慌しく指示を飛ばしていた。
「早くしろ!! うちのスパイドルを持ってこい!! 追撃するぞ!!!」
その隣でアイザックが、うーむと眉間に皺を寄せる。
「ですがエトワール様、エイブラハムとスパイドルじゃ艦の規模に違いがあり過ぎますよ」
「うっせーそんな事はわかってんだよ! 近付けば機動力じゃこっちに分がある! 小回りを効かせて勝負すればどうにかな・・・・・・あれ?」
急にキョトンとした表情を浮かべるとエトワールがある方向を見た。
帝城へと続く帝都大通りの方向だ。

「・・・・ぬ!!!」
上空エイブラハム内部。
大統領をエトワールと同じ所を見た。
褌の男もそちらを見ている。
その頬に一筋、汗が伝った。

大通りを帝城に向けて一台の蒸気自動車が走ってくる。
黒塗りの大型車だ。要人用の最高級仕様車。先端には金の女神のエンブレムがある。
黒塗りの車はエンジン音を響かせて城門をくぐると停車した。
すぐに運転席から運転手が降りて後部座席のドアを開くと恭しく一礼する。
スーツ姿の男が後部座席から降り立った。
運転手が白い外套を差し出し、男がスーツの上からそれを羽織る。
「・・・・どったん? 今日こっち来るなんて話聞いてないけど」
エトワールに問われ、スーツの男がそちらを見た。
「ほんの気まぐれだ。今日はこのあたりで良き出会いがあるような気がしてな」
よく響く低い声でスーツの男が答える。
そして頭上のエイブラハムを見上げた。
「だが私の直感も捨てたものではないな。そうだろう? ジェイムズ・アレス」
髭の奥の口が笑みの形に歪む。
「どうした・・・そんな所にいては話もし辛い。降りてきたまえ」
ガクン!とエイブラハムが大きく揺れた。

ぐらりとブリッジが傾く。
「状況を!!!」
大統領が叫んだ。
「わかりません!! 急に出力が低下して・・・降下しています!!!」
銃士の1人が計器を見ながら叫ぶ。
ギリッと大統領の奥歯が鳴った。
「・・・・ギャラガー・・・・!!」
真下にいる怨敵の名が口から零れる。
財団総帥ギャラガー・C・ロードリアス・・・この世界を裏側から支配していると言われる男。
大統領がブリッジの隅に置いてあった3つの木箱へ向けて手をかざした。木箱が砕け散り中から小型の蒸気エンジンが浮遊する。
「蒸気王」・・・エンジンさえあれば周囲から材料となるものを引き寄せて蒸気機械を組み上げる異能。その力が発動し瞬く間にレーザー砲を搭載した3機の小型衛星が組み上がった。
「いいか! コントロールを回復したら私に構わず全速力でこの空域より離脱しろ!! 海上に逃れて共和国領へと帰還するんだ!!」
「・・・しかし閣下!!!」
バン!!と大統領がハッチを開く。
物凄い勢いの風がブリッジに吹き込んでくる。
「いいな!! 言う通りにするんだぞ!!!」
そう叫んで大統領は衛星と共に虚空へと身を投げた。

3機の衛星のレーザー砲から一斉に赤い閃光が走る。
地上のギャラガーへと向けて。
しかし迫り来る赤い死の光を前にしても、ギャラガーは微動だにしない。
「・・・違う。違うなぁ、『そうではない』 誤りを指摘し訂正しよう、ジェイムズ・アレスよ」
レーザーが直撃する。
否、ギャラガーを覆う球形の障壁がその光と熱を完全に遮断する。
「そのお前の素晴らしい力は『この世界の敵』にこそ振るわれるべきものだ。決して『この世界の指導者』に向けられるような事があってはならないんだよ、ジェイムズ」
バサッと外套を翻し、周囲の爆炎と噴煙を散らすギャラガー。
そして手にした獅子の頭を象った握りの付いた錫杖を降下中の大統領へと向けた。
ガクンと大統領が空中に静止した。ギャラガーの放った見えない力に捕われて。
しかしギャラガーはそれ以上の事をしようとはしなかった。そのまま静かに地上へと大統領を降ろす。
「だが、その罪を咎めはしまい。お前が正しき『理解』へと至る事を期待し、私はその罪を許そう」
頭上のエイブラハムを見上げ、そして自分の乗ってきた蒸気自動車を振り返る。
「蒸気機関・・・素晴らしい力だ。魔道機関に代わって世界を導く動力となるだろう。お前の夢は確か、この力を共和国の主導の元に世界に広める事だったな、ジェイムズよ」
大統領は地面に片膝をついたまま動かない。
「是非そのまま進めるがいい。その夢を、『私が許可しよう』」
「・・・くっ!! ギャラガーッッッ!!!!!」
大統領が咆哮した。
そしてその雄叫びに合わせるかの様に、ドラゴンブレイドを構えた褌の男が上空からギャラガーに襲い掛かった。
「天地烈開!!!!!!!!!!」
大剣が振るわれる。
大地は轟音と共に数百mに渡って切り裂かれ、大断層が発生した。
発生した断層の上にあった建物がなす術なく崩壊する。
舞い上がる土煙の向こうに、ギャラガーと男が静止している。
ドラゴンブレイドの刃を、ギャラガーは白手袋をした片手で受け止め、男は空中で停止していた。
「・・・誤りを指摘しよう、ELH(エルハ)よ」
ふわりと軽くギャラガーが刃を押し戻す。
まるで羽毛のように重量を失ったかのようにエルハと呼ばれた褌の男が後方の地面に落ちる。
「そのお前の素晴らしい剣の技も世界の敵にこそ振るわれるべきものだ」
ぱんぱん、と手を打って埃を払うギャラガー。
「・・・だが、許そう。その類希なる剣の腕と、世界全体を見ることのできる広い視野に免じてお前の罪を私が許そう、エルハよ」
エルハに背を向けたギャラガーが、ふとその視線の先に姪の姿を認めた。
「・・・・・それで、お前は何故ヤキソバを食べている、エトワール」
えー? と手にした割り箸を止めてエトワールがギャラガーの方を向いた。
「・・・だって、マイアンクル来たらもう、うちがする事なんもねーじゃん。ヤキソバ食べるしかないっしょ」
そう言ってエトワールは再びゾゾゾゾとヤキソバを啜ったのだった。