最終話 ぼくらの故郷-2


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大通りを自転車でかっ飛ばすエリス。
早いなー・・・とても2人乗りしてるとは思えん。
皆がステージがエーテルビジョンの方へ集まっている事が幸いした。
通りはほとんど人がいない。
よし、この調子なら間に合うか・・・・。
ふいに横から出てきた誰かにぶつかりそうになる。エリスが大きくブレーキを踏んだ。
キキキキキキ!!!!!と物凄い制動音が鳴り響く。
私も投げ出されそうになるのを必死に耐えた。
「こ・・・こらー!ダメなんだぞ人のいるとこで自転車でスピード出して走ったら!!お巡りさんに怒られちゃうんだぞー!」
危うく衝突しそうになった男の子(?)が怒っていた。エリスと2人で申し訳無いと頭を下げる。
「ノルラノルコ、ヒカレル。ツブレル。マスマスタイラニナル、タイヘン」
連れなのか・・・なんか珍妙な動物が言う。
「な・に・が・た・い・ら・に・な・る・っ・てー!!!」
男の子は動物にヘッドロックを決めて頭をぐりぐりやっていた。
すまない!私は2番通りに事務所を開いているウィリアムという者だ!今は急いでいるので失礼するがいずれちゃんとお詫びをさせてもらうから折りを見て事務所を尋ねてくれ!
「あ、ちょ、ちょっとー!」
振り向いて何度も頭を下げつつ、エリスの後ろに乗って私は港への道を再び急いだ。

クラウン銀行、アンカー支店。
ここがシャークの定めた重要制圧拠点の一つだった。
祭の為、催しや露店の無いこの周囲には人通りは無い。
喧騒が遠く聞こえてくるだけであった。
暗がりから10人程度の人影が出てくる。
シャーク第三戦闘部隊長キリエッタ・ナウシズとその部下達だった。
「はん、地下はドンパチ始まったみたいじゃないか。耳聡い奴がいるもんだね」
目深に被っていたフードを外してキリエッタが言う。
「下の大部隊が丸ごと陽動だって知ったらその耳聡い御仁はどんな顔するかねぇ?物事なんてのはね、本当に大事な部分は少数精鋭でやるもんさね」
いくよ、と背後の部下達を顎でしゃくるキリエッタ。
その部下達の最後部で、ぐぇ! うぁ!!と悲鳴があがった。
バタバタと2人が路上に倒れ伏す。
「何事だい!」
暗がりから月光に照らされて誰かがゆっくり進み出てきた。
「・・・・会いたかったわ。キリエッタ・ナウシズ」
それはイブキだった。
一瞬呆気に取られるキリエッタ。しかしすぐにその喉の奥からこらえきれないといったようにくっくっくと笑い声が漏れる。
「アッハッハッハッハッハ!! こいつはいいね!最高だよイブキお嬢ちゃん。アタシもさ・・・・大事な日だってのに、どうにも今日はお嬢ちゃんの顔が頭にチラついてさ。偶然でも会えないかなって思ってたとこなんだよねぇ。それをそっちから来てくれるとはさ」
さがってな、と部下を下がらせるキリエッタ。
その目が鋭く輝く。鞭を構えてニヤリと笑う。
殺気が走る。慄いた部下達がざわっと動揺する。
「サソリの本気の狩りを、見せてあげるよ・・・お嬢ちゃん」
「本気のラーメンを思い知るのはそっちよ!キリエッタ!!」
やっぱり怒りのあまりイブキはラーメンになっていた。

アンカー放送局前。
ドサッ、と音を立てて最後のシャークの隊員が倒れる。
これで10名・・・・全員峰打ちだ。
スッと刀の切っ先を下げて、アヤメは自らの宿敵の姿を見た。
白猿の老獣人・・・・ビャクエン。
そのビャクエンは先程から戦闘に参加する事無く、高い塀の上にしゃがみこむようにして陣取りアヤメの戦い振りを眺めていた。
「ホーッ!ホーッ!! こりゃぁまた随分とおっかない娘っ子じゃのう! あの腑抜けの音無めの娘がここまで腕を上げてくるとは・・・・ほんに長生きはするもんじゃて! ヒャッヒャッヒャッ!!」
手を叩いて笑う。
「父を愚弄するのはやめてください。ビャクエン・・・・」
凛とした目でビャクエンを睨むアヤメ。
「ヒッヒッヒ・・・・殺し合いでやられて死ぬ奴など、どう言われてもしょうがないわい! 勝って生き残った方こそ全ての権利を得るんじゃ。それが嫌なら相手を殺して生き延びればええ!!」
ジャキン!!と鋭く長い三本の鉤爪を生やした手甲を装備して構えるビャクエン。
「主となら中々に楽しい死合いができそうじゃ!! せいぜい父の分まで足掻くがええわい!!」
ヒュッっと塀から飛び降りてくるビャクエン。
アヤメが降ろした切っ先を上げて構えを取った。
「!!!」
その落下の途中、ありえない何も無い空間で突然ビャクエンが軌道を変えた。ほとんど直角に折れたような軌道でアヤメに飛び込んでくる。
鉤爪と刀が交差する。しかしふいをついた分、ビャクエンの攻撃の鋭さが勝った。
肩口に傷を負ったアヤメの袖から白い手につーっと赤い血が伝った。
何故・・・とアヤメが眉を顰める。
「ヒャッヒャッヒャッ!! ワシが何を蹴って落下の軌道を変えたかわからんじゃろ? 攻撃せんから振り向いて確認してみるがええわい!! ヒャッヒャッ!!」
笑うビャクエンへの警戒は怠らずに、ちらりと横目でアヤメが先程ビャクエンが軌道を変えた場所を見た。
「・・・・・・・・・!!」
そこには親指の先程の小さなクモが糸を垂らして揺れていた。
「驚いたじゃろ? ワシは軽功舞身法により指先で触れられる程の大きささえあれば舞い落ちる木の葉ですら足場にする事ができるんじゃ。わかるか?おおよそこの空間に見えてるもの全部がワシの足場じゃよ。風になびく旗でも何でもええんじゃ」
アヤメがわずかに顔色を失う。
「縦横無尽に繰り出されるワシの爪から、果たしてどこまで逃れられるかのう? 楽しみじゃて! ヒャッヒャッヒャッ!!」

エンリケ事務所前。
「ここに来るのはあんただって、何となく思ってた」
炎の魔剣、レーヴァテインをかざしてシトリンが言う。
その剣先にはトーガがいた。
「お前か・・・・竜騎士団長」
背の魔剣シュバルツシルトを抜き放つ。
「あの戦場での戦い振りを見て以来、キサマともいつか戦ってみたいと思っていた。バーンハルトでないのは残念だがな」
「それは悪かったわね。でも退屈はさせないわよ?」
シトリンの瞳が金色に輝く。
町の外で現在放し飼い状態の愛竜クリムゾンウィングはギリギリでリンクの可能な範囲内にいる。
「フッ、炎を放つ魔剣使いだったな、キサマは」
ズアッとシュバルツシルトの刀身から黒い陽炎のようなものが噴き出した。
「ならば俺もシュバルツシルトの本当の力を見せてやろう」
トーガが地を蹴る。その巨体からは想像もできないような速度でシトリンに迫る。
シトリンも剣を構えてそれを迎え撃つ。
赤と黒の輝きが交差する。
「!??」
斬られてはいない。しかしシュバルツシルトから生じた黒い陽炎のようなものが自分の身体をかすった時に、シトリンは奇妙な脱力感と寒さを味わった。
まるで生命の一部を削って持っていかれたような・・・・。
「魂を喰らう魔剣シュバルツシルトの恐ろしさ、存分に味わうがいい」
冷たい目をした堅い表情を崩さず、トーガはじりじりとシトリンとの距離を詰めた。

アンカー地下遺跡3層。シャーク本部。
見張りを吹き飛ばし、扉を蹴破ってカイリが突入してくる。
中にいた数名のシャークが色めき立つ。一番奥のデスクに座ったヴァーミリオンだけは落ち着いて襲撃者を迎えた。
「・・・・こんな子供にここまで押し込まれるとは。あなた達少し怠慢ですね」
目を伏せてため息をつくヴァーミリオン。
「お前がばーなんとかか!」
勢い良くビッとヴァーミリオンを指差すカイリ。
「ヴァーミリオンですよ。帝国竜騎士団竜撃隊隊長、雨月海里君。初めまして」
ドスッ!と炸裂音がして、カイリは自分の腿を見た。
矢が突き刺さっている。ヴァーミリオンが机の下で構えていたボウガンを撃ったのだ。
「・・・・そしてさようなら。その矢には巨象でも即死させる猛毒が塗ってあります。不用意でしたね、海里君」

港へと到着する。
何とか間に合ったようだ。
前方に奴らの後姿を捉えて私は叫んだ。
シャハル!!! その子を離せ!!!!
奴らが足を止める。そしてシャハルが進み出てくる。
風が吹く。この男と対峙するのもこれで3度目だ。
これも腐れ縁というのだろうか。
「・・・・流石に三度目ともなるとな、ワシにもお前が来るのが何となくわかったよ、ウィリアム・バーンハルト」
忌々しげに言う。
私が来るのがわかっていながら、自分の末路まではわからなかったのかシャハル。大人しく彼女を解放しろ。
フン、と鼻を鳴らすシャハル。
「バカめ!目の前に黄金の塊が転がっているのにみすみす見逃す奴がいるか!!一体あの小娘一人でバード・ギルドからどれほどの身代金が取れると思っているのだ」
そこまでして金が欲しいのか!
「当たり前だ! 金のいらん奴などこの世にいるか!! 世の中には自分が暮していけるだけあればいいだとかふざけた事を抜かす奴も、そしてそれを清貧だとか持て囃す奴もいる。・・・・だがな、そんなものはワシに言わせればバカなだけだ! 金はあればあっただけ、それに見合った使い道というものがある! いらん等とぬかす奴はその使い道が思いつかんバカだと言うだけの事だ!!」
あまりの気迫に不覚にもたじろいでしまう。最悪な男なのだが、この金への執念にだけは頭が下がる物がある。
確かに大金を持った時の使い道など、私は考えた事もない。
「ウィリアム・バーンハルト・・・・いけ好かないお節介焼きの偽善者め! キサマにはここまで散々煮え湯を飲まされてきたが、それも今日までの事だ!!
今までの借り、まとめて返させてもらうぞ!!!」
バッと片手を上げるシャハル。それを合図にしたかの様に背後の巨大な貨物船の甲板の鉄板が吹き飛び、蒸気が吹き上がった。
「タイタン!!!!!!」
蒸気の向こうから、巨大な何かが立ち上がる。鎧のような、硬質のシルエット。
魔導機械兵か・・・・しかし・・・・何と巨大な・・・・・・。
一瞬呆然としてしまう。
タイタンと呼ばれた巨兵は手を差し伸べてシャハルを掬い上げた。
「光栄に思えバーンハルト!! タイタンは対ドラゴンを想定して開発された最新にして最大の魔導機械兵だ!!しかも今回は特別にキサマの為に対人用にカスタマイズしてある!!!」
タイタンの首の後ろのあたりがバクンと開いてシャハルが胸部へと滑り込んだ。
『捻り潰してやるぞ!!! バーンハルト!!!』
そのタイタンの巨大な腕が私に迫った。