第25話 終わらせる者、繋ぐ者-3


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

トントンというノックの音で目を覚ます。
・・・朝か・・・しかしまだ薄暗いな。
時計を見る。・・・時刻は5時半だ。
普段は私は朝6時に起床する。それよりは少々早い。
返事をして扉を開けると、そこにはエリスがいた。
「おはようおじさま! 朝ごはんにしましょう」
見れば彼女はもうすっかり余所行きのフリルのブラウスとスカート姿である。
ああ、そういえば今日は皆で遊園地に行く日だったか。
しかし5時半とは・・・また随分張り切ってみたものだ。

食堂へ行って私は驚いた。
何と6人全員揃っている。
明け方はいつもなんだかぽーっとしているマチルダも放っておけば昼まで寝ているDDもちゃんと食卓に着いている。
・・・しかも全員もう余所行きに着替えているし・・・。
何だかなぁ。軽く考えていたのだが思った以上に大事の気がしてきたよ。
何もなければいいのだが・・・。
「ほらほらウィル、早く食べて早く行こうよ!」
DDがそう言って私に皿を差し出してくる。
わかったわかったそう急かさないでも・・・って何だこの豪華な食卓。
マチルダに視線で問うと彼女は笑顔で言う。
「今日はエビのピラフとヒレカツです~」
・・・朝から!!??

朝食を終えると全員に背を押されるようにして私はオフィスを出た。
そんな我々をラゴールが見送る。
「明日の事まで気にしなくていいようにシフトはいじってある。倒れるまで遊んでこい。いやむしろ倒れてこい」
滅茶苦茶言いやがる。
・・・というかふと思ったが、多分このチケット、客がくれたっていうの嘘だな・・・。
ラゴールの顔を見る。
「・・・? どうした」
いや、何でもない。
何の気を使ったのかは知らんが、皆も喜んでいるようだし甘えさせてもらうとしよう。
ラゴールに礼を言って出発する。
「プライベートで遊園地に行くのは初めて。とっても楽しみにしてたわ」
セシルが笑顔で言った。
「私は仕事でもプライベートでも初めてです」
ルクが言うと残る全員が肯いて同意する。
「・・・まったくもう。皆はしゃいじゃって子供よね」
やれやれとため息をつくベル。
「何だよぅ。ベルは楽しみじゃなかったの?」
DDに言われてベルは澄まして人差し指を立てた。
「当然楽しみにしてたわよ。初めて行くのだし私の知的好奇心を刺激するわ」
そんな賑やかなやり取りを聞きながら私はふと思った。
そういえば私もその手の施設は初めてだな。どんなものなのか見当もつかん。
・・・まあ、公園に毛の生えたようなものだろう。

・・・な。
思わず私はバカの様に口を開けたまま固まってしまった。
その件のマジカルランドの威容にである。
広大な敷地に幻想的な数々の建物や遊具らしきものがある。
・・・何だあの巨大な車輪のようなものは。
「あれは『観覧車』って言うのよ、先生。ゴンドラが沢山ぶら下がっているのがわかるでしょう? あれに乗ってゆっくり回って景色を楽しむの」
セシルが解説してくれる。
ほー、と皆で感嘆の吐息を漏らしつつ観覧車を見上げる。
しかし凄い人だな。
入り口にも相当長い列が出来ている。
しかし我々は特待チケット持ちなのでどうやら並ばなくても入れるようだ。
・・・重ねてラゴールに感謝だな。あの列に並んで入るのでは、入園までに結構体力を使うだろう。

園内に入ると、ネズミ(?)の様な着ぐるみのキャラクターが風船を配っている。
私たちも彼(?)から「ハロー」と気さくに声をかけられた。
エリスとセシルも風船を受け取っている。
風船も着ぐるみと同じような丸い耳が付いてるんだな。
「マジカルランドのマスコットキャラクター、レミングス将軍閣下よ」
セシルがまた説明してくれる。
・・・てゆかマスコットのくせにえらい大層な名前だな。
「バロー」
なじられた。将軍閣下お怒りである。
「このマジカルランドには他にも有名なキャラクターがいるのよ。ほら見て先生」
セシルの指差す方を見る。
そこにはフルプレートの鎧に身を包んだ騎士がゆっくりと園内を闊歩していた。
その周辺には人だかりが出来ている。凄い人気だ。
「あれもそう。マスコットキャラクターの1人の『謙虚なナイト』」
凄い人気なんですが。謙虚なナイトはそんなに人気者なのか。
「あっちも」
そちらを見る。
何やら黒装束の男が皆から空き缶や石を投げられている。
「あれは『汚い忍者汚い』」
そんな重ねて言わなくても。凄い嫌われ方だぞやっぱり名前が悪いんじゃないのか。

その後、私たちは午前中の内に幾つかのアトラクションを回った。
どこも入るのに列に並ぶ必要がある。大変な盛況ぶりである。
・・・はぁ、やれやれ。
ベンチに腰を下ろして一息つく。
皆はテーブルに弁当とパンフレットを広げて次はどこへ行くのだとわいわい話し合っている。
流石に若い子らは元気だなぁ。
そんな事を考えていると、
「どうぞ、ウィリアム」
ルクが水筒のコップを差し出してきた。
礼を言って受け取る。冷えた麦茶は美味しかった。
その私の隣にルクが腰掛ける。
・・・楽しんでいるか?
ふと彼女にそう聞いてみる。
「・・・ええ、とても」
そう言ってルクは微笑んだ。
そうか、よかった。
他の皆ほど露骨にはしゃいでいないのでわかり辛いが彼女は彼女なりに楽しんでくれているようである。
「あまり大勢で賑やかにというのは慣れていないので、まだ勝手は良くわかりませんが楽しんでいますよ」
ここは流石に1人で来るような場所ではないからな。
周りを見回しても、皆私たち同様家族連れや友人同士のようだ。
・・・と、思ったら。
「・・・うおおおお!! 次はライトニングアロー45分待ちか!!!! 燃えるぜ!!!!!」
そうでもないようだ。やたら大柄が男が1人ではしゃいでいた。
・・・しかし、何と言うか・・・。
サングラスのその大柄な男を見る。
レミングス将軍閣下のプリントされたマジカルランドのロゴの入ったTシャツを着て、将軍閣下と同じ耳のついた帽子を被り、手にはやはり将軍閣下と同じ耳のついた蓋のドリンクとポップコーンを手にしている。
・・・えらい全力でランドを堪能してるな。
そう思ったらその男がふとこっちを見た。
「・・・おおお!! バーンハルトか!!!」
何!?
大柄なその男は私の名を呼ぶとぶんぶん大きく手を振ってこちらへ大股で歩いてくる。
誰だあれ、知り合いか!?
「俺だ俺だ!!」
男がサングラスを外す。
・・・な!!? グライマー!!!!!
こんなとこで何してるんだ魔人ッッッ!!!
言ってから自分も魔人連れな事に気付く。
「こんなとこでも何もあるか!! 俺様は3日に1度はここに来てるぜ!! 自慢じゃねぇが下手な案内員より俺様の方がランドの事には詳しいぞ!!!」
そう言って『焼き尽くすもの』の二つ名を持つ魔人はがっはっはっはと豪快に笑った。
シンクレアの見合い騒ぎの時以来だな・・・。
というかどうでもいいが毎度この男とはこの男には似つかわしく無い場所でばかり会うな。
「・・・久し振りね、可燃性バカ」
グライマーの格好を見て呆れた様にベルが声をかける。
「あぁん? 何だチビスケお前いたのか。随分久し振りだな前に会った時は100年くらい前だったか?」
「小さくてもあなたよりずっと年上なのだけどね」
ふん、と鼻で笑うとグライマーが腕を組んでベルを見下ろした。
「俺様は弱い奴には興味はねえ!! まぁそれでも俺様とお前だけが残っちまったらそん時ぁ戦わなきゃいけねえがな」
・・・ベルがこの島で本当の実力を発揮できないというのも、こういう風にプラスに作用する事もあるんだな。
実際もうグライマーはベルには目もくれずにエリス達の話の輪に首を突っ込んでいる。
「何だお前らランドは初めてなのか!! しょうがねえな俺様が穴場を教えてやろう!!!」
「わあ何ですかあなたは!!」
エリスが面食らっていた。
その時、私はふと見覚えのある2人組の姿を視界に捉えていた。
「・・・次はファイアー・ロックへ行くわ」
「畏まりました、お嬢様」
フリルのついた日傘を差した令嬢と、それに付き従う執事。
・・・って・・・。
「・・・あら」
その令嬢・・・ヴァレリアがこちらに気付く。
「変わった組み合わせね。ウィリアム・バーンハルト・・・それに燃えるゴリラ」
「・・・ケッ、今度は蛇女が登場かよ」
今度はグライマーもギラリと瞳に危険な輝きを宿して敵意をむき出しにする。
・・・しかし格好が格好なので決まらない。
対するヴァレリアも冷たい視線を真っ向からグライマーとぶつけ合う。
「・・・私だけ蚊帳の外ね。まあ別に構わないけど」
そう呟いてベルがポップコーンを1つ口に放り込んだ。