第2話 翼を求めて-2


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オフィスは2階だから上がってね。
そう言って私は扉を開けて女の子とヘンな動物(?)を促す。
漂水は何か言うかと思った私の予想をさらっと裏切って、
「そんじゃ団長。オレはまた夜にでも」
そう言ってどこかへ去って行った。
・・・あっさり帰ったな、アイツ。
もう少しこの子達に対して何かリアクション取るかと思ったけど・・・・。
一瞬だけ見せたこの子らへの強い興味のようなものは私の勘違いだったのだろうか?
でもそうは思えない。あの時見た漂水の冷たい瞳の輝きはいつまでも私の脳裏にべっとりと張り付くように残って消えてはくれなかった。

ん・・・鍵かかってる。
ガチャガチャとノブを回してそれを確認する。私はジーンズの腰にぶら下がっているキーチェーンからオフィスのキーを取り出して扉を開けた。
えりりんはまだノワールにいるはずだから、仕事で外に出ていて昼食は外で取ってくると言っていたシンラがまだ戻っていないと言う事だ。
あ、イトーちゃんお客様だから飲み物お出ししてー。
通りかかったハイパーココナッツ伊東にそう頼む私。
応接用のソファにちょこんと座った女の子と私は向かい合った。
えーっと、さてじゃまずはお名前聞いてもいいかなー。私はダイヤモンドダスト。DDって呼んでね。
「名前は・・・」
「ノルラノルコ」
と、何故か隣のヘンな動物が答えた。喋れるのねこの子。
「・・・で、いいかなって。なんかもうそれで皆に通っちゃったし」
たはは、と苦笑して言うノルコ。
・・・なんだろ? まあ本人がそう言うんだしノルコと呼ぼう、うん。
ノルコは隣のヘンな動物をアパ、と紹介してくれた。
アパは私たちの会話に興味がないのかオフィスの中をきょろきょろと見回したり首をかしげたりしている。
まあよく見れば愛嬌があって可愛げもないとは言えないね。
そこへ伊東が湯気の立つ湯飲みを2つ持って来た。
「お待たせしました。くず湯でございます」
客に対してよくわかんないもん出すなーこいつも・・・・!
それでノルコ、ウィルへの用事を聞くね。
「あ、えっと・・・・」
居住まいを正したノルコが視線をわずかに宙へ泳がせた。
これから話す事を必死に自分の中で整理している・・・なんかそんな感じ。
「すっごくヘンって言うか、なんかトンデモ話で、信じてもらえないかもしれないけど・・・・。あたしすっごい遠い所からこの島に来て・・・・」
それからノルコは話し始めた。
それは確かに突拍子も無い話で、私は内心随分面食らったが、それを顔には出さずに聞いた。
荒唐無稽な話をノルコは真剣に話した。
何も知らない身なら一笑に付してしまいそうなおとぎ話。
だけど私はそれを信じた。それだけの物をこれまでにこの島で見て来たからだ。
ゲート・・・そして賢者ギゾルフィと彼のいた砕けた世界の欠片の事を思い出す。
なるほどね、ノルコは元いた世界に帰る方法を探してるんだね。
話を聞き終えてそう言った私に、ノルコはちょっとびっくりしたように目を丸くした。
「信じてくれるの?」
えー? 信じるよ勿論。安心してノルコ! 私とウィルとここの皆が力になるよ!
安請け合いしちゃったけど、ウィルがここにいても同じ事を言うと思う。
でもまあ、まずそのウィルから探さないといけないんだけどさ・・・・。

そしてそのウィルの今いる場所を知っていると言った漂水は、約束通りにまた夜にやってきた。
既に帰ってしまっているが、ノルコの事を私に尋ねる様子も無い。
ちなみにノルコに今の住まいを聞いたら、何とビックリ、うぐいす隊のヒビキの所なんだそうだ。
ま、あそこなら何かあっても安心だ・・・。
ヒビキのうちはうぐいす隊の屯所から歩いて1分そこそこの場所だし、何よりヒビキ自体めっさ強いしね。
私が、初めて会った時に「自分より強いかもしれない」と思ったのは今までヒビキとオルヴィエの2人だけだ。
昼間突拍子も無い話を聞いたばかりだけど、漂水が持って来た話もこれまたとびきり突拍子も無い話だった。
・・・・空の上ぇ~???
思わず私とえりりんの声がハモる。
漂水は天井を指差した姿勢のままニヤリと笑った。
「そーいうこと。今先生がいるのは空の上。そこに浮かんだ大陸さ」
思わず半眼になる。どうしようもなく胡散臭い話をどうしようもなく胡散臭い男が持って来たもんだ。
・・・・たって、ないじゃん。空に大陸なんか。
「それは古代王国期からの魔術的ステルスが現在もカンペキに機能してるからですぜ団長。だから真下にいるオレ達も真上の大陸を認識できてねえってワケで」
何でお前がそんな事知ってんだよ。
私の問いに漂水は苦笑して肩をすくめた。
「そいつぁカンベンしてくださいよ団長。言っときますがね、オレにしてみりゃこの話を持って来たのだって純粋な善意からだぜ?」
ふーん・・・善意ね・・・・。
それは疑わしい。というか有り得ないけど、でもまあこの話が現状私たちにとっての蜘蛛の糸である事に代わりはない。
ゲートで飛ぶわけ?そのお空の上の世界ってのには。
「いや、それは無理ですぜ。今向こう行きのゲートは向こう側から開いてもらうしかねえんだが、流石のオレにもその当てはねえな」
直接乗り込まなきゃダメってか。
ニヤリと笑ってうなずく漂水。
そんな空飛ぶ乗り物どうやって・・・・。
言いかけて気付く。あいつが薄笑いを浮かべて私を見ている。
それができる男を知ってるだろう? と、その視線が私に言っていた。
ゲン爺・・・・。
たしかにあの爺ちゃんならそんな無茶な船でも作ってくれそうだね・・・・。

翌日、私は昼前にオフィスを出た。
ゲン爺の工房に行く為だ。
漂水の話を丸々鵜呑みにする事には抵抗があったけど、そんなウソつくメリットもあいつにはないだろうと思ったわけで。
そうとなれば話は早い方がいいしね。
オフィスのある建物を出て、表通りへ1歩踏み出したその時、
私は「境界線」を越えたことを肌で感じ取った。
それはジャングルで虎の縄張りに入った事を知らせる本能のサイン。
視界の端に男の姿を捉える。
そいつは通りの端っこでめっさヤンキー座りでタバコをふかしていた。
あごひげのある男だ・・・黒スーツにサングラス。
柄悪すぎる中年ヤンキーだった。
触らぬヤンキーに祟りなしだ。素通りを決め込んだ私だけど、話はそう上手くいかなかった。
「よー待ってたぜ、ダイヤモンドダスト」
うわ、待ち伏せされてた。
男がサングラスを外して立ち上がる。
瞬間、男の背後にアシュラが見えた気がした。
三面六臂の東方の闘神・・・。
そして私は人生で3度目の、初対面の相手に自分より強いかもしれないという印象を持ったのだった。
だけど構ってる時間はない。
悪いけど急いでるんだ、またにして。
そう言って素通りしようとする。
「! オイ! バカヤロ! 待てや!!」
男が慌てて私の肩をガシッと掴んだ。
ちょっ・・・何すんのよ!!!
バキッ!と思いっきり殴る。あ、やば・・・・こういう場合は平手がセオリーかな? めっさ拳入れちゃった。
「・・・ってぇ!! バカヤロ! いてえだろうが!!」
中年ヤンキー鼻血吹いた。
いきなりレディに乱暴する方が悪いよ。
「あー、何してるのー?」
ちょうどそこへ、大家さんの薬局からコトハが顔を出した。
そしてすぐに私と男の間の剣呑な空気に気が付く。
誰?と視線で問うコトハに私は首を横に振って応じた。知らない、と。
「ダメなんだよDDにヘンな事したら」
すっと男に近付いたコトハが静かに男の手を取って、そのままふわりと投げた。
あ・・・・。驚いて声も無い。
何て静かに自然に攻撃に入るんだろう。そういえばウィルが言ってたっけ・・・無意の攻撃。
ムビョ・・・ムビャ・・・・名前忘れた。
綺麗な円を空中で描く男。
しかし上空で唐突にその男の姿がフッと消えた。
!!!
「!!?」
私とコトハが同時に驚愕する。
ドスッ!!!と次の瞬間重たい炸裂音が周囲に響き渡った。
いつの間にかコトハの脇にいた男がその拳をコトハの鳩尾にめり込ませていた。
「いきなり何しやがる。ビビったろうが、バカヤロ」
「・・・・あ・・・・く・・・・・」
苦悶の表情を浮かべてコトハががくっとその場に膝をついた。
「落ち着けや、バカヤロ。今日はチャンバラしに来たんじゃねーよ」
・・・・・・何者よ、お前。
鋭く男を睨みつける。
いつでも右目を覆う包帯を外せるように構えながら。
「はー、やっと自己紹介できんのか。俺の名はカミュ。共和国銃士隊・・・三銃士筆頭」
!!! 三銃士!!!!
「人呼んで『クロガネのカミュ』だ」
そう言ってカミュはふーっとタバコの紫煙を吐いた。