最終話 ぼくらの故郷-7


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リゼルグを押し退け、私は剣を振るって両足の戒めを断ち切った。
「無駄な足掻きを!!」
再びの猛攻。
刃の雨が降り注ぐ。
全てを避けるのは不可能だ。
致命的な位置にだけ被弾しないように、いくつも傷を刻まれつつ私はリゼルグへ迫る。
しかし私の放つ斬撃を、奴は左手に構えた長剣で悉く弾いて見せた。
「温い!!!!」
反撃の一閃が私の胸部を浅く薙いでいった。
!!!!
よろめいた私を鋭いスパイクを生やした巨大な鉄球が直撃した。
吹き飛ばされ、弧を描いて地面に叩き付けられる。
肋骨のあたりに激痛が走った。
折ったか・・・ヒビを入れたか・・・・。
倒れ伏す私の周囲に流した血が血溜りを作り始めていた。
「・・・まあこんな所でしょうね。概ね想定していた程度の力でしたよ、先生」
私を見下ろして冷笑を浮かべるリゼルグ。
「歴史の表舞台に出て来ない者達の中にはあなた程度の力を持つ者はいくらでもいます。あなたの名声など、所詮は神剣の力と運が作った幻影なんですよ」
ガッと倒れた私の頭を踏みつけるリゼルグ。
「忌々しい・・・この程度の力しか無いくせに、小賢しくも私の計画をここまで狂わせて・・・」
ドガッ!と顔を蹴り飛ばされる。折れた奥歯を吐き出しつつ、私は地べたを転がった。
「ゆっくりと嬲り殺しにしてあげたい所ですがね、今夜は私も忙しい身なので、さっさと首を跳ねて終わりにしましょうか」
リゼルグが振り上げた刃が月光を映して冷たく輝きを放った。

「・・・・そうはさせぬ!!!」
バサッ!と羽音が響く。
横合いから飛び出してくる黒い影。
ゲンウが苦無を振るう。しかしリゼルグはその一撃を剣で受けた。
「七星、如月幻羽・・・・・魔術的防護の無い金属を身につけて私に挑みかかるのは自殺行為です!」
リゼルグが睨むと、ゲンウの手にした苦無から無数のトゲが生えてその手を串刺しにした。
「・・・ぬああっ!!」
ゲンウが怯む。そして懐から苦無や短刀を取り出して投げ捨てた。
そのゲンウに斬りかからんと剣を振り上げるリゼルグ。
その腕にコトハが組み付いた。
「『朧月崩し』・・・・あぅっ!!・・・・」
その手を慌てて引く。コトハの両手はズタズタに切り裂かれて血を噴き出している。
リゼルグの左腕のコトハが掴んだ部分には、鮫の背びれを思わせる形状の小さな薄い金属の刃が無数に生えていた。
「無駄ですよ!! 雑魚が!!!!」
ドン!!!と胸部を蹴り飛ばされ、コトハが背後の大木の幹に叩き付けられた。
それでも今の動作だけで肩を外していたのだろう、空間に鋼鉄の右腕が現れるとリゼルグの左肩を掴み、ゴリッと音を立てて骨をはめ込んだ。
そして周囲の空間に無数に発生した鎖がゲンウとコトハをがんじがらめにする。
「全身の骨を砕いてあげましょう!!」
ギリギリと鎖が二人を締め上げる。二人が呻き声を上げて苦悶に顔を歪めた。

ガサッ!と木々の梢を鳴らして誰かが上空に舞った。
月光を背にリゼルグに襲い掛かる。
「よくもウィルを!!」
それはDDだった。
上空からバッと右手を突き出し、その掌の先から猛吹雪を噴き出す。
「小賢しい!!!」
リゼルグが自分の目の前に巨大なファンを作る。
そして、そのファンを高速で回転させて吹雪を周囲へ散らした。
「・・・なっ!!」
DDが驚愕する。
吹雪を凌ぎ切ると、リゼルグはそのままファンを縦方向へと回転させたまま向きを変えてDDへと叩き付けた。
今度はDDが眼前に分厚い氷の壁を作ってファンを防ぐ。
ギィン!!と甲高い音を立てて氷壁にファンは激突し、次の瞬間氷壁を粉々に打ち砕いた。
「・・・・・うああっっ!!!!」
回転は殺せたが激突のショックで吹き飛ばされたDDが地面に叩きつけられ、2,3度バウンドして転がる。
「おのれ悪漢!!! 成敗してくれるわ!!!」
そこへ到着したジュウベイが突きを放つ。
その鋭い一撃はリゼルグの右肩をかすめた。
「!! 私に傷を!!! 後悔しますよ!!!」
無数の武器の嵐がジュウベイに襲い掛かる。
「ぐわあああっっ!!!」
全身に傷を負ってジュウベイが吹き飛ばされる。

「・・・・くっくっく・・・・」
傷だらけにされ、立ち上がれない仲間達を眺めてリゼルグが笑った。
「・・・はっはっはっはっは!! 他愛無い!! まったく興醒めですね」
そして鋭く木々の間を睨み付けた。
その視線の先にはうぐいす隊長がいる。
「さあ残るはあなたのみ。かかってこないのですか、天城雅秋」
リゼルグの言葉に、うぐいす隊長は普段ののんびりした調子のままゆっくりと首を横に振った。
「・・・・うんにゃ、俺はやらんよ」
「怖気付きましたか? どちらにせよ生かしておくつもりはありませんよ」
うぐいす隊長が倒れた仲間たちを見る。
「彼らの聖戦だ。横からしゃしゃり出るつもりはないよ」
「何をバカな・・・・彼らはもう戦えませんよ」
どうかな、とうぐいす隊長は笑った。
その言葉にリゼルグがこちらを向く。
「・・・・む・・・・・」
そして立ち上がった私に気付いた。

「・・・・健気ですね。しかしそんな有様で勇ましく立ち上がって、果たしてどうするつもりですか?先生」
嘲笑するリゼルグ。
・・・まったく奴の言う通りだ。最早攻撃するどころか立っているのもやっとの状態だ。
何ができるのだろう・・・今の私に・・・・。
一歩を踏み出す。
たったそれだけの事で全身に激痛が走り、意識が一瞬遠くなる。
しかし私は不思議と穏やかな心境だった。先程までの焦りや怒りが、まるでどこか遠い世界の事のように霞んでいる。
・・・ただ単に、もう意識が朦朧としているだけかもしれないが。
でも、今ならあれが・・・できるかもしれないな・・・。
先日オーガの谷から戻ってきた後で、コトハに私は尋ねた。
あんな殺気も害意も無く相手を攻撃する事ができるものなのか、と。
『あ、あれねー「無拍子」って言うんだよーすごいでしょ』
そう言ってコトハは微笑んだ。
・・・・ムビョウシ・・・・。
『心を外に置いて無にするんだって。お師匠様の言葉なんだけど・・・でも難しいよね、戦っててこれから攻撃しますっていう相手に何も感じず何も考えずにいるのってねー』
ボクもたまに失敗するんだよ、とそうコトハは言って笑ったのだった。
心を外に置いて、か・・・・。
ふらつく足取りでリゼルグへと近付く。
「もう私の言葉も耳には入っていませんか。哀れですね」
リゼルグが長剣を構える。
「・・・・死ね!!! ウィリアム!!!」
その長剣の切っ先が私に迫る。鋭く光る剣先はやけにゆっくりと私に向かってきていた。
世界が白くなる。
私の耳にはただ、波の音だけが聞こえてきていた。
そして・・・。
迫る一撃をコンマ数ミリの差でかわした私の一撃が、奴を袈裟懸けに切り裂いたのだった。

「ぐわあああああああああっ!!!!! キサマ!!! 何故・・・・今の攻撃はなんだ!!!!!」
斜めに切り裂かれた胸部から激しく出血しながらリゼルグが絶叫した。
ガシャンと音を立てて私の手から神剣が落ちた。
ここまでだな・・・もう身体は動かない。
ここで攻撃されれば私は殺されるだろう。
ガッ!と襟首を掴まれる。
「・・・・・おのれェッ!!! クズの分際で!!! よくも!!!」
ぐいっとそのまま左手で持ち上げられる。
そして私の眼前に細長い刃を構えた鋼鉄の右腕が浮かび上がった。
「両目を抉り出してやる!!!!!」
・・・ここまでか、私も・・・・。
静かに目を閉じる。
しかし次の瞬間響いたドシュッという被弾の音は私が発したものではなかった。
鼻先をふわりと何かが撫でていく。
それはエリスのブロンドの長髪だった。
身体ごとぶつかるように、エリスは手にしたレイピアでリゼルグを刺し貫いていた。
「・・・・あなたなんかに・・・あなたなんかにやらせない・・・・」
エリスは震えていた。目には微かに涙が浮かんでいる。
「おじさまはやらせないんだからッ!!!!」
「小娘ェッ!!!!」
私を手放し、左手で思い切りエリスの腹を殴りつけるリゼルグ。
くぐもった悲鳴を上げてエリスが吹き飛んで倒れた。
「・・・・くそっ!! こんな所で・・・こんな所で私が・・・・私・・・・」
よろよろと後ずさるリゼルグ。その足元にぼたぼたと鮮血が垂れた。
「道連れだ・・・ウィリアム! ・・・・1人では死なん・・・・キサマも地獄への道連れになってもらうぞ!!!」
奴の右の袖から鎖の束が放たれる。
その鎖が私の身体に巻きつく。
そしてぐいっと奴の方へと引き寄せられた。
奴は自分の上空に巨大な鋼鉄の塊を生み出していた。
その下部には鋭いツララ状のトゲがびっしりと生えている。
「・・・ははッ!・・・はっ・・・ひゃははははは!!!!」
ゴウ!とその鉄塊が私たちへと落下してきた。
バキン!!!と私を縛り付けていた鎖が断ち切られる。
ぐいっと背後へ引かれ、私は誰かに抱きとめられる。
「・・・・地獄へは、あなた1人で行きなさい」
言いざまに私を抱きとめたルクがグングニールを突き出した。
ドスッ!とその一撃がリゼルグの眉間を刺し貫く。
「・・・・・え・・ぁ・・・・・・」
呆然とした表情を浮かべてリゼルグが仰向けにどう、と倒れる。
そして次の瞬間、倒れた奴の上に轟音を立てて鉄塊が落ち、大地を震わせた。

長い夜が終る。
私はルクに抱きとめられたまま辛うじてそれを見届け、そして意識を失ったのだった。