第21話 司書と忍者-2


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立ちはだかる2人を見る。
ローブにマント姿の半獣人の女性オルヴィエ。
黒衣の鳥人ゲンウ。
2人とも未だに殺気も闘気も出してはいない。
しかし四大大国のうちの一国ツェンレンの誇る七星・・・・「格」で言えば先日戦ったルクやスレイダーに比べて相当上だ。
実力も良くて同等、それ以上と見るのが妥当だろう。
「この場にて死合ってもよいのだがな・・・・」
「今日は顔見せ。だからここまでよ」
2人がそう言うと周囲の風景にピシッとヒビが入った。そしてここへ来た時同様バラバラと崩れ落ちていく。
一瞬の後、そこは見慣れた私のオフィスだった。
警戒は解かずに2人を見る。
「まあそう怖い顔しないで、お茶でもいかが?」
オルヴィエがそう言って懐から一冊の本を取り出した。
何故お茶で本・・・・?
パラパラとページをめくり、あるページで指を止める。
そしてそのページの上に指をすっとかざすと、記載されている文章の文字がふわりとページから浮き上がって分離しするすると引き抜かれてくる。
そしてその文字がふわりとテーブルの上に飛んでくると絡み合って光を放ちティーセットに変わる。
・・・・・・・・・・。
思わず呆気に取られてしまう。
「『司書』の力を見るのは初めてか」
そうゲンウが言った。
・・・・・司書!! これが噂に聞くリブラマンサーか!!!
「記述化」の能力であらゆるものを文章に変えて書物に取り込み、「読込」の能力で現実化させる恐るべき魔術師。
半ば伝説上の存在と聞かされていた。・・・・まさか現実に存在しているとは・・・・。
そしてティーセットを見ていてハッと気がつく。
いつも客人にお茶を出す立場のエリスがいない。
エリスだけではないDDとルクの気配も無い。他の部屋から物音もしない。
「気がついた?」
オルヴィエを見る。彼女は私を見て笑っている。
「ウィリアムの大事な三人娘はここよ」
そして一冊の本を取り出して私に見せた。
・・・・・・!!!!!!!!!
ゲンウがガラッとオフィスの窓を開け放つ。
「町の外れに使われていない灯台がある。そこに結界を張って待つ。準備が出来たら来るがよい」
待て!!!彼女たちを・・・・・・。
オルヴィエに掴みかかろうとする。しかしそこへゲンウが割り込んで来た。3者の立ち位置を考えると信じられない反応速度だった。
「悪手だな、ウィリアム」
そう言って掌を私へ向ける。
瞬間、突風のような、衝撃波のような攻撃を受けて私は吹き飛ばされ背後の壁に激しく叩き付けられた。
「我らは御主に期待して来ているのだ。あまりがっかりさせるものではない」
「またね」
ゲンウに抱えられたオルヴィエが私に手を振った。
そしてゲンウは窓枠を蹴って外へ飛び出し、2人は夜の空に消えた。

・・・う・・・ぐ・・・・。
痛みを堪えて立ち上がる。
冷静にならなくては・・・。深呼吸をして頭を冷やす。
彼らが撤退していったのは私にとっても好都合だ。あの乱れた精神状態のまま、なし崩し的に戦闘に突入していたら私はやられていただろう。
軽はずみな事はできない。勝ってエリスたちを取り戻さなくてはならないのだ。
私に出来る事はまず食事を取り、睡眠をしっかり取って体調を万全にする事だった。
かつて戦場で鍛えたセルフコントロールは今だ健在で、私はすぐ普段の落ち着いた状態に戻ると食事の準備を始めた。
1人で食事をとるのはいつぶりだろうか。
食卓もオフィスも1人では広すぎて、そして静かすぎだった。
いつの間にか彼女たちは私の一部になっていたのだ。

翌朝、私は朝食を取った後で準備を整えてオフィスを出た。
通りに出てちょっと行った所でスレイダーに声をかけられる。
「お、先生おはよーさん」
彼は店の横手でタバコを吸っていた。
「どしたのよ先生こんな朝っぱらから? そんな重装備で1人で」
そう問うスレイダーに、私は今日は少し遠くまで探検に行くのだ、と答えた。
こういう事態を見越して予め探検用の一式を持ってオフィスを出ていたのだ。
「・・・ふーん?」
スレイダーがタバコを持っていた空き缶にねじ込む。
そしてエプロンを外すと店の裏口を開ける。
「わるーいシトリンちゃん。ちょっとタバコ切れたわオジさん買って来るんで後ヨロシクぅ!」
「ええー? 今からぁ!? もうモーニングの時間なってるんですから早く帰って来てよ!!」
奥からシトリンの怒声が聞こえた。
そして店の外に積んである空の木箱の下の方の箱をごそごそといじっている。
・・・・・?
するとその中から包みが出てきた。
包装を解くとそれは一対の鋼鉄のトンファーだった。
「何かあったらと思ってここに隠してたんだけどさ。役に立ったね。中取りに戻ったらバレちゃうからね」
そう言って新しいタバコに火をつける。
「誰とケンカしに行くのか知らないけどさ、オジさんも混ぜてよ」
・・・・・・・・・・。
やはり隠し事のできない男だ。
「男ってさ、何かこんなふうに誰も見てないトコでカッコつけなきゃいけない時があって面倒くさいよねホントね。皆見てるトコならめんどくせーとか言ってサボってればいいのにね」
それは普通逆なのだろうが、それがこのスレイダーという男の生き方なのだろう。
だがダメだ。危険なのだ。お前でも命を落とすかもしれない・・・・。
「そか・・・ま、いいんじゃないの? ホラ」
そう言って天を仰ぐ。視界に抜けるような青空が映る。
「今日は天気もいいしね」

スレイダーと2人で廃灯台へと向かう。
途中、今度はカルタスとサイカワとテッセイの3人と行き会った。
妙な組み合わせだな・・・・。
しかも3人とも麦藁帽子をかぶって虫かごと虫取り網を持ってる・・・・。
「やあこれは先生、おはようございます」
挨拶をして揃って何を?と聞いてみる。
「これから3人でカブトムシを取りに行くんですよー」
カルタスがはっはっはと笑う。お前は瓦礫撤去の手伝いじゃないのかと問えば、また壊しそうだから来なくていいと言われたそうだ。
しかし何故カブトムシ・・・・。
「某、今日は非番でしてな。屯所に来る子供たちにカブトムシを配ろうと思いまして、2人に手伝いを頼んだわけです」
そうテッセイが言う。
なるほどな。
「どうですか先生も一緒にカブトムシ・・・・あれ?」
カルタスが途中で言葉を止めて私の顔をしげしげと覗き込んできた。
「どうしたんですか? 先生・・・・そんな辛そうにして」
「本当だ。大事があった時の顔ですね」
サイカワが同意する。
!? 私は普段と同じ顔をしているはずだ・・・・。
思わずスレイダーを振り返ってしまう。
タバコを吹かしてニヤニヤ笑っている。
「先生の顔は普段どおりだよ? けどね、よく知ってる奴なら目見るとわかっちゃうんだよね、先生って結構目でモノ言ってるからね」
そう言って紫煙を吐いた。
「どうやら・・・・カブトムシはまたにした方がよさそうですな」
テッセイがそう言って虫取り網と虫篭を置いた。

小一時間の後、我々5人は廃灯台の前まで来ていた。
「妙な五人組だよねぇ」
スレイダーがそう言って苦笑した。
「色々とバラバラの5人ですよね」
サイカワが微笑んだ。
「しかし心は一つ!!!」
カルタスが拳をぐっと突き出す。
「うむ、先生の大事な家族を取り戻す」
テッセイがその拳に自分の拳を重ねた。
スレイダーとサイカワもそれに倣った。
最後に私が自分の拳を重ねる。
・・・・敵はツェンレン七星。
そして我々は廃灯台の扉をくぐった。