第21話 司書と忍者-4


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思い出せ・・・「剣帝」と呼ばれる事になったばかりの頃の自分を・・・・。
一番殺しが上手かった時の私を・・・・。
血が凍っていく感触。殺意で自分が黒く染まる。
「む!」
ゲンウが唸った。
「あ・・・・出たっぽい」
オルヴィエがこちらを向き直って構えを取る。
バン!!と飛び出してそのまま彼女に向けて突きを放つ。彼女も迎撃に突きを繰り出してくる。
点の攻撃がすれ違う。
オルヴィエの突きは私の首の皮をかすめていった。頚動脈の真上の皮を薄く切り裂いて通り過ぎる。
ほんの数ミリずれただけで致命傷。
しかしそこが私の計算通りの軌道。だから気にする事はない。
私の突きは彼女の側頭部をかすめていく。髪の毛が数本風に舞った。
・・・そこで、私は躊躇い無く剣を手放した。
「!?」
オルヴィエが驚愕するのがわかる。
突きの勢いのまま放り出された神剣はそのまま真っ直ぐ飛んで彼女の背後の石柱に突き立った。
私の右手はそのまま彼女の頭部を抱え込むように回される。
「うわわわ!!!」
オルヴィエが屈み込んだ。
彼女の右の眼球を側面背後から狙った私の親指が空を切った。
だが、屈んだ先には私のつま先が待ちうけている。
「!!!」
鳩尾を蹴り上げられて彼女が背後へ飛ばされる。
その間に私は彼女の剣を掴み取っていた。
「えっ、えげつないなー!!」
背を向けて走った彼女が石柱から私の神剣を引き抜いた。
互いに武器を取替え、再度私たちが対峙する。
「・・・どうしよう。蛇を出そうと思って薮をつついたら恐竜が出て来ましたの巻」
その頬を一筋の汗が伝った。

ぬう、とゲンウが解いていた腕を再び組む。
「なんと言う体捌き。あれが人の動きだと言うのか」
その足元で投げ出されていた4人が一斉に立ち上がった。
「フム、狸寝入りの時間は終りか」
「まーちょっと休憩時間をね。オジさんもう激しい運動ずっととかキツい歳だしね」
ニヤリと笑ってスレイダーがくわえたタバコに火をつけた。
「何をするつもりか楽しみに気付かぬフリをしていたが、良い策でも思いついたかな」
「さあどうだろうね? そんじゃ皆さん打ち合わせ通りで・・・・」
スレイダーのその言葉を合図に、テッセイが眼前で握り締めた拳に力を込める。
「ぬうううううううああああああああああ!!!!!!!」
ビシッと腕に血管が浮かび上がって肥大した筋肉で一回り膨らんで見える。
「御主の豪腕は確かにかなりのものだ。その腕から繰り出される攻撃の破壊力もまた然り。しかしいくら威力のある攻撃であろうと拙者に当たらなければ意味が無い」
「この一撃は当てて見せるッッ!!!」
ごう!とつむじ風を出してテッセイが腕を振り上げた。
「あ」
コトハが声を上げた。彼女の位置からは見えていたのだ。
テッセイは背中合わせにカルタスを背負っていた。
今サイカワの隣に立っているカルタスはサイカワが魔法で作ったダミーだった。
「金剛蓬莱壊神撃!!!!!!!!!!」
「&鼻ブースト!!!!!!!」
テッセイの豪腕が撃ち出される。同時にカルタスが力一杯鼻息を噴き出した。
攻撃が一気に加速する。その速度はゲンウの予測と反応を超えていた。
「!!?? バカな!!!」
そしてゲンウは必殺の拳を身体の真正面で受けた。
周囲に突風が吹き荒れる。
「・・・・・・見事・・・・まさかその様な奇天烈な策で拙者に攻撃を当ててくるとは・・・・」
よろめいてコトハを見る。
「すまぬ、不覚を取った。・・・・後を・・・任せ・・・る・・・」
ゲンウはその場に崩れ落ちて動かなくなった。
ふえ、とコトハの瞳に大粒の涙が浮かんだ。
「・・・げんうーやられちゃった・・・・やだ、やだよ・・・うええええええ・・・・」
ぼろぼろと涙をこぼしてコトハが両手で顔を覆った。
「・・・・・あ、でもボクが全員やればいいだけだった」
あっさり顔を上げる。
スッと袖から鉄扇が出てくる。両手に持ったそれを開いてコトハが優雅に一礼した。
「さっきは何もできなかったけど、今回は気持ちよく舞っちゃうよー」
「・・・参ったねぇ・・・さっきこっちのお嬢ちゃんはまったくデータ取れなかったんだよなぁ。また狸寝入りしとく?」
肩をすくめてスレイダーがそう言った。
しかし言葉と裏腹に全身から緊張感を漲らせていく。
「皆途中で死んじゃうから最後まで舞い終えた事ないんだよね。今日は最後まで舞えるのかな」
コトハから感じる威圧感はゲンウと遜色の無いものであった。

攻撃が交差する。
私とオルヴィエがすれ違う。
すれ違った瞬間私は武器を逆手に持ち替え、自らのわき腹をかすめる様に後方に突き出した。
間一髪それを横に飛んだ彼女がかわした。
「な、なにそれー後ろ見えてるの!?」
こちらへ向き直る。しかしその身体がガクンとよろめいた。
「あ・・・・もうヒザ・・・・」
終りか。
私は踏み込んで彼女の脳天に剣を振り下ろした。
!!!!
誰かが割り込んできた。
オルヴィエを蹴り飛ばして私から遠ざけ、私の攻撃を剣を持つ手に肘をぶつけて防いだ。
「はー・・・寿命が縮むよまったく」
それはシンクレアだった。
「ほら先生・・・もう大丈夫だから」
ふわりと彼女が私を抱きしめる。馴染んだ薬品とタバコの匂いがする。
凍っていた感情が再び熱を帯びる。
「ゴメンよ先生。こんな大騒ぎにするとは思わなくてね。オルヴィエは私のツェンレン王立アカデミーの後輩なんだ。それでちょっとした悪戯だというので手を貸した。エリス達は私が預かっているよ、大丈夫」
そう言ってシンクレアはオルヴィエの方を見た。
「もう満足したろう?」
こくこくとオルヴィエがうなずく。
「うんうん・・・・もうお腹一杯。ウィリアムは脱いだら凄かった」
なんか人聞きの悪い事を言われる。
「ゲンウ!コトハ!お前たちまで一緒になって!」
ビクンと倒れていたゲンウが跳ね起きた。
「いや・・・それはその・・・武人の性というか・・・」
コトハもしゅんとしている。
「ごめんなさーい。面白そうだったからつい・・・」
エリス達は無事なのか・・・・よかった・・・・。
力が抜けた私はへなへなとその場に座り込んだ。

「やー向こうに行けばウィルがいるって言われてさぁ」
DDがあははと笑って言った。
「大家さんの言う事だから本当だと思って」
エリスがはふう、とため息をつく。
3人はシンクレアに言われて火山地帯近くのこの島唯一の温泉宿に行っていたらしい。
「お風呂はよかったし、料理も美味しかったです」
ルクが言う。確かに3人とも肌の艶がいいですね・・・・。
オルヴィエは3人を本に閉じ込めてはいなかった。彼女が言うには・・・・。
記述化にはその対象の「存在質量」に応じたマナが消費されるらしい。これから私と戦うのに存在質量が大きそうな3人にマナを割けない、というわけである。
本に閉じ込めたと言ったのは私の本気を引き出したかったからだという。
こっちは本気過ぎて嫌なものまで引き出してしまった・・・・。
迷惑をかけたスレイダー達にはツェンレン王から多額の見舞金が出ていた。
テッセイはその金で屯所に遊びに来る子供たちにあれこれ買ってあげたそうだ。カルタスは自分が破壊したエンリケの事務所の補習作業費に当ててもらったらしい。
残りの2人はさてどう使ったのだろうか・・・・。
サイカワは例によって地獄の筋肉痛で病院に戻った。もう病院にいる時間の方が長い気がする。
スレイダーは戻った後でシトリンに物凄く怒られたらしい。後日「七星より怖かったよ」と彼はそう言って苦笑していた。

そして七星の3人は・・・・・。
「お前達の身柄は当分私が預かるよ。父を通して王にも話が通っているのでそのつもりで」
シンクレアが薬局の雑用を手伝わせている3人にそう言った。
はーい、とオルヴィエ達が返事をする。
「はー、さてじゃあ今回は身体も動かして疲れたし、早速仮眠をとってくることにするよ。店番しっかりな」
シンクレアはそう言って奥へ引っ込んでいった。
それを見届けてから、3人がやった、と手を打ち合わせた。
「万事計画通りね」
「いや上手くいくものだ」
「お祭りまでこっちにいられるねー」
そんな事を言い合っている。
・・・・て、まさか聖誕祭までこの町に居座るつもりで?
「だってね、聖誕祭なんか自国で迎えるものじゃないんだってば。こっちはお偉いさんだし式典の取り纏めで面倒なだけで全然楽しめないんだから!」
うんざり、とオルヴィエが肩をすくめて見せる。
「それに今年の祭り、この町には歌姫セシルが来ると言うではないか。拙者はもう色紙を準備しておる」
ゲンウが懐から大事そうに色紙を出す。サイン貰う気ですか・・・・。
「美味しいもの沢山食べてー。パレード見てー。ライブも見てー。楽しみだね」
ぱたぱたとコトハの尻尾が揺れている。
じゃあ私の引き抜き云々の話は?
「あ、それねー。歌姫セシルの招致合戦に負けたうちの王様が仕返しに嫌がらせしてやるって。先生この町で有名人なんでしょ?まあちょうど私たち一年前に1人国を飛び出しちゃってて、それ以来ずっと六星だからねぇちょうどよかったし」
うなああそんなしょうもない理由で!!!
「でもちょっと残念。来て欲しかったな、ツェンレンに・・・。いい友達になれると思ったけど」
・・・・友達にはなれるさ。国境も地位も関係ない。
「左様。戦いが終わって一緒にたぬきソバをすすればその瞬間から親友だ」
たぬきソバはここにはないけどな。
「もう仲良しだもんねー」
コトハが抱きついてくる。
やれやれ・・・・。

こうして獣達の王国から来た七星たちの巻き起こした騒ぎは収まり。
私は階下に騒がしい住民を増やす事になったのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~