第22話 幽霊屋敷の令嬢-6


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番人を倒したものが、次の番人になる・・・。
どうすればいいのだ。
一同頭を抱える。
「・・・・・・・・・・・・・・」
そんな我々を伯爵は無言で見詰めていたが、やがて吐息を一つ漏らすとゆっくりと語り始めた。
「いつか、こんな日が来る事を私は半分望んで、もう半分で恐れてきたよ」
そして伯爵は微笑んだ。それはどこか悟ったような清々しさの混じった悲しい微笑みだった。
「娘を・・・ミシェーラを倒そう。そして諸君らはあの世界に帰還するのだ」
・・・・!
しかし、いくらあなたが決意した所で番人を倒した者が次の番人になってしまっては結局脱出はできないのでは・・・?
「手はある」
そう言って伯爵が立ち上がった。
「私と娘は2人で番人を倒したのだが、次の番人にされたのは娘だけだった。恐らくは番人は常に一体であり、その前の番人を倒した際によりシステムが『脅威』と判断した方が選ばれるのではないかと思う・・・」
「・・・その通りみたいね」
合いの手を入れたのは、先程から会話に参加せずに部屋の装置を色々と操作していたベルだった。
・・・む、扱えるのか?
「システムを一通り眺める程度にはね・・・。セキュリティが堅くてちょっとハックして支配下に置く所まではできそうにないわ」
専門用語を出されてもイマイチ言っている内容がわからないが・・・漠然と意味を理解する。
「伯爵の言ってる事は正しいわ。システムはガーディアンが戦闘不能になると、その際に最も脅威だと判断した相手に対して精神支配をかけるみたい」
「やはりそうであったか・・・。そしてその際、娘が完全に支配されてしまうまでには数分の猶予があった。つまりだ・・・」
伯爵が拳を握り締める。
「私がその場で最も強い脅威として娘を倒せば、次の番人には私が選ばれるだろう。・・・そこで私が支配されている間に、諸君らはゲートを起動してこの世界より脱出するのだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
しかし、それは・・・。
「他に手は無いのだよウィリアム君。・・・だが、勝手を言わせて貰えば一つだけ頼みがある。もしも娘を殺める事無く次のプロセスへと移行できたのなら、その時は娘を連れて戻って欲しいのだ」
伯爵が私の手を両手でぎゅっと握る。
「私は娘が支配されてしまったあの日に元の世界へ戻る事はとうに諦めている。今となっては私の望みはそれだけだ。娘を殺さず次のプロセスに移行できた場合のみで構わん。どうか頼まれてくれ・・・ウィリアム君」

伯爵の先導で、我々は最下層を目指す。
彼の立てた作戦に100%同意できたわけではないのだが・・・。
「・・・父の愛ってヤツですか・・・」
先を行くクラウス伯爵の背を見て、何気なくエトワールが呟いた。
「うちには良くわかんないわぁ。パパ上は随分前に死んじゃってるからねー」
むう・・・父君はご存命ではないのか・・・。
「ま、もっともさ。生きてた頃の記憶ひっくり返してみたって愛情注いでくれた記憶なんか丸っきりないけどね。何せうちのパパ上は・・・」
そこでエトワールが私を見て笑った。
瞳に闇を宿した暗い笑いだった。
「マインドがブロークンしてやがりましたから」
そう言って人差し指で自分の頭を指差すと、くるくると2回転くらいさせて空中に円を描くエトワール。
心が・・・壊れていた・・・。
「うちの一族ってさー、何か代々めっさ魔力が強いんだって。んで、大体が若い内に自分の魔力暴走させて死ぬか、アッタマぶっ壊れて廃人になるかしちゃうんだよねー。うちんとこはパパ上が一族でママ上が他所の人だったんだけどさー。そのママ上がうちを産んだ時にうちの魔力が強すぎたせいでお亡くなりになっちゃってね。それまでは比較的まともだったパパ上もそれからすっかりおかしくおなりになられちゃったらしくてさ」
組んだ両手を後頭部に回してあっけらかんと話しているが、その内容は壮絶だった。
「記憶にあるパパ上の姿って、泣くか叫ぶか物ぶっ壊したりヒスって暴れてる姿ばっかでさー。そんなパパ上もうちが7つの時に死にましたよ。ご丁寧にうちの目の前でね。最後の台詞は『お前もいつかこうなるんだ』だったかな? 膨れ上がって風船みたいに破裂して死んだん。血がもっさりうちにぶっかかってさ、生暖かくて気持ち悪かったなぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
最早私は相槌を打つ事すらできなかった。
「でもま、皮肉なもんでその時のショックでうち、自分の魔力を完全に制御できるようになっちゃったんだよねー。なんか本家で自分の魔力完全に制御下に置けたのってここ2,300年じゃうちとマイアンクルの2人だけみたいだよ」
では少なくともエトワールはもう魔力の暴走で命を落としたり廃人になる事は無いのか。
それはよかったと思うが・・・。
「・・・何? 過去の不幸自慢なら負けないけど、大事なのは今よ。今をどう生きているかよね」
後ろからベルがそう声をかけてきた。
「そーそ、まったくその通りだよなー。・・・それにさ、うちは別に自分の事不幸だなんて思ったことないもんね。うちのパパ上とママ上が死んだのだって結局は弱かったからなんだし、弱いヤツが死ぬなんて話はこの世界じゃあまりに当たり前で、どこにでも転がってる話なんだからさ・・・」

途中、数度の「成れの果て」との戦闘を経て、我々は遂に最下層へと至った。
そこは巨大なドーム状の空間だった。
足を踏み入れた途端、機械音声による警告が周囲に鳴り響く。
『警告します。IDにこのブロックへの進入許可がありません。速やかにこの場を退去して下さい。従わない場合は実力で排除します。くり返します・・・』
そしてフロアの中央部にある転移装置らしき物体の前に鎮座していたミシェーラがゆっくりと立ち上が・・・・って。
DEKEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!111111
ミシェーラ・ハインリッヒはあまりにも巨大だった。
身長はゆうに3mを超えているだろう・・・もしかしたら4m近くあるかもしれん。どう見てもドレスを着た巨人族(ギガント)だ。
「・・・娘は昔から発育のいい子でな」
「皆口開く元気ももうねーみたいだからうちが言わしてもらいますけどね。そういうレベルじゃねええええええええええええええええ!!!!!!」
エトワールが自棄気味に絶叫する。
「まるで民子さんじゃない。やっぱりエリスが適任だったわね」
ベルが本人のいない所でエリスを不名誉な担当者に指名していた。
ミシェーラが手にしているのは巨大な両手持ちの戦鎚(ウォーハンマー)だった。
力自慢の大の男が両手でやっと扱う巨大なハンマーも、ミシェーラの手の中ではまるで玩具の様に小さく見える。
・・・あの巨体であんなもので殴られたら一たまりもないぞ・・・叩き潰されてしまう。
ザッとそのミシェーラにクラウス伯爵が立ち塞がる。
「・・・行くぞ、我が娘よ。今楽にしてやるからな」
その伯爵にハンマーを振り上げるミシェーラ。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!!」
開けた空間にミシェーラの咆哮が響き渡った。
ドガアッッッッッ!!!!!!!!!!!っと周囲を震わせて炸裂音が響き渡り、床の鉄板が吹き飛ばされて宙に舞う。
私たちは皆かなり距離を取って回避したものの、それでも吹き付ける突風で体勢が崩れかけた。
・・・くっ! 精神支配を受け凶暴化してしまっている!! まるで野獣だ・・・!!!
「いや、娘は元々あんな感じだった」
元からああなのかよ!!!!!
そりゃキメラだって一たまりもないわ!!!!
ダン!と床を蹴って伯爵が高く跳ぶ。
そしてミシェーラへ向かってガパッと大きく口を開いた。
「・・・ノーブル・ファイヤー!!!!!!」
ごう!と口から灼熱の業火を吐く伯爵。
「・・・この親にして」
ベルが呟く。
ぶあっとその炎を大きく手を振るって吹き散らすミシェーラ。
「・・・この娘あり」
エトワールがグッタリ両肩を落として続けた。
ブオッ!!と風を巻き起こしてミシェーラが跳ぶ。
・・・!!!!!!
まずい・・・あの巨体でなんという身軽さだ・・・!!!
炎を吐いた体勢のまま、伯爵はまだ空中にいた。
「グオオオオオアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!」
咆哮を上げてその伯爵へ拳を突き出すミシェーラ。
「・・・ノーブル・パリィ!!!!!!」
その拳に手を当て、勢いを殺す事無く巧みに脇へと受け流す伯爵。
・・・達人の技である。
しかし、ミシェーラが凄まじいのはここからだった。
「・・・あ、ヤバい」
思わず見ていたエトワールの口からそう言葉が漏れた。
拳打を受け流されたミシェーラはその勢いに逆らわずに、空中でぐるりと体を回転させ、そのまま伯爵に回し蹴りを放ったのだ。
今度は伯爵は受け流せなかった。
ドゴッッッッッ!!!!!!!!
自身の身体にも等しい大きさの靴底で全身を強打される伯爵。
「・・・ぐフッ!!!!!!」
空中に吐いた鮮血で斑模様を描きながら吹き飛ばされた伯爵が激しく壁に叩きつけられた。
その伯爵へと一気に駆け寄るミシェーラ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
自身が思考するよりも早く、私の身体は動いていた。
一陣の風と化して床に倒れた伯爵へと駆け寄る。
・・・帝國流剣術「双鳳」
抜き放ったルドラに力を集中して奥義を放つ。
通称「Vの字斬り」 オーラを込めた剣で相手を斜めに斬り下ろし、その勢いのまま地面で反転し斜めに今度は斬り上げる。
「・・・・グォォォアアアァァァァッッッッッ!!!!!!!」
絶叫を上げてミシェーラがゆっくりと背後へ倒れる。
「ダメよウィル!! あなたが倒したら・・・!!!!」
ベルの叫び声でハッと我に返った。
・・・しまった・・・!!! 夢中で攻撃したので手加減がまったくできなかった!!!!
瞬間、全身が物凄い寒気に襲われる。
・・・・・・!!
まずい・・・・精神支配が・・・・。
急速に「自分」が失われていく感覚。眠気にも似た激しい喪失感。
甘かった・・・この事態は想像していなかったわけではなかったのだ。
いざとなれば精神力で抵抗して・・・等と甘い事を考えていた。
これはもうそんな生易しいものじゃない。
私の名を叫ぶベルや伯爵の声がどんどん遠くなっていく。
そして意識が完全に闇へと沈むかと思われたその時、ふいに暗闇に巧妙が指すかのようにふっと意識が戻った。
・・・なんだ・・・?
私は・・・。
私の肩にひんやりとした手が当てられていた。
誰かが・・・すぐ隣に立っている。
『ダメよ・・・彼は・・・』
見上げる私の目に道化師の仮面が映った。
真下から見上げているので、仮面の下の素顔が少しだけ見える。
艶やかな唇と・・・頬に走る紋様・・・タトゥー・・・?
『もうずっと前からアタシが「予約済み」なんだから・・・』

意識が現実へと戻る。
がくりと身を崩し、私はベルに支えられた。
「・・・大丈夫? 何とも無い・・・?」
ああ、と辛うじて肯いて反応する。
精神支配は逃れたが全身に凄まじい疲労があった。
指先が震えてこれでは満足に剣も握れまい。
「・・・しかし、驚くべき精神力だよウィリアム君。超文明の精神支配が通じぬとは・・・」
よろめいて伯爵が近付いてくる。
・・・違うな。恐らくそれは私の力によるものではない。
そう思ったが今はそれを口にせずにおく。
何よりもう言葉を交わす事すら今の私には辛い。
・・・防衛システムはどうなっている・・・私の他に攻撃を受けた者は・・・?
私を支えるベルが首を横に振った。
「システムはフリーズしちゃってるわ。精神支配に失敗した時なんて想定していなかったんでしょうね」
そうか、よかった。これで皆で戻ることが・・・!!
「ぬ! 奴らが・・・!!」
周囲を見回す我々。
フロアの出入り口から大量の「なれの果て」が現れたのだ。
その数は俄かには把握出来ないほど多い。3桁はいるだろう。
「まだ施設内にこれだけの数がいたのか・・・!!」
掠れた声で伯爵が呻くように言う。
まずい・・・伯爵は戦えるようなダメージではあるまい。私も満足に立って歩けるのかどうかも危うい状態だ。
・・・となれば・・・。
「あーよかった。出番ありそーじゃん?」
私が何を言うよりも早く、腰を落として私の側に屈み込んでいたエトワールは立ち上がっていた。
「最近どーにもさぁ、ヘンタイのせいでうちの出番無くなる事多くてね。身体もナマるし、血の匂い忘れたら勘も鈍るし」
そしてエトワールが成れの果ての方を向く。
「そんなワケで、てめーら死んでくれよ」
そう言って彼女は獰猛な笑みを見せたのだった。