第18話 竜の国から来た刺客-2


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ガルディアス帝国から来た精鋭部隊が私の神剣エターナルブルーを持ち去った。
取り戻したければ彼らの戦艦に乗り込んで奪い返していけと言う。

・・・・非常に困った。
あのルクシオンと名乗った女性と海里と呼ばれていた青年の口ぶりでは彼らは私との戦闘を望んでいるように思う。
しかしその肝心の私は・・・・。
いまだギプスで固められ首から吊り下げられたままの右腕を見る。
利き腕がこのザマである。
帝国のドラグーンと竜騎士とは戦場で何度も戦った事がある。彼らの強さは身に染みてよくわかっている。
かつて戦場で3度戦って3度分けた相手がいる。その相手も帝国のドラグーンだった。
後にも先にも私がそれだけ五分の戦いを強いられたのはその男だけだ。
左手でどうにかなる相手ではない。まして1人は現帝国最強のドラグーンだという。
それに、同行者の問題もあった。
帝国の軍艦に乗り込んでいこうというのならもう戦争をするつもりで行かなければならない。
ドラグーン1人と7人の竜騎士が襲いかかってきたら一たまりもない。誰かこちらもそれに匹敵する同行者に援護を頼まねば・・・・。
私は腕を組んで大切な身内2人を見た。
昼食の後の食器をキッチンで洗っているエリスと、応接用のソファで昼寝しているDD。
彼女たちは一緒に来てくれるだろう。むしろ来るなと言っても来るに違いない。
だが、私の個人的な事情で彼女らをそんな危険な場所に連れて行くのは嫌だった。
戦わずに済ませるか、または戦うにしても私1人だけでいいようにする方法は無いものだろうか・・・・。
「ウィルが変なことを考えていまーす」
ふいに声をかけられてドキリとする。いつの間にか目を覚ましていたDDが私を見ていた。
いや変なことは考えていないぞ。帝国の連中をどうするか考えていた。
「そーぉ? ウィルの事だからもう剣は諦めちゃおうとか、私たちは巻き込みたくないとか、そんな事考えてたんじゃないの?」
う、鋭い・・・・。DDは普段子供っぽく見えてたまに深い洞察力を見せる。
「・・・・でも、もうダメだよ」
ダメ?
「あいつらはウィルの大事な剣を持っていってウィルを困らせた。だからもう・・・・」
そこでDDは笑った。それはかつて私が見たことの無い獰猛で凄みのある笑みだった。
「あいつらは無事に国へは帰れない」
そこでようやく私は初めてその事に気付いた。
DDは怒っていた。自分のことより身内を大事にする彼女の絶対のタブーに帝国軍は触れたのだ。
そこへトントンとノックがあり、メッセンジャーの少年が入ってきた。
私にメモを預かって来たと言う。受け取ってチップを渡し、メモに目を通した。
それは、現在地獄の筋肉痛で入院中のサイカワからのメモであった。

「すいません先生・・・ぐぁぁぁあ・・・・わざわざおいでいただいて・・・ぬぉぁぁぁ・・・・」
ああもういいから安静にしてなさい。それで私に用があるとの事だが?
数日前にも彼を見舞っているのだが、その時はサイカワは何も言わなかった。
「ええ、それなんですが、昨日島に妻が来まして」
ハイ?ツマ?
・・・・・サイカワは既婚者だったのか!!
「ええ、恥ずかしながら。それで折角来てもらったのに私はまたご覧の有様、妻も来るなりずっと病院では可哀想で・・・。それで申し訳ないのですが、先生と先生の所のお嬢さん方に妻の相手をお願い出来ないものかと思いまして」
サイカワが申し訳無さそうに言う。
ふむ・・・・私は私で現在面倒な事情を抱えてはいるが、サイカワが入院している原因の一端が私である以上断る事はできない(地獄の筋肉痛は私は無関係だが)
奥方も慣れない場所で案内役も無しでは何かと大変だろう。
私はその申し出を了承した。
「有難う御座います先生。今妻も戻って・・・」
言いかけた時、丁度病室のドアがガチャっと開いた。そちらを見る。
緑色のウサギのローブを着た女の子(?)が入ってきた。
「妻です。・・・・ほらひぢり、ウィリアム先生だよ」
えええええええええええええええ娘さんじゃなくてですか!!!!??
年齢を聞いてみたいが怖くて聞けん!!
「斉川ひぢりです。よろしくおねがいします」
名乗ってひぢりがペコリと頭を下げた。
「そしてよさいさんだよー、ヨロシク!」
うおわローブが喋った!!!!
「驚いたかい?よさいさんは魔法のローブなんだよー。マスターが無口だからボクがこうしておしゃべりサポートするのさ!愛くるしいよね!」
そ、そうですね・・・・。
「では、先生、先生もお怪我をしているのに本当に申し訳ありませんがよろしくお願いします」
サイカワが頭を下げる。
いやそんなかしこまらなくてもいい。お安い御用だよ。
私は彼に安心するように言うと、ひぢりを伴って病院を出た。

ぶっ!!
病院を出てすぐの所で、荷物を取ってくると行って分かれたひぢりを待っていた私は、出てきた彼女の姿を見るなり吹いてしまった。
ひぢりは自身の身体くらいある巨大な鋼鉄のハンマーを背負っていた。
大きすぎるので下をずるずると引きずっている。
・・・・・重くないのだろうか・・・・。ひぢりは涼しい顔をしているが・・・・。
「『おしおきピクニック』が気になるみたいだね!」
よさいさんが言った。・・・・おしおきピクニック?
「私の武器」
とひぢりが呟いた。・・・そんな名前なのかそのハンマー・・・。組み合わせた単語の前後がかみ合ってません・・・・。
「おなかがすきました」
「『おやつが食べたい!甘いものがいい!』だってさせんせー!ごちそうして好感度UPだよー!!」
ふむ、甘いものか・・・・。私自身甘いものをあまり好まないので本来ならどうしたものか困るシーンであったが、幸い先日エリスとDDが美味しいと評判のシュークリームを置いているケーキの店の話をしており、その場所がこの近くだと記憶していた。
そこへ行ってみる事にする。
幸い少し並んだだけで件のシュークリームを買うことができた。
2人で公園に行って食べることにする。というか全部彼女の分だ。
ベンチに座ってもくもくとひぢりがシュークリームを食べている。
「・・・・おいしい」
「『あ”~この一口の為に生きてるわぁ』だってさ!」
え、オッサンくさいよ! てか今の一言に補足いらないよ!!
食べ終わった彼女がふぅっと一息つく。しかしすぐその視点は公園の露店で停止した。
「・・・・わたあめ」
「『次はあのわたあめを所望致すでござる』だって!」
なんで時代劇風なんだ。まあ、あのくらいなんでもないが。
買って来る。ひぢりは早速もそもそと食べ始めた。
・・・・なんというかね、とても人妻と一緒にいるとは思えない気分なんですが。
まあ人妻といる事を露骨に意識させる相手よりはいいけど。
しかし穏やかな昼下がりはそこで唐突に終わりを告げた。
「ああ!いた!!バーンハルトいた!!!」
叫び声がして私は振り返った。その声には聞き覚えがあった。
声の主はやはり、先日水晶の映像でカイリと呼ばれていた青年だった。

・・・・竜騎士!!!
私は身体を緊張させる。もしもの時はひぢりだけはこの場から逃がさなくては。
「こんなとこで何してるんだよ! 僕もルクも船で待ってるのに!! ・・・・って何だよその手!お前怪我してるのか!!」
カイリが首から吊ってある私の右手を指して言った。
まあ、ご覧の状態だ。
「何だよこれから僕たちと戦うのに!! 誰と戦ったんだよ!!」
いや、誰とも。必殺技を撃ったら折れてしまったのだ。
「お前最強なんだろ!? 必殺技撃ったら腕が折れたってなんだよー!!!」
まったく返す言葉がない。あの時は些か熱くなりすぎた。
しかし、これはいい機会だ。カイリはどうやら1人らしい。
お前たちの目的はなんだ? 私の剣か? 私と戦いたいのか?
「全部全部。でも一番大事なのは『神の門』について知ってることを全部喋ってもらう事だ!」
!!! ・・・・まさか帝国軍の口から神の門の名前が出るとは・・・・。
「それに、お前最強って噂じゃん。僕ら帝国軍を差し置いてさ、気に入らないよ。噂が所詮噂だってはっきりさせないとな! ・・・・・でもお前腕・・・うー・・・」
カイリが唸っている。
「・・・・ごちそうさまでした」
この騒ぎを尻目にわたあめを食べ続けていたひぢりがベンチから立ち上がった。
そしてわたあめの袋を公園のゴミ箱に捨てた。
と、おしおきピクニックを手にとってそれをブン、と大きく振った。
その突き出したハンマーの先にはカイリがいた。
「・・・・先生はともだち・・・・だからお前は私の敵」
「『今からブチのめすからしばらくは病院で流動食で暮らすんだな!!ヒャッハー!!!』だってさ!!」
うわガラ悪!! てかその解釈本当に合ってるのか!?
「ふーん・・・やるの? やってもいいけど手加減しないよ?」
カイリが2本の剣を抜いた。
双剣士・・・・1本は西洋剣で1本は和刀だった。
公園から音が消えた気がした。
爆発寸前の火薬庫の気配を孕んだ静寂が、静かに周囲に舞い降りた。