第14話 渓谷の一族-1


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常春の島シードラゴン島。
その玄関口、アンカーの町。
そのアンカーの中心部からやや外れた場所にある、ログハウス風の宿屋「マッハ追い鰹亭」
そのマッハ追い鰹亭のテラスに設えたテーブルで優雅にコーヒーを楽しみながらジュピターは新聞に目を通していた。
正面の席には彼の同行者、臣下ペガサスナイツの四将軍フォーリーヴズクローバーの一人、魂樹が複雑な表情をして彼を見ていた。
「・・・あの、ジュピター様」
おずおずと魂樹が口を開く。
「はい?どうしました魂樹」
ジュピターが新聞から顔を上げて彼女を見た。
「こんな所でいつまでも私たちのんびりしていていいのでしょうか・・・」
魂樹の言う通り、ここ3日ほどジュピターは宿に腰を落ち着けて、出歩くと言えば軽く買い物か周囲の散策程度である。
重大な使命を帯びてこの地へ赴いて来ていると自覚している魂樹にとっては何とも微妙な3日間だった。
「フフ・・心配はいりませんよ、まっきゅん。ただ私はここで無為に時間を潰しているわけではありません。ちゃんとラッパを雇っているのです」
「誰がまっきゅんか。・・・・乱破? 諜報員を放っているという事ですか?」
ちょうどその時、テラスの外側の茂みがガサガサと音を立てた。
「うわさをすれば・・・戻ったようですね」
ジュピターの台詞に魂樹が茂みを見る。
パッパラッパパッパパー!!!!♪
そしていきなり鳴り響いたラッパの音に椅子から落ちた。
茂みから出てきたのはラッパを手にした子犬大のハムスターであった。
「ほ、ほんとにラッパじゃないですか!!」
「マーチハムスターですよ。可愛いでしょう」
言いながらジュピターはハムスターが差し出したメモを受け取った。
そしてそのメモに目を通す。
「乱破と思わせたらラッパで・・・でもやってる事は乱破なんですか・・・紛らわしい・・・・」
「結構です。ご苦労様でしたね」
ジュピターが腰から下げた皮袋からチーズを取り出してハムスターに渡す。
「銃士隊の面々の事を調べて貰っていました。・・・やはり彼らはこの町の自治権を掌握する事を諦めたようですね」
「・・・え? では私たちする事無くなっちゃったんじゃ・・・」
魂樹がポカンとする。
「いいえ、そうではありません。彼らは最終目的への道順を変えただけですよ。自治の掌握は見送ってその先の目的へと一足飛びに直接手を出したというわけです」
「神の門・・・ですか」
ジュピターがうなずく。
「じゃあこれからは銃士達と神の門を取り合うんですか?」
魂樹が言うとジュピターは今度は首を横に振った。
「いいえ。私は個人としても国家としても神の門に直接関わる気は無いんですよ。彼らがこの町の自治を容認するのならそれ以上銃士たちに関わる気はありません。我々はこれから別の目的を持って行動する事にします」
そう言ってジュピターは魂樹にウインクして見せたのだった。

それから1時間半後。
ウィリアム何でも相談所のドアをジュピターはノックしていた。
「開いています。どうぞ」
中から女性の声がする。ジュピターはドアを開けて魂樹を伴って中へ入った。
「こんにちは。申し訳ないけど、今は所長は不在です。用件は私が」
留守を任されているシンラがいつもの無表情で淡々と挨拶した。
「ええ。存じていますよ彼の不在は。初めまして、私はジュピター、ウィリアム氏の友人・・・いえむしろ親友というべきでしょうね。彼女は私の連れで魂樹・ナタリー・フォレスティアです」
魂樹が頭を下げる。・・・親友?・・・と微かに不信そうな顔をしながら。
「じゅぴたんと呼んで下さい」
「・・・いやです」
淡々とシンラが拒否した。
「・・・親友、ですか。ウィリアム先生の」
「ええ。・・・まあまだ直接会ったことないんですけどね」
あっはっはとジュピターが笑った。横で魂樹はぶん殴りたいんだけど初対面の人の前だし・・・という顔をしていた。
「それは、多分・・・・」
シンラが静かにジュピターの方を見た。
澄んだ瞳が真っ直ぐにジュピターと向き合う。
「友達とは言わない」
「メル友というものもありますよ。直接会ったことは無くても友情は成立すると思います」
にっこりとジュピターが微笑む。ふむ、とシンラが自分の顎に人差し指を当てた。
「手紙のやり取りがあったの?」
「いえ、ありませんまったく」
ドガッ!!!!!!! と激しい音がする。
魂樹の堪忍袋の緒が切れてジュピターはカーペットになった。
「き、気にしないで下さい! この方たまにノーミソお花畑になっちゃう人だから・・・あははは!!」
返り血がポタポタと滴る巨大なハンマーを背中に隠しながら魂樹が乾いた笑い声を上げた。

「それで・・・結局あなたたちは何をしに来たの」
とりあえず応接用のテーブルにお茶を出しながらシンラがたずねた。
「まあ先程の親友というのはあくまでも今後の予定なのですが、現時点であなた達の協力者である事は確定しています」
「協力者?」
わずかに眉をひそめるシンラ。
ついでに魂樹も 、え、そうなんですか!?という顔をしていた。
「はい。当分は私と彼女はウィリアム氏の目的に沿いまして影に日向にご助成さしあげようかと。もう既に私の娘っぽい存在の女性が彼の嫁っぽくなったので、つまるところ私はウィリアム氏にとっては義理の父っぽい存在ということです」
「・・・っぽいっていう曖昧な表現が多すぎだと思う」
もうすっかりシンラと魂樹の表情は?で埋め尽くされている。
「何だか、よくわからないけど・・・・」
すっとシンラが立ち上がる。
そしてウィリアムの机の前に行くと、その机の上に広げてあった数枚の紙を手に取った。
その紙を応接テーブルの上に広げる。それは地図を含むこの島のある地点の資料らしきものだった。
「手伝ってくれるというのなら、付いて来て。明日からここへ調査に行く予定だった。一人じゃ危ないから応援に冒険者を手配するつもりだったけど、あなたたちが来てくれるならお願いする」
「お安い御用ですよ」
軽く請け負うとジュピターは資料を手に取った。
「谷・・・ですか。この場所へは何をしに?」
「数日前に遺跡が見つかったの。神の門に繋がる資料があったら誰かに先を越されるわけにはいかない。先生の帰りを待っている余裕はないから、私が行く」
シンラが全島図のある一点を指差した。
「場所は島の北東・・・にある谷。『ある種族』が暮らしている場所」
そして隣の紙を指差す、そこにはカバの頭蓋骨のようなものが描かれている。その種族の骨なのだろうか?
「通称は・・・・『ムーミン谷』」
そう静かに言って、シンラは2人の顔を見たのだった。