第19話 大家さんの憂鬱-2


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「私の父はさる国の高官でね」
人事のようにシンクレアが言う。
「今回の話は私の父とファーレンクーンツの大統領の間で決まったのさ。政略結婚というわけだよ。もっともそれだけというわけでもなく、私の為に充分相手については吟味してくれたようだがね」
そう言ってひょいと肩をすくめる。
「まあ私も今年で29だ。親としては孫の顔の一つも見たい頃なのかもしれないね」
ふうむ・・・・。
エリスと思わずむーっと言う顔を見合わせてしまう。
私には妻も子もいない。愛した女性はいたが結ばれる事は無かった。
子や孫等という感覚は今を持ってしてまだわからない。
エリスにもそういう話はまだ早いだろう。
「あの、大家さんはどうしてお断りするの?相手が気に入らないの?」
エリスが尋ねる。
「いいや? そういうわけでもないよ。もし本当に結婚でも考えるのならいい相手なんじゃないかな。ただね・・・」
シンクレアが遠い目をする。
「私の中で前の恋の決着がついていないのさ。一番幸せだった頃に突然死なれてしまったのでね」
あ、とエリスが黙り込んでしまう。
「ああそう深刻になる事はないよ。もう6年も前の話さ。彼とは同じアカデミーで学ぶ者同士でね。実験室の事故だった。私はその時偶然外にいたんだ」
運がいいのやら悪いのやら、と彼女が苦笑する。
「まあ、そういうわけだよ先生。一つ力になってくれないかな。私とその男が上手くやっているのだとそういう芝居ができる男を連れてきてくれたまえ。なんとか角を立てずにお断りしたい。その後の事については別れたとか言ってどうにかするさ」
そんな話を聞かされては断る事はできん。まあ元から受けるしかないなとは思っていたが。
どうにか探してみよう、さてそんな器用な知り合いはいたものか・・・・。

いたなぁ、やたらと器用な男が・・・・。
というわけで私はオープンしたばかりのオフィスの真向かいの喫茶店「ノワール」に来ていた。
黒を基調とした店内は落ち着いて上品な印象を受ける。
が・・・・・。
何でこんな洒落た店のマスターがアロハなんだ!
「えー? いーじゃないのよ先生。オジさんがこうやって気さくな部分見せてるからお客さんは堅苦しい雰囲気にならんで美味しくコーヒーが飲めるんだよ?」
アロハシャツにエプロン姿のスレイダーがコーヒーを淹れてくれる。
「私イチゴフロート」
付いてきたDDがメニューを眺めて注文する。はいよ、とスレイダーが厨房に入っているカイリにオーダーを伝えた。
「んで?オジさんに何か用があって来たんじゃないの?」
相変わらず察しのいい男だな。スレイダーに状況を説明する。
「なるほどねぇ、そりゃもうオジさんが行くしかないよね。バッチリご両親に気に入られてみせるよ!いやぁ36にしてようやくウェディングベルの音が聞こえてくるとはやっぱし真面目に生きてるといい事あるよねホントね」
逆の意味で一番ダメな人選だった。
「・・・・って言いたいトコなんだけどね、その話オジさんダメなんだわ。シンクレア・ハイアーク嬢の父君ダイロス・ハイアークってのはね、有名なツェンレン王国の『狼牙将』なんだよねぇ。オジさんとも戦場で何度かやり合ってる。面が割れちゃってんのよね」
う、面識があったのか。そりゃどうしようもないな・・・・。
ツェンレンの狼牙将ダイロスか・・・・。猛将としてその名は他国に知れ渡っている。
「あんな戦いだけが人生みたいなオヤジでも娘は可愛いか・・・・。ま、その気持ちはオジさんも少しはわかるけどね」
そう言ってスレイダーは店のウィンドウ越しに外を見た。
その視線の先にはオフィスの前の道路をせっせと箒で掃いているルクシオンの姿があった。
「なんだよー。使えないオッサンだなー」
フロート食べ終わったDDが容赦ない台詞を浴びせる。
「うわキッツいね!オジさんだってそりゃ相手のパパがそんなおっかねーのじゃなきゃ今頃タキシードレンタルしに行ってる所だってば」
とほーっと大げさにうつむくスレイダー。
「あーあ、こんな時に伝説のプロレスラー・ボンデージ和馬がいてくれたらなぁ・・・」
また出たよ。だから誰だよボンデージ和馬。
「あー、王国プロレスもボンデージ和馬いなくなってからつまんなくなっちゃったよねぇ。オジさん最近見てないや」
えええええええええ共通認識なの!? 知らないの私だけ!?

ノワールを出て町を行く。
とりあえず現時点でベストだと思った男はダメだった。他を当たらなくては・・・・。
後知り合いの男と言えば・・・。
カルタス・・・ダメだ・・・・たまに想像を絶する行動に出るからな、危ない。
サイカワは・・・・ダメだ。奥さんがいるしそんな事は頼み辛い。しかも同席してる場でキュウリが何らかの形で現れた場合狂乱して全てをパーにする恐れがある。
カイリは・・・ダメだ。子供過ぎる話に無理がある。
ジンパチは・・・・ダメだ。日に7回ナンパを断られているような男だ。何か失礼をやらかす可能性が高い。
テッセイは・・・・ダメだ。相手の筋肉を見て惚れ込むか勝負を挑んでしまう可能性がある。
うーむ・・・難しいものだ。
等と考えながら歩いていると、ふと見知った緑のウサギのローブ姿が目に入った。
ひぢりだ。オープンテラスのテーブルで何かを食べている所だった。
そうか、ここは甘味処「ぱんだ庵」だ。
誰かと一緒だな・・・・サイカワか?
いや違う! 誰だあの男は!
パーカーにサングラス姿の男と相席している。
ガラが悪い男だなぁ。もしや誘拐とかされかかってるんではなかろうか・・・・。
中身は大人の女性でも普段はまるっきり幼女だしな・・・・。
いざ力ずくとなったとしてもそうそうどうにかできる女性ではないが、それでも一応は確認しておこう。
2人のいるテーブルに近付く。
男は上機嫌でひぢりに話しかけている。
「な? うめぇだろうが! ここのプリンパフェは最高なんだよ! おめーもこれからはあんな高いばっかで大して美味くもねーパフェ食うくらいならここ来てこれを食え!!な?」
「・・・・おいしい」
ひぢりはプリンパフェを食べている。男の前にも同じパフェがある。
私はやあ、と声をかけた。
「・・・・せんせい」
ひぢりが私に気がついて手を振る。
「あん? 知り合いか?」
友人だ。と私は言った。あなたは?
「あー、俺はこの娘とはさっきそこで知り合ったばかりだ。そこの通りのレストランでチョコパフェ食ってるのが見えたもんでよ。あそこの奴は値段がするばっかで美味くねえんだ。本当に美味いパフェを食わしてやろうと思ってな!!ここへ連れてきた」
そう言って自らもがばっとパフェを口へ放り込んだ。
「・・・・・・・・・うめぇ・・・・うますぎるぜ・・・・・そしてパンダ・・・・なんて和むんだここの店はよぉ・・・・・」
浸ってるなぁ・・・・見た目ほどの危険人物ではないのかもしれん。
・・・・?・・・・見た目・・・・? この男、どこかで・・・・。
そう思った時、相手もじっと私を見ていた。
「んー? おめぇどっかで・・・・」
顔を寄せて何故かすんすん匂いをかがれる。
・・・・・・サングラスの奥の瞳にどこか見覚えが・・・・・!!!!!・・・・・まさかこの男は!!!!
「あー!!!お前バーンハルトか!!」
魔人グライマー!!!!!
ガタッ!と私は後ろに下がってそこにあったテーブルにぶつかった。
「ツラが変わってるからわからなかったぜ。・・・・おい構えるんじゃねーよここじゃやらねえよ。テリトリーじゃねえから力が出せないしな。お前だって町中で騒ぎ起こしたくないだろ?」
むう・・・。とりあえず構えを解く。
「戦りたきゃ俺の領域火山地帯まで来るんだな。そん時ぁいくらだって相手になるぜ」
いや、別に私は戦いたいわけではないのだが・・・・。お前だろうに大喜びで襲ってくるのは。
「ああバトルも俺の生きがいだからな。だが甘いものとパンダも俺の生きがいだ。たまに来てここで食うプリンパフェだけは譲れねえな!」
大威張りでパフェを食べてる・・・・。
魔人とはそんなにテリトリー外に出てくるものなのか。
「いいや、普通は滅多に出てこねえよ。出りゃそんだけ狩られる可能性が上がるしな。俺もここに来る用事以外で出る事はねえよ。この町は8人誰のテリトリーでもないからな。ここでツラ合わす分には魔人同士なら条件は同じだ」
そうか、やはりここはどの魔人の領域でもないのか。
するとそこへシンクレアが通りかかった。
「やあ、先生。例の件はどうかな・・・・っと」
シンクレアがグライマーに気付く。
「へえ、なるほど? ふむ・・・・」
そしてじろじろと眺め回す。
あ、いやその男は・・・・。
「おい何だてめえは?」
顔を上げたシンクレアが満足そうにうなずいた。
「うむ、少々難もあるがまあ良しとしようじゃないか。君に決めるとするよ」
!!??
どういう事だ?という顔でグライマーが私を見てくる。
思わず何と説明して良いかもわからず私とグライマーは顔を見合わせてしまったのだった。