第3話 少年の冒険-6


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ベルナデットがゴルゴダと呼んで指さしたのは奴の持つ鞭剣であった。
・・・どういう事だ?
「剣が本体っていう事よ。おそらく手にしている人間を剣が操っている」
違う?とベルナデットがゴルゴダを見た。
ゴルゴダはへっ、と口の端を笑みの形に歪めた。
「大したモンだ。あっさり見抜いちまいやがった。こりゃ『あの方』が警戒するだけの事はあるわな」
「その『あの方』の話は、あなたの口から聞かせてもらう事にするわ」
ベルナデットが1歩前に出た。
「・・・・その時間があるかね?」
薄笑いを浮かべたままゴルゴダが言う。
私はふと、コゲくさい匂いに気付いた。
隠し通路に煙が流れ込んできている。
「ぬう!! おのれ、どこぞに火を点けたか!!」
ジュウベイが叫ぶ。
「ほぉら、こんな狭い通路じゃすぐ全員煙にまかれてお終いだぜ」
そう言うと奴我々に背を向けた。
その先は煙の流れ込んでくる方角だ。奴は苦しさは感じないのか。
「待ちなさい!!」
ベルナデットの静止に、奴が肩越しにこちらを振り向く。
「そう焦らんでも、いずれまた会う事になるさ。んじゃ、まあそん時まで」
そう言うとゴルゴダは駆け出した。
その姿はあっという間に通路の奥の暗闇と煙の彼方へと消えていった。

一夜明け、私たちは太守の城で朝食を取っていた。
ナバール亡き後の都の兵達は全員ベルナデットに素直に従った。
ゴルゴダの点けた火は幸いすぐに消し止められた。
ジュウベイは命に別状は無いとは言っても全身矢傷が凄まじいので今は医務室で療養中だ。
「それにしても・・・・」
と、パンを千切りながらルクが私の方を見る。
「結局、ウィリアムは元に戻りませんでしたね」
ヨアキムは死んだが、私は子供のままだった。どうやら術者の死で解けるタイプの術ではなかったようだ。
そうなると非常に困った事になる。解き方をヨアキムだけしか知らなかった場合、最悪もう元には戻れない事もあり得るのだ。
「・・・・神都に行くしかないわね」
ベルナデットの言葉に、私は彼女の方を見る。
「神都なら解呪の専門家に心当たりがあるわ」
しかし、神都は危険なのではないか?恐らくはゴルゴダも黒幕がいると推測される神都へ戻っている可能性が高い。
「危険度で言えばこの大陸にいる限りどこも大して変わらない。神都へ行けば敵が多いでしょうけど、その分味方もいるしね」
そういうものなのか。まあ。どちらにせよここでは彼女に従うしかない。
「本当は直接アンカーの町に行くつもりだから諦めていたけど、戻るなら戻るで取って来たい荷物もあるし、ちょうどいいわ」
? まるで自分も下へ行くような口ぶりだ。
「行くわよ私も。と、いうよりあなたの所にご厄介になるからよろしくね?」
ぶっ、と私は飲んでいたホットミルク(コーヒーは貰えなかった)を吹き出しかけた。
なんだそれは! どういうことだ!
「これだけお世話になっておいて、お礼もしないでハイさようならなんて不誠実な真似ができるわけないでしょ。これから私はあなたの助手としてお役に立つから頼りにしてね」
大変だ恩返しの押し売りが来た。しかも寄生型だ。
「お食事さえ出してもらえればお給料は特に必要ないわ。ただ開放の時が迫ってるから他の魔人が私を狙ってくるでしょうけど、その場合はウィルが撃退してね」
恩返しは隠れ蓑だった!!! 絶対最後の部分が本音だよー!!!!
私は助けを求めてルクの方を見た。
その視線にベルナデットも気が付く。
「ルクシオンは反対しないわよね?」
む・・・とルクが唸って黙る。
「・・・確かに、ここ暫く一緒に過ごして私はあなたにある種の連帯感と友情を持っています、ベルナデット。しかしこの先も一緒に暮らすとなると、それはまた話が別ですね」
そう言ってから、ふっとルクは表情を崩した。
「しかし、反対だ、とまで言うつもりはありません。エリスとDDがそれを良しとするのなら私に異存はありません」
・・・・私は?とルクに尋ねる。
「僕!!!」
すかさずベルナデットから訂正が飛んだ。
・・・・・・・僕は?
くっ、とまた真っ赤になったルクが顔を背けた。
「・・・そ、そもそもウィリアムがダメだとそこではっきり言えるような人物なら、ベルナデットも私まで話を持ってきたりはしません。違いますか?」
今度は私がくっ、と顔を背ける番だった。

食事を終えた私は、1人で屋上へ上がってみた。
見晴らしがいい。ここからは都を一望できる。
屋上には先客がいた。
「やあ」
それはシルファナだった。
あなたには随分世話になったな。
2人で都を見下ろしながら言う。
「私が望んで身を投じた戦いだ。恩に着る必要はないよ」
シルファナは相変らず穏やかで物静かだった。
クルーの皆も、これで家へ戻れるのかな。
「そうなのだがね、結構な数が船への残留を希望して、どうしたものか悩んでいるよ」
迷惑なのかな?
シルファナは静かに首を横に振った。
「私としては、居てもらっても出ていってもらってもどちらでも構わないかな。ただこの先も船にいれば危険があるだろうからね・・・」
そして私の方を見て、私は狙われているんだ、とそう言った。
「さて、ではいずれと約束していた私自身の話を少しするとしようか・・・」
シルファナはどこか遠くを見るように視線をやや上に向けて語り始めた。
「私の家は魔術師の家でね、代々続く名家という奴だった。・・・・何代か前に自らの魔術大系に東洋の仙術を組み込んでね。その事で同業の一部から邪道呼ばわりされもしたが、魔術の技術は飛躍的に向上した。」
・・・そう言えば聞いた事があるな。仙道を組み込んだ魔術を使うサジタリウス家、確か魔道御三家に数えられていたはずだ。
「一族の者は代々領地と屋敷に閉じ篭ってその生涯を研究に捧げて来た。私は小さい時からそれが疑問で不満でね。・・・何故世の中に出ないのかと。優れた才を持ちながら、皆それを自らの内側に留めて満足し、そして死んでいく。・・・そんな生き方がたまらなく嫌だった」
わかる気はするが、難しい問題だな・・・。
「だから、私は二十歳を迎えた時に世の中に出た。自分の腕を試したかったのさ。そんな私の腕を大きく評価して破格の待遇で迎え入れてくれたある組織があった」
シルファナが私を見る。
「・・・・それが、ロードリアス財団だった」

・・・・・・・・・・・・・・。
しばしの静寂が二人の間に舞い降りる。
「私は財団の特務部隊に配属され、一年を待たずしてその頂点に位置する9人の幹部『ハイドラ』に抜擢された」
ハイドラ・・・9本の首を持つという魔蛇竜・・・その首の数に人数を準えてあるのか。
「・・・・だがいつしか私は財団の仕事に嫌気がさしていてね。勝手な話だが他者の存在をまったく省みる事の無い財団の独善的なやり口についていけなくなってきたんだ。だから抜けた。・・・当然追っ手がかかったよ。とはいえ、仮にも実働部隊の頂点にいたハイドラの1人へ送る刺客だ。白羽の矢が立ったのは当時まだハイドラになり立ての、私の次にハイドラに任命されたルーキーだった」
かわいそうに貧乏くじを引かされたんだよ、とシルファナが苦笑する。
「恐ろしい使い手だったよ。苦戦はしたが、私はなんとか彼の右腕を切り落として逃げ切った」
・・・・・!!!
右腕を切り落とした・・・・まさか・・・・。
「そう、それがリゼルグ・アーウィンだよ。ウィリアム先生」
そうだったのか・・・・。
「風の噂では、皮肉な事に彼はその後、失った右腕の分を補うかのように更に強力な金属使いの力を得たらしい。聖誕祭の日の先生と仲間たちの苦戦は、間接的に私のせいだとも言えるね」
いや、それをどうのと言うつもりはないが・・・。
しかし、それで合点が言った。私の事を知っていたのは・・・・。
「うん。今でも当時のつてで世界中から情報を仕入れているんだ。特に財団とハイドラの動きには細心の注意を払っている。先生の話はリゼルグを追っていた情報屋から入ったんだ。まさか、こんな空の上で対面する事になるとは思っていなかったがね。城に忍ばせていた、クルーの仲間のスパイから捕らえられたという人物の名前を聞いた時は、これでも結構驚いたよ」
シルファナはそう言って微笑んだ。
そしてその表情が翳る。
「良くない話で申し訳ないが、リゼルグの失敗によって特務でシードラゴン島の件に関する全権を引き継いだ人物がいる。彼女の名前は柳生霧呼、ハイドラのNo,2にして実質的な特務部隊の指揮官だ。No,1を与えられている男が単独でしか動こうとしないからね」
ヤギュウキリコ・・・・・。
「財団にいた時に、心の底から恐ろしいと思った相手が3人いた。その内の1人がキリコだ。もう1人はハイドラのNo,1、エルンスト・ラゴール」
!!!!!! ラゴール!!??
唐突に聞き覚えのある名前を耳にして驚愕する。
「そう、あなたの後に帝國で『剣帝』の称号を受けたあのラゴールだよ。今は引き抜かれて財団にいるんだ」
・・・・エルンスト・ラゴール・・・・あの男が・・・・・。
「・・・そして最後の1人は、『全世界の貨幣の3割を握る男』『1000年に1人の魔術の天才』『現代の覇王』・・・財団総帥、ギャラガー・C・ロードリアス」

朝から重い話を聞いてしまった・・・。
医務室のジュウベイを見舞った私は、手にした太鼓のバチでミイラ男の様に全身を包帯で巻かれて横たわっているジュウベイの頭をポコポコ叩いていた。
あ”ー、あ”ー、と規則正しくジュウベイが悲鳴を上げる。
財団暗部を統括する頭脳であり、あのリゼルグよりも格上のエージェント・・・・柳生キリコか・・・・。果たしてどんな手段で島に魔の手を伸ばしてくるのだろう。
しかしまずは目前の問題から片付けていかなくては・・・・。
私は窓に映った自分の姿を見て嘆息する。
ベルナデットと一緒に神都へ行こう、そこで元の身体に戻す方法を探すのだ。
決意を新たにジュウベイをポコポコ叩く。
平和な朝の病室には、あ”ー、あ”ー、と規則正しいジュウベイの悲鳴がいつまでも響いていたのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~