第3話 円卓に集いし魔人たち-4


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シズマが走る。閃光の様に共和国兵の中を駆け抜ける。
無数の銀光が走り、次々に兵達は倒されていく。
「強いぞ・・・!!!」
兵の一人が叫んだ。
「囲め!! 足を殺せ!!!」
密集形態では不利と悟ったか、共和国軍の兵士達はシズマから距離を取り、包囲体勢を取った。
(成程よく訓練されている・・・)
内心でシズマが舌打ちする。
シズマは速度と手数を頼みとするタイプの剣士である。乱戦の中を巧みに立ち回るのが得意で、反面距離を置かれて全体を把握される相手が苦手だ。
僅かな間の攻防で兵達はシズマの特性を見抜き、その最も嫌な陣形を取った。
・・・最も、それで手詰まりになる様な相手ではない。
(囲まれた時は・・・)
シズマが師の言葉を思い出す。
『相手に取り囲まれたらどうすりゃいいって・・・? そりゃぁ決まってんだろ!!! 根性だ!!!』
「根性」は師の口癖だった。何かと言えばすぐ出てくる。
だからシズマが思い出せる危急の対処法の大半は「根性で切り抜ける」だった。
武神と呼ばれた男・・・師と、年上の兄弟子と姉弟子の2人と自分。
4人での生活。幸せだった幼少の時代の記憶。
(師匠・・・ジオン・・・)
刀の柄に手を掛ける。思考が冷えていく。
包囲の中に幾つかの「隙」をシズマの目が見つけ出す。
そこを目掛け、シズマは地を蹴った。

その乱戦からやや離れた場所。
マリスはリュートを手にして2,3度弦を爪弾いた。
「さぁーて・・・じゃあちょっとばかりお耳汚しを」
呪歌を奏でる。
旋律が周囲を満たす。
魔力を帯びたメロディが対象に変化をもたらす。
次々に兵士達が全身から剛毛を生やして驚愕する。
「な、なんだあ!!??」
「毛っ・・・毛が伸び・・・」
掌まで剛毛に覆われたために武器を持ち続けることもできず、兵達はガシャガシャと手にした剣や長銃を取り落とした。
「・・・お次は沈静化!!」
続く静かな曲が兵達の耳に届く。
それは精神を穏やかにして、戦意や害意を奪い去る魔曲だ。
「国へ帰ろう・・・」
「おかあさん・・・もう争いはいやだよ・・・」
毛の塊がゾロゾロと引き上げていった。
(・・・沈静化する前に毛を生やすのに意味はあるのか・・・)
去り行く毛の軍団の背を見てシズマはふとそう思ったが、それを口には出さなかった。

一先ずその場の兵士はこれで全員片付いた。
シズマは刀を鞘へ戻すと女性へ歩み寄る。
女性はシズマを見ていた。その目には僅かに警戒の光がある。
「どうして・・・あなたは私を助けてくれるのですか」
やや固い声で女性が尋ねてくる。
「さてな・・・」
シズマは目を閉じると首を横に振った。
実際、落ち着いてみても自分がどうしてそういう行動を取ったのかシズマ自身にもよくわからない。
ただ、あの場はそうするべきだと思ったのだ。心の深い部分で。
「どうしてかそういう気分になっただけだ。恩を着せる気はない。それ以上の用があるわけでもないしな。急ぐのならもう行っていいぞ」
「・・・・・・・・・・・・・」
少しの間、女性は黙ってシズマを見つめていた。
今の彼の言葉を自分の中で咀嚼しているのだろう。結局それをどう自分なりに消化したのかはわからないが、女性は深く頭を下げる。
「助けてくれてありがとう。私は司(ツカサ)・・・天河司といいます。姉を探して旅をしているのですが、その最中で共和国軍に終われることになって困っていました」
「でも、何でその共和国の兵隊に追われてるの? 何かあなたそんなに凄い事やらかしたワケ?」
それまで黙って話を聞いていたマリスがそこで会話に加わる。
責めるような口調ではない。どちらかと言えば彼女はこの騒動を面白がっているようにも見える。
相手が相手なのでそんな暢気な話ではないのだが。
「それは・・・」
ツカサがやや伏目がちに口ごもった。
その仕草から2人はツカサに自分が追われる心当たりがあるのだと悟る。
だが、彼女はそれを口にしてよいものか悩んでいる。
「言い辛い事なら話す必要はな・・・」
シズマがそう言い掛けたその時、周囲を強い殺気が満たした。
「・・・!!」
響く軍靴の音。3人がそちらを見る。
「ようやく見つけたぞ。・・・まさか仲間と合流していたとはな」
大勢の兵達を引き連れ、そこには共和国軍中佐ガノッサ・クリューガーが立っていた。

ガノッサが前へ出る。
長身のコマンダーの発する凄まじい威圧感に3人はやや気圧される。
「追いかけっこはここまでだ。・・・私と一緒に共和国へ来て貰うぞ」
冷たい目でツカサを見下ろして言うガノッサ。
「私を連れて行って・・・どうしたいのですか」
「私の任務はお前を連れて行く事だ。その先の事は本国で上官が決めるだろう」
ガノッサがツカサへ向けて手を伸ばした。
「大人しくするのなら傷付けるつもりはない。ただし抵抗するのならば相応に痛い目を見てもらうことになる」
ツカサが身を硬くする。
そしてその両者の間にシズマが割り込んだ。
「卑しくも国旗を背負った者が嫌がる女性の拉致とは褒められたものではないな」
シズマは鋭くガノッサを見据えて静かに言う。
「バカめが・・・大人しくしているのなら見逃してやろうとも思ったが」
ゴッ!!!!と突風を纏ってガノッサがいきなりツカサへ拳を振るった。
「!!」
間一髪でその一撃を回避するツカサ。
「ほう、かわしたか。少しは使えるようだ」
ガノッサが意外そうに言う。
そして胸の前で合わせた両手の指をボキボキと鳴らした。
「こうなっては仕方がないか・・・」
シズマも構えを取る。
ガノッサは武器を使わないようだ。徒手空拳で拳闘の構えを取りシズマと対峙する。
無言の両者の間に緊張が満ちる。
「・・・フン!!!!!」
最初に仕掛けたのはガノッサだった。
気合と共に豪腕を真正面からシズマへと叩きつける。
速度、そして恐らくは威力においても申し分無いであろうその一撃を紙一重でかわすシズマ。
そしてシズマはその腕をやり過ごしつつ、巨躯を誇る中佐の懐に入り込んだ。
狙いは無防備な腹部。ここを峰打ちし、無力化して勝負を決する。
シズマの刀が一閃する。
その一撃は狙いを過たずにガノッサの腹部へと叩き付けられ・・・。
ガキィィン!!!!!
「・・・!!!!」
そして甲高い金属音と共に弾き返された。
「・・・っ」
腕に走った強烈な痺れに顔をしかめてシズマが距離を取った。
「フフフ・・・驚いたか、小僧」
ガノッサがシズマへ向き直る。
その表皮は光沢のある鋼色に変じている。中佐は全身が金属化していた。
シズマが息を飲む。
「私は全身を自在に鋼鉄に変えることのできる異能『鋼衣』(メタルジャケット)を持つ。お前のその刃が我が身を傷付ける事はできんのだ」
ぐぐっと目の前に握った拳を翳すガノッサ。その拳も鋼鉄だ。
鋼鉄化したあの豪腕・・・そんなもので殴打されれば骨は砕け散るだろう。

「ありゃりゃ・・・まずそうかな」
両者の死闘を遠巻きにしていたマリスがそこで演奏の体勢に入った。
シズマの援護の為に麻痺の効果を持つ魔曲を奏でる。
「・・・!?」
演奏を始めてすぐにマリスは異変に気が付く。
おかしい。魔力が拡散する。
呪歌が効果を表さない。
「ちょっと・・・なにこれ」
中佐の背後にいる兵士達をマリスは見た。
その中に革ベルトで首から何かの装置を下げている数名の兵士がいる。
装置には丸いアンテナの様な物が付いている。
(マジックジャマー!!! ・・・うわー、やらしいわねもう!!!)
マジックジャマーは魔力妨害器だ。周囲のマナを拡散させる特殊なマナ波動を発生させる。
ふぅ、と息を吐いてマリスが楽器を下げた。
「いいけどね。余計な事して痛い目見るのアンタたちだし・・・」
マリスが楽器をしまって背負う。
そして彼女が兵士達へ向かって両手を向けて何かしようとしたその時、突然兵士達の中で絶叫が上がった。
「・・・?」
まだ何もしていない。マリスが訝しげな顔をする。
「な、なんだ!! 俺の身体からキノコ・・・キノコが・・・!!!」
絶叫を上げた兵士の体からポコポコとキノコが生え始めていた。
キノコは瞬く間に増殖し、兵士はミイラ化して倒れる。
「悪漢どもめ!!! そこまでだ!!!!」
声は頭上から聞こえた。
全員そちらを見上げる。
3階建ての建物の上に月光を背負って誰かが立っている。
赤いマフラーが風になびく。見事な傘のシルエット。
「俺の名はシイタケマン!!! お前たちの悪行、見過ごすわけにはいかんぞ!!! とうッッ!!!!」
シイタケマンが勢い良く屋上から跳躍する。
そして地面に着地すると同時にボキッと嫌な音をさせてその足が間接でない部分から折れ曲がった。
「・・・くっ、不覚・・・!!!!」
バッタリと倒れ、シイタケマンは動かなくなった。