第21話 司書と忍者-3


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風鈴の音がして我々は異界へ着く。
それはこの間の空間とは異なる明るい空間だった。
目の前には石造りの幅が随分と広い緩やかな傾斜の階段が蛇行しながらずっと先へと続いていた。
そして少し先にはゲンウが待ち構えていた。
「よく来た。ウィリアムと仲間達よ」
この間の闇夜の世界でなく、こう明るい世界の中にあってゲンウの黒衣はそこだけ闇を切り取ってきたかの様に黒くそして暗く見える。
「残念ながら話し合いで此度の御主の相手はオルヴィエが努める事と相成った。拙者はこの場にて残る者たちをお相手しよう」
残る者たち・・・・? スレイダー達4人を1人で相手をすると?
「如何にも」
「随分と舐めてくれますね」
サイカワが低い声で言う。
「・・・・拙者が舐めているかどうかは戦えばわかる」
腕を組んで佇んだまま、余裕を崩さないゲンウ。
「まあいんじゃないの? 向こうさんがそれでいいって言ってるんだしさ。こっちもわらわら出てくるの相手するより話早くて助かるよ」
スレイダーが首を捻って鳴らした。
両者の緊張が高まっていく。
しかしそんな空気を引き裂くかのように能天気な声がその場に響き渡った。
『ちょっと待ってぇー。ボクだけ観てるだけとかつまんないよー』
やれやれ、とゲンウが嘆息する。
「御主はこの空間の維持をしてもらわねばならぬ。かねてよりの取り決めであろう」
『えー・・・でもでも、げんうーとオルにゃんばっかり楽しそうで、ボク寂しい・・・・』
聞こえてくる声は女性のものだ。
「しかし結界を張りながらでは本来の力で戦えまい」
『大丈夫だよー。八割くらいの力は出せるもんー』
尚も食い下がってくる声に、ゲンウが折れた。
「仕方の無い奴よ。好きにするがよい」
わーい、と喜ぶ声が聞こえるのと同時にボワンとその場に白い煙が吹き上がった。
煙の向こうから半獣人の女性が出てくる。狐・・・か? 9本の尾が生えている。
「改めて自己紹介しよう。御主らの相手、このツェンレン七星が1人『刃空将』ゲンウ・キサラギと・・・」
「『冥桜将』コトハ・リュウオンジがしまーす」
うへーとスレイダーがしかめっ面をする。
「3人も来てんの・・・・どんなでっかい戦でも2人揃う事なんかまず無いって言われてる七星サマがねぇ・・・・」
ゲンウが階段の先を指す。
「ではウィリアムよ、御主は先へ進むがよい。この先で七星『月煌将』オルヴィエ・ルシェ・ラキーナが待つ」
皆を振り返る。
「先生行ってください!」
カルタスがグッと親指を立てる。
「彼らを倒してすぐ後を追います」
サイカワが言う。
テッセイとスレイダーも無言でうなずいた。
彼らに感謝して先を急ぐ。階段途中のゲンウとすれ違う。
「・・・・一つ忠告しておこう。司書の力がオルヴィエの真髄には非ず。この先で御主はその事を身を持って知ることになるだろう」
ゲンウは瞳を閉じて静かにそう言って私を見送った。

長い階段を駆け抜けて登り切る。
その先は円柱が取り囲む円形の広い空間だった。
そこに、七星オルヴィエが待っていた。
丸いテーブルと椅子があり、彼女はそこに座って本を読んでいた。
私を見ると、彼女は読みかけだった本を閉じる。
そしてハロー、と無邪気に手を振ってみせた。
・・・・エリス達は・・・・。
「ここにいるわよ」
1冊の本を取り出してテーブルの上に置いた。
「私に勝てたら彼女たちは戻ってくる、そういうルール」
いいだろう。勝負だ。
神剣を抜き放つ。相手は司書・・・どんな手で果たして攻めてくるつもりか・・・・。
「心配? 司書の力でミョーな事されちゃうんじゃないかって?」
そう言ってくすりと微笑むとオルヴィエは一冊の本を開いた。
そのページから何かがにょきっと生える。
あれは・・・・武器の柄?
「安心してね。私が使うのはこれだけ」
そう言ってオルヴィエはその柄を掴むと本の中から剣を引き抜いた。
細身の長い刀身を持つ白く美しい曲刀だった。
「ツェンレンじゃコレで負けたことなくってねー。だからウィリアムと勝負するの楽しみにしてたの」
そう言って構えを取る。空手の左手を前方に突き出し、剣を持つ右手は上方から切っ先をやや下に。
ツェンレン式剣術の構えだ。
その瞬間、私の背筋を寒気が走った。
まずい・・・・この相手は・・・・。
「行くよ」
オルヴィエが地を蹴った。
瞬時に彼我の距離が零になり、神速の突きが眼前に迫った。
それは、かつて経験した事の無い速度だった。
その一撃を神剣で受けた。ギィン!!!!と甲高い金属音がして火花が飛び散る。
身を引きながら反撃する。14連の剣閃が走る。
ギギギギギギギギギギギギギギン!!!!!!
・・・・!!!!!
金属音が14回!!!
「やるわねー、ちょっとビックリした」
ニヤリと笑って彼女が斬撃を放った。その数は3。
2発を捌いた。そして最後の一撃は私の左の二の腕をかすめた。
血が飛び散る。痛みはあったが腕が動かなくなるほどではなかった。
・・・・間違いない・・・・。
とうに全力は出している。しかし激しい撃ち合いの中で戦況は好転しない。
一対一の剣の勝負で私が押されている。それは成人してからは初めての経験だった。
・・・・彼女は私よりも強い・・・・。
とにかく速い。攻撃を当てられない。
そして一撃が正確で重い。
受けただけで体力と神経を大きく削られる。
いつの間にか、私は自分の息が上がっている事に気がついた。

「・・・・・・・おや?」
そんな中、オルヴィエが攻撃の手を止め、脇を見る。
・・・誰かが階段を上がってくる。
!! ・・・カルタスだ! 皆は勝ったのか!!
一瞬安堵に胸を撫で下ろす。
しかしその気持ちはすぐに絶望に変わった。
最初に見えたのはカルタスだった。
しかし彼は自分の足で階段を上がってきたのではなかった。
まずカルタスが、その下にサイカワが、その下にスレイダーが、最後にテッセイが・・・・動かない彼らが重ねられている。
そしてその4人を重ねて頭上に担いでゲンウが階段を上がってきた。
その隣でコトハも階段を上がってくる。
「そっち終ったんだ」
オルヴィエがゲンウに声をかけた。うむ、とゲンウがうなずく。
ドサリとゲンウが4人を床に降ろした。4人とも傷だらけだ。呻き声がする。息はあるようだ・・・。
「流石にウィリアムが同行者に選んで連れてくるだけの事はある。骨のある者達であった」
「・・・結局ボクほとんど何もしてないの・・・」
コトハが人差し指をくわえてしょんぼりしていた。
「そちらも佳境か」
我々を見てゲンウが言った。
「そんな簡単な相手じゃないわよ」
NO,とオルヴィエが手をひらひら左右に振る。
「散々つついたからそろそろ出てくると思うんだけどね」
出てくる?とゲンウが怪訝な顔をする。
「うん、『本当のウィリアム』 ・・・・彼普段かなり自分でアレコレ抑え込んじゃってるっていうか、大人回路強すぎっていうのか・・・・その辺全部取っ払ったらかなり面白恐ろしい事になる予感」

・・・・状況は絶望的だ。
皆はやられてしまった。私もオルヴィエに力が及ばない。
『やぁ、ウィリアム』
耳元でいつかの仮面の道化師の声がした。
『今の強さでは足りないかい?』
・・・・黙れ!!!
頭を振ってその声を追い払う。
仕方が無い・・・。
『その事』を想像するだけで吐き気がする思いだが・・・他にもう手が無い。
一番大嫌いだった頃の自分を、今だけ思い出すことにしよう・・・・。