第11話 柳生霧呼の世界-2


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慟哭してる鼻っちをとりあえず近くの公園のベンチに座らせて落ち着かせる。
通り沿いの家とかお店は鼻っちの流した涙で半壊してたけど、すぐに町内復元部隊の人たちが駆けつけて復元作業に取り掛かってた。
多分半日くらいで元の町並みを取り戻すだろう。
この「自己修復能力」の異様な高さがこの町の特徴だった。
・・・いや、その前にそもそもよくわかんない理由でしょっちゅう町並みが半壊するのも特徴なんだけどさ・・・。
「・・・・うっうっ・・・こうなったらもう自分には先生しかいません・・・ぐずっ」
鼻っちはハンカチで涙を拭いつつまだしゃくりあげてる。
ってか、キミはうちのウィルをどういう対象として見ているのかな・・・。
怖いから聞かないけど。

なんとか鼻っちに出発の準備を同意させる。
よし、後は留守を皆にお願いして・・・・。
彼を伴ってオフィスへの近道、表通りから1本入った細い路地へ足を踏み入れた時、私はまた『踏み越えて』しまっていた。
ふわっと、丸でエレベーターが止まる時に似た独特の一瞬の浮遊感。
あー・・・・やっちゃった・・・・またやっちゃった。
誰かの『結界』に足を踏み入れちゃった。
・・・生まれつき魔力をその身に帯びてるからか何なのか、私はしばしば意識せずにこの『結界破り』をやってしまう。
10年前はこの力を全開にしてシードラゴン島を覆う嵐の結界を破って私たちはこの島へと至った。
あの時は意識してだったが、この規模の小規模な結界ならそのまま移動中に突っ込んでしまう事もままある。
周囲から町の音が『生活の雑音』が消えた事に違和感を感じたのだろう、カルタスも「お?お?」と周囲を見回して目を丸くしてる。
でも誰がこんな場所に結界を展開して・・・・。
私の疑問はすぐに解消される事となる。
目の前で路地へ走りこんで来た小柄な人物によって・・・。
軽い足音を響かせて路地へ滑り込んできたのは、三銃士のルノーだった。
「・・・・・!!!!   ・・・? 何だお前ら、何でこんなとこいんだよ」
瞳に警戒の色は宿したまま、一旦ルノーは刀の柄にかけた手の力を緩めた。
ちょっとボーっとしてたら結界に突っ込んじゃってね。と素直に答える。
ルノーがハッ、と口の端を歪めて鼻で笑った。
「そりゃご愁傷様。『害虫駆除』の現場へようこそ、だ」
続いて聞こえた声は男のもの。
路地の外からだった。
「・・・ハッ、駆除されるのは果たしてどちらかな? ミス・ルーシー。そんな所で縮こまっていないで出てきたらどうかね。ガス弾で焙り出してやってもいいがね! 文字通り害虫のようにな!」
ははは、と嘲笑が台詞に続いた。
うんざり、という様子で肩を竦めたルノーが路地から出て行く。
会話聞かれてたんじゃ私だけ残ってもいい事なさそうだ。
ルノーに続いて私も路地を出る。カルタスに、この場に留まる様にと、目だけで語って。
表の開けた空き地には、完全武装した一段がこちらを囲んでいた。
上半身を重装の装甲で固め、下半身は比較的軽装の独特の装束。一見してどこかの軍隊と判る統一された衣装と動作。
「・・・ロマリア王国の連中だ」
疑問に先んじてルノーが教えてくれる。
「前にロマリアとダギンスの間でミスリル採掘権を巡ってゴタゴタあった時、コイツらが裏側でぐちゃぐちゃつまんねー事したんで銃士で小突いた事があるんだよ。その時から逆恨み食ってる」
なるほどねー。あー確か共和国とダギンス王国は同盟関係だったっけか。
「お前ら相手にウチが下手打ったって話がもう世界中の諜報部に広まっちゃっててよ。傘にかかってくるコイツらみたいのも出てくるわけだ。・・・あー、メンドくさい」
はぁ、とルノーが嘆息した。
「フン、死んでしまえば面倒もなくなるさ」
先程の声の男、一人だけ他の兵の様にメットをかぶらずベレー帽をかぶった口ひげの男がくわえた葉巻に火をつけて言う。
「改めて自己紹介しよう。ロマリア王国第三機甲師団長カート・ザベール大佐である。我が配下第三機甲師団が君を地獄へご案内する事になる」
「うるせー一人でいる時狙ってきやがって。お陰で他へ押し付けてサボる事もできねーよ」
ルノーの悪態にもカートと名乗った指揮官は涼しい顔だ。
「それはすまなかったね。一人一人で戦略が異なるものでね。もうご承知の事と思うがミス・ルーシー、君にはこの音波兵器を準備させてもらっている」
パチン、とカートが指を鳴らすと、周囲にキィィィィィンという極小さな甲高い音が響いた。
う、何これ・・・・。不快感に眉を顰める。
「ハッハッハ! この音には生物の三半規管を微妙に狂わせる効果がある。バランス感覚を失い、身体能力を減じられた上に能力を使う為の集中も困難になるだろう! 次元跳躍と小回りを封じられた君など翼を失った鳥も同然だ」
・・・・なんかヤバそうだね。手を貸すよ。
助成する義理はないんだけど、こいつらの言い方とやり方は気に食わない。
くるりと振り向いたルノーが表情を変えずにいきなりベチン!とでこピンしてきた。
・・・・・痛いー・・・何すんだよぅ・・・・。
凄い音だった。涙目で文句言う私。
「・・・・チョーシのんなよダイヤモンドダスト。正義の味方は間に合ってんだよ」
ジロリと半眼で言うルノー。
「これまでの戦いもこれからの戦いも・・・私らの戦いは私ら銃士隊だけのもんだ。よそ様にお裾分けする分なんかこれっぽっちもねーんだよ。わかったらそこで黙って見てろ」
むう、黙って見物してるの彼らが許してくれればだけどね。
そんなルーシーをハルバードを構えた兵達が取り囲んだ。

ロマリアの機甲師団の兵達は精強だった。
動き見ればわかる。十分に訓練されていて無駄が無い。
対するルノーも、運動能力を損ないながらその強さは尚も健在で、既に彼女の足元には3人の兵が転がっている。
でも、ルノーの息が上がってきている。
兵達はまだ数十人が彼女を取り囲んで控えているのだ。
カートは余裕の笑みを浮かべたまま葉巻を燻らせてその様子を見ている。
「・・・・うー、メンドくさい。眠い、寝たい・・・これ終わったら寝よう。89時間寝よう」
それは寝すぎ。
「・・・大体なんで私だけがこんな目に遭ってんだ。・・・リーダーのせいか、そうだそうに決まってる。後でやつのパンツ全部Tバックにすり替えておいてやる」
それは嫌がらせ。
その時、兵の振るった斧槍の刃がルノーの肩口を深く切り裂いた。
「・・・・!・・・・」
ブシュッ!!と血が飛沫いた。
カシャンと音を立ててルノーの手から刀が落ちる。
・・・・まずい。
前に出かけた私の前に4人の兵が立ちはだかった。
「終わりかね。もう少し頑張ってくれるかと思ったがね」
カートがふーっと煙を吐く。
「・・・・仕留めろ」
その声を合図に、ルノーを囲んだ兵達が一斉に槍斧を振りかざした。
一瞬後の惨劇を予感する。
高く上がった血飛沫が見えた気がした。
しかし、続いて響いた音は肉を切り裂く嫌な音ではなく、堅牢な装甲が刃を弾く金属音だった。
「・・・・・? なんだ?」
初めてカートが表情を歪めた。
ルノーは無事だ。
そしてその彼女の前に誰かいる・・・いや、誰かじゃない。
それは鎧だった。
頭部からつま先まで、全身を覆うフルプレートの鎧。どこと無く獣を連想させるデザインの黒に近い青い色の装甲。
その鎧が、両手を広げた格好でルノーのすぐ前に浮いている。
「・・・肩凝るから、あんま使いたくなかったんだけどさ」
ボソッとルノーが呟いた。
そして右手をすっと前に差し出す。
「・・・・跳梁せよ蒼黒の魔狼・・・『ダンテ』!!!!」
その声を合図に、鎧がバラバラに分解した。
そして主人の身に再び結集する。
装甲を纏ったルノー。フルフェイスの兜を始めとしたその鎧は全身を完全に覆いつくし、まったく内部で外気に触れている部分は無かった。
「・・・・おー。音が消えたよ。やっぱダンテで遮断できるのな」
えい、と無造作にルノーが近くにいた兵士を殴りつけた。
ドガッ!!!!と凄まじい音が響いて、兵士が吹き飛ぶ。
まるでドラゴンの突進を受けたかのように、重さが無くなってしまったかのように、軽々と宙を舞う。
そして背後の建物の3階の壁を突き破ってその向こう側へ姿を消した。
「・・・・あー、ゴメ。久しぶりなんで上手く加減できなかった」
ガチャリと鎧を鳴らしてルノーが肩を竦めた。